禿かむろ)” の例文
(けれども正直に白状すれば、はじめて浦里時次郎を舞台の上に見物した時、僕の恋愛を感じたものは浦里よりもむしろ禿かむろだった。)
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、すでに酔っている船ばし様は、そばにいた十三、四の禿かむろの首へいきなり抱きついて、その唇へ肉の痩せた自分の頬を押しつける。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入り口の六畳には新造や禿かむろが長火鉢を取り巻いて、竹邑たけむら巻煎餅まきせんべいか何かをかじりながら、さっきまで他愛もなく笑ってしゃべっていたが
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
神尾主膳は、同じ家の唐歌からうたという遊女の部屋に納まって、太夫たゆう禿かむろとをはんべらせて、あか羅宇らうの長い煙管きせるで煙草をふかしていると、あわただしく
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
関ヶ原の戦後、昌幸父子は、高野山のふもと九度禿かむろ宿しゅくに引退す。この時、発明した内職が、真田紐であると云うが……昌幸六十七歳にて死す。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
見よ、確かに死んだ筈の義眼の副司令が、真紅な禿かむろの衣裳を着て、行列の中を歩いているのだ。これが驚かずにいられようか。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
古い廓のロマンスというようなものが残っていたかというと、私が知っているのは禿かむろが池というのが大門通りの突当り、住吉町の地尻じちりにあった。
大きい花魁が万事突出し女郎の支度をして遣るんだそうで、夜具布団からしかけから頭飾あたまのものから、新造しんぞ禿かむろの支度まで皆その大きい花魁が致します。
禿かむろと歌浦とが内所へ馳込んだので、五六人も登ってくると、髪を乱して瀬川は身もだえしている。客の一人が、肩を押えながら、倒れて唸っている。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
米吉は坊主禿かむろから成人して色子いろこになりお染の薄墨太夫に拾はれて、その間夫まぶになつたのさ。商賣女のいか物喰ひだよ。
実は、そのずっと後になってからだが、ゆかりと云う雲衣くもいさん付きの禿かむろが、斯う云う事を云い出したのだよ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
先刻一蝶と約束した、読み込みの句が出来ないからで、禿かむろの置いてあった酔い醒めの水を立て続けに三杯まで呑んで見たが、酔いも醒めなければ名案も出ない。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いいえ、たった五人です。一番の流行児はやりっこが選ばれて此処まで練って来るのです。斯ういう具合に若い衆が後方うしろから日傘を翳しかけましてな。綺麗な禿かむろが供をしましてな。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
入るのみ其樣彼の軍鷄籠とうまるかごを伏たる如くなり古昔むかしくるわとな大門おほもん御免の場所には之ありしとなり然ば白妙しろたへは大いになげきしが或日饅頭まんぢう二ツを紙に包み禿かむろ躑躅つゝじそつまねき是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
露路の長屋の赤いあかりに、珍しく、大入道やら、五分刈やら、中にも小皿で禿かむろなる影法師が動いて、ひそひそと声の漏れるのが、目を忍び、はばかる出入りには、宗吉のために
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あどけない禿かむろのような花の蕾があちらこちらと意外な枝の位置に飛び付いて、それがどこから来たのか、また、いつ来たのか、花それ自身、考え及ぶ能力もないほどの痴呆性の美しさで
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まだ禿かむろの時分から井伊の城中に仕えてかの桜田事件の時にはやっと十八歳の春であったということ、それから時世が変って、廃藩置県の行われたころには井伊の老臣の池田某なるものに従うて
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
彼女は努めてその考を打ち消しながら、あまり額を視詰めていると不気味になって来るので、床脇とこわきの違いだなの方へ眼を移した。と、そこにも、妙子の最近の製作に成る羽根の禿かむろの人形があった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
髪の禿かむろに切つたものも現れた。
事情わけを知らない引船と禿かむろは、さっきここを出て行く前に、次の部屋へ、大名の姫君でもせるような豪奢なよるものを敷いて行った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
振袖新造ふりそでしんぞうの綾鶴と、番頭新造の綾浪と、満野みつのという七つの禿かむろとに囲まれながら、綾衣は重い下駄を軽くひいて、店の縁さきに腰をおろした。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それに禿かむろやら新造しんぞうやらついて練り歩くのを、外国人の観覧席は特別に設けたという後だったので、お雪は雛窓のことを思い出して、カッとなったのだった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
米吉のことですか、——あの子は薄墨華魁の先代の、矢張り薄墨と言った華魁の隠し子で男の子のくせに、禿かむろになって居ましたよ、可愛いい坊士禿でした。
「ははあこれももっともだな」「轆轤ろくろッ首ではあるまいかな」「夜な夜な行灯あんどんの油をめます」「一つ目の禿かむろではあるまいかな」「信州名物の雪女とはどうだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花魁おいらん禿かむろも誰も来ない中に、ゆっくりと休みたいということであったから、これもその意に任せました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とすっかり気に入って、八畳と六畳の二間を与え、新造一人に禿かむろをつけて、定紋付きの調度一揃え
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まことに、そのような邪気あどけなさは、里俗に云う、「禿かむろぜに」「役者子供」などに当るのであろう。けれども、また工阪杉江にとると、それが一入ひとしおいとし気に見えるのだった。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
皆さんはの名前が、「禿かむろ」という役割の下にあるのを既に御存知ごぞんじはずである。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(濁れるわらい)いや、さすがは姫路お天守の、富姫御前の禿かむろたち、変化心へんげごころ備わって、奥州第一の赭面あかつらに、びくともせぬは我折がおれ申す。——さて、あらためて内方うちかたへ、ものも、案内を頼みましょう。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と瀧の戸という番頭新造は出てきました。あとで音羽が箪笥の引出から出しましたはたしなみの合口でございます。其の内に引過ひけすぎに成りましたから、禿かむろも壁に寄り掛って居寝りを致して居りまする。
感じたものは浦里よりもむし禿かむろだつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
禿かむろや、ほかの女どもでは、なんとのう権威がない。太夫、ご足労じゃが、かんがん様のところまで使者に行っておくれぬか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背中合せの松飾りはまだ見えなかったが、家々のまがきのうちには炉を切って、新造や禿かむろが庭釜の火をいていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
米吉のことですか、——あの子は薄墨華魁うすずみおいらんの先代の、矢つ張り薄墨と言つた華魁の隱し子で、男の子のくせに、禿かむろになつてゐましたよ、可愛いゝ坊主禿かむろでした。
向側にいきなうなぎやがあったが、そうなっては掛行燈かけあんどん風致ふうちもなにもなくなってしまった。この池に悲しい禿かむろが沈んだのだということが子供心を湿らせたに過ぎない。
梅の花の振袖ふりそでを着た小さな禿かむろ、ちょこちょこと走り出て呼び止めますから、七兵衛は振返りました。
禿かむろを呼んで、その客の脇差を取寄せると、間違いも無いこしらえ、目貫めぬきの竹に虎、柄頭つかがしらの同じ模様、蝋塗ろうぬりの鞘、糸の色に至るまで、朝夕自分が持たせて出した夫の腰の物である。
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「ですかい、」と言いつつ一目ひとめ見たのは、かしら禿かむろあらわなるものではなく、日の光す紫のかげをめたおもかげは、几帳きちょうに宿る月の影、雲のびんずらかざしの星、丹花たんかの唇、芙蓉ふようまなじり、柳の腰を草にすがって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多治見ノ四郎二郎国長であり、禿かむろ二、三人を相手にして、双六すごろく骰子さいころを振っているのは土岐十郎頼兼よりかねであり、茶筌頭ちゃせんあたま烏帽子えぼしかぶらず、胸もとをはだけて汗をかき、なお大盃をあおっているのは
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頬片ほゝぺたつねる、股たぶらを捻る、女郎は捻るのが得手で、禿かむろなどに
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
提灯持ちょうちんもちが二人、金棒引かなぼうひきが二人、続いて可愛らしい禿かむろが……。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すこし早目だが、ついでに、弁当をつかってしまおう。おなお婆さん、女郎衆や禿かむろたちに、弁当をくばっておくれ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その哀れな亡骸なきがらは粗末な早桶を禿かむろひとりに送られて、浄閑寺の暗い墓穴に投げ込まれる。そうした悲惨な例は彼女も今までにしばしば見たり聞いたりしていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十徳じっとくを着た、坊主頭の、かなりの年配な、品のよい人が不意に姿を現わし、障子をあける音もなしに入って来たから、眼の見えない按摩のほかは、新造しんぞ禿かむろも一度に狼狽して
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親仁おやじが大目金めがねを懸けて磨桶とぎおけを控え、剃刀の刃を合せている図、目金と玉と桶の水、切物きれものの刃を真蒼まっさおに塗って、あとは薄墨でぼかした彩色さいしき、これならば高尾の二代目三代目時分の禿かむろ使つかいに来ても
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子守ッ子みたいな禿かむろばかりでも五人、中年増ちゅうどしまや婆さんや、男衆など合せると、総勢四十人からの大家族である。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むこうは笠を傾けて挨拶もせずに行き過ぎたが、たしかにその人らしかったとうちへ帰ってから何心なにごころなくしゃべっていたのを、禿かむろの八千代が立ち聞きして、それを八橋に訴えた。八橋はかっとなった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かすみにさした十二本のかんざし、松に雪輪ゆきわ刺繍ぬいとりの帯を前に結び下げて、花吹雪はなふぶきの模様ある打掛うちかけ、黒く塗ったる高下駄たかげた緋天鵞絨ひびろうど鼻緒はなおすげたるを穿いて、目のさめるばかりの太夫が、引舟ひきふねを一人、禿かむろを一人
その須賀口すがぐちには、妓楼ぎろうや茶屋が軒をならべていて、昼間は、禿かむろたちがまりをつきながら、往来で唄っていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禿かむろが返事をしました。大隅もまた
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)