按摩あんま)” の例文
按摩あんまつゑちからに、かはべりの水除みづよづゝみると、つゑさき両手りやうてをかけて、ズイとこしばし、みゝそばだてゝかんがえて様子やうす、——とふ。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おばあさん、よくかんがえてみるがいい。こんな子供こどもがあったら、どれほど、うちやくにたつかしれないぜ。」と、按摩あんまはいいました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
火鉢の灰をならして置いたのも變だし、そのくせ按摩あんまの家の火鉢に小判を隱したのも尻の割れる事をわざとやつたやうぢやないか。
戦争中、物資不足で口にはいるものなら按摩あんまの笛でもよい、といっていた時代に、神田のタナゴ釣り新年会で、千葉県大和田へ行った。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
肩の凝るのは幼少の時からの痼疾こしつだったがそれが近ごろになってことさら激しくなった。葉子はちょいちょい按摩あんまを呼んだりした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「オヤ! これでもまだ笑わねえナ。よし、それでは……と、アそうだ、こんどは、按摩あんまが犬にほえられて立ち往生の光景! ハッ!」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
按摩あんまを頼んでもませてみたり、ご祈祷を近所の人がやって来て上げてくれたりした。ついでに清三もこのご祈祷を上げてもらった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夫は昔から見知らぬ人間に足腰をませたりすることが嫌いなたちで、今まで按摩あんまやマッサージの類に体をさわらせたことはないのである。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下部しもべらもこのおとにみなはせよりて、くづれおちたる雪にまみれたる人を見れば、此家へも常にきたる福一といふ按摩あんまとりの小座頭こざとう也けり。
和十は河東節かとうぶしの太夫、良斎は落語家、北渓は狩野かの家から出て北斎門に入った浮世絵師、竹内は医師、三竺、喜斎は按摩あんまである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
よし口に出して言はなからうともお前に思ふ事がある位めくら按摩あんまに探ぐらせても知れた事、聞かずとも知れてゐるが、それをば聞くのだ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
繃帯ほうたいを取替へるとか、背をさするとか、足を按摩あんまするとか、着物や蒲団の工合を善く直してやるとか、そのほか浣腸かんちょう沐浴もくよくは言ふまでもなく
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
提灯もけずにこの夜中を一人で歩いて来るのは、不思議に似て不思議にあらず、これはやはり杖をついた按摩あんまでありました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
按摩あんまから聞いた……実際住んで見ると、いろいろなことが出て来るね……住み憂くない場所というものは全く少いものだね……
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その日の旅で身体の節が硬くなったような気がした私は按摩あんま、即ちマッサージ師を呼びむかえた。彼は深い痘痕あばたを持つ、盲目の老人であった。
もう十日の余もいて、町の人の生活状態も解っていたし、宿の人たちのことも按摩あんまなどの口から時々に聴き取って、ほぼ明らかになっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はこんな大和路の古い街にも住む按摩あんまが、奇妙にも懐かしく詩興しきょうを深く感じた、そこで、早々そうそう二階へ呼上よびあげたられは盲人めくら老按摩あんまであった。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
日が暮れるとあたりは全く田舎の村のように静になって、門外を過る按摩あんまの声と、夜廻よまわりの打つ拍子木ひょうしぎの響が聞えるばかり。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほうきを負うもの、炭取函すみとりばこを首から掛けるもの、例の黒んぼ、赤い風呂敷のスカートの紅毛婦人、支那人、宣教師、按摩あんま、軍人、ヤンキー、アイヌ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「惜しい事にならないね。——紺屋橋を渡り切って川添に東へのぼって行くと、按摩あんまに三人あった。そうして犬がしきりにえましたよ先生……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知り合いの按摩あんまがラムプの石油をいて火をけながら、煙にせて逃げ迷っている……と思う間もなく床柱に行き当って引っくり返ってしまった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……すると十二月二十日の夜、深見新左衛門様の奥様がまたキリキリとさしこむというので呼び込んだ按摩あんまが、いたって年をとった痩せこけた男で
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
薄暗い町の中はヒッソリと寐静まって、憐れな按摩あんまの不調子な笛の音のみ、湿っぽい夏の夜の空気を揺るのであった。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
「いいことがある。あたし按摩あんま上手よ。よく年寄のお客さんでんで呉れって方があるのよ。奥さん、いかがですの」
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
母の按摩あんまをしたり、書斎で書物に向っている間などは、短い木刀を一腰さしているだけであった。木刀の一面には
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうせ任せたつたかつらと、田舎いなかの客の唄う濁声だみごえは離れたる一間より聞えぬ。御療治はと廊下に膝をつくは按摩あんまなり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
按摩あんまさんが二人、笛を吹いては大きく笑いながら行く。下界は地とすれすれに、もやが立ちこめて秋ふけた感じだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お母さんに按摩あんまをしてあげたり、なかなかいそがしく、みんなの役にたって、張り合いのある日々を送りました。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
按摩あんま灸針きゅうしん、吉田久庵きゅうあんと看板の出ていた一軒を発見すると、ようやく見つかったといったような顔つきで、おどろき怪しんでいる伝六をしりめにかけたまま
さて、満腹した私が、飯屋から帰って来ると、なんと珍らしいことには、松村が按摩あんまを呼んで、もませていた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
己が生んだ子は己が処置しなければならぬので、おかみは盲の亥之吉を東京に連れて往って按摩あんまの弟子にした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その事が土地の新聞に載つたのがふとした事で俳優やくしやの鴈治郎の目に止つた。鴈治郎はその折玉屋町たまやまちの自宅で、弟子に按摩あんまませながら新聞を読んでゐた。
語るものはわがこの夏霎時しばらくの仮の宿やどりとたのみし家の隣に住みし按摩あんま男なり。ありし事がらは、そがまうへなる禅寺の墓地にして、頃は去歳こぞの初秋とか言へり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「良いじゃないか、雪がうんと降って、その雪が一じょう二丈も積んで、みちがこの上にできたら、按摩あんまさんが二階の窓からおっこちて来るよ、あの按摩さんもね」
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから頭痛、のぼせ、肩の凝り、体の倦怠だるさ、足腰の痛みなど絶えてなく、按摩あんまは私には全く用がありません。また下痢なども余りせず両便とも頗る順調です。
僕は彼が按摩あんまになって警官の目をくらませていたり、彼の家の壁をがんどう返しにして出没を自在にしていたことにロマン趣味を感じずにはいられなかった。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
譬えば鍍金めっきせるものの角々に真のきじあらわるるが如しなどおもう折しも、按摩あんま取りの老いたるが入り来りたり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
外では子供達が垣を揺すって動物園の真似をしていた。狭い路を按摩あんまが呼びながら歩いて来る。子供達は按摩の後からぞろぞろついてまた按摩の真似をし始める。
街の底 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その点では按摩あんまをとったりズーシュを浴びたりするのと全く同等ではないかと思われて来るのである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その時にたのんだ按摩あんまに町で出会ったら杖でこつこつ拍子をとりながら歌をうたって歩いていた話になり、そしてやがては按摩の家族にまで及んでいくのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
按摩を学ぶ中津なかつに居て十六、七歳のとき、白石しらいしと云う漢学先生の塾に修業中、同塾生の医者か坊主か二人、至極しごくの貧生で、二人とも按摩あんまをしてしのいで居る者がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
宿に帰って入浴、九時を合図に寝床にはいると、廊下で、「按摩あんま如何いかがさま」という声がきこえた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時按摩あんまが来たので皆が部屋を退いた。その時古実君に、『訂正を送つて呉れたか』と云つた。『はい、送りました』と答へると『たしかだな』と念を押したさうである。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
これは岩手県の盛岡でかつて按摩あんまから聴いた話であるが今からもう三十年も前の出来事であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
取寄とりよせ芝居者しばゐもの淨瑠璃語じやうるりかた三絃彈さみせんひきなど入込いりこま皆々みな/\得意とくいの藝をあらはたはぶきようじけり茲にまた杉森すぎのもり新道しんみち孫右衞門店まごゑもんたな横山玄柳よこやまげんりういふ按摩あんまあり是はわけて白子屋へ入浸いりひた何樣なにさま白子屋一けん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
コホン、コホンと老按摩あんまは彼の肩をみながら、彼の吸う煙草の煙にむせんで顔をしかめた。
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
すゝむるが例なりと質朴にしてまた禮ありとたゝへ皆な快く汲む終りて梅花道人は足のつかれ甚だしければ按摩あんまを取らんとてよぶいろ/\なぶりて果は露伴子も揉ませながら按摩あんまに年を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
何卒どうぞはしておくんなさいまし、わたし女按摩をんなあんまでお療治れうぢにまゐりましたとつたら、按摩あんまさんならこゝにおいで、今おさけが始まつてるからとふので、わたしつぎるとも知らず
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかしその電気が電灯となってともるとか、あるいは電熱器となって湯を沸かすとか、あるいは電気按摩あんまとなって体に刺激を与えるとかしなければ、私どもの生活に入ってきません。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
「先生お骨折りですねって、新造っ子が寄って来て按摩あんま攻めにするこってしょう」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)