まぐさ)” の例文
田圃たんぼなど幾らもあるのだ、刈ってまぐさにしてなんで悪い、馬には食わせなくてもいいというのか、法皇がお咎めになるのは筋違いじゃ。
それだのに、今朝は、最初のひとつきが鳴る前に、昨夜ゆうべあんまりまぐさをふるいすぎたその疲れが出て、椅子いすにかけたまま居眠りをした。
そのまぐさを積んだような畳の中央にしらみに埋まったまま悠々と一升徳利を傾けている奈良原を発見した時には、流石さすがの僕も胸が詰ったよ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
八つが岳山脈の南の裾に住む山梨の農夫ばかりは、冬季のまぐさに乏しいので、遠くここまで馬を引いて来て、草を刈集めておりました……
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さうして彼方此方あちらこちらまぐさや凋れた南瓜の花のかげから山の兒どもが栗毛の汗のついた指で、しんみりと手づくりの笛を吹きはじめる。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
まぐさの山だ、なア娘っ子、お前が一所懸命上ろうとしているそいつ、そいつア秣の山なんだ。秣の山の斜面なんだ。……乗れば辷る、足を
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
スイスのこれらの地方の大きな困難は、ノルウェイの場合と同様に、夏に山地で養われた家畜を冬の間養うべき十分なまぐさを得ることである。
緑の枝を手折りて、車の上に揷し、農夫はその下に眠りたるに、馬は車の片側にり下げたる一束のまぐさを食ひつゝ、ひとりしづかに歩みゆけり。
ちゝなるものは蚊柱かばしらたつてるうまやそばでぶる/\とたてがみゆるがしながら、ぱさり/\としりあたりたゝいてうままぐさあたへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今の世の価にては侍二人の給金八両、中間ちゅうげん八人の給金二十両、馬一疋まぐさ代九両を与え、また十人扶持ぶち五十俵を与うれば、残り百三十九俵あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
老人は、公園の入口のそばへ馬をつなぐと、馬車から飼料槽かいばおけをとりおろし、まぐさのなかへひとつかみほどのぬかを投げいれて
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
衣服も乾いたので、関羽、孫乾は、屋外へ出て、馬にまぐさを飼ったり、扈従こじゅうの歩卒たちにも、酒をわけてやったりしていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「トウモロコシだよ、お前、まぐさにするトウモロコシだよ。」「あの人はあそこに住んでいるんでしょうかね?」と黒い女帽子が灰色の上着うわぎに訊く。
耕地のまぐさはんの木の新芽などは潮煙りをしつきりなく浴びるので、葉末が赤茶けて、こてをあてたやうに縮み、捲き上つてゐる。風はなかなかやまない。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
うまやには未だ二日分許りまぐさがあつたので、隣家の松太郎の姉に誘はれたけれども、父爺おやぢが行かなくてもいと言つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
人足たちはだんだん意地悪くなって、マルコをおどかしたり無理使むりづかいしたりしました。大きなまぐさをはこばせたり、遠い所へ水をくみにやらせたりしました。
その髪にはわらまぐさの切れがついていた。オフェリアのようにハムレットの狂気に感染して狂人になったためではなく、どこかの馬小屋に寝たためだった。
わが邦にも『小栗判官おぐりはんがん』の戯曲じょうるり(『新群書類従』五)に、横山家の悍馬かんば鬼鹿毛おにかげは、いつも人をまぐさとし食うたとある。
草苅に小さい子や何かゞまぐさを苅りに出て、帰りがけに草の中へしるしに鎌を突込つっこんで置いて帰り、翌日来て、其処そこから其の鎌を出して草を苅る事があるもので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宿のあるところまで急ぐだ、庭に焚火たきびして、一服しながらあたるだよ。驢馬にゃ熱いまぐさをたらふく喰わしてやる。明日の大和の市がすんだら、堤川行きだでな。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
わたしは無心でいつもまぐさをたべている老齢者めいた駱駝が、同じ口つきで、ほんの少しずつの、味いのすくないとも思われる乾草を拾い拾いして食うているのを
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これも年寄としよりの智恵によって、まぐさをあたえて見て、まず食べるほうが子馬の大きくなったのであり、それを見ていてゆっくりあとから食べにかかるのが親だと教えられ
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
併し間もなく気が附いて思つた。此土地ではニコラウスの夜に、子供が小さい驢馬を拵へて、それにまぐさだと云つて枯草や胡蘿蔔にんじんを添へて、炉の下に置くことになつてゐる。
そこに来ては寝ころんでいたまぐさの中から、むくむくと起きあがると、平七は、き出した鹿毛かげにひらりと乗った有朋のさきへ立って、なんのこともない顔を馬と並べ乍ら
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
この近くの薫の領地の用を扱っている幾つかの所へ馬のまぐさなどを取りにやると、主人は顔も知らぬような田舎いなか男がおおぜい隊をなさんばかりにして山荘にいる薫へ敬意を表しに来た。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
恰も琴の音に仰いでまぐさむ馬のやうに恍惚として、口をあけてゐたりするのであつたから——この「歩いてゐた!」には、形容詞や副詞に余程誇張した言葉を選ばなければならないのであるが
R漁場と都の酒場で (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
丁度その時に、ジヤツクは、何時もするとほりに、牡牛がまぐさをたべてゐるかどうか、そして御馳走をたべた仔牛共が無事に母親のそばで眠つてゐるかどうか、と家畜小屋を見まはつて来た処でした。
李遇りぐう宣武せんぶの節度使となっている時、その軍政は大将の朱従本しゅじゅうほんにまかせて置きました。朱の家にはさるを飼ってありましたが、うまやの者が夜なかに起きて馬にまぐさをやりに行くと、そこに異物を見ました。
飼料を入れるまぐさひつには松やにがこびりついて瑪瑙色めのういろに光っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ただ地理学教授法を訳して露命をつないでいるようでは馬車馬がまぐさを食って終日しゅうじつけあるくと変りはなさそうだ。おれにはおれがある。このおれを出さないでぶらぶらと死んでしまうのはもったいない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大豆はまぐさとして直ちに木の本の本陣に持ちきたるべしとした。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
八つが岳山脈の南のすそに住む山梨の農夫ばかりは、冬李のまぐさに乏しいので、遠く爰まで馬を引いて来て、草を刈集めておりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うちの裏庭に積んでありましたまぐさから発火して、住宅を焼き払ってしまいましたが、その時も、偶然に来合わせたコンドルと
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まぐさや麦や果物くだものがよくできそうかどうか、そんなことをいたりなんかなすって、話をなさるにも、わたしゃお返事をするひまがないんですもの。
鉄の馬の厩番うまやばんはこの冬の朝もはやく、山のあいだの星の光りによって起きでて、彼の馬にまぐさをやり馬装をととのえた。
せっせとまぐさをかきまぜているときのこころの深いやさしいそぶり。……恐らくは、げられそうもない馬との約束。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
廐には未だ二日分許りまぐさがあつたので、隣家の松太郎の姉に誘はれたけれども、父爺おやぢが行かなくても可いと言つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
太陽は煌々こうこうと輝いていた。神はすべてに食事を供していた。あらゆるものは各自のまぐさを持っていた。
馬へまぐさを飼ってから、家の中へはいったが、部屋とは名ばかりで板敷きの上に、簀子が一枚敷いてあるばかり、煤けて暗い行燈あんどんの側に、剥げた箱膳が置いてあった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またわずかずつのしばまぐさまでささげていたが、親が教えるのは水汲みがしゅであったとみえて、八つ九つの小娘こむすめまでが、年に似合ったちいさな水桶みずおけをこしらえてもらって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かますを卸してまぐさあてがってどっさり喰わせ、虫の食わないように糸経いとだてを懸けまして、二分と一貫の銭を持って居りますゆえ、大概のものなら駈落かけおちをするのだから路銀に持ってきますが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はじめあさまだきにうままぐさの一かごるにすぎないけれど、くやうなのもとにはたやうやきまりがついて村落むらすべてがみな草刈くさかりこゝろそゝやうれば、わか同志どうしあひさそうてはとほはやし小徑こみちわけく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
や、や、なるほど、まぐさにしますか、勿体ない。あかい垂れ毛も濡れている。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
浮流草は詳らかならぬが水流に浮かみ、特に馬が嗜み食う藻などであろう。ホンダワラ一名神馬草、神功じんぐう皇后征韓の船中まぐさに事欠き、この海藻を採って馬に飼うた故名づくと(『下学集』下)。
八月のは草を焼いた。そうかといって、納屋に入れてあるまぐさを、今、家畜にやることはできない。冬になったらどうすることもできなくなる。
これはある農家に隠し、馬小屋のわらの中に馬と共に置いたが、人目については困るというのでまぐさ飼桶かいおけをかぶせて置いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四半桶のまぐさと、ひと握りのぬかしか食べていない、このひもじい馬にとって、それはまあ、なんという素晴らしい御馳走なのであろう! そしてまた、老人にとっても
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
また細かく切れば家禽かきんの食物にいい。き砕けば角のある動物にいい。その種をまぐさに混ぜて使えば動物の毛並みをよくする。根は塩と交ぜれば黄色い美しい絵具えのぐとなる。
草にむしろを敷いてゆっくりとこれを食べ、馬や車牛くるまうしまでが結構なまぐさにありついたのであった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)