)” の例文
妻と小さな子供をれている私には、横浜を出るとき親しい友達は桟橋に残ってしまったが、それでも旅らしい気分になれなかった。
丁度其時、向ふの村にお祭があつて、芝居がかゝつたと言ふので、私は従兄達にれられて行つた。鏡山の芝居だツたと覚えてゐる。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
中二日おいて、松尾まつおという老女と弥生やよいという妹をれて市蔵が来た。酒やさかなの材料や道具などが運ばれて、松尾と弥生が厨におりた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
当人へ弟子入りを承諾したように受け取られ上郎氏の細君が当人をれて見えたので、今さらいやともいえず、弟子にしたわけでした。
武士は四辺あたりをじっと見たがどうしても場所の見当がつかなかった。二人れの男が提燈ちょうちんを持って左の方から来た。武士は声をかけた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
掛茶屋、船頭などに聞くと、「あのなら、今しがた立派な様子をした西洋人にれられて、橋を渡って江の島の方へ行きましたよ」
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おくみはお安さんからはがきが来た翌々日、青木さんにさう言つて、少し早午はやひるを戴いて、坊ちやんをれて一寸店へやらせて貰つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
昨日の続きの仕事をして居たが昼頃から少し頭痛がし出した。湯にでもはいつて来ようと思つて、七瀬と八峰をれて湯屋へ行つた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ウォルタアとチャアリイは帰路を失って迷児まいごになったもの、早晩どこかの横町よこちょうででも発見されて、安全にれ戻されることだろう。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
わたしも山へ登りたいわ、女性にだって登高本能はあることよ、だって妾、煙突なんかへ登りたくはないの、ねえれてってくんない?」
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
雄吾の父親、岡本吾亮ごすけがしばらくぶりで自分の郷里に帰って来た。東京で一緒になったという若い綺麗な細君と幼いせがれの雄吾をれて。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さて彼女が夫をれ去らんとするに臨み、侯呼び還して、今後また汝の夫が干戈かんかを執ってわが軍に向わばどう処分すべきやと尋ねると
無論病勢のつのるにれて読書は全くさなければならなくなったので、教授の死ぬ日まで教授の書を再び手に取る機会はなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気に入りの側近のみをれて人知れず、金創に霊顕ありとすすめる者のあったままに、あのあみだ沢の猿の湯へ湯治に行ったのだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
亀山の関盛信は、一子一致かずむねれて、そうした四囲険悪な中を、ひそかに姫路へ来て、年賀を兼ね、かつ、爾後じごの策を仰いでいた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるじの勧むるそばより、妻はお俊を促して、お俊は紳士を案内あないして、客間の床柱の前なる火鉢ひばち在るかたれぬ。妻は其処そこまで介添かいぞへに附きたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
或る夕方、夜警に出ていると、警官が四、五人足早に通り過ぎながら、今二人れて来るからっちゃア不可いかんぞと呼ばわった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
裏通りで、解らないが、恐らく町名が異ったろうと思う頃、庸之助は人の家の間の、もっともっと穢くせまい小道にれ込んだ。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
今度こんどこそはなんつても、寸分すんぶんぶた相違さうゐありませんでしたから、あいちやんもれをれてくのはまつた莫迦氣ばかげたことだとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しも貴下こなたが、世間せけんふやうに、阿呆あはう極樂ごくらくひいさまをれてかっしゃるやうならば、ほんに/\、世間せけんとほり、不埓ふらちことぢゃ。
晋「イヤ狸であろうと狐であろうと、遇いたいと申すものには遇ってやりましょうよ、ぐず/\言わずにれてお出でなさいよ」
急報に接して、警視庁からは係長が若手の敏腕家杉村刑事をれて馳せ付け、そこにいた山本桂一に事の顛末を聞いてから、杉村を顧みて
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
王は庚娘をれて自分の家へ帰って、おくへ入って母親に逢った。母親は王の細君がもとの女でないのを不審がった。王はいった。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「実は牛込神楽坂署の署長が是非あなたにお会いしてお聞きしたい事がありますので、私に署までおれするようにと云いつかったのです」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
暢気坊のんきぼうのように取れるし、また信心のために巡礼というようなものとすると、手に種々いろいろなものを持っているとか子供をれているとかして
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
天文十八年、悪魔は、フランシス・ザヴイエルにいてゐる伊留満いるまんの一人に化けて、長い海路をつつがなく、日本へやつて来た。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二十円もあればいでせうと云つて私を自身の室へれて行つて二人の令嬢に紹介した。私は思ひ掛けない事に遇つて感極まつて涙がこぼれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
邪魔なのは、このれの甚太郎、ただ一人——何と、言いこしらえて、この者を突っぱなそうか、なにとか、よい思案は——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
だが事実はもう余程酔つてゐたので、嘘でもそんな言葉を吐いて見ると、心もそれにれて、もつと何かいたづらなことでも云つて見たい気がした。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
七歳ななつになるまでの間にセエラの気がかりになっていたことは、いつかれて行かれる「あそこ」のことだけでありました。
「嫌だ/\、一緒に行く。れてつて呉れなければ耳を噛み切つてやる!」と、黒ちやんは泣きながら無理を言ひました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
歌にれて障子の影法師が踊る。妙な手付をして、腰を振り、足を動かす。或は大きく朦乎ぼんやりと映り、或は小く分明はつきりと映る。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
妻 結婚してから、たつた三度きりよ、活動へれて行かれたのは。自分が嫌ひなものは人にも見せない方針らしいのよ。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「そのお方のほうでもその気になって下されば、わたしが国へ帰るとき一緒におれして、もうそのようなお心細い目には逢わせませんから。」
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あの晩とうとう自分をこの二階にれて来たのであったが、こうして、しばらくでも女と一緒にいて、母親にもともどもに大事にせられていると
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
渡邊をれてうららかな秋の街を散歩でもするような足どりで歩き出した、二人は漸次だんだん郊外の方へ近よると、其所そこには黒ずんだ○△寺の山門が見えた
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
それが勅許があったので、嘉禄三年六月二十二日山門から人をやって墓を破そうとする、その時に六波羅の修理亮しゅりのすけ平時氏は、家来をれて馳せ向い
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
の慈愛館へれておいでになりましたがネ、——貴嬢、私のせがれが生きてると丁度ちやうど篠田さんと同年のですよ、私、の方を見ると何時いつでも涙が出ましてネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「それどころですか。私、ひどい目にあっちゃった。もう懲々こりごり、これからはもう御一緒にれて来て頂きませんわ」
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
法眼は学問があって律義の方、しかしの律義さは余程、異っています。る時、僧をれて劇場の前を通りました。侍僧は芝居を見たくて堪りません。
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その相談はすぐに成立って、清吉は六月の某日青葉の薫る頃に故郷に暇乞いとまごいをして、一人の四十格好の男にれられて、西東も知らない都の空へ旅立をした。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お浜が次郎をれてやって来るごとに、彼女を説きつけて、こっそり一人で帰って貰うことにしていたのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
が、警官は、警察へ同行するかわりに、保護と称して、暗い公園の奥へ彼女をれ込もうとしたというのだ——。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
胎動たいどうに異ひなかつた。それにれて彼女の心臓も思ひ出したやうに苦痛を訴へはじめた。明子はこの時さめざめと泣いた。人々は彼女の不幸を哀れんだ。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
女のおれは無線電信を発明したマルコーニ侯の前の奥様で、マダム・ペトロスカというソプラノ歌手でした。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
そこへ私より一足遅れて権八が一人の仲間にれられて頭を手拭てぬぐひ繃帯はうたいしながら帰つて来た。かみさんはそれを見るとたちまち色を変へて狂気のやうになつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
處が十二の時と記憶する、徳二郎といふ下男が或日僕に今夜面白い處にれてゆくが行かぬかと誘さうた。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
焚火のとろとろ火にれて、穴へでも落ちたようにグッスリと寝込んでしまった、眼が覚めると鳥の声がする、谷間に「ひんから」「ひんから」と響きわたる
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
松方正義老公の銀像、大倉喜八郎男夫妻の坐像、法隆寺貫主の坐像などが記憶にのこっている。松方老公のは助手として父にいていって三田の邸宅で写生した。
自作肖像漫談 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
赤坊が死んでから村医は巡査にれられてようやくやって来た。香奠こうでん代りの紙包を持って帳場も来た。提灯ちょうちんという見慣れないものが小屋の中を出たり這入はいったりした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)