薙刀なぎなた)” の例文
小太刀、弓、薙刀なぎなたなども達者だし、殊に馬にはひじょうに堪能で、しばしば独りで遠く城下外まで乗りまわすという評判が高かった。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「默つて居ろ。——人の物を盜らうといふ太い量見の野郎だ。薙刀なぎなただつて鐵砲だつて、次第によつては持込むかも知れないぢやないか」
それは小さい薙刀なぎなたの形をした薄ッペラなもので、普通の外科には必要の無い、屍体解剖用の円刃刀えんじんとうと称する、一番大きいメスであった。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その様子じゃ——調ったとして婚礼の時は、薙刀なぎなたの先払い、新夫人はにしきの帯に守刀というんだね。夢にでも見たいよ、そんなのを。……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岡見が学校で受持つ武道科の噂につづいて、薙刀なぎなたの稽古にまで熱心な性質をあらわすという磯子の噂が榊とその学生との間に出た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
陸は遠州流の活花いけばなをも学んだ。象棋しょうぎをも母五百いおに学んだ。五百の碁は二段であった。五百はかつて薙刀なぎなたをさえ陸に教えたことがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
秀吉は九州島津氏の猛将鬼武蔵(新納武蔵守忠元にひろむさしのかみたゞもと)との初対面で、主家のため最後まで戦つた忠節を褒め、当座の賞として薙刀なぎなたを与へた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
竹刀しない、木刀、槍、薙刀なぎなた、面、胴、籠手の道具類が、棚に整然と置かれてあり、左の板壁には段位を分けた、漆塗りの名札がかけてあった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木工助の危惧きぐを、なだめるためか、薙刀なぎなたも預け、馬も用いず、かれはわざと徒歩で行った。もっとも、すぐそこといえる距離ではあるが。
十四、五に見える美しい妓が赤いけばけばした模様の着物を着て出て来て、扇を持って舞ったり、薙刀なぎなたをもって踊ったりした。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
もっとも昔と違って今日は開明の時節であるからやり薙刀なぎなたもしくは飛道具のたぐいを用いるような卑怯ひきょうな振舞をしてはなりません。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤顔あかがしらを除き、半臂はっぴぬぎ捨て、侍女の薙刀なぎなたを奪ひ、大口おおくち穿きしまま小脇にかいこみたる形は、四天王但馬の妻と見えたり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
そこから廻り縁になって、別の一室にも、槍、薙刀なぎなた、鉄砲などが「なげし」にかけられて、山東京伝さんとうきょうでん草艸紙くさぞうし興味を味わせるのに十分であった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
が、実はこれが大向うで、シテが薙刀なぎなたでも使ふと喜んで盛んに拍手したり声をかけたりする。なかには場末の小芝居のみたいな無遠慮なのもある。
能の見はじめ (新字旧仮名) / 中勘助(著)
ここでわれわれは身を投げるか、弁慶の薙刀なぎなたさびとなるか、夜鷹に食われるか、それともまた鍋焼うどんに腹をこしらえて行手の旅を急ぐかである。
乱世の常とて大抵の者が武芸を収める常習ならわしになっているので忍藻も自然太刀や薙刀なぎなたのことに手を出して来ると、従って挙動も幾分か雄々しくなった。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
陸尺ろくしゃく四人も立ちすくんだ。手代り四人も茫然とした。持槍、薙刀なぎなた、台笠、立傘、挟箱、用長持ようながもち、引馬までが動揺して、混乱せずにはいられなかった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
おまけに、長押なげしには槍、棒、薙刀なぎなたのような古兵具ふるつわものたてを並べ、玄関には三太夫のような刀架かたなかけ残塁ざんるいを守って、登楼の客を睥睨へいげいしようというものです。
その矢が背中に刺さりましたので、ぐっと振り向くとその矢を抜きとって、薙刀なぎなたをとるとしばらくの間戦いました。
わが過去の物語は寺院の僧徒にさへ兵器を携へさせた時代のあつた事を教へてゐる。彼等はかねを打ち木魚を叩くよりも薙刀なぎなたを持つことを名誉となした。
冬日の窓 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
平右衛門は手早くなげしから薙刀なぎなたをおろし、さやを払い物凄ものすごい抜身をふり廻しましたので一人のお客さまはあぶなく赤いはなを切られようとしました。
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そしてあの小径こみちこの谷陰と、姫をさらう手立をさまざまに考えた。どういう積りかは知らぬが、仰山ぎょうさん薙刀なぎなたまでも抱えておった。いや飛んだ僧兵だわい。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「そんなんじゃないのよ。」さちよは、暗闇の中で、とてもやさしく微笑ほほえんだ。「あたし、巴御前ともえごぜんじゃない。薙刀なぎなたもって奮戦するなんて、いやなこった。」
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
まづ冷酷れいこくに批評すると、本来剃刀かみそりるべきひげを、薙刀なぎなたで剃つて見せたと云ふ御手柄おてがらに感服するだけである。
西洋画のやうな日本画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
氏郷の家来達は勿論甲冑かっちゅうで、やり薙刀なぎなた、弓、鉄砲、昨日に変ること無く犇々ひしひしと身を固めて主人に前駆後衛した事であろう。やがて前野に着く。政宗方は迎える。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
武芸ぶげいおも薙刀なぎなた稽古けいこははがよく薙刀なぎなた使つかいましたので、わたくし小供こども時分じぶんからそれを仕込しこまれました。そのころおんなでも武芸ぶげいとおりは稽古けいこしたものでございます。
団十郎の知盛とももりが能衣裳のような姿で薙刀なぎなたを持って揚幕から花道にあらわれ、きっと舞台を見込んで、また引返して揚幕へはいって、再びするするとあらわれて来る。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
直ちに腰元共が、一と組は則重を介抱し、一と組は薙刀なぎなたを持って庭へ駈け出したのは云う迄もない。
主水の率いる三百余人は、倉兼川くらかねがわを越えると直ぐ、橋を焼き落して日光街道を、蘆野原あしのはらの関所を押して通り、二股山ふたまたやまやり薙刀なぎなた鉄砲を棄てて関東へ向って行ってしまった。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
銀紙張りの薙刀なぎなたをこわきにかい込みながら、山車の欄干を五条橋に見たてて、息をころしころし忍びよると、髪は稚児輪ちごわにまゆ墨も美しく、若衆姿のあでやかな牛若丸が
そこの番人をしておる水戸の藩士の娘で薙刀なぎなたの上手なという尼子あまこ敏子さんに聞いて見る。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
おどけ好きの金五郎は、武蔵坊弁慶の恰好をつくり、大小刀を二本、薙刀なぎなた、高い一本歯の足駄をはいている。その外は、子供も、大人も、白と黒、横縞の揃いの衣裳、白の鉢巻。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
いまでは二十歳になる新之丞しんのじょうという息子とたった二人っきり……その新之丞は御殿の出仕からまだもどらず、長押なげしに槍や薙刀なぎなたをかざった居間に、左近将監はたったひとりっきりで
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
反対に「伊井直人」で「薙刀なぎなたの尻手」と言うべきを、槍同様に「石突き」と言ってしまった時、堂々と客席を睨め廻して、かえって客の方がまちがったかのような錯覚を与えた上
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それが芝居を見ると十二単衣ひとえを着て薙刀なぎなたを使ってみたり、花櫛はなぐしを挿して道行みちゆきをしたり、夏でもぼてぼてとした襟裾えりすそを重ねた上﨟じょうろうが出て来るが、それはまったく芝居だからである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(嘿斎翁曰、これすなはち浄行じやうぎやう神人也といへり、大夫とは俚言の称也)さて当日(正月十五日)神使本社じんしほんしやいづるその行装ぎやうさうは、先挾箱さきはさみばこ二本道具台だうぐだい笠立かさたてかさ弓二張薙刀なぎなた神使侍烏帽子さむらひえばうし素襖すあう
白衣はくえはかま股立もゝだちを取つて、五しきたすきを掛け、白鉢卷に身を固めて、薙刀なぎなたを打ち振りつゝ、をどり露拂つゆはらひをつとめるのは、小池に取つてむづかしいわざでもなく、二三日の稽古けいこで十分であつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
嫁か娘か二十三、四の美人がいて、薙刀なぎなたと鎖鎌を使う。飛入りは非番巡査や近所の若者、または他の道場の生兵法なまびょうほう連中、三番抜きに手拭一本の褒美を無二の光栄として汗だくの奮闘。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
なん落語はなし種子たねにでもなるであらうとぞんじまして、門内なか這入はいつて見ましたが、一かう汁粉店しるこやらしい結構かゝりがない、玄関正面げんくわんしやうめんには鞘形さやがたふすまたててありまして、欄間らんまにはやり薙刀なぎなたるゐかゝつ
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
奥の寝所ではさすがに上野介は達人らしく敷布団の上に正坐していたが、十六になったばかりの左兵衛は薙刀なぎなたを片手に持ったまま、おろおろした表情で部屋の前をったり来たりしている。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
薙刀なぎなたでも使って来たように白鉢巻をしている。が、それも取ろうとせず、蓑を脱いで、びしょ濡れになった袖を戸口で絞り水をきっている。雨の中の稲刈で、腹帯まで水が沁みとおったらしい。
刃のこぼれた絶大な薙刀なぎなたを懸け連ねたような大雪渓とを以てし、其間に盛夏八月尚延長一里に近い劒沢の雪渓を擁して、後立山山脈を羚羊かもしかのように縦走する登山者に讃嘆の眼をみはらしむるのである。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これはそれまでにめいめいその準備したくをしていることではあるが、持合せのないもの、または当夜に限って必要なもの、たとえば槍、薙刀なぎなた、弓矢の類を始めとして、おのかすがい玄能げんのう懸矢かけや竹梯子たけばしご細引ほそびき
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
佐竹樣御歳六十になり給ひながら薙刀なぎなた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「どうぞお供させてくださいまし。でも、歌子様は、わたくしのようなものはおきらいでございますまいか。歌子さまとおっしゃいますのは、よく旦那様がお噂なさいます、あの、薙刀なぎなた柔術やわらのおできになる方でございましたね」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
眼を閉じて、ややしばらく頭を垂れていたが、やがて立上ると、包を背にくくりつけ、長押なげし薙刀なぎなたを取下ろして玄関へ出ていった。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どての蔭から、雲のように、兵馬や薙刀なぎなたの光や、槍や太刀が、躍り越え躍り越えして、どっと、河にかかった。まるで、雨なき夕立のように。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただつらを打って巴卍ともえまんじに打ち乱れる紛泪ふんぱくの中に、かの薙刀なぎなたの刃がギラリと光って、鼻耳をそがれはしまいか。幾度立ちすくみになったやら。……
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寺沢の陣でも騒動したが、三宅藤右衛門、白柄の薙刀なぎなたを揮って三人を斬り、きずを被るも戦うのを見て諸士亦奪戦して斥けた。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中山の国分寺こくぶじの三門に、松明たいまつの火影が乱れて、大勢の人がみ入って来る。先に立ったのは、白柄しらつか薙刀なぎなた手挾たはさんだ、山椒大夫の息子三郎である。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)