)” の例文
設けられてある主人のしとねに坐るまえに、彼は、神榊みさかきの下に坐して、両手をつかえ、また退って、次の間の仏壇へもうでてをあわせた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小宰相は自身の分を紙に包み、宮へもそのようにして差し上げると、美しいお手をお出しになって、その紙でをおぬぐいになった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうと、外套の袖口と、膝の処が泥だらけになりおれども、顔面には何等苦悶のあとなく、明け放ちたる入りきたる冷風に吹かれおり。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
少年はちょっとためらったが、五郎は無理にに押しつけた。少年が立ち去ると、五郎は自分の在り金を全部つかみ出して勘定した。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
佐々が気づいたとき、最先まっさきに感じたのは恐ろしい眩暈めまいであった。脳味噌が誰かののうちにギュッと握られているような感じだった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてじいっと、他の花の花粉を浴びている、その柱頭に見入っていたが、しまいには私はそれを私のみくちゃにしてしまった。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ふねなかでも、二人ふたりは、おじいさんからもらった銀貨ぎんかして、かわるがわるそれをうえにのせては、ひいたわせてのぞきながら
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はじめは、メディチのヴィナスのように、片手を乳の上に曲げ、他の伸ばしたほうのを、ふさふさとした三角形デルタ陰影かげの上に置いた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
平次はその酒を嗅いでみましたが、もとより何んの臭ひがあるわけではなく、たらしてめて見ても、味に何んの變りもありません。
そして十間ばかり先に止って、石の壁にもたれてじっと頭をの中に垂れた。群集は、小路の入口に立ち止ってひしめき合った。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そうして吟々いっている母親と私とのまん中に突っ立ったまま、「まあまあ、どちらも静かにおしやす」と、両方ので抑える形をして
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
老人は袋のようなサイマの水路を自分のみたいに心得ていて、そしていつも船橋に立ってアナトウル・フランスを読んでいた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「うむ。思っているのは半年ばかり前からだけれど、一切手がかりがない。君の力で何とかしてくれ。この通りを合せて頼む」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「パルプといやはるのは、へえ、この木っぱだすかいな。」と誰かが、その木っぱの二、三片をその生っ白いの上でザラザラとあけた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ミチェンコは、すこしおどけて、大きいのひらを片方の耳のうしろにあてがって眼玉を大きくし、画面に向って耳をすます様子をした。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
小銭を、荒びたに落してやって、乾いた下駄の響きを立てて、つと、横町に曲る。これを真直ぐゆけば、三斎の角屋敷の横に出るのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
突差にねらいをきめて、うたなければならない。彼は、銃をの上にのせるとすぐ発射することになれていた——それで十分的中していた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
薬の錫を持ったなり、浴衣の胸にを当てて、その姿を見たが、通りがかりの旅人に、一夜を貸そうと云った矢先、巽は怪む気もしないで
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ショボショボしたような目、カッ詰ったような顔、蒼白い皮膚の色、ザラザラするや足、それがもう目に着くようであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
町のかどごとに立って胡弓きがひく胡弓にあわせ、鼓を持った太夫たゆうさんがぽんぽんと鼓をのひらで打ちながら、声はりあげて歌うのである。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
やすはのんびりと庭をながめてからとこのほうへ立って行って、青磁の安香炉をに受けて勿体らしくひねくりはじめた。滋子はイライラして
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何事に依らず、人の或る時間を埋めて行くには、心の中にせよ、或はの上にせよ、何ものかを持つてゐなければ居られぬ。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして、正勝は死骸にしゃがみ込んで、そこに落ちていた短刀を取り、まずそれを蔦代のを押し開いてその中に握らせた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
拡げている妻のの上に置き、妻が出てくのを見て、ようやく机に向ったが、彼の頭の中は薪駄っぽの事で一杯だった。
幸福な家庭 (新字新仮名) / 魯迅(著)
鴈治郎はとしよつた尼さんのやうな寂しさうな眼もとをして、をふつた。そのは女の涙を拭いてやるために態々わざ/\拵へたやうに繊細きやしやに出来てゐた。
ただ、これがすべて喧嘩屋夫婦の扱いと知って、喬之助は、何にもいわぬ、これだ——とを合わせんばかりに感謝する。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
白い球が、固い音を立てて道にはずみ、女のと路面とを往復する。ふと、球が横にれた。彼は、それを拾い上げた。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
しかも、背中を突ッついても石っころのように堅くねむってでもいたようなのが、餌を見ると猛然と首を伸してかぶりつき、ひろげておさえる。
彼はしゃがんでを合わせ、ひたいをその上にのせて眼をつぶった。そして、このごろ忘れがちになっていた母の顔を、一心に思い浮かべようとした。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
まつろうへ、おのがをかぶせた春重はるしげは、あわてて相手のぐるみ裏返うらがえして、ほっとしたようにまえけた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
を合せて、あわや身を躍らして飛込もうとするうしろから、「これ待ちなさい」と多助を抱留めました。此の者は善か悪か次囘に申上げましょう。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金庫へしまおうとして、に載せた感触が、どうもおかしいなと気が付いて、よくよく見たら色といい形といい、似ても似つかぬ偽物だったのです。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しゃんしゃんしゃんと打つの音が何か子供のふざけ事のように楽しく響くのをかやもいねも嬉しげに眺め、いねは一升徳利どっくりを持って酒屋へ走った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
彼女はの中に男の腕をはさんでひきよせていた。ほどけた真田紐さなだひもを丁寧に巻きつけている女の容姿もやつれていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
南無阿弥陀仏と合はすの、嘘か真実を試さむと。やつと声掛け、斬る真似しても。びくとも動かぬその身体は。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ちんまりした鼻の頭にあせき、もどって来ると、ぼくのに、写真をわたし、また駆けて行ってしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
と嫂は苦しそうな息の中で言って、次郎の方へせ衰えた手を差延した。祖母さんはその側にひざまずいたまま死んで行く自分の娘の方を見てを合せていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こゝろのうちではほんに/\可愛かあいいのにくいのではありませぬ、あはせてをがまぬばかりかたじけないとおもふてりまする。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此のデンマークの土も、海も、民も、やがては君のに渡されるのです。わしたちは、いま協力しなければいけません。わしを愛してくれとは申しません。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
お地蔵様のように捧げた片手のの上に、なにか崩れた豆腐のようなものを持って見るからに蹌踉そうろうとした足取りで線路の方へ消えて行った、と云うのだった。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして最初に見つけた花屋の前で、に鳴らしていた銀貨を二つほうりだして、一番手近な花束を一つ買った。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
が、それは、ほんの一瞬間のことで、先生はそのかたまりを右のの中へしっかり握りこんでしまわれました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
遮二無二しゃにむにかじり付いてくる少年の前額おでこをかけて、力任せに押除おしのけようともがいているうちに、浅田の夢は破れて、蚊帳かやを外した八畳の間にぽっかりと目をさました。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
和尚はそれも捉えて鉄鉢にいっしょに入れ、の袈裟を上からかけて封をし、それを携えて帰りかけたので、豊雄はじめ一家の者はをあわせ涙を流して見送った。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もろもろ仁者じんしゃを合せて至心に聴き給へ。我今疾翔大力しっしょうたいりきが威神力をけて梟鵄救護章の一節を講ぜんとす。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
編物よりか、心やすい者に日本の裁縫を教える者が有るから、昼間其所そこへ通えと、母親のいうを押反して、幾度いくたびか幾度か、を合せぬばかりにして是非に編物をと頼む。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と夢の中で叫んで彼女は咽喉のどの辺りへ手をやった。天井から水がしたたって咽喉に落ちたように思ったからである。はたして咽喉は濡れていた。水がベットリとに付いた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
眼は宙に引つつりを固く握りしめて、文字通り今にも呼吸が断れようとしてゐるのである。
癩を病む青年達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
パトラッシュはネルロの心持を悟って、鼻先をネルロのうちに押しつけ、どうか、自分のためなら心配してくれるな、なにもいらぬからと、頼むような様子をみせました。
禅師はとくとの上で見済ました末、それではき足らぬと考えたと見えて、鼠木綿ねずみもめんの着物のそでを容赦なく蜘蛛くもの背へこすりつけて、光沢つやの出た所をしきりに賞翫しょうがんしている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)