くん)” の例文
たつと共に手を携え肩をならべ優々と雲の上にゆきあとには白薔薇ホワイトローズにおいくんじて吉兵衛きちべえを初め一村の老幼芽出度めでたしとさゞめく声は天鼓を撃つごと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
露時雨つゆしぐれ夜ごとにしげくなり行くほどに落葉朽ち腐るる植込うえごみのかげよりは絶えず土のくんじて、鶺鴒せきれい四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすなぞ小鳥の声は春にもましてにぎわし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それがはずみとなって思索から思索へと累進るいしんするときに、層々の闇の中にときどき神秘なうす明りが待受けていて何か異香らしいものさえ鼻にくんじた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ほんのりと掛香かけこうくんじました。どうかしたらそれは、世にも稀なる、あで人の肌の匂いだったかも知れません。
し彼に咫尺するの栄を得ば、ただにその目の類無たぐひなたのしまさるるのみならで、その鼻までも菫花ヴァイオレットの多くぐべからざる異香いきようくんぜらるるのさいはひを受くべきなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
多くの同朋衆は、手分けして、各詰所の小部屋で、一筅いっせんをそそぎ、茶をけんじ、香をくんじて、ねぎらいをたすけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伽羅きゃらかおりくんずるなかに、この身体からだ一ツはさまれて、歩行あるくにあらず立停たちどまるといふにもあらで、押され押され市中まちなかをいきつくたびに一歩づつ式場近く進み候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くこの私徳を発達せしむるその原因は、家族の起源たる夫婦の間にくんずる親愛恭敬の美にあらざるはなし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あまつさ何方いずかたにて召されしものか、御酒気あたりをくんじ払ひて、そのおそろしさ、身うちわなゝくばかりに侍り。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
君子の音は温柔おんじゅうにしてちゅうにおり、生育の気を養うものでなければならぬ。昔しゅん五絃琴ごげんきんだんじて南風の詩を作った。南風のくんずるやもって我が民のいかりを解くべし。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
掛け軸の前の香盆こうぼんに染め付けの火入れが置いてあるので、始めてそれと気がついたのだが、さっきからかすかに香っているのは大方あれに「梅が香」がくんじてあるのであろう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
如意輪堂の扉にあずさ弓の歌を書きのこした楠正行まさつらは、年わずかに二十二歳で戦死した。しのびの緒をたち、兜に名香をくんじた木村重成しげなりもまた、わずかに二十四歳で戦死した。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
夕方えん籐椅子とういすに腰かけて、静に夕景色を味う。かりあと青い芝生も、庭中の花と云う花もかげに入り、月下香の香が高く一庭にくんずる。金の鎌の様な月が、時々雲に入ったり出たり。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
隊長は、神代直人くましろなおと、副長格は小久保くん、それに市原小次郎、富田金丸かなまる、石井利惣太りそうたなぞといういずれも人を斬ることよりほかに能のないといったような、いのち知らずばかりだった。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
洋々たる奏楽の音起ると共に、外相は有栖川宮妃殿下を扶け、有栖川宮殿下はエリサベツト夫人と相挈あひたづさへ、其の他やんごとなき方々香水のかをりを四方にくんじつゝ、舞踏室に入りたまひぬ。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
虚空こくうに花降り音楽きこえ、霊香れいきょう四方よもくんずる、これぞ現世極楽の一大顕出エピファニイ
享保十年夏五月、青葉くんずる一夜の出来事、もって物語りの二段とする。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
良人おっと沼南と同伴でない時はイツデモ小間使こまづかいをおともにつれていたが、その頃流行した前髪まえがみを切って前額ひたいらした束髪そくはつで、嬌態しなを作って桃色の小さいハンケチをり揮り香水のにおいを四辺あたりくんじていた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その気烈にして鼻をき、眼をくんずるに困ると申されたりと。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
めづらしや、人間のを引いて、にほひはげしき空焚そらだきくんじたる
ふるき城は立てりしづかに山上のわか葉そよぎのくんずる雨に
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あへげば、紅火こうくわ煩悩ぼんなう』の血彩ちいろくんずる眩暈くるめきよ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
或は山羊やぎと小羊のくんずるにほひ納受して
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
の葉ささやき苔くんじ、われも和毛にこげ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
んじてくんずる香裏こうりに君の
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くんずれば
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ほんのりと掛香がくんじました。どうかしたらそれは、世にも稀なる、あで人の肌の匂ひだつたかも知れません。
発した——つ——の大声に一瞬、せきとし——また仏音楽の奏せられるあいだに、蓮華降り、香木くんじ、会者はめぐり巡りつつ、順次、焼香をささげていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな時は、寝白粉ねおしろいの香も薫る、それはた異香くんずるがごとく、患者は御来迎、ととなえて随喜渇仰。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
某国産の銘葉めいようを得て、わずかに一、二管を試みたる後には、以前のものはこれを吸うべからざるのみならず、かたわらにこれをくんずる者あれば、その臭気をぐにも堪えず。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
隣に養へる薔薇ばらはげしくんじて、と座にる風の、この読尽よみつくされし長きふみの上に落つると見れば、紙は冉々せんせんと舞延びて貫一の身をめぐり、なほをどらんとするを、彼はしづかに敷据ゑて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
雲雀のほかに第三世の天鼓を飼っていたのが春琴の死後も生きていたが佐助は長く悲しみを忘れず天鼓の啼く音を聞くごとに泣きひまがあれば仏前にこうくんじてある時は琴をある時は三絃を取り春鶯囀を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
戀のしたたりくんずるをや。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
絹には「時」のくんずれど
ソネット (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
茂與もよは斯う言つて眉を落すのです。顏がくもると一入ひとしほ美しさが引立つて、不思議な魅力が四方にくんじます。
衣香いこうあたりをはらい、四方よもくんじ、箇々の御粧おんよそおい、御儀の結構、華やかなこというばかりもなく、筆にもことばにも述べ難し——とはその日の有様を書いている当時の筆者の嘆声であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱燗あつがんの酒は烈々れつれつくんじて、お静がふるふ手元より狭山が顫ふ湯呑に注がれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
麥のもあたりにくん
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
嬌瞋けうしんを發した顏が近々とくんじて、八五郎は思はず手を擧げて自分の額に迫るあやかしを拂ひ退けたほどです。
呉用は、香炉台こうろだいを借り、こうくんじ、おもむろに算木さんぎつくえにならべ始めた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さびの露しみらにくん
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
青葉の風が衣袂いべいくんじて、十三夜の月も泣いてゐるやうな大川端、道がこのまゝあの世とやらに通じてゐるものなら、思ひ合つた二人は、何んのためらひもなく
陽炎かげらふが立つほど着物をひろげて、つくろひに餘念もないお靜は、ツイ陽にくんじた顏をポーツと染めます。
薄寒い二月の夜、月が町家ちょうかの屋根の上から出かかって、四方あたり金粉きんぷんいたような光がくんじます。
平次の止めるのは耳にもかけず、くんずるやうな春の夜のおぼろを縫つて、曲者も八五郎も飛びました。
薄寒い二月の夜、月が町家の屋根の上から出かゝつて、四方は金粉きんぷんを撒いたやうな光がくんじます。
昨夜ゆうべは折からの月夜、ツイ障子を開けて月下にくんずる夜の匂ひを樂しんでゐるところへ、娘のお信が、お茶を汲んで入つて來たのが、酉刻半むつはん(七時)——まだほんの宵のうちでした。
顔がくもると一入ひとしお美しさが引立って、不思議な魅力が四方にくんじます。