種々さまざま)” の例文
それを種々さまざまに思ふて見るとととさんだとて私だとて孫なり子なりの顔の見たいは当然あたりまへなれど、あんまりうるさく出入りをしてはと控へられて
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人間の生活は、全く苦惱で而も意味は空ツぽだけれども、智識は其の空ツぽをみたして、そして種々さまざまの繋縛をぶちツて呉れるのだ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「異国の……」と、万太郎は目をえさせて、「異国と申しても、種々さまざまみんのものか、高麗こまのものか、あるいは呂宋刀るそんものでござりますか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フランソアズは倅から教わって、兵営内の種々さまざまの階級のことをよく心得ていたので、一人の軍曹の前へ行って叮嚀に問いかけた。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
つまり彼は真白だと称する壁の上に汚い種々さまざま汚点しみを見出すよりも、投捨てられた襤褸らんるきれにも美しい縫取りの残りを発見して喜ぶのだ。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
江戸の方にあった道中奉行所の代わりに京都駅逓司えきていしの設置、定助郷じょうすけごうその他種々さまざまな助郷名目の廃止なぞは皆この消息を語っていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それより手を替え品を替え種々さまざまにして仕官の口を探すが、さて探すとなると無いもので、心ならずも小半年ばかりくすぶッている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それから種々さまざま話して居たんですが、暫らくしてから、「どうだ、一週間許り待つて呉れるなら汽車賃位出来る道があるが、待つか待たぬか。」
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
軸の前の小机には、お燈明とうみょうやら蝋燭ろうそく台やら、お花立やらお供物もりものの具や、日朝上人にっちょうさまのお厨子ずしやら、種々さまざまな仏器が飾ってある。
珠運しゅうん種々さまざまの人のありさま何と悟るべき者とも知らず、世のあわれ今宵こよい覚えての角に鳴る山風寒さ一段身に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼はそうして、偽阿房にせあほうを装いながら、失敗する度に何かしら覚込おぼえこむ方法によって、またたく内に、菰田家内外の、種々さまざまの関係に通暁つうぎょうすることが出来ました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此方こなたに入らせ給へとて、奥の方にいざなひ、酒菓子くだもの種々さまざま管待もてなしつつ、うれしきゑひごこちに、つひに枕をともにしてかたるとおもへば、夜明けて夢さめぬ。
ついでに頭の機能はたらきめて欲しいが、こればかりは如何どうする事も出来ず、千々ちぢに思乱れ種々さまざま思佗おもいわびて頭にいささかの隙も無いけれど、よしこれとてもちッとのの辛抱。
その傍に中年老年の僧侶が法衣はふえの上から種々さまざまの美しい袈裟を掛けて三十五六人立つて居る。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
朝夕あけくれ黄金丸が傍にかしずきて、何くれとなく忠実まめやかに働くにぞ、黄金丸もその厚意こころよみし、なさけかけて使ひけるが、もとこの阿駒といふ鼠は、去る香具師こうぐしに飼はれて、種々さまざまの芸を仕込まれ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
思いがけない種々さまざまな出来ごとを、胸のうちにもう一度くりかえしながら、かくもたやすく、仇敵どもに接近することの出来たのも日頃信心の仏神や、かつはなき父親の引きあわせと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
円髷まるまげもあろうし、島田もあろうし、桃の枝を提げたのも、藤山吹を手折ったのも、また草籠くさかご背負しょったのも、茸狩きのこがりねえさんかぶりも、それは種々さまざま、時々だというけれど、いつも声がして
この外種々さまざま色々の絢爛きらびやかなる中に立交たちまじらひては、宮のよそほひわづかに暁の星の光を保つに過ぎざれども、彼の色の白さは如何いかなるうつくし染色そめいろをも奪ひて、彼の整へるおもては如何なるうるはしき織物よりも文章あやありて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また、大地を見まわせば、種々さまざまな食器やら、楽器やら、化粧道具のたぐいまで、およそ贅沢ぜいたくな日常用品で落ちていない物はないほどであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「折が悪いから何となく何だけれども、シカシ我慢しているも馬鹿気ている」ト種々さまざま分疏いいわけをして、文三はついに二階を降りた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
顔を合せる度に、二人は種々さまざまな感に打たれた。でも、正太は元気で、父の失敗を双肩にになおうとする程の意気込を見せていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
種々さまざまな、こまかしいうるささが彼女を取巻いたのを、正直でむきな心はむしゃくしゃとして、共にありし日が恋しくて堪えられなくなったのであろうと思うと
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし慶三は知れた上にもなお事の真相を捜ろうものと、その次お千代と枕を並べてからも種々さまざまに問い試みた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何んでも生物の消長は、偶然に支配されて、種々さまざまの運命を作ツてゐるのだ……俺が此樣な妙なことを考へてゐるのも偶然なら、此樣な事を考へるやうになツた機會も偶然だ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
種々さまざまいはくのつきし難物のよしなれども、もたねばならぬ義理ありて引うけしにや、それとも父が好みて申受しか、その辺たしかならねど勢力おさおさ女房天下と申やうな景色なれば
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
栄華をたれと共に、世も是迄これまでと思い切って後妻のちぞいもらいもせず、さるにても其子何処どこぞと種々さまざま尋ねたれどようやくそなたを里に取りたる事あるばばより、信濃しなのの方へ行かれたといううわさなりしと聞出ききいだしたるばか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
九字くじを切るだのと申しまして、不思議なことをするのでありますが、もっともこの宗門の出家方は、始めから寒垢離かんごり、断食など種々さまざまな方法で法をしゅするのでございまして、向うに目指す品物を置いて
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぐわらぐわらとすさまじい物音が、飾り壇の下へ種々さまざまな物を落した。鎧櫃よろいびつ、血みどろな片腕、白いぶらぶらなはぎかんざし、立て札——
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
種々さまざまな行きがかりから言っても、従来開港の方針で進んで来た江戸幕府に同情してひそかにそれを助けようとしているフランス公使ロセスと
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
知己の者はこの男の事を種々さまざまに評判する。あるいは「懶惰らんだだ」ト云い、或は「鉄面皮てつめんぴだ」ト云い、或は「自惚うぬぼれだ」ト云い、或は「法螺吹ほらふきだ」と云う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
晴れ渡った空の下に、流れる水の輝き、堤の青草、その上につづく桜の花、種々さまざまの旗がひらめく大学の艇庫ていこ、そのへんから起る人々の叫び声、鉄砲のひびき渡船わたしぶねから上下あがりおりする花見の人の混雑。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
後にきく種々さまざまな修身談は、はじめから偉そうに、吃々きつきつと、味のない、型にはまりきったことをいうのばかりだ。それは、語るものが、自ら教えるという賢人づら、または博識ものしり顔をするからだ。
それからずっと後になって、この人の身の上には種々さまざまな変化が起り、その行いにははげしい非難を受けるような事も多かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
種々さまざまな方面から、心をくだいて、探ってはいるが、前にも云ったような厳重さに、まだ何一つとして、探り得たものはない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
路地はそれらの浮世絵に見る如く今も昔と変りなく細民さいみんの棲息する処、日の当った表通からは見る事の出来ない種々さまざまなる生活がひそみかくれている。佗住居わびずまい果敢はかなさもある。隠棲の平和もある。
加州ほどの大藩の力でどうして水戸浪士の生命いのちを助けることができなかったか。それにつき、世間には種々さまざまな風評が立った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『判じ物か。やれやれ、種々さまざま揣摩臆測しまおくそくされることじゃ。というて、衣食の途を求めるには、世間の中に住まねばならず』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらにその倉庫からは、種々さまざまな財宝が道へ積み出され、牛、馬、鶏、羊などとあわせて、それら財物はすべて貧民たちの手へ公平に分配された。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪士らは行く先に種々さまざまな形見を残した。景蔵のところへは特に世話になった礼だと言って、副将田丸稲右衛門が所伝の黒糸縅くろいとおどし甲冑片袖かっちゅうかたそでを残した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鎌倉幕府自体にさえ、種々さまざま弊政へいせいやら、葛藤かっとうやら、同族の相剋そうこくやら、醜いものの発生がかもし出されて、そろそろ自壊作用の芽をふきだしていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
種々さまざまな流言の伝わって来る主上の崩御ほうぎょに際会して見ると、もはやそんななまやさしいことで救われる時とは見えなかった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
都市が都市らしくなって来ると必然に、人間がえる、人間の中の種々さまざまな善業悪業が相剋そうこくし合う。制度がる、制度の法網をくぐる方も活溌になる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠い日本古代の婦人に見るような、あの幸福で自己をたのむことが厚い、種々さまざまな美しい性質の多くは隠れてしまった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「師直、今日まで、ずいぶん種々さまざまなお人の、饗応役も仕ったが、こよいほど、おもしろかったことはおざらん……。で、ちとどうも、べ酔い気味で」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
叔父に逢って談話はなしをして見ると、正太は頭脳あたまがハッキリして来た。父の家出——つづいて起った崩壊の光景——その種々さまざまの記憶が彼の胸に浮んで来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、半蔵の思い立って来たことは種々さまざまな情実やこれまでの行きがかりにのみ拘泥こうでいすべきことではなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、こういう人々の種々さまざまな仮のすがたが、一様に、死の無にかえって、そのたましいの名だけが、宇宙にのこる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はまた別の箱の紐を解いた。あるものは駅逓司えきていし、あるものは甲府県、あるものは度会府わたらいふとして、駅逓用を保証する大小種々さまざまの印鑑がその中から出て来る。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
孔明は五丈原へ陣を移してからも、種々さまざまに心をくだいて、敵を誘導して見たが、魏軍はまったくうごきを見せない。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
失礼だが、書面を下さる読者の年齢職業など、種々さまざまなのも一考になるが、今日うけた一通はまた変っている。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)