わらわ)” の例文
「いいえの、もういつまで其方そなたどもをかもうてはおられぬ。さ新九郎、猶予することはないぞ、わらわの駕に早う乗って邸へ帰ったがよい」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ東洋人なる支那の貴公子よ、わらわを固く信じ給え、西班牙スペインの愚人の守りおる彼の水晶球を奪い取り妾の住居へ来たりたまえ。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この事業はいまだ半途はんとにして如何いかになり行くべきや、常なき人の世のことはあらかじめいいがたし、ただこの趣意をつらぬかんこそ、わらわが将来の務めなれ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
狂人走れば不狂人も走るということがある、わらわも今の童舞に刺激されてひとさし舞おうと言ってついに舞を舞うというのが一篇の趣向であります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その手紙には「罪なきわらわにまたいうなかれ」と書いてある。当面の責任者さえ罪を感じていないのだもの、その他の人々がなんで罪を意識していよう。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「無礼者。わらわを知らぬか」と一睨いちげいすると、呉一郎は愕然たるおももちで鍬を控えて立止ったが、「アッ。貴女あなたは楊貴妃様」と叫びつつ砂の上に跪座きざした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これを春琴伝は記して汝等なんじらわらわを少女とあなどりあえて芸道の神聖をおかさんとするや、たとい幼少なりとていやしくも人に教うる以上師たる者には師の道あり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「二十三年を生きて今わらわここに横たわる。」修道院が若い娘の教育をよしたのも、かかる衰微のゆえにである。
見そなはす如きわらわ容体ありさま、とても在命ながらえる身にしあらねば、臨終の際にただ一こと阿姐あねごに頼み置きたきことあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「野の菊はわらわの愛する花、師の君よ、師の君よ、この花をうつくしと思ひたまはずや」と書いてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「ああら、玉子とは丸いものかや。わらわは初めて拝見しまする」と、下情に通じさせながら、毎月のお買上げ金二万円也も、可成かなり古いおうわさであるが、——その先祖以来
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
かつら 兵衛どのとやら、お身は卜者うらやか人相見か。初見参ういげんざんのわらわに対して、素姓賤しき女子などと、迂濶うかつに物を申されな。わらわは都のうまれ、母は殿上人にも仕えし者ぞ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「駕籠の戸を笹尾が早う閉じたので、わらわだけは目を痛めなんだ。したが、皆の者、今宵は早う眠るが好い、左様致したなら翌日あすは治ろう。う一畑の薬師如来を信仰せよ」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
わらわいてこっちへと、宣示のりしめすがごとく大様に申して、粛然と立って導きますから、詮方せんかたなしにいて行く。土間が冷くくびすに障ったと申しますると、早や小宮山の顔色蒼然そうぜん
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わらわ(お紺)は長崎の生れにて十七歳の時遊廓に身を沈め多く西洋人支那人などを客とせしが間もなく或人に買取られ上海しゃんはいに送られたり上海にて同じ勤めをするうちに深くわらわ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
【昨夜わらわは夢みたりき。山二つ響き高鳴りてこうべに落ち、もはや汝が姿を見るあたわざりき】
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わがやんごとなき父君、国王様には、只今、ながの旅路におわせど、そなた達を饗宴にしょうぜよと、わらわ御諚ごじょう下されしぞ。何じゃ、楽士共か。六絃琴ヴァイオル、また低音喇叭バッスウンを奏でてたもれ。
女の弱き心につけ入りたもうはあまりにむごきお心とただ恨めしく存じ参らせそろわらわの運命はこの船に結ばれたるしきえにしやそうらいけん心がらとは申せ今は過去のすべて未来のすべてを
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おんみにもしものことあらば前夜よりしばしば誓いたる通り、わらわは必ず尼になりて、卿の菩提ぼだいを弔わん、……さりながらかりそめにもかかる悲しきこと言わるるは、死にに往かるる心にや
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
やさし美しいとおしの、姿や妖婉あで女郎花おみなえし、香ばしき口にたえの歌、いとも嬉しき愛のぬし、住むふるさとの極楽に、まされるわらわの楽しみを、受け給わねば世の中に、これより上のおろかなし
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わらわことの姓名を問い給うか、父は元京都の産にして、姓は安藤、名は慶蔵、あざな五光と申せしが、ある夜、母君、丹頂の鶴を夢見て、妾を胎み給いしかば、幼少の折は鶴女鶴女と申せしが——」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
乞う事切なり。且つ此れはわらわが大に望む処なりと、数回すかい促されたり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
出すねえッ。チョンチョン格子の彼女じゃアあるめえし、剣術大名のお姫さまが、わちきゃ、おまはんに、なんて、そんなこというもんか。わらわは、とらあ。近う近う……ってなもんだ。どうでえ!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「まことよ。仰せは道理ことわりにおじゃる。わらわとてなど……」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
彼奴かれめ敵手あいてとならんこと覚束おぼつかなし、わらわ夜叉神やしゃじんに一命を
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
わらわは死にたるに非ず、住居すまいを変えたるなり。
おんゆるしのほど願い参らせそろ今は二人ふたりが間のこと何事も水のあわと相成りそうろうわらわは東京に参るべく候悲しさに胸はりさくばかりに候えど妾が力に及び難く候これぞ妾が運命とあきらめ申し候……されど妾決して自ら弁解いたすまじく候妾がかねておもいし事今はまことと相成り候妾を
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ホホホホホホ。何をおくれていやるのじゃ、駕の中にはわらわがおります。怖いと思うたら、先の者へぶつけた途端にそちたちは逃げるがよいぞ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんじの熱心にでて以後はわらわが教えて取らせん、汝余暇よかあらば常に妾を師と頼みて稽古を励むべしと云い
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わらわは此の浜崎といふ処に、くれなにがしといふ家の一人娘にて六美女むつみじょと申す者にはべり。吾家わがいえ、代々此処の長をつとめて富み栄え候ひしが、満つれば欠くる世の習ひとかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「はい、不孝者でござります! それ故わらわはこのようにお詫びしているではござりませぬか!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さればよ殿との聞き給へ。わらわが名は阿駒おこまと呼びて、この天井に棲む鼠にてはべり。またこの猫は烏円うばたまとて、このあたりに棲む無頼猫どらねこなるが。かねてより妾に懸想けそうし、道ならぬたわぶれなせど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
若し母と寧児さえ無くばわらわかゝる危き所へ足蹈もする筈なけれど妾の如き薄情の女にも母は懐しく児は愛らしゝ一ツは母の懐しさにひかされ一ツは子の愛らしさに引されしなり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ハーゲンよ、かつてわらわは、ジーグフリードのために、いうべからざる汚辱をこうむりました。王は、それを秘し隠してはいますが、そなたは、わらわにうち明けてくれましょうな。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
とがせまい、罪にもせまい。わらわが心で見免みのがさうから、いかえ、柔順おとなしく御殿をや。あれを左へ突当つきあたつて、ずツと右へ廻つてお庭にや。お裏門の錠はまだ下りてはぬ。いかえ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もとより女ながら一死をして、暴虐ぼうぎゃくなる政府に抗せんと志したるわらわ、勝てば官軍くればぞくと昔より相場のきまれるを、虐待の、無情のと、今更の如く愚痴ぐちをこぼせしことの恥かしさよと
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「あッ、又今度の若者も、わらわを付狙う黒姫の曲者よ」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「お前様は、何で自害なされます? いいえ、その事情は大概分っておりますが、わらわという者を置いて勝手に死んでよいものでございますか」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わらわに物を教えて下すった方と云うのは京のお人で、つね/″\申されましたのには、和歌の道はどんな恐ろしい鬼神をも和げ、なさけに疎い人をも動かし、佛も受納して下さる
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
阿駒は苦しき息の下より、「いやとよ。猫にも追はれず、鼬にも襲はれず、わらわ自らかく成りはべり」「さは何故の生害しょうがいぞ」「仔細ぞあらん聞かまほし」ト、また連忙いそがわしくといかくれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そもじの手は、もう動きませぬか、この白い、美しい臥床ふしどを選んで、いまこそ、そもじとわらわは(八字削除)、フローラ、私はこの手で、そもじの灯火あかしを消すまいと、腕を回しているなれど……
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
決してわらわの一族では是無これなく、赤松家の不頼の浪人であり、以前から妾に想いを懸け、『養由基』ともども奪い取ろうと、無礼にも心掛けて居りました悪漢、それをお討ち取り下されましたこと
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
只今にては血縁の者残らず絶え果て、わらわ、唯一人と相成りて候。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わがつまを殺した者は、辺洪ということになっているが、わらわは信じません。真の下手人は、都督ととく嬀覧です。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思いがけなき所にて思いがけなき君の姿を見申そうろう。たとい装いを変え給うとも、三年このかた夢寐むびにも忘れぬ御面影おんおもかげを、いかで見逃し候べき。わらわは始めより頭巾の女の君なる事を承知つかまつり候。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
木曽の大領義明に打ち滅ぼされた西班牙イスパニアの司僧マドリド教主の遺児わすれがたみ千曲姫ちくまひめと申す者こそ、仮にわらわの娘となり、この篠井に住みましたなれど、今は行方をらまして、ひそかに敵を狙っている筈。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いまこそ、わらわの憎しみを知ったであろうのう。そもじを十字架クルスに付ければとて、罪はあがなえぬほどに底深いのじゃ。横蔵をあやめ、慈悲太郎を殺したそもじの罪は、いまここで、わらわが贖ってとらせるぞ。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「オオ……ときの声がする。敵が近づいて来るらしい。趙雲、何でそなたは、大事な若君を預りながら、なお迷っているか。早くここを去ってたも。……わらわなどは見捨てて」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「此世の者ではござりませぬ。わらわは幽霊でござります」
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「この中で今、誰やら、暗闇になったのを幸いに、わらわへみだらに戯れたご家来があります。はやく燭をともして、その武将をからめてください。冠の纓の切れている者が下手人です」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)