)” の例文
「まことに申しわけもございません、なんとおび申上げてよいやら、わたくし、こうしておりますのもお恥ずかしゅうございます」
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あたしにおびになることなんかいりませんけど、それで気がすむのでしたら、どうぞ、なさりたいようになすって、ちょうだい」
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
びるとか、人に円満な解決を頼むとか、弥縫びほうの方法を持ちうる人もあるが、父のは、やってしまうと、自身では内心悔いていても
と、茶碗が、また、赤絵だったので、思わず失言をびつつ、準藤原女史に介添してお掛け申す……羽織を取入れたが、窓あかりに
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
数馬は突然わたくしに先刻の無礼をびました。しかし先刻の無礼と申すのは一体何のことなのか、とんとわからぬのでございまする。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それこそ誠意おもてにあらわれるていび方をしたに違いないが、しかし、それにしても、之等の美談は、私のモラルと反撥する。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし松山さん、先方から改めてびて来た場合には、貴郎あなたの方でも綺麗きれいさつぱりと秋子さんを円満に青木家に渡して下さるのでせうね
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
心ここにあらざれば如何いかなる美味ものんどくだらず、今や捕吏ほりの来らんか、今や爆発のひびき聞えんと、三十分がほどを千日せんにちとも待ちびつ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そのうえ、自分の失礼をび、彼の言葉に耳傾けてるふうをしていた。しかしちょっと彼の言葉をさえぎっては母に何か尋ねたりした。
村を騒がせて済まなかったといえば済まなかったに違えねえんだから、その点はおいらだってびをしろと言えばしねえとは言わねえよ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
コイツ失敗しまったと、直ぐびに君のもとへ出掛けると今度は君が留守でボンヤリ帰ったようなわけさ。イヤ失敬した、失敬した……
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
内には言ひ争ふごとき声聞えしが、又静になりて戸は再び明きぬ。さきの老媼は慇懃いんぎんにおのが無礼の振舞せしをびて、余を迎へ入れつ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
またここへ舞い戻って来てしばらく厄介やっかいをかけることのさぞ迷惑であろうということを繰り返してびて、女には、私には少しも構わず
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
知らなかったものだからとびながら、——(今まで、ここで彼女が飲んでいるのを見たことがなかった。)急いで盃をした。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
雪子さんの保護を依頼されながらこのような結果となったおび心に、二人は親戚旧知に混って、火葬場まで見送りをするつもりなのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
民子は雨が降ってから気がついたけれど、もう間に合わない。うちへ帰って早速母にびたけれど母は平日の事が胸にあるから
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
筒井はしとやかにこれ以上たずねてくれるなという、柔らかい印象をあたえた。父という人は自らの無躾ぶしつけびるように、やさしくいった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼は弟の手をって過去の辛酸を語ろうともしなければ、留守中何程どれほどの迷惑を掛けたろうと、深くその事をびるでもなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わけを話してびを入れ暫時ざんじ待ってもらおうと、来にくいところを、今夜思いきって化物やしきの裏をたたいたのだったが——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの私が茄子なすを折って叱られているとき——小母おばさん、すみません——とびてくれた、あたたかい心が四十二歳になってもまだ忘れられない。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
一目に教育のあることの知れる婦人が出て、あいにく逢えないことをび、明日の時間のことについて、二言三言丁寧な挨拶あいさつがかわされた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「御客人の御都合はともあれ、折角十枚揃いましたる大切の御道具を一枚欠きましたる菊めの罪科、わたくしも共々におび申上げまする」
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「えい、白痴ばかめが、とく参って、鄭重ていちょうごと致した上、御嶽冠者殿参った時のみ使用致す『鳳凰ほうおうの間』へ謹しんでお移し申すがよいわ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勧めて無理な勉強をさして、此様こんな事になってしまって、まことにみません、とぶる外に彼等はなぐさめの言を知らなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「親分——銭形の親分さん、逃げも隠れもいたしません。しばらく待って下さい。せめて三十年の不孝を、親父にしみじみとびて参ります」
「これから精々気をつけますから……。」とふるえ声でびるのであるが、そのことばには自信も決心もなかった。ただ恐怖があるばかりであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あれに代わっておび申しますよ、神聖なる長老様! (この『神聖なる長老様』でアリョーシャは、思わずぎくりとした)
転がりまわりつつ、どんなに大きな声をあげて泣き崩れたか……心ゆくまで泣いてはび、あやまっては慟哭どうこくしたか……。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしは喜んで君のび言葉を受入れます。と同時に、こちらからも厚くお詫びを申述べたい。ではご機嫌よう! (ワーニャに三度接吻せっぷんする)
すると安斉先生は涙をホロホロこぼして、『この上はつぎの間へさがって大殿様におびを申しあげます』といったそうだ
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「わたし、これから房枝さんのお墓へお参りに行って、通じないまでもおびを申してまいりたいと存じますから……」
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
左樣さうないてくれてはこまる、おたみどのもおなじやうになんことぞ、もうはれぬとふでもなきに心細こヽろぼそこといひたまふな、そのさまなにびらるヽことはなし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼の妻は何事かと縁側へ出て来たが、この様子を見ると彼の女は、暗のなかの通行人に向つてしきりにびて居た。彼にはそれが又腹立たしかつた。
一首は、鴨山のいわおを枕として死んで居る吾をも知らずに、吾が妻は吾の帰るのを待ちびていることであろう、まことに悲しい、という意である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
不思議なことには、残菊物語で御存じの菊之助がびがかなって大阪から戻って来たのも、やはり二十九年であった。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
子供らがさけんでばらばら走って来て童子にびたりなぐさめたりいたしました。る子は前掛まえかけの衣嚢かくしからした無花果いちじくを出してろうといたしました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「寄ればよかったのに。お前、またなぜ黙って行くのさ。おかしな子だよ。お糸さんに御心配かけたよ。すみませんでしたっておびをしなさい。」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
正直者しょうじきもの香織かおりは、なみだながらに、臨終りんじゅうさいして、自分じぶん心懸こころがけわるかったことをさんざんびるのでした。しばらくして彼女かのじょ言葉ことばをつづけました。——
過ぎた事は何ともならぬ、これから古法通りにしましょうとび入りて、厩に赤銅板をき太子に蓋、王の長女に払子、大夫人に食物を奉ぜしめると
と、この紳士は、少し飜訳ほんやく口調のきらいあるとはいえ、先ずそんなに間違いのない日本語で梶にびてから、ヨハンというハンガリヤ名の名刺を出した。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「ええ全く妙なのですが、先生があまり真面目だものですから、つい気がつきませんでした」とあたかも主人に向って麁忽そこつびているように見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしは此の許され難い罪のびをしたいと心ではそう思いながら、そうする事の出来ない事情を悲しんでいる。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すっかり当て込んでいたのであったが、塚本としてもせめて慰めの言葉ぐらい、でなければ無沙汰ぶさたびぐらい、云わなければならないはずなのである。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
板の間のことをその場で指摘してきされると、何ともいい訳けのない困り方でいきなり平身低頭してびを入れ、ほうほうのていげ帰った借金取があったと
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
兄が無事帰ったという知らせで、自殺する筈の男が海水浴に行っていたということを余程の悪徳と考えたらしく、兄に代って弁解とびが連ねてあった。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
このことと俊雄ようやく夢めて父へび入り元のわが家へ立ち帰れば喜びこそすれ気振けぶりにもうらまぬ母の慈愛厚く門際もんぎわに寝ていたまぐれ犬までが尾を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
しかし、そんなことをすれば、アンの軽蔑けいべつをうけるばかりで、何のえきにもならないと思ったので、それはやめることにして、ただ心の中で、アンにびた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その罪はいくらおびしても許されませぬほど大きいと思います。先生、どうか弱いものと思っておあわれみ下さい。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして何んという事もなしに少し涙ぐんだ。「だから、私はあした帰るわ。療養所の人達にもそう云っておびをして置くわ。それなら好いでしょう。」
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今迄いままでは、元気であった父も、折々は嗟嘆さたんの声を出すようになった。夕方の食事が済んで、父娘おやこが向い合っている時などに、父は娘にびるようにった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)