元禄げんろく)” の例文
旧字:元祿
尚白の四人は芭蕉の主な弟子で芭蕉とともにいずれも元禄げんろく時代、すなわち今からいうと二百余年前の人であったのでありますが
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
前掲の句の作者は元禄げんろく時代の人だから、その時代に江戸っ子が初がつおを珍重ちんちょうしたのはうかがえるが、今日これは通用しない。
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
和漢古典のあらゆる文辞は『鶉衣』を織成おりなとなり元禄げんろく以後の俗体はそのけいをなしこれをいろどるに也有一家の文藻ぶんそうと独自の奇才とを以てす。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
藤原時代の輪違わちがい模様、桃山ももやまから元禄げんろくへかけて流行した丸尽まるづくし模様なども同様に曲線であるために「いき」の条件に適合しない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「左のけんざきがようできとるいうて先生にほめられたんで。元禄げんろくの丸みもうまいことできたいうて、先生が皆に見せたんで」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
それから年々来るようになって、ある年は唐船三、四十そうを数え、ある年は蘭船らんせん四、五艘を数えたが、ついに貞享じょうきょう元禄げんろく年代の盛時に達した。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これには実に格好な典型的なものがすでに元禄げんろく時代にできているように私には思われる。それは芭蕉ばしょうとその門下の共同制作になる連句である。
ラジオ・モンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
元禄げんろく時代の将軍家、館林たてばやし綱吉つなよし様が、ある時お手に入れられた所、間もなく江戸城お乗込み、将軍職に就かれたそうだ。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
好奇ものずき統計家とうけいか概算がいさんに依れば小遣帳こづかいちやう元禄げんろくひね通人迄つうじんまで算入さんにうしておよ一町内いつちやうないに百「ダース」をくだる事あるまじといふ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
元禄げんろく庚午かうごの冬、しきりに骸骨がいこつを乞うて致仕ちしす。はじめ兄の子をやしなうて嗣となし、つひにこれを立て以てほうがしむ。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、古人の俳句を読まんとならば総じて元禄げんろく明和めいわ安永あんえい天明てんめいの俳書を可とす。就中なかんずく『俳諧七部集』『続七部集』『蕪村ぶそん七部集』『三傑集』など善し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いったい元禄げんろくという年代は華やかな話題が多かった、赤穂浪士のことは別として、紀文大尽とよばれた紀伊国屋文左衛門きのくにやぶんざえもん奈良屋茂左衛門ならやもざえもんなどの富豪が
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
元禄げんろく年間のことであった。四谷左門殿町に御先手組おさきてぐみの同心を勤めている田宮又左衛門たみやまたざえもんと云う者が住んでいた。
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「力囲希咄」を「リキイキトツ」と読むのは、元禄げんろく十五年出版の、河東散人鷯巣りょうそう藤村庸軒ふじむらようけんの説話を筆録したという「茶話指月集」の読み方によったものである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
一体うなんだ。あの女を貰ふ気はないのか。いぢやないかもらつたつて。さうごのみをする程女房に重きを置くと、何だか元禄げんろく時代の色男の様で可笑しいな。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
肯定に伴ふ新流行の「とても」は三河みかはの国あたりの方言であらう。現に三河の国の人のこの「とても」を用ゐた例は元禄げんろく四年に上梓じやうしされた「猿蓑さるみの」の中に残つてゐる。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私の郷里の殿様である吉良上野こうずけ元禄げんろく十三年の秋、中風か何かで死んでいたとしたら、終戦後
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
学校と露路をあいにして、これも元禄げんろく年間に建った表町通りの紙店かみやの荷蔵がある。その裏の何かを取りはらって空地が出来た時、どんなに児童たちはよろこんだかしれない。
元禄げんろくころ陸奥千鳥むつちどりには——木川村きがわむら入口いりぐち鐙摺あぶみずりいはあり、一騎立いつきだち細道ほそみちなり、すこきてみぎかたてらあり、小高こだかところだう一宇いちう次信つぎのぶ忠信たゞのぶ両妻りやうさい軍立いくさだち姿すがたにて相双あひならつ。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よく浴衣ゆかたの模様などに、鎌の絵と、と、ぬの字を染め抜いてかまわぬと判じさせるのがありますが、模様としては元禄げんろくぶりの寛闊な趣を見せてなかなか面白いものですが
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それも江戸の泰平たいへいが今絶頂という元禄げんろくさ中の仲之町の、ちらりほらりと花の便りが、きのう今日あたりから立ちそめかけた春の宵の五ツ前でしたから、無論嫖客ひょうきゃくは出盛り時です。
そのうち弘前に勤めている同僚の書状が数通すつう届いた。わたくしはそれによってこれだけの事を知った。渋江氏は元禄げんろくの頃に津軽家に召し抱えられた医者の家で、代々勤めていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たちまち翕然きゅうぜんとして時代のふうをなすまでに、貞享じょうきょう元禄げんろくの俳感覚はき活きとしていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貞享じょうきょう元禄げんろく年間に、上方から江戸へ下って来た、三味線音楽家、杵屋一家の人々が、歌舞伎の伴奏に用いた上方唄が、いつしか、江戸前に変化し、その基礎をなしたことに疑いはない。
文身ほりものというのは、元は罪人の入墨いれずみから起ったとも、野蛮人の猛獣脅しから起ったとも言いますが、これが盛んになったのは、元禄げんろく以後、特に宝暦ほうれき明和めいわ寛政かんせいと加速度で発達したもので
男達おとこだてと云うものは寛永かんえい年間の頃から貞享ていきょう元禄げんろくあたりまではチラ/\ありました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「仮名手本忠臣蔵」の作者竹田出雲たけだいずも斧九太夫おのくだゆうという名を与えられて以来、ほとんど人非人のモデルであるように、あまねく世間に伝えられている大野九郎兵衛という一個の元禄げんろく武士は
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
元禄げんろくと云う年号が、何時いつの間にか十余りを重ねたある年の二月の末である。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
元禄げんろくの時代に生きていた小春は恐らく「人形のような女」であったろう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それからどうした、ウン、するとかつおぶしがウウゥイ、ころは元禄げんろく十四年んん、おいおい、それは何だい、うん、なにさ、かつおぶしだもふしばがり、ワッハハアッハハ、まあのめ、さあ一杯
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
元禄げんろくを境とし遠くは寛永かんえい頃まで溯るものを初期とし、大きさはほとんど長版である。最初は仏画のみであったことは文献の示すとおりである。だが漸次寓意ぐういを含むある特種な一定の画題を生じた。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いのちはてしひとり旅こそあはれなれ元禄げんろく曾良そらの旅路は
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
これが有名な松の廊下……元禄げんろく浅野あさの事件の現場です。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
享保きょうほ元禄げんろく……」とまるで御経でもあげるように父の肩につかまって唱えたりたたいたりしたあの書院の内を記憶でまだ見ることも出来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
西川一草亭にしかわいっそうていの花道に関する講話の中に、投げ入れの生花がやはり元禄げんろくに始まったという事を発見しておもしろいと思った。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
元禄げんろく時代ではまだこういう文字は使わなかったようですが、天明に至って蕪村一派の漢語癖から好んでこういう文字を使うようになったのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
元禄げんろく以前にありては俳諧は決して正風しょうふう以後におけるが如く滑稽こっけい諧謔かいぎゃくの趣を排除せざりしなり。余は滑稽諧謔を以て俳諧狂歌両者の本領なりと信ずるなり
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
足利尊氏あしかがたかうじといえば、思いあわせるが、ただことばのうえで「なんこう」といっても、ひとはちょっと思い出さないような顔をしている今——元禄げんろくの世であった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坊やはこれでも元禄げんろくを着ているのである。元禄とは何の事だとだんだん聞いて見ると、中形ちゅうがたの模様なら何でも元禄だそうだ。一体だれに教わって来たものか分らない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
住居のしかたとしては極めて理にかなっていた、現に畳というものが一般に使われるようになった元禄げんろく年代まで、二千余年にわたって板敷の生活が続いていたことでもわかることだ
元禄げんろく子尹しゐんは肩書通り三河の国の人である。明治の化羊くわやう何国なんごくの人であらうか。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
三馬さんばの作に「浮世風呂」の名があっても、それは書物の題号であるからで、それを口にする場合には銭湯せんとうとか湯屋ゆうやとかいうのが普通で、元禄げんろくのむかしは知らず、文化文政ぶんかぶんせいから明治に至るまで
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また、文化文政ぶんかぶんせいの美人の典型も元禄げんろく美人に対して特にこの点を主張した。『浮世風呂』に「細くて、お綺麗きれいで、意気で」という形容詞の一聯がある。「いき」の形相因は非現実的理想性である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
元禄げんろくの昔其角きかくがよんだ句にもある、金物問屋が角並かどなみにある、大門通りのめぬきの場処である——その他に、利久という蕎麦屋そばや、べっこう屋の二軒が変った商売で、その家の角にほんとに小さな店の
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
江戸ははな元禄げんろく、繁昌の真っ盛り。
写生の行き詰まったあげくに元禄げんろくに帰ろうとするは自然の勢いであろうが、芭蕉の根本精神にまで立ちもどらなければ新しき展開は望まれないであろう。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
寛文十年板『垣下徒然草えんかつれづれぐさ』、延宝六年板『古今役者物語ここんやくしゃものがたり』等の評判記には皆当時俳優の肖像を挿入そうにゅうせり。以て元禄げんろく以前既に俳優肖像画の行はれたるを知るべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むらさき裾模様すそもやうの小そでに金糸の刺繍ぬひが見える。袖からそで幔幕まんまくつなを通して、虫干むしぼしの時の様にるした。そでは丸くてみぢかい。是が元禄げんろくかと三四郎も気がいた。其外そのほかにはが沢山ある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その翌年、西暦千六百九十二年(元禄げんろく五年)に、今一度オランダ使節は江戸へ参府することになった。そこでケンペルもまたその一行に加わって内地を旅する再度の機会をとらえた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日本でも北村季吟きたむらきぎんがはじめて『山之井やまのい』という季を集め評釈したものを作り、それからだんだん元禄げんろく天明てんめいを経てその季の数もふえて来、曲亭馬琴きょくていばきんのあの綿密な頭で『歳時記栞草しおりぐさ』なるものをこしら
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)