やく)” の例文
昔、地雷火じらいかやく斬罪ざんざいとなりし江戸末年の落語家朝寝房あさねぼうむらくも、かゝる雪の夜、席ハネてよりかゝる酒盃に親しみしならむか。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
有馬屋のお糸と、乾物屋のお柳と、吉五郎の娘お留は、三人とも十九のやくで、身分のへだてを他所よそに、長い間仲よく付き合っておりました。
ひょっとしたら、道誉は、こんどの警衛の途中で、討死のやくにあうかもしれぬ。よし万死に一生をえても、彼の一大厄難はまぬがれ得まい。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのやくったのは、近所に住んでいる吉田洋一よしだよういちさんである。余り度々見せるので、少々うるさくなったらしく、なかなか褒めてくれない。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
が、いづれにも、しかも、なかにも恐縮きようしゆくをしましたのは、汽車きしややくつた一にんとして、驛員えきゐんこと驛長えきちやうさんの御立會おたちあひつたことでありました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さいわいにその荒波に触るるのやくをまぬがれてきたのだが、去年という大厄年の猛烈な不景気には、もはやその荒い波を浴びない者はなかった。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかし、彼女のやくを脱するには、彼女が死ぬか、それとも離縁するかだが、さてどういう風にしたものかと考えました。
また自分ごく闇夜乗馬のおかげで道を求めて、やくを免れた事あり。アラブ馬たけしといえども、軍士と等しく児女や柔弱な市人をも安心して乗らしむ。
玉を烹たるもの、そのゆゑをきゝかまふたひらきればすでに玉はなかばかれたり。其たまわたり一寸ばかりこれしん夜光やくわう明月のたまなり。俗子ぞくしやくせられたる事悲夫かなしきかなしるせり。
わたくしはさきに寺僧のことを聞いた時、壽阿彌が幸にして盛世碑碣ひけつやくを免れたことを喜んだ。然るに當時寺僧は實を以てわたくしに告げなかつたのである。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ロレ まア、おちゃれ。たすかるすべおもひついたわ。必死ひっしやくのがれうためゆゑ必死ひっし振舞ふるまひをもせねばならぬ。
或日海上で破船のやくい、同船の部下の者らとともに溺死を遂げた。そのち船は海浜へ打上げられたが、溺死者の死骸は終に発見することが出来なかった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「なにさ、それがやくでさあ。もっとも、相手は確かに人間さまだったってますがね、さて、そいつが何処どこのどいつだか皆目判らねえてんでげすから、世話ぁねえ」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
晏子あんし(五〇)戄然くわくぜんとして衣冠いくわん(五一)をさめ、しやしていはく、『えい不仁ふじんいへども、やくまぬかれしむ。なんつをもとむるのすみやかなるや』と。石父せきほいはく、『しからず。 ...
この十五日間、やくよけの祈祷をおこなって、護摩料や祈祷料や賽銭が多分にあつまっているので、それを知っている何者かが忍び込んで彼女を殺害したのであろう。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
去年の『やく』は無事にすんださかい安心しとったになあ、方角でも悪いんやろか、気がつかなんだが。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
五月の末から、わずか二ヵ月の間に、火、風、水、土、四大のやくに遭うというのはよくよくのことで、頼んだって、こういううまい都合にはならないのが普通である。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
旧友は伊沢道之いざわみちゆき加波山かばさんの暴動の時には宇都宮にいたがために、富松正安等とまつまさやすらと事を共にするのやくを免かれることができたが、群馬の暴動は免かれることができなかった。
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やくといふは、たとへば骰子さいかどがあり、ますにはすみがあり、ひとには關節つぎふしはうには四すみのあるごとく、かぜはうよりけば弱く、すみよりふけば強く、やまひうちより起ればしやすく
訂正し『ふらんす物語』と名づけ前著出版の関係よりしてはるるままに再び博文館より出版せしめしが忽ち発売禁止のやくに会ひてこれより出版書肆との談判はなはだ面倒になりけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みれんは少しもないが、おさんが哀れに思えてきた。自分が上方へ来たのは、やくのがれをしたようなもので、その代りにおさんがひとりで厄を背負った、というふうな感じがし始めたのだ。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同じ陳蔡のやくの時、いまだ容易に囲みの解けそうもないのを見て、子路が言った。君子も窮することあるか? と。師の平生の説によれば、君子は窮することが無いはずだと思ったからである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お前達親子は東京に居るといつまでも不運だ。きっと何かに呪われているのだから、そのやくを落すためには故郷へ帰ったがいい。今年の旅立ちは西の方がいいとこの通り易のオモテに出ている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
トラックも幾度か抵当に入り、幾度か差押えのやくに遭った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「今年のうちに何とか極まらんと、来年はやくやさかいにな」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「半歳ほど前でした、——十九のやくで、年を越さないうちは嫁にもやれないから、暫らく江戸の水を呑ましてくれといふ親元の頼みでしてな」
「ご執権を暗愚にして、今日のやくを招いたのも、多年、遊宴のお取巻きばかりをのうとしていた、きさまらのなせるわざだわ。この、うじ虫めら!」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉を烹たるもの、そのゆゑをきゝかまふたひらきればすでに玉はなかばかれたり。其たまわたり一寸ばかりこれしん夜光やくわう明月のたまなり。俗子ぞくしやくせられたる事悲夫かなしきかなしるせり。
……妹背山いもせやま言立いひたてなんぞ、芝居しばゐのはきらひだから、あをものか、さかな見立みたてで西にしうみへさらり、などをくと、またさつ/\とく。おんやくはらひましよな、厄落やくおとし。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いへには垣なければ盜人ぬすびとり、ひとには咎あれば、てき便べんとなる。やくといふのはそんなものだ。
これでやくが落ちたと胸を撫でおろしたが、山川のほうは、秘密を分けあうものがいることで、いくらか慰められていたのに、リーナの死で漏泄ろうせつの道がなくなり、孤独感でおしつぶされそうになった。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ニセコの山頂でこのやくっていたのとほとんど同じ頃、苫小牧とまこまいの飛行場でも、悲しむべき事件が起っていた。戦争中私たちは冬のニセコ山頂の研究と並行に、夏は海霧の研究に没頭していたのである。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
だから今年はもうこれで、やくのがれをしたとよろこんで居ります。
嫁のお弓は遠い親類の娘で、五六年前から井筒屋に養われ、娘のお浪と姉妹のように育ち、ツイ昨年の春やくがあけて重太郎と婚礼したばかり。
かれが裂いて返した秘帖の一片で、阿波は一城とりつぶしのやくをまぬがれ、禁門堂上の騒擾そうじょうもきわめて軽微にすんだ。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はなしをするうちに、さく/\とゆきけるおとがして、おんやくはらひましよな、厄落やくおとし。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
伯父の家の画帳も勿論そのやくこうむっていた。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
嫁のお弓は遠い親類の娘で、五六年前から井筒屋に養はれ、娘のお浪と姉妹のやうに育ち、ツイ昨年の春やくがあけて重太郎と婚禮したばかり。
六波羅の検察がきて、没取のやくに会わぬまにと、多量な武具材料の一切を、必死で隠匿いんとくしはじめた物音なのだ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その通りですよ、親分。娘は来年はやくだから、年内に盃事だけでもさせて置き度いと、内々話を進めて居りました——どうしてそんな事が?」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかるに、私邸に戻る儀はゆるされず、そのまま禁足のやくい、今日まで庁にとどめられていたのだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お里は、ほこらしい顏をあげました。やくそこ/\の年ごろでせうが、苦勞をしたせゐか、美しいうちにも、何となく凛々りゝしいところのある娘です。
そして明け暮れ、気になってならないのは、“血光の災”といわれた家運のやくと剣難のわざわいだ。煩悩ぼんのうは煩悩を呼ぶ。迷うと果てはない。とうとう彼は意を決して
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その通りですよ、親分。娘は來年はやくだから、年内に盃事だけでもさせて置きたいと、内々話を進めて居りました——どうしてそんなことが?」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
しかし、行きずりの御縁と見すごし、万一にもお行き先にて、取返しのつかぬやくにでもおいなされたら、てまえども夫婦ふたりは、生涯の悔いを心のそこに噛むことであろ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代り、橋を渡つたら、お前の馴染のあの家で、ちよいとやく拂ひに一杯やらかさうぢやないか。女房には内しよだよ
……ご落命のやくに会った浮島ヶ原は、戦場ではなかったにせよ、いわばご戦死も同様なこのたびの犠牲にえ。そのことのみが、家臣としても、ふかく胸いたまれてなりませぬ
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだやくを越したばかり、若くて美しくて、氣立てのいゝお靜は、氣の毒なほど下手したでに出て、綺麗で年上で、何となく押の強いお樂を立てゝやつたのです。
合戦長きにわたらんか、賊は、地の利を得て、奇襲縦横にふるまい、諸州の黄匪こうひ、連絡をとって、いっせいに後路を断ち、征途の味方は重囲のうちに殲滅せんめつやくにあわんもはかりがたい。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヘエ、親分が行くんですか、脅かしの日限は一昨日で切れて、ゆうべはやく明けで店中へ酒が出る騒ぎでしたよ」