種々いろいろ)” の例文
国許くにもとのほうはどういうぐあいのものか、そこは種々いろいろとなにもあるだろうが、自分もいちどはいってみたいと思うが、どんなものか」
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すべて、私念わたくしといふ陋劣さもしい心があればこそ、人間ひと種々いろいろあし企画たくらみを起すものぢや。罪悪あしきの源は私念わたくし、私念あつての此世の乱れぢや。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
皆さんが実によく、種々いろいろ可恐おそろしいのを御存じです。……たしかにお聞きになったり、また現にったり見たりなすっておいでになります。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恋には人間の真髄が動く、とか聴かされて、又感服した。其他そのたまだ種々いろいろ聴かされて一々感服したが、此様こんな事は皆愚言たわごとだ、世迷言よまいごとだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
知らない仏蘭西人ばかりの乗客の間に陣取って種々いろいろ親しげに言葉を掛ける夫婦と一緒に腰掛けた時は、岸本に取って肩身が広かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうするとその前の方へ少し離れた所に燈火あかりの仕掛があってこれがその絵にって種々いろいろな色の光を投げかけるようになっています。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
昔からのおはなしをすれば種々いろいろあるが、先ず近い所では現に三四年前、私が二人の仲間と一所に木曽の山奥へ鳥撃に出かけた事がある。
また尻に九孔ありと珍しそうに書きあるが他の物の尻にはいくつ孔あるのか、随分種々いろいろと物を調べた予も尻の孔の数まで行き届かなんだ。
「話していると種々いろいろ共通の思い出がある。家が近かったから、中学校へ通うようになっても、道でよく見かけたものだ。或時……」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
前借ぜんしゃくなどという事は計ってくれませんし、前借のできる勤め奉公では——お茶屋、湯女ゆな船宿ふなやど、その他、水商売など種々いろいろございますが
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貨殖かしよくせわしかった彼女が種々いろいろな客席へ招かれてゆくので、あらぬ噂さえ立ってそんな事まで黙許しているのかと蜚語ひごされたほどである。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
生活難という悩みはどの職業にも共通ですけれど、医師はそれ以外に医師法や刑法の窮屈な条文から起る種々いろいろな悩みがあります。
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
鎌をいてその上に腕をくみ合せ、何処を見るともなくきょとんとした眼つきをして、はてしもなく種々いろいろなことを思いだしていた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
種々いろいろに変って、此方こちらの眼に映った眉毛、目元口付、むっちりとした白い掌先てさき、くゝれの出来た手首などが明歴ありありと浮き上って忘れられない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
狼の尻尾のような種々いろいろの形をした魚で、それが方々で青い提灯ちょうちんのように光ったり消えたりしまして、何だか様子が物凄くなって来ました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
一体この水道端すいどうばたの通は片側に寺が幾軒となくつづいて、種々いろいろの形をした棟門むねもんを並べている処から、今も折々私の喜んで散歩する処である。
暢気坊のんきぼうのように取れるし、また信心のために巡礼というようなものとすると、手に種々いろいろなものを持っているとか子供をれているとかして
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
このままこうして、男を京都に帰して、その弱点を利用して、自分の自由にしようかと思った。と、種々いろいろなことが頭脳あたまに浮ぶ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
人間一人の生命をあまりにかるく見すごしてゐる。おそらくは彼等の頭には、親の讎打と云ふ古い種々いろいろな伝説が美しく生きてゐたのであらう。
それから、お祖父さんは例の口調で、種々いろいろ栄蔵に訊ねた。栄蔵思ひのお祖母さんや、お母さんがはらはらするのも構はずに。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
細川は軽く点頭うなずき、二人は分れた。いろいろと考え、種々いろいろもがいてみたが校長は遂にその夜富岡を訪問とうことが出来なかった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
末造はどうして逢ったか、話でもしたのかと、種々いろいろに考えていながら、この場合に根掘り葉掘り問うのは不利だと思って、わざと追窮しない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
働く人と働かぬ人と夏と冬とは少しずつ違うけれども種々いろいろな点を平均したその標準は体量五十基瓦きろぐらむ即ち十三貫目余の人は一日に二千カロリー
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いくらかの月給のほかに、手当があるはずだ! あそこに行こう、ここに行こう、おれは東京まで行って来よう! 種々いろいろに彼らは考えていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しかしボートルレ少年が、ああして眠ってしまったすぐ前のことを種々いろいろと尋ねてみるが、何を聞いてもその時だけは爺さんはけろりとしている。
その日は終日女梁山泊おんなりょうざんぱくを以て任ずる妾の寓所にて種々いろいろと話し話され、日の暮るるも覚ええざりしが、別れにのぞみてお互いに尽す道はことなれども
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一人の水夫かこもなく蓮湖れんこの中に浮んでいて、死者がそれに乗ると、その命ずる意志のままに、種々いろいろな舟の機具が独りでに動いて行くというのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その事にまるで風馬牛ふうばぎゅうであったように、一向世の中のこと……世の中のことといっても世の中のことも種々いろいろありますが、今日でいえば美術界とか
そこで種々いろいろ方法を考え、自分の霊魂たましいを麻酔し去り、我をして国民のうちに沈入せしめ、我をして古代の方へ返らしめた。
「吶喊」原序 (新字新仮名) / 魯迅(著)
もしジユウルが此の夏の暑い日に種々いろいろな盆栽の根の方に気をつけてゐたら、きつとそれを見つける事が出来るだらう。
山腹の畑、松や蜜柑の樹、また遠山のしわ、それらの上には紫いろの白い雪が積つて、そのあひまあひまの山の色は種々いろいろな礦石で象眼したやうに美しい。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
種々いろいろ仕掛は楽屋にちゃんと用意してあるはずだ。顔へすすを塗る手は古いが、眼尻へ鬢付油びんつけあぶらを塗って、頬の引っつりを無二膏むにこうこしらえるとは新手あらてだったね。
そして種々いろいろな余所の物事とそれを比べて見る。そうすると信用というものもなくなり、幸福の影が消えてしまう。
狐や狸はばけるものであるとか、世の中に種々いろいろある怪物ばけものの詮索をするのをめてず我々人間が一番大きな怪物ばけもの神変しんぺん不思議な能力を持っていると喝破かっぱ
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
双方とも私の口からうわさを聞合っていた仲なので、名前を云った丈けで、お互に名前以上の種々いろいろなことが分ったらしく、二人は意味ありげな挨拶をかわした。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日本の南の端、臺灣や南洋などの事の無かつた昔ならばなるほど此處がさうであつたかも知れぬと、そんな事を考へてゐると老人は更に種々いろいろと話し出した。
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
今の今まで太郎坊を手放さずおったのも思えば可笑しい、その猪口を落して摧いてそれから種々いろいろ昔時むかしのことを繰返して考え出したのもいよいよ可笑しい。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まちには、病院びょういん新院長しんいんちょういての種々いろいろうわさてられていた。下女げじょ醜婦しゅうふ会計かいけい喧嘩けんかをしたとか、会計かいけいはそのおんなまえひざって謝罪しゃざいしたとか、と。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
六日には御田植があって終るので、四日間ぶっ通しの祭礼を当込みに、種々いろいろの商人、あるいは香具師やしなどが入込み、そのにぎわしさと云ったらないのであった。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
自分の境遇の割にはずい分と種々いろいろな人々と交際していたのですが、とりわけ此の貴族は、彼の美貌とその性質を愛していたためか、熱心な彼の庇護者でした。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
声に応じて、種々いろいろな料理が運び込まれ、酒宴はたけなわになる。姫は暗然と俯向いたまま、なにひとつ口にしない。
種々いろいろ言はれる為に可厭いやと言はれない義理になつて、もしや承諾するやうな事があつては大変だと思つて、うちは学校へ出るつもりで、僕はわざわざ様子を見に来たのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「細君が病中のところを、種々いろいろ御尽力ごじんりょくになった。僕の方はこれで片が附いたが、細君の病気は何うだね。僕は不遠慮に云うが、肺に異状があるのではないか、ね」
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
「私も、種々いろいろの罪のねえ嘘はつきますが、併し、旦那様の前でだけは……ほかの人なら、ともかくも……」
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
で、彼は種々いろいろと研究と計画をめぐらした結果、それが夢でなく実現することが出来ることを発見した。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
無論訣別おわかれなど云ふ意味を出して招かれたので無いが、後に至て其意志を読むことが出来た。政治家、僧侶、新聞記者、種々いろいろな顔が集つた。予も後ろの方に腰掛けて居た。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
種々いろいろの批難攻撃を人から受けますが、心あつてこわした指環、なんのそれしきの事はかねての覚悟でござりますもの、別に心にも止めませんが、ある時はこの指環を見て
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
しかし二郎の両親ふたおやはいつになく我が子の遅く帰ったのに心配して、種々いろいろと二郎に仔細を問うた。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
困つた人だな種々いろいろ秘密があると見える、おとつさんはと聞けば言はれませぬといふ、おつかさんはと問へばそれも同じく、これまでの履歴はといふに貴君には言はれぬといふ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老人等としよりら自分じぶんさわはうにばかりこゝろうばはれて卯平うへいのことはそつちのけにしたまゝであつた。卯平うへいはそれでも種々いろいろ百姓料理ひやくしやうれうり鹽辛しほから重箱ぢゆうばこはしをつけて近頃ちかごろになくこゝろよかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)