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仰向
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あおむ
ふりがな文庫
“
仰向
(
あおむ
)” の例文
そうして時々
仔細
(
しさい
)
らしく頭を動かしてあちらを向いたりこちらを向いたり、
仰向
(
あおむ
)
いたり
俯向
(
うつむ
)
いたりするのが実に可愛い見物である。
鴉と唱歌
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
「またやんちゃんが始まるな、」と哲学者は両手で
頤
(
おとがい
)
を支えて、柔和な顔を
仰向
(
あおむ
)
けながら、若吉を
瞶
(
みつ
)
めて
剃立
(
そりたて
)
の
髯
(
ひげ
)
の
痕
(
あと
)
を
撫
(
な
)
で廻す。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ピチピチした裸体が
仰向
(
あおむ
)
けに寝かされて、その
側
(
そば
)
には磨き立てた出刃庖丁が、刃先を下にしてズブリと板の上に突っ立っています。
銭形平次捕物控:001 金色の処女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ビール箱の蓋の蔭には、二十二三位の若い婦人が、全身を全裸のまま
仰向
(
あおむ
)
きに横たわっていた。彼女は腐った一枚の畳の上にいた。
淫売婦
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
女の強い声とともにどうしたのか洋服の男は、土間の上に
仰向
(
あおむ
)
けに倒れてしまった。と、ガラス戸が
開
(
あ
)
いて女の姿は外へ出てしまった。
港の妖婦
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
▼ もっと見る
右を下にした、左を下にした、
仰向
(
あおむ
)
いても見た、時々は
吾
(
われ
)
知らず足を伸ばして、薪木を蹴り火花を散し、驚いて飛起きたこともあった。
白峰の麓
(新字新仮名)
/
大下藤次郎
(著)
しまいには、その鏡に
気圧
(
けお
)
されるのか、両手の利かないお敏の体が
仰向
(
あおむ
)
けに畳へ倒れるまで、手をゆるめずに責めるのだと云う事です。
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
天井を
仰向
(
あおむ
)
いて視ると、
彼方此方
(
あちこち
)
の雨漏りの
暈
(
ぼか
)
したような
染
(
しみ
)
が化物めいた模様になって浮出していて、何だか
気味
(
きび
)
の悪いような部屋だ。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
主人は
仰向
(
あおむ
)
いて番号を見ながら、おい誰かいないかねと
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
へ声をかけた。敬太郎はまたそろそろ三階の自分の
室
(
へや
)
へ帰って来た。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
端折
(
はしょ
)
りのしごきを解き
棄
(
す
)
て、
膝
(
ひざ
)
の上に抱かれたまま身をそらすようにして
仰向
(
あおむ
)
きに打倒れて、「みんな取って
頂戴
(
ちょうだい
)
、
足袋
(
たび
)
もよ。」
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
法師丸の位置からやゝ
仰向
(
あおむ
)
けた鼻の
孔
(
あな
)
が覗けるのだが、肉のうすいことは縦に細長く切れている二つの孔の境界線を見ても分る。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
蝦夷萩は、
鼻腔
(
びこう
)
からひくい
呻
(
うめ
)
きに似た息を発し、身を
仰向
(
あおむ
)
けに転ばして、
嬉々
(
きき
)
と、十四の少年が、なすままに、まかせていた。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だだだだッと、「赤毛のゴリラ」は銃丸のために後に吹きとばされドターンと
仰向
(
あおむ
)
けに
斃
(
たお
)
れてしまった。そして石のように動かなくなった。
流線間諜
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
小さい顔に、くりくりした、漆のように黒い目を光らして、小さくて鋭く高い鼻が少し
仰向
(
あおむ
)
いているのが、ひどく可哀らしい。
かのように
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
生きておられないくらいに不安になり、指先の力も抜けて、編棒を膝に置き、大きい溜息をついて、顔を
仰向
(
あおむ
)
け眼をつぶって
斜陽
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
気が気でないので、一同があわてふためく中で、
医道
(
いどう
)
の用はこの時にありとばかり、長庵は
大得意
(
だいとくい
)
だ。意識不明の幸吉を
仰向
(
あおむ
)
けに寝かして
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
飛衛は新入の門人に、まず
瞬
(
またた
)
きせざることを学べと命じた。紀昌は家に帰り、妻の
機織台
(
はたおりだい
)
の下に
潜
(
もぐ
)
り
込
(
こ
)
んで、そこに
仰向
(
あおむ
)
けにひっくり返った。
名人伝
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
あたりに
砂埃
(
すなぼこり
)
のような幕が立って、彼は彼の手で
仰向
(
あおむ
)
けに突きとばされたヒロ子さんがまるでゴムマリのようにはずんで空中に浮くのを見た。
夏の葬列
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
復一はボートの中へ
仰向
(
あおむ
)
けに
臥
(
ね
)
そべった。空の
肌質
(
きじ
)
はいつの間にか夕日の
余燼
(
ほとぼり
)
を
冷
(
さ
)
まして
磨
(
みが
)
いた銅鉄色に
冴
(
さ
)
えかかっていた。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
足音は襖の前に止ったが、襖は
辷
(
すべ
)
りよくむしろ何気なく開いたような様子だった。女は肩さきを
斬
(
き
)
られたように驚いて、冷汗を
掻
(
か
)
いて
仰向
(
あおむ
)
いた。
三階の家
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
校長は
肱枕
(
ひじまくら
)
をして足を縮めて
鼾
(
いびき
)
をかいているし、大島さんは
仰向
(
あおむ
)
けに胸を
露
(
あら
)
わに足をのばしているし、清三は赤い顔をして頭を畳につけていた。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
その時には空中に音楽の音が聞えた。船頭達は舟の片隅にうずくまって、目をつむって聴くだけで、決して
仰向
(
あおむ
)
いて見るようなことをしなかった。
織成
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
部屋の真ん中には
縞
(
しま
)
の入った小猫が、可愛い足をひろげて
仰向
(
あおむ
)
きになっていた。ジナイーダはその前に膝をついて、そっと猫の顔を持ちあげていた。
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
店
(
みせ
)
にはいって
来
(
き
)
た
海蔵
(
かいぞう
)
さんは、いつものように、
駄菓子箱
(
だがしばこ
)
のならんだ
台
(
だい
)
のうしろに
仰向
(
あおむ
)
けに
寝
(
ね
)
ころがってうっかり
油菓子
(
あぶらがし
)
をひとつ
摘
(
つま
)
んでしまいました。
牛をつないだ椿の木
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
わっと男達は声をあげ、左肩から
浴
(
あび
)
せられた先刻の背の低い男が、逃げようとしてそこへ
仰向
(
あおむ
)
けに引っくり返った。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
そうして入口の材木を枕にして、二人ながら
仰向
(
あおむ
)
けに寝たそうである。それを見るとくらくらとして、前後の考えもなく二人の首を打ち落してしまった。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
少年
(
しょうねん
)
は、
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の、
不公平
(
ふこうへい
)
や、
不平等
(
ふびょうどう
)
が、つぎつぎにうずまき、
頭
(
あたま
)
がつかれたので、やわらかな
草
(
くさ
)
の
上
(
うえ
)
へ、
仰向
(
あおむ
)
けになってねころび、
目
(
め
)
をふさぎました。
太陽と星の下
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
と云う女の声に
恟
(
びっく
)
り致して、市四郎が
仰向
(
あおむ
)
いて見ますと、崖の上からバラ/″\/″\と
櫛
(
くし
)
笄
(
こうがい
)
が落ちて来ました。
霧陰伊香保湯煙
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
と、彼女は診察用ベッドに相も変わらず
仰向
(
あおむ
)
きになったまま、わたしの顔を
孔
(
あな
)
の空くほど見つめて申しました。
メデューサの首
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
仰向
(
あおむ
)
きにおしつぶされた緑さんは、苦し
相
(
そう
)
なうめき声を立てて、お花のお尻の下で藻がいた。酔っぱらったお花は、緑さんの頭の上で馬乗りの真似をした。
踊る一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
米は
仰向
(
あおむ
)
きになった叔父の膝の上へ寝そべってそういった、そして叔父の鼻の
孔
(
あな
)
は
何
(
な
)
ぜ黒いのだろうと考えた。
火
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
で、妹に帽子を
脱
(
ぬ
)
がせて、それを砂の上に
仰向
(
あおむ
)
けにおいて、
衣物
(
きもの
)
やタオルをその中に丸めこむと私たち三人は手をつなぎ合せて水の中にはいってゆきました。
溺れかけた兄妹
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
おじいさんの
膝頭
(
ひざがしら
)
に頭のうしろをもたせかけ、
仰向
(
あおむ
)
けにさせられると、その腐ったような顔とむきあった。おじいさんはやっとこみたいなものをもっている。
旧聞日本橋:17 牢屋の原
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
彼は線路に付いて三間ばかり
往
(
い
)
って、東の方のレールを枕に
仰向
(
あおむ
)
けになって次の汽車の来るのを今か今かと待ちつつ、雲間を漏れる星の光りを見詰めていた。
愛か
(新字新仮名)
/
李光洙
(著)
「何だと?」と祖母はいきなり、その
疳癪玉
(
かんしゃくだま
)
を破裂させた。そして私の
胸倉
(
むなぐら
)
を捉えて小突きまわした。不意を
喰
(
く
)
った私は
縁側
(
えんがわ
)
から地べたへ
仰向
(
あおむ
)
けざまに落ちた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
達二は、
仰向
(
あおむ
)
けになって空を見ました。空がまっ白に光って、ぐるぐる廻り、そのこちらを
薄
(
うす
)
い
鼠色
(
ねずみいろ
)
の雲が、
速
(
はや
)
く速く走っています。そしてカンカン鳴っています。
種山ヶ原
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
小舎
(
こや
)
にはいって行くと、兎どもは、
腕白小僧式
(
わんぱくこぞうしき
)
に、耳の帽子を深くかぶり、鼻を
仰向
(
あおむ
)
け、太鼓でも
叩
(
たた
)
くように前足を突き出し、がさがさ彼のまわりにたかって来る。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
が、そのただの水が、どうしてこの部屋のこの靴の片っぽにこんなにあふれんばかりに存在することになったのか?——私は、反射的に
仰向
(
あおむ
)
いて真上の天井を見た。
踊る地平線:02 テムズに聴く
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
それと同時に、
玉屋
(
たまや
)
鍵屋
(
かぎや
)
の声々がどっと起る。大河ぶちの
桟敷
(
さじき
)
を一ぱいに埋めた見物客がその顔を空へ
仰向
(
あおむ
)
ける。顔の輪廓が
暫
(
しばら
)
くのあいだくっきりと照らし出される。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
お居間の床柱の前に
仰向
(
あおむ
)
きに倒れたままこと切れていられる旦那様をみつけたからでございます。
幽霊妻
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
お鶴も
仰向
(
あおむ
)
けになってまだ泣いていたが、次郎の泣き声を聞くと、一層大きな声を出して泣いた。そしてそれから二人はせり合うように、代る代る泣き声をはり上げた。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
竜之助は短刀を奪い取って身を起すと共に、はったと
蹴倒
(
けたお
)
すと、お浜は向うの
行燈
(
あんどん
)
に
仰向
(
あおむ
)
けに倒れかかって、行燈が倒れると
火皿
(
ひざら
)
は
破
(
こわ
)
れてメラメラと紙に燃え移ります。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そうして棒のように
強直
(
ごうちょく
)
した全身に、生汗をビッショリと流したまま
仰向
(
あおむ
)
け
様
(
ざま
)
にスト——ンと、倒れそうになったので、吾知らず観念の眼を閉じた……と思ったが……又
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
身には、
蝙蝠
(
こうもり
)
の羽を拡げたやうなアビトといふ物を着け、御前に進んで礼をする。その礼式は、足指を
揃
(
そろ
)
へて向うへ差出し、両手を組んで胸に当て、頭をずいと
仰向
(
あおむ
)
くる。
ハビアン説法
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
仰向
(
あおむ
)
けになって、バットの銀紙で台付コップを
拵
(
こし
)
らえていた石川が、彼を見ると頭をあげた。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
おや
輿
(
こし
)
が舁ぎ出されたよ。……輿の中に女がいるよ。おや
仰向
(
あおむ
)
けに眠っている。美麻奈さんに似ているよ。だが顔が解らない。輿が玄関へ舁ぎ出された。獣人達が
囲繞
(
とりま
)
いた。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
まぎらしに
仰向
(
あおむ
)
けに倒れ、両手をうしろに組んだまま、その上にあたまをのせ、吉弥が机の上でいたずらをしている横がおを見ると、色は黒いが、鼻柱が高く、目も口も大きい。
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
雪か
霙
(
みぞれ
)
か雨か、冷たいものに顔を撲たれながら、彼は暗い屋敷町をたどってゆくうちに、濡れた路に
雪踏
(
せった
)
を踏みすべらして
仰向
(
あおむ
)
きに尻餅を搗いた。そのはずみに提灯の火は消えた。
半七捕物帳:27 化け銀杏
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
しかし、そうなるともちろん、眠っているふうをよそおうことは無意味なので、彼は
仰向
(
あおむ
)
けの姿勢へもどった。農夫たちがびくびくしながら身体をよせ、話し合っているのが見えた。
城
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
仰向
(
あおむ
)
けに、天井板を見つめながら、ヒクヒクと、うずく痛みを、ジッと
堪
(
こら
)
えた。
眼
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
仰
常用漢字
中学
部首:⼈
6画
向
常用漢字
小3
部首:⼝
6画
“仰向”で始まる語句
仰向反
仰向様