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しん
ふりがな文庫
“
森
(
しん
)” の例文
その素晴らしさ満場水を打ったように
森
(
しん
)
とした中に、パデレフスキーの弾くピアノの音が何ともいえない、荘厳な芸術を繰展げます。
お蝶夫人
(新字新仮名)
/
三浦環
(著)
湯の谷もここは山の方へ
尽
(
はずれ
)
の家で、奥庭が深いから、
傍
(
はた
)
の騒しいのにもかかわらず、
森
(
しん
)
とした
藪蔭
(
やぶかげ
)
に、細い、青い光物が見えたので。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
もうそろ/\閉めようかと思ひながら、わたしが表へ出てみると、こゝらの家ももう大抵は寝てしまつて、世間は
森
(
しん
)
としてゐます。
赤い杭
(新字旧仮名)
/
岡本綺堂
(著)
風も
斂
(
や
)
まつて林の中は
森
(
しん
)
として居た。烏が一羽、連れから離れたやうに、「があ、があ。」と啼きながら奥山の方へ飛んで行つた。
厄年
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
外には冬らしい風がさら/\と吹いてゐる様子であつたが、家の中は
森
(
しん
)
として、一間隔てた六畳から伯母のかすかな
鼾
(
いびき
)
が聞こえてゐた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
▼ もっと見る
召使達ももう就寝したのであろう、邸内は
森
(
しん
)
と静まり返っていた。空には一面の星明り、少しも風のない、異様に物静かな夜であった。
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
銀泥のふすまに
滅入
(
めい
)
りこむような
灯
(
ひ
)
が更けております。水の底かと思われるばかり
森
(
しん
)
とした本丸の深殿に、吉宗はまだ起きている。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
少女
(
むすめ
)
はぬけろじを出るや、そっと左右を見た。月は中天に
懸
(
かゝっ
)
ていて、南から北へと通った此町を隈なく照らして、
森
(
しん
)
としている。
二少女
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
仕方なしに
外部
(
そと
)
から耳を
峙
(
そばだ
)
てたけれども、中は
森
(
しん
)
としているので、それに
勢
(
いきおい
)
を得た彼の手は、思い切ってがらりと戸を開ける事ができた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
弘雄は、桜の造花を一輪胸先に飾つて演壇に現れ、水底のやうに
森
(
しん
)
と静まつた薄闇の中で、おもむろに講演をすゝめてゐた。
サクラの花びら
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
四邊は
森
(
しん
)
と靜まり返つてゐて、雨はもう止んでゐた。空には、形もない、色もない雲が、明状し難い
微
(
ほの
)
めく光りを包んでゐるやうに思はれた。
氷島の漁夫:01 氷島の漁夫
(旧字旧仮名)
/
ピエール・ロティ
(著)
しばらく門の前に立つて、もう
森
(
しん
)
と静まり返つた通りの右左を、闇の中へ消えて行く小石まじりの道をぼんやり眺めてゐた。
荒天吉日
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
『
始
(
はじめ
)
から
終
(
しまひ
)
まで
間違
(
まちが
)
つてる』と
斷乎
(
きつぱり
)
芋蟲
(
いもむし
)
が
云
(
い
)
ひました。それから
双方
(
さうはう
)
とも
口
(
くち
)
を
噤
(
つぐ
)
んで
了
(
しま
)
つたので、
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
又
(
また
)
森
(
しん
)
としました。
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
この広くもなさそうな寮のうちは
森
(
しん
)
として、たとえいくら
間
(
ま
)
をへだてていても、今の斬合いが、三人の耳へはいらないはずはないのだけれど。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
森
(
しん
)
とした夕景に物音一つしなかった。彼は家々に灯の点くまで前に佇んでいたが、心待たれる和歌子の声一つしなかった。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
然し群集は、
却
(
かえ
)
って非常な親しみを以て、兵卒の前の焚火の廻りに集まった。警察は
森
(
しん
)
として音も立てない。兵卒は退屈らしく
欠伸
(
あくび
)
をしていた。
四谷、赤坂
(新字新仮名)
/
宮島資夫
(著)
夜
(
よ
)
は
森
(
しん
)
として
居
(
ゐ
)
た。
雨戸
(
あまど
)
が
微
(
かす
)
かに
動
(
うご
)
いて
落葉
(
おちば
)
の
庭
(
には
)
を
走
(
はし
)
るのもさら/\と
聞
(
き
)
かれた。お
品
(
しな
)
の
身體
(
からだ
)
は
足
(
あし
)
の
方
(
はう
)
から
冷
(
つめ
)
たくなつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
線香花火のようにそれらの文句が
点
(
つ
)
いたり消えたりした。伸子は、彼が事実をかくしていた一日の間の心持などを考え、
森
(
しん
)
とした気持になった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
時々起るその合唱をほかにしては、
森
(
しん
)
としたもので、空気全体がどこの温泉場も同じように、温かでしっとりしている。その時また、だしぬけに
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それを数えつくしたときに、内部に残ったうなぎの肌のようにぬらぬらした生きものの、長くとぐろを巻いた水が
森
(
しん
)
として目にうつってきたのである。
香爐を盗む
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
咆哮
(
ほうこう
)
し終ってマットン博士は卓を打ち式場を
見廻
(
みまわ
)
しました。満場
森
(
しん
)
として声もなかったのです。博士は続けました。
ビジテリアン大祭
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
昼寝をしていた
宰予
(
さいよ
)
は、いい気持になって眼をさました。あたりは
森
(
しん
)
としている。彼は大きく背伸びして、欠伸を一つすると、のろのろと寝台を下りた。
論語物語
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
少し離れて、お雪も朱塗りの枕をして、
団扇
(
うちわ
)
を顔に当てながらぐったり死んだようになっていた。部屋のなかには涼しい風が通って近所は
森
(
しん
)
としていた。
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
仏参
(
ぶつさん
)
に行つた家族のものは、まだ帰つて来ない。内の中は
森
(
しん
)
としてゐる。彼は陰気な顔を片づけて、水滸伝を前にしながら、うまくもない煙草を吸つた。
戯作三昧
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
向うに
森
(
しん
)
として小暗い杉の樹立を配して、それはいかにも美しく生き生きと春を描きだしているようにみえた。
日本婦道記:桃の井戸
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
家
(
うち
)
の内
森
(
しん
)
として折々
溜息
(
ためいき
)
の声のもれるに私は身を切られるより情なく、今日は一日断食にせうと父の一言いひ出すまでは忍んで息をつくやうで御座んした。
にごりえ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
突然
銃声
(
じゅうせい
)
が響いた。唯一発——あとはまた
森
(
しん
)
となる。日光恋しくなったので、ここから引返えし、林の出口でサビタの杖など
伐
(
き
)
ってもらって、天幕に帰る。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
村人の帰った後のこととて、あたりは
森
(
しん
)
として、カチカチという時計の音が胸を
抉
(
えぐ
)
るように響き渡りました。
安死術
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
来客があったと見えて、方々の部屋には灯がついていましたが、夜が更けていたので中は
森
(
しん
)
としていました。
鉄の処女
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
店の内外はゴッタ返す騒ぎ、それをかきわけて入ると、奥は思いの外
森
(
しん
)
として、主人七兵衛の死体には、若い女房のお
峯
(
みね
)
と奉公人の
釜吉
(
かまきち
)
が付いているだけ——。
銭形平次捕物控:034 謎の鍵穴
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
其の裡に室内の談合は旨く
鳬
(
けり
)
が付いたものと見え、
森
(
しん
)
と鎮まって居りました。女の事はどうしたんだろう。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
海に面した二階の一室に通されて、やれ/\と腰を下すと
四邊
(
あたり
)
に客も無いらしくまつたく
森
(
しん
)
としてゐる。
熊野奈智山
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
雨はやみ、風は起らず、鳥も歌わない、虫も鳴かねば、水音も聞えぬ、一行の
興
(
きょう
)
じ声が絶えると、
森
(
しん
)
として無声、かくも
幽寂
(
さび
)
しき処が世にもあろうかと思われた。
穂高岳槍ヶ岳縦走記
(新字新仮名)
/
鵜殿正雄
(著)
彼はぼんやり佇立したまま
森
(
しん
)
としたその明るさを眺めていたが、その明るさが妙に白々しく見え出して、だんだん背すじに水を注がれるような凄味を覚え始めた。
いのちの初夜
(新字新仮名)
/
北条民雄
(著)
私は詰め所からうかうか出て苑内深く
逍遙
(
さまよ
)
って行った。あたりは
森
(
しん
)
と静かである。誰も咎める者もない。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
わたしは先刻大きな声を出してしまつた以上、襖をガラリと開けて、わたしの正当をうんと主張して聴かせてやらうと思つたのだが、襖の向ふは奇妙に
森
(
しん
)
としてゐる。
愚かな父
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
其戸を開けると、「石本か。」ツて云ふのが癖でしたが、この時は
森
(
しん
)
として何とも云はないんです。
雲は天才である
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
されど
森
(
しん
)
として声を立つるものなし。
弟子衆
(
でししゅう
)
枕
(
まくら
)
もとに寄る。代わる代わる親鸞のくちびるをしめす。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
彼も私も二人共離れてゐるより添つてゐる方がより幸福なのに何でそんなことをする必要があらう? パイロットは私共の傍に横になつてゐた。邊りは
森
(
しん
)
としてゐた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
やがて説教がすんで大勢がゾロゾロ寺の門を出て来た時には、町はもう
森
(
しん
)
としてゐて、寺から三四町も離れると、一緒に寺を出た人もちり/″\になつてしまひました。
嫁泥棒譚
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
両親の許しを受けて娘が書物を読み初めると、
室
(
へや
)
中の者は、
皆
(
みんな
)
水を打ったように
森
(
しん
)
となりました。
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
そして、連隊本部のちょっと手前になった、朝夕
喇叭
(
ラッパ
)
を吹く
辺
(
あたり
)
まで往くと、不意に消えたような
森
(
しん
)
となってしまい、兵営は何事もなかったように元の静けさにかえるのであった。
戦死者の凱旋
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
何程
(
どれほど
)
の
甘味
(
うまみ
)
のあると云ふではないが、
寂
(
さび
)
のある落ちついた節廻しは一座を
森
(
しん
)
とさせることが出来た。金太郎と云ふ芸者がひよつとこ踊でよく喝采を博した。おもちやは
鼓
(
つづみ
)
をうつ。
二黒の巳
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
幕の後から覗く百姓の群もあれば、
柵
(
さく
)
の上に登って見ている子供も有ました。手を
拍
(
たた
)
く音が
静
(
しずま
)
って一時
森
(
しん
)
としたかと思うと、やがて
凛々
(
りり
)
しい能く徹る声で、誰やらが演説を始める。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
私は戦慄に顫えながらも、益々注意深く、
森
(
しん
)
とした夜空の下を滑りつづけて行った。
寒の夜晴れ
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
浮島の黄ろく枯れた蘆の根もとに紅色の水ゆらゆらと流るる時分、
空
(
くう
)
より湧いて清い一と声、秋の夕の
森
(
しん
)
とした空気を破って、断続の
音波
(
おんぱ
)
が
忽
(
たちま
)
ち高く忽ち低く蘆の一葉一葉を震わして
漁師の娘
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
想えば想うほど不思議になった。——この部屋がたちまち非常に
森
(
しん
)
として来た。身を起して
灯火
(
あかり
)
を点けると室内はいよいよ静まり返った。そこでふらふら歩き出し、門を閉めに行った。
明日
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
あんまり
森
(
しん
)
とした海なので、まるで畳のようだと云うと、子供がこんな
黄昏
(
たそがれ
)
を鯛なぎと云うのだと教えてくれた。鯛が入江へ這入って来る頃は、海が森となぎて来るのだと云っていた。
田舎がえり
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
『
貴女
(
あなた
)
の御一身は
私
(
わたくし
)
が御引き受け致しました、御安心なさい』と仰しやつた御一言が、
森
(
しん
)
と骨にまで
浸
(
し
)
み
徹
(
とほ
)
りましてネ、有り難いのやら、嬉しいのやら、訳なしに涙が
湧
(
わ
)
き出るぢやありませんか
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
邸内は
寂
(
せき
)
として鎮まり返っていた。応接間の時計が十二時を打つと、その音が部屋から部屋へと反響して、やがてまた
森
(
しん
)
となってしまった。ヘルマンは火のないストーブに
凭
(
よ
)
りながら立っていた。
世界怪談名作集:03 スペードの女王
(新字新仮名)
/
アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン
(著)
森
常用漢字
小1
部首:⽊
12画
“森”を含む語句
森閑
森厳
森羅万象
森然
森林
森中
森々
陰森
大森
森下
森鴎外
森有礼
富森助右衛門
杉森
青森
森川町
狼森
森端
森田座
森川
...