仙人せんにん)” の例文
融通のきかないのをいいことにして仙人せんにんぶってるおまえたちとは少し違うんだから。……ところで九頭竜が大部頭を縦にかしげ始めた。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうしてこんな人にわずかな思索力、ないしはわずかな信心があれば、すなわち行者ぎょうじゃであり、或いは仙人せんにんであり得るかと思われる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かれは、仙人せんにんか、幻術師げんじゅつしか、キリシタンの魔法を使う者か? はじめて会った小文治は、いつまでも、奇怪ななぞをとくことに苦しんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仙人せんにん張三丰ちょうさんぼうもとめんとすというをそのとすといえども、山谷さんこくに仙をもとめしむるが如き、永楽帝の聰明そうめい勇決にしてあに真にそのことあらんや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
境は、その女中にれない手つきの、それもうれしい……しゃくをしてもらいながら、熊に乗って、仙人せんにん御馳走ごちそうになるように、慇懃いんぎんに礼を言った。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「もし仙人せんにんがわたしをおしどりにしてこのいずみの上にはなったならばお前はどうするつもりか。」と若者わかものは池のおもてからをはなさないでいった。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
女偊じょう氏は一見きわめて平凡な仙人せんにんで、むしろ迂愚うぐとさえ見えた。悟浄が来ても別にかれを使うでもなく、教えるでもなかった。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
十万坪の別荘を市の東西南北に建てたから天下の学者をへこましたと思うのは凌雲閣りょううんかくを作ったから仙人せんにんが恐れ入ったろうと考えるようなものだ……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仙人せんにんの遊戯を見ているうちにおのの木の柄が朽ちた話と同じような恍惚こうこつ状態になって女房たちは長い時間水上にいた。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あの天狗てんぐの落とし子のような彼のおいたちがすでに仙人せんにんらしい飄逸味ひょういつみに富んでいるが、茶に沸かす川の水の清さをおけの中から味わい分けた物語のごとき
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
北上きたかみ川の西岸でした。東の仙人せんにん峠から、遠野を通り土沢を過ぎ、北上山地を横截よこぎって来る冷たいさるいし川の、北上川への落合から、少し下流の西岸でした。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
が、僕の伝へたいのは先生の剣道のことばかりではない。先生は又食物を減じ、仙人せんにんに成る道も修行してゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
中国ではこの草が海辺を好んでよく育つというので、それで水仙と名づけたのである。仙は仙人せんにんの仙で、この草を俗を脱している仙人せんにんなぞらえたものでもあろうか。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
わたくしはまだ仙人せんにんというものをよくぞんじませぬが、本当ほんとう仙人せんにんがあるとしたら、それはわたくし指導役しどうやくのおじいさんのようなかたではなかろうかとかんがえるのでございます。
なんのことはねえ、久米くめ仙人せんにんがせんたく娘の白いはぎを見て、つい雲を踏みはずしたというやつよ。
巨人の掌上でもだえる佳姫かきや、徳利から出て来る仙人せんにんの映画などはかくして得られるのである。
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
恐ろしい荒行をする猛勇な人や、夜の目も惜しんで研究する人や、また仙人せんにんのように清く身を保つ人やさまざまな人がいた。私もその人々のするような事をおくれずにした。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
くれてよこした。田舎いなかへ行ったら読んでごらんなさいと言って僕にくれてよこした。何かと思ったら、『扶桑陰逸伝ふそういんいつでん』サ。の本でもくれればいいのに、こんな仙人せんにんの本サ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ういふふうところからラクダルの怠惰屋なまけや國内こくない一般いつぱん評判ひやうばんものとなり、人々ひと/″\何時いつしかこのをとこ仙人せんにん一人ひとりにしてしまひ、女はこの庄園しやうゑんそばとほる時など被面衣かつぎの下でコソ/\とうはさしてゆく
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ならしても知らんぷりだ。ぼくは仙人せんにんじゃないぞ。めしもくわずに生きていられるか
だが、それは決して久米の仙人せんにんが、神通力を失って、下界へ墜落した、というようなものではないのです。それは転落ではなくて、随順です。墜落ではなくて、やむにやまれぬ菩薩の大悲です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
わし仙人せんにんぢや。お前に用事があつて来たのぢや。」
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
「わしは仙人せんにんじゃ」とおじいさんは答えました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あれ、摺拔すりぬけようともがきますときとびらけて、醫師いしやかほしました。なにをじたばたする、のお仙人せんにんきさまくのだ、と睨付にらみつけてまをすのです。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時汽笛が鳴って汽車はちました。私は行手の青く光ってゐる仙人せんにんの峡をながめ、それからふと空を見て、思はず、こいつはひどい、と、つぶやきました。
化物丁場 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
こんな長閑気のんき仙人せんにんじみた閑遊かんゆうの間にも、危険は伏在ふくざいしているものかと、今更ながら呆れざるを得なかった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
祖父である入道が現在では人間離れのした仙人せんにんのような生活をしているということも若い心には悲しかった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
いかなる名馬で地を飛ぶよりも、こうして空中を自由に飛行する快味は、まるでじぶんがじぶんでなく、生きながら、神か仙人せんにんになったような愉快ゆかいさである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤山の住侶じゅうりょはいずれも仙人せんにんで、おのおの『雲笈七籖うんきゅうしちせん』にでもあるような高尚な漢名を持っていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分の知った範囲内でも、人からは仙人せんにんのように思われる学者で思いがけない銀座の漫歩を楽しむ人が少なくないらしい。考えてみるとこのほうがあたりまえのような気がする。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「番頭さん。私は仙人せんにんになりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二人ふたりかすみを食って生きる仙人せんにんのようにしては生きていられないのだ。職業を失った倉地には、口にこそ出さないが、この問題は遠からず大きな問題として胸に忍ばせてあるのに違いない。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その男の説によると、ももは果物のうちでいちばん仙人せんにんめいている。なんだか馬鹿ばかみたような味がする。第一核子たね恰好かっこうが無器用だ。かつ穴だらけでたいへんおもしろくできあがっていると言う。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あれは仙人せんにんです。」
二老人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
久米くめ仙人せんにんがまた雲を
部屋へや欄干らんかんたまかとおも晃々きら/\かゞやきまして、あやしいお星樣ほしさまなか投込なげこまれたのかとおもひましたの。仙人せんにんえません。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は、西の仙人せんにん鉱山に、小さな用事がありましたので、黒沢尻くろさはじりで、軽便鉄道に乗りかへました。
化物丁場 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし、だんだんとひざをまじえて話しているうちに、ようやくそれがわかってきた、かれは仙人せんにんでもなければ、けっして幻術使げんじゅつつかいでもない。ただおそろしい修養の力である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気をめいらせて泣いている時のほうが多い末摘花の顔は、一つの木の実だけを大事に顔に当てて持っている仙人せんにんとも言ってよい奇怪な物に見えて、異性の興味をく価値などはない。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、まだ今のやうに女にれたり、金が欲しかつたりしてゐる内は、到底たうてい思ひ切つた真似は出来さうもないな。もつと仙人せんにんと云ふ中には、祝鶏翁しゆくけいをうのやうな蓄産家や郭璞くわくぼくのやうな漁色家ぎよしよくかがある。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
徹底した運命論者ですよ。酒をのんで運命論を吐くんです。まるで仙人せんにんですよ
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
シナの仙人せんにんの持っていた杖は道術にも使われたであろうが、山歩きに必要な金剛杖こんごうづえの役にも立ったであろう。羊飼いは子供でも長い杖を持っているが、あれはなんの用にたつものか自分は知らない。
ステッキ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なまの貝をもらって、石の上で砕いて食ったといって、人は戯れにこれをアサリ仙人せんにんと呼んでいた。何処に住む者とも知れず、七日も十日も連日くるかと思えば、二月も三月も絶えてこぬこともあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしは、わたしころされるんでございませうか、ときながらまをしますとね、年上としうへかたが、いゝえ、お仙人せんにんのおとぎをしますばかりです、それは仕方しかたがござんせん。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仙人せんにんのように雲やかすみを召し上がって生きて行くことはできるでございましょうか
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そこでみんなは将軍さまは、もう仙人せんにんになつたと云つて、ス山の山のいたゞきへ小さなお堂をこしらへて、あの白馬しろうまは神馬に祭り、あかしや粟をさゝげたり、麻ののぼりをたてたりした。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
部屋には小ざっぱりと身じたくをした女中じょちゅうが来て寝床をあげていた。一けん半の大床おおとこに飾られた大花活はないけには、菊の花が一抱ひとかかえ分もいけられていて、空気が動くたびごとに仙人せんにんじみた香を漂わした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
にべもなく、一喝いつかつをしたかとおもふと、仙人せんにんどのとおぼしき姿すがたまどからんでくもなかやまのぼらせたまひけり。
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
下草はみじかくて奇麗きれいでまるで仙人せんにんたちがでもうつ処のように見えました。
虔十公園林 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おのの柄を新しくなさらなければ(仙人せんにんの碁を見物している間に、時がたって気がついてみるとその樵夫きこりの持っていた斧の柄は朽ちていたという話)ならないほどの時間はさぞ待ち遠いことでしょう」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)