トップ
>
熱
>
ほて
ふりがな文庫
“
熱
(
ほて
)” の例文
その顫音が集って、仄暗い家の中の空気に頼り無い寂寥を満す時、彼女はむやみと火鉢の炭を足して、軽く頬が
熱
(
ほて
)
るまでに火を
熾
(
おこ
)
した。
湖水と彼等
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
「事によると、エリスさんの家にいるかも知れない」街の角に差かかった時、坂口は独言を云ったが、急に顔が
熱
(
ほて
)
って来るのを感じた。
P丘の殺人事件
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
藪の中に隠れている時、鬼が此方に歩いて来る足音がガサガサと聞えると、もう身の毛がよだって、耳が
熱
(
ほて
)
って、心臓がどきどきした。
過ぎた春の記憶
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
空
(
そら
)
は深く
澄
(
す
)
んで、澄んだなかに、
西
(
にし
)
の
果
(
はて
)
から焼ける火の
焔
(
ほのほ
)
が、薄赤く吹き返して来て、三四郎の
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
迄
熱
(
ほて
)
つてゐる様に思はれた。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
たゞ沙漠の
砂
(
すな
)
の
燩
(
や
)
けてゐるやうに、頭が
熱
(
ほて
)
ツてゐるばかりだ。そして何時
颶風
(
はやて
)
が起ツて、此の體も魂も
埋
(
うづ
)
められて
了
(
しま
)
うか知れないんだ。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
▼ もっと見る
葉子は顔を
熱
(
ほて
)
らせていた。そして庸三が出ようとすると
壁際
(
かべぎわ
)
にぴったり体を押しつけて立っていながら、「
唇
(
くちびる
)
を! 唇を!」と呼んだ。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
二人は又
接穂
(
つぎほ
)
なさに困つた。そして長い事
黙
(
もだ
)
してゐた。吉野は
既
(
も
)
う顔の
熱
(
ほて
)
りも忘られて、
酔醒
(
よひざめ
)
の佗しさが、何がなしの心の
要求
(
のぞみ
)
と戦つた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
そんな中に、
櫨
(
はぜ
)
の樹のみは、晩秋から初冬にかけての日光を、自分ひとりで飲み飽きたかのやうに、
疎
(
まばら
)
に残つた葉が真赤に酔ひ
熱
(
ほて
)
つてゐる。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
お松は、座敷の
人混
(
ひとご
)
みに上気して、ひとり誰もいない室へ来て、ホッと息をついて、
熱
(
ほて
)
る頬を押えています。と、次の間で人のささやく声
大菩薩峠:03 壬生と島原の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
あのすきとおる
沓
(
くつ
)
とマントがギラッと白く光って、風の又三郎は顔をまっ赤に
熱
(
ほて
)
らせて、はあはあしながらみんなの前の草の中に立ちました。
風野又三郎
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
頭の中がカッと
熱
(
ほて
)
って気もおのずと荒くなる。
拳骨
(
げんこつ
)
で木の枝を撲ったり足で岩を蹴ったりして、飛び上る程痛い目に遭った。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
とんとん拍子に
乗
(
のり
)
が来て、深川夫人は
嫣然顔
(
にこにこがお
)
、人いきりに面
熱
(
ほて
)
りて、
瞼
(
めのふち
)
ほんのり、
生際
(
はえぎわ
)
に
膏
(
あぶら
)
を浮べ、四十
有余
(
あまり
)
の
肥大
(
でっかい
)
紳士に御給仕をしたまいながら
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがてお
生憎
(
あいにく
)
さま
春泉
(
はるずみ
)
へ出て居るそうですと告られて、貞之進はたちまちカッと胸に火が燃え、酒一滴もまだ口へは入れぬに顔は
熱
(
ほて
)
り、そうとも知らぬ女が
油地獄
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
林檎の木よ、
發情期
(
はつじやうき
)
の壓迫で、身の内が
熱
(
ほて
)
つて重くなつた
爛醉
(
らんすゐ
)
、
情
(
なさけ
)
の
實
(
み
)
の
房
(
ふさ
)
、
粒
(
つぶ
)
の
熟
(
じゆく
)
した葡萄の
實
(
み
)
、
寛
(
ゆる
)
んだ帶の
金具
(
かなぐ
)
、花を飾つた酒樽、葡萄色の蜂の
飮水場
(
みづのみば
)
。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
さう云ふ言葉が屡々、同僚の口から洩れるのを聞くと、彼は顔の
熱
(
ほて
)
るのを感じた。百歳には此の部落に生れて、この部落に住んで居る事が厭はしい事になった。
奥間巡査
(新字旧仮名)
/
池宮城積宝
(著)
目は
瞬
(
しばたた
)
きもやんだように、ひたと両の瞳を据えたまま、炭火のだんだん灰になるのを見つめているうちに、顔は火鉢の活気に
熱
(
ほて
)
ってか、ポッと赤味を
潮
(
さ
)
して涙も
乾
(
かわ
)
く。
深川女房
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
色と
響
(
ひびき
)
である。光のない上の世界と下の世界、その間を私たちの高麗丸のスクリュウが響く。機関が
熱
(
ほて
)
る。
帆綱
(
ほづな
)
が唸る。通風筒の耳の
孔
(
あな
)
が僅かに残照の紅みを反射する。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
潤
(
うる
)
みを持った瞳が笑うとともに
熱
(
ほて
)
った唇がまた
隻頬
(
かたほお
)
に
温
(
あたたか
)
く来た。章一の瞳はとろとろとなった。
一握の髪の毛
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
土地の習慣として焼たての
芋焼餅
(
いもやきもち
)
に大根おろしを添えて、その息の出るやつをフウフウ言って食い、夜に成れば顔の
熱
(
ほて
)
るような火を
焚
(
た
)
いて、百姓の
爺
(
じじ
)
が
草履
(
ぞうり
)
を作りながら
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
あくる朝はなんだか頭が重くって、からだが
熱
(
ほて
)
るようで、なんとも言えないような
忌
(
いや
)
な気持でしたが、別に寝るほどのことでもないので、やっぱり我慢して店に出ていました。
水鬼
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼女は身体が
熱
(
ほて
)
ったり、冷えたりした。街で青年達を拾ったり、捨てたりした。
温度
(新字旧仮名)
/
原民喜
(著)
彼はそういう音楽を聞くや否や、他人と同じく、他人よりももっとはなはだしく、音の
急湍
(
きゅうたん
)
とそれを繰り出す作者の悪魔的意志とにとらえられた。彼は笑った、うち震えた、
頬
(
ほお
)
を
熱
(
ほて
)
らした。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
マニーロフの顔は喜びのあまり鼻と口だけになってしまい、眼などはすっかり姿を消してしまった。彼の両手に十五分間ばかりも握りしめられていたチチコフの手は、おそろしく
熱
(
ほて
)
って来た。
死せる魂:02 または チチコフの遍歴 第一部 第二分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
ああ、恥かしくて顔が
熱
(
ほて
)
る。何たる苦々しい事であった。私は当時の事を想い
出
(
いだ
)
す
度
(
たび
)
に、人通りの多い
十字街
(
よつつじ
)
に土下座して、通る人毎に、踏んで、蹴て、唾を吐懸けて貰い
度
(
たい
)
ような心持になる……
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
汗と
香油
(
かうゆ
)
の
熱
(
ほて
)
る
頬
(
ほ
)
を
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
堪え難い頭痛がして、額がかっと
熱
(
ほて
)
って、胸が高く動悸して、膝に力がなかった。立っておれなくなって、其処に屈んでしまった。
野ざらし
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
板戸をしめた薄暗い寝室は、どうかすると蒸し暑いくらいで、笹村は綿の厚い蒲団から、時々冷や冷やした畳へ
熱
(
ほて
)
る体をすべりだした。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
兄の
面色
(
めんしょく
)
の
蒼
(
あお
)
いのに反して、自分は我知らず、両方の頬の
熱
(
ほて
)
るのを強く感じた。その上自分は何と返事をして好いか分らなかった。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
二人は又
接穗
(
つぎほ
)
なさに困つた。そして長い事默してゐた。吉野は
既
(
も
)
う顏の
熱
(
ほて
)
りも忘られて、醉ひ醒めの侘しさが、何がなしの心の望と戰つた。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
お君は
脇息
(
きょうそく
)
の上に
両肱
(
りょうひじ
)
を置いて、暫らくの間、
熱
(
ほて
)
る面を押隠していましたが、そのうちにウトウトと眠気がさしてきました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
奈何
(
いか
)
に頭を
熱
(
ほて
)
らせて靈魂の存在を説く人でも、其の状態を
眼前
(
まのあたり
)
見せ付けられては、靈長教の
分銅
(
ふんどう
)
が甚だ輕くなることを感得しなければなるまい。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
もとの
丘
(
おか
)
の草の中につかれてねむっていたのでした。胸は何だかおかしく
熱
(
ほて
)
り
頬
(
ほほ
)
にはつめたい涙がながれていました。
銀河鉄道の夜
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
脊中にはしっとり汗ばんで顔が
熱
(
ほて
)
ったけれど、彼の実家に行って用を
済
(
すま
)
して更に町へ行って、針医を呼んで来なければならぬ重役を帯びていた——それにしても
黄色い晩
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
うとうとしていた章一は、
片頬
(
かたほお
)
に
温
(
あたたか
)
な
緊縛
(
きんばく
)
を覚えたのでふと眼を開けた。
艶消
(
つやけし
)
電燈のやわらかな
明
(
あかり
)
は、黒いねっとりと
潤
(
うる
)
みを持った二つの瞳と
熱
(
ほて
)
った唇をそこに見せていた。
一握の髪の毛
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
だん/\暗くなるに連れて、わたくしは自然に息が
喘
(
はず
)
んで、なんだか顔が
熱
(
ほて
)
って来ました。照之助が来る——それが無暗に嬉しいのですが、なぜ嬉しいのか判りませんでした。
三浦老人昔話
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
たゞし
嬌瞋
(
けうしん
)
火
(
ひ
)
に
似
(
に
)
たりと
云
(
い
)
ふのを
思
(
おも
)
つたばかりでも、
此方
(
こつち
)
も
耳
(
みゝ
)
が
熱
(
ほて
)
るわけさ。
みつ柏
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
遂々
(
とうとう
)
奥様は御声をちいさくなすって、打開けた御話を私になさいました。その時、私は始めて歯医者とのこれまでの関係を聞きましたのです。私は手を堅く握〆られて、妙に顔が
熱
(
ほて
)
りました。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
私は一つ一つ扉を叩いて部屋を覗いて見たが、誰もいない。三階は殊に家具のない裸部屋であった。二階の表部屋だけに僅ながら暖炉の石炭が燃えている。急に
逆
(
のぼ
)
せ上ったように顔が
熱
(
ほて
)
ってきた。
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
夜は深しただにしづけくゐるわれをストーブの
熱
(
ほて
)
り痛む眼に來る
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
「
熱
(
ほて
)
りますか。」
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
胸がどきどきして、頭がかっと
熱
(
ほて
)
っていた。眼が眩むようだった。細目に見開いてみると、すぐ前を厚い白壁が遮っていた。
野ざらし
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
渠は平手でそれを拭つて腰を据ゑると、今迄顏が
熱
(
ほて
)
つて居たものと見えて、血が頭からスウと下りて行く樣な氣がする。動悸も少ししてゐる。
病院の窓
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
熱
(
ほて
)
った血に流されながら偶然浮び上った時、彼はああこれだと叫んで、乱れ逃げる黒い影の内から、その洋杖だけをうんと
捕
(
つか
)
まえたのである。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
お雪の口からは、お今が
熱
(
ほて
)
る顔に袖をあてて、横へ突っ伏してしまうほど、きまりの悪いようなことが、話し出された。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
竜之助がグッと一口飲む、
燈
(
ともしび
)
の光で青白い
面
(
かお
)
が
熱
(
ほて
)
る、今夜来たらば……叩き切ってしまうというものと見えます。
大菩薩峠:07 東海道の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
是に反しては、
各自
(
てんでん
)
に體面を傷ツけるやうなものだ。で
何
(
いづ
)
れも
熱
(
ほて
)
ツた頭へ水を
打決
(
ぶツか
)
けられたやうな
心地
(
こゝち
)
で、一人去り二人去り、一と先づ其處を解散とした。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
ジョバンニは
眼
(
め
)
をひらきました。もとの
丘
(
おか
)
の草の中につかれてねむっていたのでした。
胸
(
むね
)
はなんだかおかしく
熱
(
ほて
)
り、
頬
(
ほお
)
にはつめたい
涙
(
なみだ
)
がながれていました。
銀河鉄道の夜
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
若い女に、自分の手を強く握られて、長三郎の頬はおのずと
熱
(
ほて
)
るように感じられた。
半七捕物帳:69 白蝶怪
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
赫
(
かっ
)
と顔が
熱
(
ほて
)
って、心臓がどきどきした。何となく、女は済まぬような気がした。
僧
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
夜は深しただにしづけくゐるわれをストーブの
熱
(
ほて
)
り痛む眼に来る
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
熱
常用漢字
小4
部首:⽕
15画
“熱”を含む語句
熱情
情熱
熱心
熱湯
熱灰
火熱
熱気
熱海
熱燗
熱病
暑熱
焦熱
極熱
熱閙
赤熱
熱々
熱砂
熱沙
熱誠
温熱
...