すくな)” の例文
左内は色の白い、眉の秀でた小柄の美少年で、口数のすくない、極めて温和な、どちらかというと少女のような優しい性質をもっていた。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「三十而立塩田子。言行寡尤徳惟馨。」〔三十ニシテ立ツ塩田子/言行とがすくなク徳かおル〕随斎はその時二十八歳であったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、山家らしい質素な食事に二人で相変らず口数すくなく向った後、私達が再び暖炉の前に帰っていってから大ぶ立ってからだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
奈何いかんせん寒微より起りて、智浅く徳すくなし、といえるは、謙遜けんそんの態度を取り、反求はんきゅうの工夫に切に、まず飾らざる、誠に美とすべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「自分は独学で、そして固陋ころうだ。もとよりこんな山の中にいて見聞もすくない。どうかして自分のようなものでも、もっと学びたい。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これもバターが多過ぎてならずすくなくってもなりませんが先ず紙十枚位の厚さに塗るという心持こころもちっていると自然と覚えられます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし特に下婢かひなどのすくない、あるひまつたそれ等の者を有して居ないところの一婦人に於て家庭の仕事を節減する方法がうして有りませうか。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
口数のすくない、極く控え目勝ちな女であった。美人には違いないが、動きの少い、木偶でくの様な美しさは、時に阿呆に近く見えることがある。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「明治」をして、過去の幾星霜の如く蜉蝣的ふいうてきの生涯を為さしめたるもの、そもそも亦た思想の空乏に因するところすくなしとせんや。
思想の聖殿 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「まづその御意おつもりでお熱いところをお一盞ひとつ不満家むづかしや貴方あなたが一寸好いと有仰おつしやる位では、余程よつぽど尤物まれものと思はなければなりません。全くすくなうございます」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小歌をと命令いいつけるほどになって、小歌が隔ての垣のだん/\取れるに随い、すくないながら、心易く話が出来るようになった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
実は昨日きのう朝飯あさはんの時、文三が叔母にむかって、一昨日おととい教師を番町に訪うて身の振方を依頼して来た趣を縷々るるはなし出したが、叔母は木然ぼくぜんとして情すくなき者の如く
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
なお、農家と商工業界との女子にも、今日の努力の程度で許される経済的独立の実例は決してすくなくありません。
単先生はもと身分のある人の子であったが、大きな訴訟をやって、家がさびれ、家族もすくないところから故郷の方へ移ったので、その邸宅は空屋となっていた。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
第二は今日植物学者は極めてすくないから一人でもそれを排斥すれば学界が損をし植物学の進歩を弱める事、第三は矢張り相変らず書物標本を見せて貰いたき事
が、この、自分勝手に顔色をほてらせ得るという性能に対して、彼をうらやむものはすくなくなかった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
エリスは床に臥すほどにはあらねど、小き鐵爐の畔に椅子さし寄せて言葉すくなし。この時戸口に人の聲して、程なく庖厨にありしエリスが母は、郵便の書状を持て來て余にわたしつ。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
かつや汽船をもってすれば船舶と水夫を要する大いにすくなきことまたこれが一因をなす。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
母は自分の領分に踏み込まれたるように気をわるくするがつらく、光をつつみてことばすくなに気もつかぬていに控え目にしていれば、かえって意地わるのやれ鈍物のと思われ言わるるも情けなし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その奥さんの方、きっと、男の弁護士が利益のすくない事件に冷淡だったり、自分の依頼者を勝たせるためには法網を平気でくぐったりするのに正義派的憤慨で、勉強をお始めんなったのよ。
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何でも私の処で普請をしために、新銭座しんせんざ辺は余程立退きがすくなかった。彼処あすこの内で普請をする位だから戦争にならぬであろう、マア引越ひきこしを見合せようといっ思止おもいとまった者も大分だいぶあったようだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さるほどに汽船の出発は大事を取りて、十分に天気を信ずるにあらざれば、解纜かいらん見合みあわすをもて、かえりて危険のおそれすくなしとえり。されどもこの日の空合そらあいは不幸にして見謬みあやまられたりしにあらざるなきか。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その財産の多いすくないによってその人の値打ねうちきまります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
言葉すくなに礼を述べて其家を出た。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この時代がほかの年齢よりも一番多く人の死ぬ時だ。それから先きは再び平均して行く。この時代の生存者は次の時代の生存者よりすくない。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
むろん剣で身を立てるなどという野心はないようすだったし、その独特な突の手を別にすれば、気質の穏かな口数のすくない良い人間だったよ
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
アルプス山の大欧文学に於ける、わが富嶽の大和民族の文学に於ける、淵源えんげんするところ、関聯するところ、あにすくなしとせんや。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たとえば定基の妻にしても妬忌ときの念が今少しすくなかったら如何に定基が力寿に迷溺めいできしたにせよ、強いて之を去るまでには至らなかったろうと想われる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
胡麻塩ごましおになった髪もり切れてすくなくなり、打裂ぶっさき羽織に義経袴よしつねばかま、それで大小をさしていなかったら、土地の漁師と見さかいのつかないような容貌ようぼうになっていた。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
第二は今日植物学者は極めてすくないから一人でもそれを排斥すれば学界が損をし植物学の進歩を弱める事、第三はやはり相変らず書物標本を見せて貰いき事
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
年紀としかい、二十五だと聞いたが、さう、やうやう二三とよりは見えんね。あれで可愛かはゆい細い声をして物柔ものやはらかに、口数くちかずすくなくつて巧いことをいふこと、恐るべきものだよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
エリスは床にすほどにはあらねど、ちさき鉄炉のほとりに椅子さし寄せて言葉すくなし。この時戸口に人の声して、程なく庖厨はうちゆうにありしエリスが母は、郵便の書状を持て来て余にわたしつ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
長いこと見聞のすくないことを嘆き、自分の固陋ころうを嘆いていた半蔵の若い生命いのちも、ようやく一歩ひとあし踏み出して見る機会をとらえた。その時になって見ると、江戸は大地震後一年目の復興最中である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
親となる多数の男女があると共に、前述のように親とならないで一生を送る男女もすくなくないのが人間の実状である。母性中心説の第二の誤謬はこの実状を看過していることであるように想われる。
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
もと/\口数のすくない、俗にいう沈黙むっつりの方で、たまたま学友と会することがあっても、そうだそうでないと極めて簡短な語をもって、同意不同意を表白するだけで、あえてはなはだしく論議したことはない
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
やむなくすくない手兵を以て禦がせている中に夜に入った。
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかしこれが東京辺の風習だと親が息子に嫁をい付ける事もすくないけれども郷里くにの風では全く親の一量見で息子の嫁をめるのだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
非常に口数のすくない小柄な老人で、宗利とは影の形に添う如く、いつも側去らず侍しているのだが、平常はほとんどいるかいないか分らぬという風の人柄であった。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼はここに始めておのれの美しさのすくなくとも奏任以上の地位ある名流をそのつまあたひすべきを信じたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
燕王謀って曰く、吾が兵は甚だすくなく、彼の軍は甚だ多し、奈何いかにせんと。朱能進んで曰く、ず張昺謝貴を除かば、く為す無き也と。王曰く、よし、昺貴へいきとりこにせんと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自ら善を積み、仁をかさね、忠孝純至の者でないかぎり、とても免れることはできない、まして普通一般の人民では天のたすけすくないから、この塗炭とたんに当ることがどうしてできよう、しかし
富貴発跡司志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのほか色々の物にそういう違いがあると申しますが食物ばかりでありません。生糸きいとも日本のは大層ゴム質が多くって西洋のはすくないそうです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
老人は口数のすくない、どちらかというと話し下手であったが、それでも少しずつは身の上が分った。
鼓くらべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
然し実際に貞盛は将門の兵のすくないことをば、何様どうして知つたか知り得たのである。将門精兵八千と伝へられてゐるが、此時は諸国へ兵を分けて出したので、旗本ははなはだ手薄だつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その代り玉子をむ事は一番すくない。外の種類は産卵鶏の兼用も出来るがドウキングは肉用専門に出来ているからその肉のあじわいは他の鶏の遠く及ぶ処でない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
王曰く、彼おおく、我すくなし、しかれども彼あらたに集まる、其心いまだ一ならず、之を撃たばかならず破れんと。精兵八千を率い、こうき道を倍して進み、ついに戦ってち、忠と瑱とをて之を斬る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるに百年も安心な顔をしている親たちが多いから不思議さ。その癖目白の摺餌すりえを一々衡器はかりにかける人はあるけれども小児こどもの食物に注意する人がすくない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし長く煮て緩々ゆるゆる味を出そうとするものは孰方どちらかというと時間の早過ぎるより遅過ぎた方が出来損じもすくないようですし、火は強過ぎるよりも弱過ぎた方が大丈夫です
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
注意の行届かないのは患者に対して不親切と言わざるを得ない。しかし病院の方でばかり注意するようになっても患者自身が食物衛生に無頓着むとんちゃくではやっぱり効がすくない。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女の顔を見ると無闇むやみに優しくする人が妻を持ってから案外その妻に優しくなかったり、結婚の当座だけ妻を大切にして一、二年も過ぎると奴隷どれい扱いにするような人物もすくなくありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)