すもも)” の例文
掘起した土の中からは、どうかすると可憐かれん穎割葉かいわればすももの種について出て来る。彼は地から直接じかに身体へ伝わる言い難い快感を覚えた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すっかり涙で洗われた顔は、新鮮なすもものように紅くなって、十九娘のむせ返るような魅力が何んとも言いようの無い匂いをき散らします。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
五尺そこそこの小男で右額にすももほどのこぶがある。「瘤の源十」といって、秀之進もよく知っている左近側近の名物男だった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その片隅に、竹藪があり、竹藪のそばに四五本のすももの木があって、白い花が咲いていました。阮東はその花の下で、熱い涙を流して泣きました。
そのうえ、砂糖づけのすもも、桃、なし、まるめろの実が、見ごとにいく皿もならび、にしんの照り焼、とりの蒸し焼はいわずもがな。
固體の移動、照明のための液體の變化、半分減つた果物皿の中で緑から青へ、それからまた青から金へと移るすももの變化
プルウスト雑記:神西清に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
林の入口に別荘風の家が見えて、そのまわりに桃とすももの花が一面に咲いていた。暖かな風が吹いて花の香を送ってきた。
崔書生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
パジョオルに従えば、この手のダニが二匹もいれば、子供の頭ぐらいすもものように食べてしまうというのだ。彼は、そいつをにんじんのてのひらへのせた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
牢獄ひとやのような大きな構造かまえの家がいかめしいへいを連ねて、どこの家でも広く取り囲んだ庭には欝蒼うっそうと茂った樹木の間に春は梅、桜、桃、すももが咲きそろって
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「桃やすももは、物を言わないのに木陰にはひとりでに道ができる。」昔の人はこんな事を言って侵略的宣伝を否定した。
神田を散歩して (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山かがしがとぐろまいてた のとおどかしておいてから人をすももの木の蔭に目をつぶらせてどこかへかくれてしまふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
園生は、一重の垣を隔てて、畑造りたる裏町の明地あきちに接し、すももの木、ぐみの木、柿の木など、五六本の樹立こだちあり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
始めこの鳥籠を据える時に予は庭にあったすももの木の五尺ばかりなのを生木のままで籠の中に植えさした。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
爾来じらい庭は春になると、見慣れた松や柳の間に、桃だのあんずだのすももだの、雑色の花を盛るやうになつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
信州では、梅、桃、桜、あんずすももといふやうな、春の花がいつときに咲き出すと言はれてゐます。
果物の木の在所 (新字旧仮名) / 津村信夫(著)
それは白いすももの花の咲きほころぶ春、お寺の門をひらいて、町の人々を庭園に自由に出入させ、そして機械でうごく人形や馬や犬などを庭園に出して、見物させるのであった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これひとつは生梅あるいは不熟のすもも等には時として青酸といえる大劇毒のあるに因る。青酸毒は一滴を吸入しても人をして昏倒せしむ。青酸中毒はすみやかに食物を吐出せしむるが肝要なり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
常見てはありとも見えぬあたりに、春来ればすももや梅が白く、桃が紅く、夏来れば栗の花が黄白く、秋は其処此処に柿紅葉、白膠木ぬるで紅葉もみじ、山紅葉が眼ざましくえる。雪も好い。月も好い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すももの様に赤くて丸くてすべっこい顔のお嬢さんが、それから、それからと、九人のユニフォームが一二間おきに続いて、ドン尻には、たるの様な肥満紳士が、横に転がった方が早いくせに
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大田蜀山人の「壬戌じんじゅつ紀行」に木曾街道の奈良井の宿のありさまを叙して「奈良井の駅舎を見わたせば梅、桜、彼岸ざくら、すももの花、枝をまじえて、春のなかばの心地せらる。駅亭に小道具を ...
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
見ると四角やまる曲物まげものの底に、金山寺味噌のようなものを入れて、其上に梅、桃、すももなどの紅や白の花を置き並べたものであるが、蕾もあり開いたものもあり、それを或は扇形、或は菱形
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
児太郎は、あおざめた顔をゆがめ、悪いことをしたときの窮屈な冷笑をうかべながら、馬刺剣を庭木の肌を目がけ投げつけた。すもものいらいらした肌にぴいんと立ち、蜻蛉かげろうのように震え、やがて停った。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
連翹れんぎょうすももの花で囲まれた農家や、その裾を丈低い桃の花木で飾った丘や、朝陽を受けて薄瑪瑙色うすめのういろに輝いている野川や、鶯菜うぐいすなや大根の葉に緑濃く彩色いろどられている畑などの彼方あなたに、一里の距離へだたりを置いて
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
る雲の底を抜いて、小一日こいちにち空を傾けた雨は、大地のずいみ込むまで降ってんだ。春はここに尽きる。梅に、桜に、桃に、すももに、かつ散り、かつ散って、残るくれないもまた夢のように散ってしまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春遅い山国信濃も桜桃すもも一時に咲き一時に散つてやまべとなる。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
もう春もすもももめちやくちやな妄想の網にこんがらかつた。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「みんな見ろ。あすこにすももがなつてるよ。」
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
桜の実、山桃さんとうの実、大いなるすももの実
すもも盛る見世みせのほこりの暑かな 万乎まんこ
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
黄ばんだ竹の林、まだ枯々とした柿、すもも、その他眼にある木立の幹も枝も、皆な雨に濡れて、黒々ときたな寝恍顔ねぼけがおをしていない物は無い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
春になるとお儒者のやうな玄関のまへにあるすももの木が雲のやうに花をつけ、その青白い花がまばゆく日に照されてすーんとした薫があたりにただよふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
湖畔の低い丘陵の丸くなめらかな半腹の草原には草花が咲き乱れ、ところどころにすももやりんごらしい白や薄紅の花が、ちょうど粉でも振りかけたように見える。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
節句のちまき貰いしが、五把ごわうちささばかりなるが二ツありき。あんず、青梅、すももなど、幼き時は欲しきものよ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、花といふ者必ず桜花なるを要せず、梅、桃、すももあんず固より可なり。他季の花を用うるまた可なり。花と言はずして桜といふ固より可なり。各人の適宜に任すべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
金粉をまき散らしたような西の空にあかがどんよりとかくれた。そこここの人家の門口かどぐちに咲いていたすももの花も灰色になった。きれいなかごは郊外にある大きな邸宅の門へ入った。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが、小さいのなら、なまで食うぜ。そら、すももについてる奴よ、いってみりゃ……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
寺の地面うちだけでも、松、杉、かえで銀杏いちょうなどの外に、しいかし、榎、むくとちほおえんじゅなどの大木にまじって、桜、梅、桃、すもも、ゆすらうめ、栗、枇杷びわ、柿などの、季節季節の花樹や果樹があった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
東京は桜の盛、車も通れぬ程の人出だった、と麹町まで下肥しもごえひきに往った音吉の話。村には桜は少いが、それでも桃が咲く、すももが咲く。野はすみれ、たんぽゝ、春竜胆はるりんどう草木瓜くさぼけあざみが咲き乱るゝ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すもものグラスカスター 冬付録 病人の食物調理法の「第五十八 すもも同」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「嘉助がよく御厄介に成ったもんですから、帰って来てはその話サ——柿だの、すももだの、それから好い躑躅つつじだのが植えてあるぞなしッて」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
冬籠ふゆごもりの窓がいて、のきひさしの雪がこいがれると、北風に轟々ごうごう鳴通なりとおした荒海の浪のひびきも、春風の音にかわって、梅、桜、椿つばき山吹やまぶき、桃もすもも一斉いちどきに開いて、女たちのまゆ、唇
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
シロップは先日もお教え申したように桃でも梅でもあんずでもすももでもなしでも牡丹杏ぼたんきょうでも林檎りんごでもいちごでも何でも水気を付けずに皮をいてザラメ糖か角砂糖を振かけて半日ほど置くと砂糖が溶けて菓物の液を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すもも
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
四月の二十日頃に成らなければ、花が咲かない。梅も桜もすももほとんど同時に開く。城址の懐古園かいこえんには二十五日に祭があるが、その頃が花の盛りだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つめたい酢の香がぷんと立つと、瓜、すももの躍る底から、心太ところてんが三ツ四ツ、むくむくと泳ぎ出す。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第五十八 すもも同 これも煮て裏漉しにして一杯半入れます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いかなる人に聞かせるために、いかなる人の原作したものとも知れないような古いうたの文句が、熟したすもものように色のめ変った女の口唇くちびるから流れて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水は悪いし、流元ながしもとなんざ湿地で、いつでもじくじくして、心持が悪いっちゃあない。雪どけの時分ころになると、庭が一杯水になるわ。それから春から夏へかけてはすももの樹が、毛虫で一杯。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
台所の戸に白いすももの花の匂うもわずかの間です。山家の春は短いもので、すし田楽でんがくよ、やれそれと摺鉢すりばちを鳴しているうちに、若布売わかめうりの女の群が参るようになります。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
桑の芽の萌黄もえぎに萌えつつも、北国の事なれば、薄靄うすもやある空に桃の影のくれないみ、晴れたる水にすももの色あおく澄みて、の時、月の影も添う、御堂みどうのあたり凡ならず、はた打つものの、近く二人、遠く一人
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)