其方そちら)” の例文
お前たちは其方そちらきなさい、金造きんぞう、裏手の方を宜く掃除して置け、喜八きはち此方こちらへ参らんようにして、最う大概蔵へ仕舞ったか、千代や
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あんな所に長く奉公させて置くのも惜しいのように思うから、其方そちらでお差支えがないのなら、どうか私に身柄を預けては下さるまいか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此樣こんつても其方そちらへの義理ぎりばかりおもつてなさけないことる、多少たせう教育けういくさづけてあるに狂氣きやうきするといふは如何いかにもはづかしいこと
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さうしてお前さんに会うて話と謂ふは、けつして身勝手な事を言ひに来たぢやない、やはり其方そちらの身の上に就いて善かれと計ひたい老婆心切ろうばしんせつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私の足はよく其方そちらへ向いた。そこには鉱泉があるばかりでなく、家から歩いて行くには丁度頃合の距離にあったから。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其方そちらは如何でございますか、此の紐育ニューヨークから二百マイル程隔った湖畔は、近頃殆ど毎日の雨に降り籠められて居ります。
C先生への手紙 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「御新造のお通さんが、此間から危ない眼に逢わされてるそうだが、其方そちらには怨む者も随分あることでしょうな」
「あなたは其方そちらへ帰るのだから、このかたに乗り換へを教へて上げなさい。」と云つたやうであつた。
幼少の思ひ出 (新字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
パノラマ館には例によって人を呼ぶ楽隊の音面白そうなればわれもまた例によって足を其方そちらへ運ぶ。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其方そちらで木戸を丈夫に造り、開閉あけたてを厳重にするという条件であったが、植木屋は其処そこらのやぶから青竹を切って来て、これに杉の葉など交ぜ加えて無細工ぶさいくの木戸を造くって了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
学生には御気の毒であるが、全く犬の所為せいだから、不平は其方そちらへ持って行って頂きたい。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……ゆめなんだか、うつゝなんだか、自分じぶんだか他人たにんだか、宛然まるで弁別わきまへいほどです——前刻さつきからおはな被為なすつたことも、其方そちらではたゞあはあはわらつてらつしやるのが、種々いろ/\ことばつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくしは先刻さっき茶を飲んだ家の女に教えられた改正道路というのを思返して、板塀に沿うて其方そちらへ行って見ると、近年東京の町端まちはずれのいずこにも開かれている広い一直線の道路が走っていて
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其方そちらへいらつしやいますと突き当りでございますよ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何時いつでも母親おふくろが旨いものを拵えてくれて、肴は沢山たんとはないが、此方こちらはこちらで勝手に遣ります、其方そちらはそちらで勝手におあがりなさい
ようやく九時半頃にお春に云いつけて二階へ連れて行かせたが、間もなく表門のベルが鳴って、犬が其方そちらへ走って行く足音を聞くと
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其方そちらおもよりもあらばつてれとてくる/\とそりたるつむりでゝ思案しあんあたはぬ風情ふぜい、はあ/\ときゝひとことばくて諸共もろとも溜息ためいきなり。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あれ、貴方あなた其方そちらからいらつしやるのですか。この通をいらつしやいましなね、わざわざ、そんなさびしい道をおいでなさらなくても、此方こつちの方が順ではございませんか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
細雨こさめにじむだのをると——猶予ためらはず其方そちらいて、一度いちどはすつて折曲をれまがつてつらなく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一人ひとりも人に逢わなかったが、板塀の彼方かなたに奉納の幟が立っているのを見て、其方そちらへ行きかけると、路地は忽ち四方に分れていて、背広に中折なかおれかぶった男や、金ボタンの制服をきた若い男の姿が
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其方そちらへいらっしゃいますと突き当りでございますよ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
横切って向いの杉林に這入るとパノラマ館の前でやっている楽隊が面白そうに聞えたからつい其方そちらへ足が向いたが丁度その前まで行くと一切ひときり済んだのであろうぴたりとめてしまって楽手は煙草などふかしてじろ/\見物の顔を
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鐵「えへゝゝゝわっちどもは曲った心が直っても、側から曲ってしまうから、旨く真直まっすぐにならねえので……えゝ其方そちらにおいでなさる方は何方どちらで」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其方そちらに思ひよりも有あらば言つて見てくれとてくるくるとそりたるつむりを撫でて思案にあたはぬ風情、はあはあと聞ゐる人も詞は無くて諸共もろとも溜息ためいきなり。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪子ちゃんも大分其方そちらの滞在が延びていることだし、一遍帰って来て貰いたいと思っていたところであるから、帰京の途中立ち寄ることにしたらどうであろう
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其方そちらの……貴女あなたのおにはに、ちよろ/\ながれます遣水やりみづのふちが、ごろ大分だいぶしげりました、露草つゆくさあをいんだの、たではな眞赤まつかなんだの、うつくしくよくきます……なかいてるらしいんですがね。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「今し方其方そちらへおいでなすつたのですが……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いや植村うゑむらせまいからで、どうも此樣こんことになつて仕舞しまつたで、私共わしども二人ふたりじつ其方そちらあはせるかほいやうな仕儀しぎでな、しかゆきをも可愛想かあいさうおもつてつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宮「左様か、金吾、由次、少々山三郎が内々頼む事があって他聞を憚ると云うから、其方そちらへ出て往って居れ、用があれば手をならすから、そして酒の支度をしろ」
と、カタリナが呼んだが、上眼でじろりと其方そちらを見ただけで、犬は火の前を動きそうにもしない。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我等わしども二人が実に其方そちらに合はせる顔も無いやうな仕義でな、然し雪をも可愛想と思つてつてくれ、こんな身に成つても其方そちらへの義理ばかり思つて情ない事を言ひ出しをる
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、いくら立てても其方そちらの耳が立たないので、「姉ちゃん、やってみてえな」と云った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お話はすべて原書あちらまゝにしてお聞きに入れますから、宜しく其方そちらでお聞分けを願います。
山のかた観物小屋みせものごやに引張る者が出て居りますが、其方そちらへ顔も向けず四辺あたりに気を附けてまいると、向うから来ました男は、年頃二十七八にて、かっきりと色の白い、眼のきょろ/\大きい
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一人で帰りますと小さく成るに、こりやこわい事は無い、其方そちらうちまで送る分の事、心配するなと微笑を含んでつむりでらるるに弥々いよいよちぢみて、喧嘩をしたと言ふと親父とつさんに叱かられます
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宙にえていた眼だけをちらと其方そちらへ向けた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一人ひとりかへりますとちいさくるに、こりやこわことい、其方そちらうちまでおくぶんこと心配しんぱいするなと微笑びしようふくんでつむりでらるゝに彌々いよ/\ちゞみて、喧嘩けんくわをしたとふと親父とつさんにかられます
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女「お手水は其方そちらじゃアいけません此方こちらでございますよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武「いや冗談じゃア無い全くだ、其方そちらのお方は」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅「おやまさんお腹も立ちましたろうが堪忍して下さいよ、私は少し云う事が有りますから彼方あちらへ行って居て下さい、あんまりやれこれ云って下さると増長するのでございますから、どうぞ其方そちらへ……又市さん今の真似はあれはなんだえ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)