狼藉ろうぜき)” の例文
理不尽りふじんでもあるし、突然な狼藉ろうぜきぶりだ、お吟ひとりに向って、十名以上の大の男が押しかぶさって来て縄にかけようとするのである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからあなたのところへいって、耳が聞えないために、狼藉ろうぜきをしたことをび、自分の名を名のって切れた扇を差出したのです。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
、公儀へ訴え出る途もあったであろうに、なにゆえしかるべき当路者とうろしゃへ、差し立て願いに及ばんだのかの——上も、それだけの狼藉ろうぜきぶりを
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まず照らされたその谷間の光景はすこぶる狼藉ろうぜきたるもので、かがりの燃えさしだの、木や竹のきれだの、地面に石や穴が散在していることだの
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
落花墜葉の外すべて狼藉ろうぜきを禁ず、来遊騒客さあらんといふにはあらず、童僕には戒勅のとゞかぬ事主人も常にあれば他も推はかり思ふなり
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この言語道断な狼藉ろうぜき、徹底した無神経ぶりは、当時の新聞をして「恐怖の満点」と叫ばしめ、「人性の完全な蹂躙じゅうりん」と唖然あぜんたらしめている。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いかようの狼藉ろうぜきがあるやも測りがたいから、諸藩いずれもこのむねをとくと心得て、右等の徒に欺かれないようにと言ってある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「だまれ」と山嵐は拳骨げんこつを食わした。赤シャツはよろよろしたが「これは乱暴だ、狼藉ろうぜきである。理非を弁じないで腕力に訴えるのは無法だ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
 五車の書といふ支那の故事を転じて反古となし、反古の多きことを言へる者にして、冬ごもりの書斎狼藉ろうぜきたる様なるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
絶間無き騒動のうち狼藉ろうぜきとしてたはむれ遊ぶ為体ていたらく三綱五常さんこうごじよう糸瓜へちまの皮と地にまびれて、ただこれ修羅道しゆらどう打覆ぶつくりかへしたるばかりなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
復一が、おやと思うとたんに少女の袂の中から出たこぶしがぱっと開いて、復一はたちまち桜の花びらの狼藉ろうぜきを満面にかぶった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一番どういう事の働きをするかといえば、まず戦争が起れば乱暴狼藉ろうぜきを働いて、内地人の財産を分捕ぶんどりする位の事でとても国の役には立たない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そこへ、頼朝が京で義仲の狼藉ろうぜきしずめようと範頼、義経を将として差し向けた軍勢数万騎が、美濃、伊勢に到着する頃だろうという報告があった。
狼藉ろうぜきしている、小舎の屋根に近いところにも、雪の石小舎がある、ここにもまさかのときには、二人位は寝られそうだ。
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
たとえば米のごときは普通には必要品とされているけれども、これを酒にかもして杯盤狼藉ろうぜきの間に流してしまえば、畳をよごすだけのものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
こんろの上には鍋がかかったままになってりまして、盃や徳利が狼藉ろうぜきを極めてあたりに転がって居たのであります。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
……当時の久松といったのが、前垂まえだれがけで、何か急用と見えて、逢いに来てからの狼藉ろうぜきが、まったく目に余ったんだ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここでも同じ様な狼藉ろうぜきが行われているのみか、壁の中に仕掛けられたがくのうしろのかくし金庫が開かれ、現金千二百円というものが盗まれてしまった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
騒ぎのあった翌日、その狼藉ろうぜき者一党が揃ってびにきたが、その時、父はすこし寒気さむけがするといっていたが、左の手の甲が紫色にれてるだけだった。
ビールのびんはぶどう酒のびんと入れ交じっていた。食卓の上にはほとんど秩序がなく、その下にも狼藉ろうぜきがあった。
そして諸国の源氏蜂起ほうきに際しては、清盛の日頃の専横に対し、奈良法師は公然の狼藉ろうぜきをもって示威したのであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
改築中で割栗石わりぐりいし狼藉ろうぜきとした停車場を出て、茶店さてんで人を雇うて、鶴子と手荷物をわせ、急勾配きゅうこうばいの崖を川へ下りた。暗緑色あんりょくしょくの石狩川が汪々おうおうと流れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
若い書生が勤勉に手入れをしてくれるので、わたしの病臥中にも花壇はちっとも狼藉ろうぜきたる姿をみせていない。夏の花、秋の草、みなつつがなく生長している。
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狼藉ろうぜきとして捨てられてあり、夜になった時、野武士の群れが、死骸の肌つき金を奪うために、また甲胄かっちゅうぐために、どこからともなくあらわれて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寺の者は気がつかなかったが、縁近い日あたりで縫物をしていたおときは、子供達の狼藉ろうぜきをいちはやく認めた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あるいはまた、家道みだれて取締なく、親子妻妾あいたがいに無遠慮狼藉ろうぜきなるが如きものにても、その主人は必ず特に短気無法にして、家人に恐れられざるはなし。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
杯やおぜんや三味線などの狼藉ろうぜきとしたなかにすわって、酔いのさめかけた善鸞様は実に不幸そうに見えました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あれに気づかいこれに案ずる笑止の様を見ては喜び、居所さえもなくされて悲しむものを見ては喜び、いよいよ図に乗り狼藉ろうぜきのあらん限りをたくましゅうすれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
武士の一分いちぶん相立ち申さず、お上へ対し恐多おそれおおい事とは存じながら、かく狼藉ろうぜきいたし候段、重々恐入りたてまつります、此の上は無実の罪にふくしたる友之助をお助け下され
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして更に、これは今の武士が武芸を怠った為に、足軽が数が多く腕っ節が強いのを頼み、狼藉ろうぜきを働くのであって、「もこそ下剋上の世ならめ」と憤慨して居る。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「だってそうすると、この化け物の狼藉ろうぜきの跡は、いったいどうなるんです。この怪しげな水や、三田村さんもたしかに聞いたというあのうめき声や、変な鳴き声は?」
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
火長かちょうと見えるものが二三人、手に手を得物提えものひっさげて、声高こわだか狼藉ろうぜきを咎めながら、あの沙門へ走りかかりますと、矢庭に四方から飛びかかって、からめ取ろうと致しました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
折重なってすべり倒れる。その上から狼藉ろうぜきしていた杯盤がガラガラガラと雪崩なだれかかる。その中を押し合い、ヘシ合い、突飛ばし合いながら両舷のボートに乗移ろうとする。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
霊地をけがすその狼藉ろうぜきが、わが退屈男の気性気ッ腑として出来ないのです。ましてや対手は代役ながら、治外の権力ともいうべき俗人不犯の寺格を預かっている寺僧でした。
あとは、杯盤狼藉ろうぜきの一歩手前であった。人いきれと酒肴しゅこうの臭気と——それに畳のほこりも混って、生ぬるい広間の空気は何か朦朧もうろうとしている。耳と目の感覚が上ずっている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
酒気を帯びて飄然ひょうぜんと『柳亭』に現れた——例によってお玉に金の無心をしたが、たびたびのことなので取り合わなかった——武太郎は激怒してさんざん乱暴狼藉ろうぜきを働いた揚句
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
海棠かいどう酔った我膳の前の春はたちまち去って、肴核かうかく狼藉ろうぜき骨飛び箸転がるのときとなった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
咲き乱れた桜花の下に狼藉ろうぜきたる落花をかぶって人も打ち興じている様が想像されるのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
故にその愛は良人に非ずして、我が身にあり、我が身の饑渇きかつを恐るるにあり、浅ましいかな彼らの愛や、男子の狼藉ろうぜきいて、黙従のほかなきはかえすがえすも口惜しからずや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
御身おんみが家の下人の詮議せんぎか。当山は勅願の寺院で、三門には勅額をかけ、七重の塔には宸翰金字しんかんこんじの経文がおさめてある。ここで狼藉ろうぜきを働かれると、国守くにのかみ検校けんぎょうの責めを問われるのじゃ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
後から分りましたが、橋袂を守っていた同輩の誰何すいかを誤解したのでした。九州と東北ですから、言葉が能く通じません。娘は狼藉ろうぜきでも受けると思って、無暗に逃げ出したのでしょう。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もう始めの日のような狼藉ろうぜきはしなかったけれども、その顔を見たばかりで、葉子は病気がおもるように思った。ことに貞世の病状が軽くなって行くという報告は激しく葉子をおこらした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
例えば信州などでは、山の天狗に連れて行かれた者は、跡に履物はきものが正しくそろえてあって、一見して普通の狼藉ろうぜき、または自身で身を投げたりした者と、判別することができるといっている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
明治十ねんごろまでは強盗ごうとうしたり乱暴狼藉ろうぜきした者に、なぜそんなことをしたかと聞くと、国をうれいて大いに旗上はたあげするつもりであるといった。また地租ちそ改正のとき、あっちこっちでさわいだ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
此度こたびは黄金丸肩をかすらして、思はず身をも沈めつ、大声あげて「おのれ今日も狼藉ろうぜきなすや、引捕ひっとらへてくれんず」ト、走りよって木の上を見れば、果して昨日の猿にて、黄金丸の姿を見るより
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一人去り、二人去りて、果てはむなしき器皿きべい狼藉ろうぜきたるをとどむるのみ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
兵士らは殺戮さつりくの叫びを発しながら、あらゆる人家に闖入ちんにゅうして、あらゆる狼藉ろうぜきを働こうとした。百姓らは棒を持って追っかけ、荒れ犬をけしかけていた。第三の兵士が、三叉みつまたに腹を刺されて倒れた。
上に出てみると、小矢柱が突き転がされて舵場の上に倒れ、帆はズタズタに切られ、舵柄かじえはもぎとられ、船を動かす道具という道具は残りなく壊してあるという目もあてられない狼藉ろうぜきぶりであった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「かってに入って来て狼藉ろうぜきをなさるのは何人たれ
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
狼疾らうしつといひ○狼藉ろうぜき狼戻らうれい狼狽らうばいなど