)” の例文
細君のうなる声が絶間たえまなく静かな夜のへやを不安にき乱した。五分経つか経たないうちに、彼女は「もう生れます」と夫に宣告した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一つの混同は外聖霊ほかしょうりょう、土地によって無縁とも餓鬼がきとも呼ぶものが、数多く紛れ込んで村々の内輪の団欒だんらんき乱すことであった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
冷した珈琲はやっぱり平日いつもの通り小匙二杯の珈琲へホンのすこしの水と玉子のからを二つぶり細かく砕いて入れて火の上でき廻しながらせんじます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その冷す間に麦芽もやしを入れてよくこれをき混ぜ、壺に入れてこうじを寝かすような具合にして三日位経ちますと、それが全く麹に変じてしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これをき壊すには極端な反撥はんぱつが要った。それ故、一般に東京のモダンより、上方のモダンの方が調子外れで薬が強いとされていた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一ト幕ばかり芝居の立ち見をして、家へ帰った時には、笹村の頭は前よりも一層き乱されたような状態にあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
霊魂の底までき乱された聴衆は、曲が済むと浪のやうな喝采を浴びせかけた。そのなかでエルマン一にんは真青な顔をして石のやうに黙りこくつてゐた。
とうとう倉地も自分の手からのがれてしまった。やる瀬ない恨みと憤りが目もくらむほどに頭の中をき乱した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼の頭の中には疑心と憂鬱と焦慮しょうりょと情熱が、まるでコクテイル・シ※ークのようにき廻された。彼は何をしでかすか解らない自分に、監視の眼を見張りだした。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
僕はただもう、そういう放送によってエーテルの世界が騒々そうぞうしくきまわされることがいやでたまりませんでした。僕は反感的に放送を聴くことを忌避きひしていました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
スッカリ神経をき乱された私は、もう二度と「足の夢」を見まい……今朝けさみたような気味のわるい「自分の足の幻影」にチョイチョイ悩まされるような事になっては
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
参右衛門は杓子しゃくしき廻しているうち、鍋の汁は次第にとろりとした飴色の粘液に変って来る。
攘夷をとなえ、人心をきみだしてきた彼ら公卿や浪人どもは、もはや、その責任を完うするだけの良心を有していなかったのである。明治政府は、背信の政府であった。
... いゝえ!』といたましげなこゑあいちやんがさけびました、『またさはつたかしら!』ねずみいけみづみだし、一生懸命しやうけんめいおよらうとするのを、あいちやんはしづかにめました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「お館は御機嫌に御座なさるるぞ。なんのおつつがもなく御指揮に当っておられる。——敵の虚言に乗せられて、味方の戦意をみだすが如き者あれば、味方といえ斬って捨てい」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の魂としても、感じ易く、わななき易い——そして、これまで、押え押えて来て、一ぺんも、激しくき立てられたことがないにもせよ、青春の、熱い血しおは、心臓にみなぎっているのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
夫人はもはや死んでらぬし、谷村の復讐を遂げたという安心を今更きみだしたくないからね。せい子さんに確証だと言ったのは、せい子さんにとって確証であってほしいだろうと思ったからさ。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
きまわされる不安のなかに次第に凝固する恐怖があったのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
真率なる快活なる宗近家の大和尚だいおしょうは、かく物騒な女があめしたに生をけて、しきりに鍋の底をき廻しているとは思いも寄らぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四つ入れてよくぜてそれからベシン皿へでもあるいは丼鉢どんぶりばちへでも入れてほかのプデンのようにテンパンへお湯をいでその中へベシン皿を
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
春先の陽気の定めもなく、空はにわかに曇って来て、銀灰色の満天に、茶筅ちゃせんの尖で淡くき混ぜたような白濁の乱れ雲が渦を撒き散らしております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と言ひ/\、片手を髪の毛のなかに突つ込んで、なかから兎でも追ひ出すやうに、やけきまはす。
葛湯くずゆを練るとき、最初のうちは、さらさらして、はし手応てごたえがないものだ。そこを辛抱しんぼうすると、ようやく粘着ねばりが出て、ぜる手が少し重くなる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
カスターソースは御存知の通り玉子の黄身四つへ大匙三杯の砂糖をよく混ぜて一合の牛乳を少しずつして行って湯煎ゆせんにして暫らくまわしたのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
不必要ではないが、かく世の中が忙しくなって人間の心が刺激にみだされる時代に、さとろうとする修業なんかしている暇がないのだというのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この物音が例の男と女の会話をき乱したため、敬太郎の好奇心もちらつく剣の光が落ちつくまで中途に停止していた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから別に煮てある赤茄子を裏漉うらごしにすると液も身も沢山出ますからんな一緒に今の白湯へ加えてよくぜて塩と胡椒とホンの少しの砂糖で味を付けます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
寂莫たる天地は何のき乱さるる様子もなく、天地創ってこのかた、たそがれちょうものの待つ
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼らの争いはくこういう所から起った。そうして折角穏やかに静まっている双方の心をき乱した。健三はそれを慎みの足りない細君のせめに帰した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神将のB ——して見ると阿難の美しさは感情をきまわす器械でお釈迦さまの美しさは感情の水し器械だ。阿難の器械はそこらにざらにあるが、世尊の器械は専売特許だ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一房ひとふさしぼっては、文芸倶楽部ぶんげいくらぶの芸者の写真を一枚はぐり、一房しぼっては一枚はぐる。芸者の絵が尽きた時、彼はコップの中をさじき廻して妙な顔をしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まわされて濃くなった部屋の空気は、サフランの花を踏みにじったような一種の甘いあやしい匂いにち、肉体を気だるくさす代りに精神をしばしば不安に突き抜くほど鋭くひらめかせた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
合間合間には幕のうしろ拍子木ひょうしぎを打つ音が、まわされた注意を一点にまとめようとする警柝けいたくように聞こえた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなに執拗に取組まなければ愛情の吐け口を得られない兄弟の運命や性格の原因をどこへ持つて行つたらいゝか、その詮索せんさくをするのさへいま/\しいほど、心を不快に底からき廻された。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
千代子は面白半分それを受取って水の中で動かそうとしたが、動きそうにもしないので、高木はおのれの手を添えて二人いっしょにかごの中を覚束おぼつかなくき廻した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手応てごたえのない所に、新らしい発見のあるはずはなかった。彼女は書き古したノートブックのようなものをいたずらにまわした。それを一々読んで見るのは大変であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天水桶てんすいおけぜたくらいの価値はその色の上において充分あらわれている。これからが化物の記述だ。大分だいぶ骨が折れる。天水桶の方に、突っ立っている若造わかぞうが二人いる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乗り込んで来るのは真昼間まっぴるまである。鍋の底からは愛嬌あいきょういて出る。ただようは笑の波だと云う。ぜるのは親切の箸と名づける。鍋そのものからがひんよく出来上っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同時にこの頭の働らきをき乱す自分の周囲についての不平も常時ふだんよりは高まって来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
めたりと云うには余りおぼろにて、眠ると評せんには少しく生気せいきあます。起臥きがの二界を同瓶裏どうへいりに盛りて、詩歌しいか彩管さいかんをもって、ひたすらにぜたるがごとき状態を云うのである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一だいちああ忙がしくしていちゃ、頭の中に組織立ったかんがえのできるひまがないから駄目です。あいつの脳と来たら、ねん年中ねんじゅう摺鉢すりばちの中で、擂木すりこぎき廻されてる味噌みそ見たようなもんでね。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
博士論文を書いたあとは後代を驚ろかすような大著述をして見せる。定めて愉快だろう。しかし今のような下宿住居で、隣り近所の乱調子に頭をき廻されるようではとうてい駄目である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胸の中を棒でぜられるような、また胃のが不規則な大波をその全面に向って層々と描き出すような、な心持にえかねて、とこの上に起き返りながら、吐いて見ましょうかと云って
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余の浩さんにおけるもその通り。浩さんはどこへ出しても平生の浩さんらしくなければ気が済まん。擂鉢すりばちの中にき廻される里芋さといものごとく紛然雑然とゴロゴロしていてはどうしても浩さんらしくない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は二人の月給を机の上にごちゃごちゃにぜて、そのうちから二十五銭の月謝と、二円の食料と、それから湯銭若干そくばくを引いて、あまる金をふところに入れて、蕎麦そば汁粉しるこ寿司すしを食い廻って歩いた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
き廻した手をあごの下へかって依然として浮かぬ様子をする。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)