はず)” の例文
鮓売すしうりの女も日が近くば、桶はそのえんの隅へ置いたがいぞ。わ法師も金鼓ごんくはずしたらどうじゃ。そこな侍も山伏もたかむしろを敷いたろうな。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われわれの教室は本館の一番北のはずれの、今食堂になっている、あそこにありました。文科の教室で。それが明治二十二年位でした。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一面、棒のように見える又四郎は、その突ッかい棒がはずれると、自己の感情をあざむけないむき出しの自分を見せてしまう男らしい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしはその週のあいだかけっぱなしにしておいたれいのハープをはずして持って来る。そうして四人の兄弟姉妹しまいにおどりをおどらせる。
火を求むる幼な児の要求を、無下むげに荒々しくしりぞけた女は、いきなり頭上の鉄輪をはずし、あわてて蝋燭の火をかき消してしまいました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「無論、正義は君のがわにあるだろう。誤解されたんだ。君は穏かではないけれど、少くとも、道にはずれたことをする人間じゃない」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とおい、とおい、むかしのこと、ある武士ぶしが、このはまでかもめをました。しかし、は、すこしはずれて、片方かたほうつばさきずつけたばかしです。
はまねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
通夜やら葬式やらに三日ばかりの暇を潰して、四日目のけさ早くに練馬を発って、たった今帰りついて見ると表の錠ははずれていた。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
奇人にはちがいありませんが、洒脱しゃだつ飄逸ひょういつなところのない今様いまよう仙人ゆえ、讃美するまとはずれて、妙にぐれてしまったのだと思います。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
いまも井上という上位の門人と立ち合っているが、たいの構え足の踏みかたが異様である。慥かになにか法はずれな手を案じだしたらしい。
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一発でもって、間違いなく、覘ったところへ弾丸を送りこんでしまうのが自慢だったし、確かにその通りで覘いがはずれたためしがない。
察するところ、札をはずしてからまだ幾日も日が経ぬのでまだ名札をはずすだけはずして後をそろえず、そのままにしているのらしい。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
勿論被害者の後家さんが何とか処分したものと見えて、うちの中の畳は一枚も敷いて無いし、建具も裏二階の階子段までもはずしてあった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「新さん、マア大変なことが出来ちゃったんです。」女は菓子折の包みをそこに置くと、ショールをって、コートの前をはずした。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
虎「それじゃアあの子が二階へあがったら私ははずしてお湯にくよ、先刻さっき往ったがもう一遍くよ、早くしておくれでないといけねえよ」
「遠い昔の新婚旅行の晩、………彼が顔から近眼の眼鏡めがねはずしたのを見ると、とたんにゾウッと身慄みぶるいがしたこと」も事実であり
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と法水は、糸を人形時計の方へ引いて行って、観音開きを開き、その音色をく廻転筒を、報時装置に続いている引っ掛けからはずした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
人生は果してそんなものであろうかと思うと同時に、或は自分が人間一般の心理的状態をはずれて性欲に冷澹れいたんであるのではないか
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
急ぎたる我が行脚の掟にははずれたれども「御身はいずくにか行き給う、なに修禅寺とや、湯治ならずばあきないにや出で給える」
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
くるりと入口へ仕切られた背中になると、襖のさんはずれたように、その縦縞たてじまが消えるがはやいか、廊下を、ばた、ばた、ばた、どたんなり。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時は間違いなく、ほんものの海蛇ショウ・オルムだったのです。それがはずしてみると、……いいえ、外してもまだ、わからなかったのです。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
猿が綱をはずし児をてい中に投じただれ死なしめたので、母が薪を村外に積ましめ、その婢と猿を焚殺したとある(『類函』四三一)。
あんまり相手が冷静なので、まとはずした思いがした。で彼は焦心あせって来た。もっともっとえぐい事を云って、反応を見たいと思い出した。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「勿論、君はそんなことを信じやしまい、今までの誰にしたって同じことだった。——所謂常識とやらをはずれたことだからね」
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「こいつをはずすのは骨が折れました。後で家の中へ入ってみると、念入りに桟をおろした上、心張棒まで掛けてあったんです」
彼等の前方十けん位の処が松林のはずれになっていて、その直ぐ向うはあのB駅に近いカーブの鉄道線路である事が判ったんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして病気が重ってから、なけなしの金を出してして貰った古賀液の注射は、田舎の医師の不注意から静脈をはずれて、激烈な熱を引起した。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
噂ほどにもない小さな建物で、町はずれの人家の中に在った。流石さすが其処そこだけは自然に土盛りが高くなっていて、多少の景勝の地は占めている。
褐色の求道 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さアと促されて吉次も仕方なく連れだって行けば、お絹は先に立ち往来をはずれ田のくろをたどり、堤の腰をめぐるとすぐ海なり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それは何も私だけが人なみはずれて食いしんぼうな証拠でもなければ、第一、なるほど問題は食物に相違ないが、その奥底に
そして、その八重の短い言葉を聞いただけで、突っかい棒をはずされたような気持になり、へたへたとまた道端へ腰を下した。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
からだがぐつと宙に押しあげられたと思つたら、部屋じゆうの窓はおゝかたはずれて、窓ガラスがメチャメチャにわれたのよ。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
それはちょうど、彼女が南京玉なんきんだまへ糸を通すように、これこそれっこになっていて、いまかつて見当をはずしたことはないのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
言うことすることみんな的がはずれてるんだもの、いっそおかしいくらいだわ。自分独りで悲しんだり、喜んだりして……。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
子供部屋は縁側のはずれにあった。この部屋はちょうど屋根裏に似て、天井がなく、はりがむきだしてあり、その梁が六尺ぐらいの高さでしかない。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
到底とてものがれぬ不仕合ふしあわせと一概に悟られしはあまり浮世を恨みすぎた云い分、道理にはっても人情にははずれた言葉が御前おまえのその美しいくちびるから出るも
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それから今度こんどは風がきたちまち太陽は雲をはずれチュウリップのはたけにも不意ふいに明るくしました。まっな花がぷらぷらゆれて光っています。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
指端ゆびさきの痛くなるほど力を入れてそれをはずし、雨戸へ手をかけたが、得体えたいの知れない怪物が戸の外に立っているような気がするので、こわごわ開けた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
上役にうまく取入って威張っていたもの等が、ガラ/\とその位置を顛倒てんとうして行った。支え柱を一旦失うと、彼等は見事に皆の仲間はずれを食った。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
あてはずれた青蠅が他の腐肉を捜し求めに四方へ散ってゆくかのように、蠅の唸るような声高いうわあっという声が街路へ流れ出ていたからである。
俺は同盟からはずれてしまった。俺は人外じんがいちた、蛆虫うじむし同様になってしまった。もう明日から人にも顔は合わされない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
今日も私が、経川の作品を持参したというと、小踊りしながら袋の中をのぞき込んだが、期待にはずれて非常に落胆した。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
おっさんの指は棒からもろくもはずれ、必死の力で俺の外套の胸をはたいた。思わず俺は片手でそれをはらいのけたのだ。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
鎌倉の名にちなんだ「鎌倉彫かまくらぼり」なるものがありますが、今はむしろ素人しろうともてあそびになって、本筋の仕事からははずれました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私が巴里パリの客舎にいる頃、いつも町はずれの森の中から、この曲馬団のラッパが毎日響いて、私の帰郷病を昂進こうしんさせた。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
かつて餅搗もちつきの場合に、戸板をはずしてその上に餅を並べた。その時の餅の粉が白く戸板に残っている、というのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
啓吉は、最初その場所はずれの笑いの意味が、分らなかった。いかに好奇心のみの、群衆とは云え屍体の上るのを見て、笑うとは余りに、残酷ざんこくであった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
コーギトー・エルゴー・スムといって、外に基体的なるものを考えた時、彼は既に否定的自覚のみちを踏みはずした、自覚的分析の方法の外に出たと思う。
デカルト哲学について (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
数ある批評のどれもが感服しないのはなかったが、ドレもこれも窮所をはずれて自分の思う坪に陥ったのが一つもなかったのは褒められても淋しかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
経世家はしからず、時勢を、人情を察し、如何なる場合においても、調子はずれの事を為さず。その運動予算の外に出でず。その予算成敗せいばいの外に出でず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)