また)” の例文
私は、ふと、木村重成しげなりと茶坊主の話を思い出した。それからまた神崎かんざき与五郎と馬子の話も思い出した。韓信かんしんまたくぐりさえ思い出した。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、またまでのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
すそから見えるまたの部分が目にしみるほど白い。思わず眼を外らそうとした時、女は寝ころんだまま咽喉のどを反らせて高い声で歌い出した。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ナオミはぐに寝ようとはしないで、男のようにまたを開いて枕の上にどっかと腰かけ、上から熊谷を見おろしながら云うのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冷やかされて、ナネットは、またぐらへ棒を投げつけられたように、ぎっくりとする。やるせなさに、胸をつまらせて立ちどまる。
可なり大きく延びた奴を、惜気おしげもなくまたの根から、ごしごし引いては、下へ落して行く内に、切口の白い所が目立つくらいおびただしくなった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勿論、清吉だってまだ若いのだし、木のまたから生れたのでもないから、こんな女の素惚気すのろけは決していい気持なものではないが。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっすぐなほこりっぽいあらわな古い大道の上を、またに毛皮をつけた山羊足やぎあしの牧人たちが、低い驢馬ろばや子驢馬の列を引き連れて黙々と歩いていた。
男に裸体を見せることをはずかしがらず、腕や腹やまたに墨筆で絵を書かせてキャアキャアよろこび、だからむしろ心をそそる色情は稀薄であった。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
くしなんざつてゐねえぞはあ、それよりやあ、けえつてかきのざくまたでもはうがえゝと」朋輩ほうばい一人ひとりがおつぎへいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みっともないほどのアバタづらで、アラビア人みたいに髪の毛が縮れて、猫背ねこぜで、がにまたで、肩章けんしょうのない軍服を着て、胸のボタンをはずしている。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「只の火傷ぢやありませんよ。眞夏にまた火鉢かなんかやつて、男の急所に大火傷を拵へたと聽いたら、親分だつて、それね、可笑しくなるでせう」
またのあいだにきこんで、しばり首にでもされるような様子でおずおずと歩き、しきりにヴァン・ウィンクルのかみさんを横目でうかがうのだった。
増さんは年のころ五十くらいで、背丈が低く、ひどいがにまたで、頬やあごのまわりに、いつも太い銀色の無精髭ぶしょうひげを、ブラッシのように伸ばしていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私のような世界中をまたにかけた、あばずれ者でも、生れ故郷の恋しさには変りがないんですのよ。だから、こっそりと観光団に交って来ましたのよ。
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
さらについたのは、このあたりで佳品かひんと聞く、つぐみを、何と、かしら猪口ちょくに、またをふっくり、胸を開いて、五羽、ほとんど丸焼にしてかんばしくつけてあった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等は二三人もいる癖に、残しておいた赤坊のおしめを代えようともしなかった。気持ち悪げに泣き叫ぶ赤坊のまたの下はよくぐしょれになっていた。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
韓信かんしん市井しせいあいだまたをくぐったことは、非凡の人でなければ、張飛ちょうひ長板橋ちょうばんきょう上に一人で百万の敵を退けたに比し、その勇気あるを喜ぶものはなかろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と申しますのは、この置燈籠のような身体に、一つは背の中央、一つは両またの間に光りを落しますと、それがたかと同じ形になるのではございませんか。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
テントのあかりが、かくれてしまう町かどまで来ると、新吉は両手を地べたへついてまたのぞきをして見ました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そうして何者がそんなことを言うかと思って、声の出たところをよく見ると、人のまたの間にモゴモゴしている米友でしたから、みんなプッと吹き出しました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どうも中国の人間はそうは行かんですけえ、人物が小さくって、小細工で、すぐ人のまたくぐろうとするですわい。関東から東北の人はまるで違うですがナア。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
にお寺なものか、お寺ならお師匠さまがゐて可愛がつて下さるだらうが、山の小僧は木のまたから生れたから、お父さんもお母さんもなしの一人ぽつちよ。」
大寒小寒 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
「ほんとにわたしの子だ。子どもの中でもわたしの手のまたからこぼれて落ちた子どもです。あなたアシハラシコヲの命と兄弟となつてこの國を作り堅めなさい」
そして少年をまたの間へ引きよせ、両手でその顔を押えながら、しげしげと打ち眺めた。その子の顔の中に或る面影を見出そうとして、全心全力をそこに集中した。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
Operaglass で ballet を踊る女のまたの間を覗いて、うすものに織り込んである金糸の光るのを見て、失望する紳士の事を思えば、罪のない話である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いつか行方不明になった何代目かの総督夫人レディ・カヴァナが、じっと腰を落とし、またをひろげ、ひざを張り、上半身をややうしろへ反り、両腕を伸ばして、忠実に、じつに忠実に
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
二度ほどまたをくぐらせ、股の間に挿んで座り「かうやつても居られねえ」と立上り、鮨桶すしおけに目をつけ「鮨桶へ入れて置けば、知れはしません」といひ、四つ並びし中
そう云えば、木のまたをそのまま利用した自在鍵じざいかぎもすすけて来た。炉の灰も白く積っていた。おいおいと草の小屋にも住み馴れていたのだ。それはこの家族だけではない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おばさんのはなしには、——おんばこは、不思議ふしぎくさだ、およそ、このくさはなくきは、一ぽん普通ふつうである。しかし、まれには、二ほんまたかれたくきがあるということでした。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
二青年はパッと左右に分かれて、またをひろげ、両のこぶしを握って、仁王立におうだちににらみ合った。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寄木はその神様の誘いに答えて、あいにくと今夜はサンカの者にまたを貸しているので、一しょに行きたいが立つことができない。どうかひとりで行ってきてくださいという。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何気なきていで遊戯に誘い入れ、普通本邦婦人が洗濯する体にうずくまらしめ、急に球をげると両手で受け留むる刹那せつなまたを開けば女子、股をせばむれば男子とは恐れ入ったろう。
きたれ。」と彼は叫んでその兵士のまたへ片手をかけた。兵士の体躯は、反絵の胸の上で足を跳ねながら浮き上った。と、反絵は彼の身体を倒れた草の上へ投げて大手を上げた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ジャヴェルは見物人をおしのけ、群集の輪を破り、後ろにその惨めな女を従えて、広場の一端にある警察署の方へ大またに歩き出した。女はただ機械的にされるままになっていた。
本当に己れは木のまたからでも出て来たのか、いしか親類らしい者につた事も無い
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私はほどけた帯を腹の上で結ぶと、すそまたにはさんで、キュッと後にまわして見せた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
二度落ちそうになったのをやっとまぬかれたのち、とうとう最初の大きなまたのところまでい登ってゆき、もう仕事は実質的にはすっかりすんでしまったと考えたらしかった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
それはこんな綺麗な人達ひとたちが、前のやうに、逆さまになつたら、どんなものだらうか。どんな顔をするだらうかといふことでした。よく子供はまたの間から、逆さまに世界を見るものです。
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
すなわち家康の父がまた天文十四年に、その家臣の岩松八弥はちやなる者にまたを刺され、本人の家康また関ガ原の陣において、これは別な村正でしたが、同様千子院作のやりのために指を突かれ
戦場に於て一番槍の手柄をなすのもこういう人達である。乗客の少い電車の中でも、こういう人達は五月人形のようにまたを八の字に開いて腰をかけ、取れるだけ場所を取ろうとしている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それじゃ私は先へ行っておりますで、明朝あしたはどうでも来て下さるだろうね。」母親は行李こうりを一つまたの下へはさんで、車夫が梶棒かじぼうを持ち上げたときに、咽喉のどふさがりそうな声を出して言うと
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
スピードは、またを開いたり、閉じたりするその加減によってどうでも自由になるのであった。このアカグマ国独特の歩兵部隊は、陸上では、世界において敵なしと誇っているものであった。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
善兵衛おじいさんがまたの間へ摺鉢すりばちを入れて、赤っぽい大きなお団子だんごをゴロゴロやっているので、摺鉢をおさえてやりながら、なににするのだときくと、ただニヤニヤ笑っていたが、やがて
またをすぼめて恥かし気に歩いて、処女を気取る不良少女は一人も居なかった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
見るに三ツまたつじ此方こなたに人のて居る樣子ゆゑ何心なく通りけるには其も如何に一人の旅客たびびとあけそめ切倒きりたふされて居たりしかば三人共に大いに驚きながらも一人は死人の向ふを通りぬけあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
金の剪刀はさみまたをすぼめて持っていて下さい。そしてすくいの日を知らせて下さい。
小人なんか何でもないとあなどると大間違いです。ガリバーはあべこべに小人の王様の家来にされてしまいます。それから、ハンカチの上で騎兵を走らせたり、軍隊をまたの下に行進させたりします。
外の環と内の環とが入違いに廻るので、互いに竹を打合わせる相手が順次に変って行く訳だ。時に、後向きになり片脚を上げてまたの間から背後の者の竹を打つなど、なかなか曲芸的な所も見せる。
傷ついて両手を包んだ人の脈をどうして見るかという説が出て、誰も頭を傾けた時、祖父は脈はしんの響を伝えるものだから、顳顬こめかみくびまたすね、どこでも脈の通う所を押えれば知ることが出来る。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)