)” の例文
「さようさよう、申すまでもござらぬ。……が、萩丸様今日まで、を張って宥免状したためませぬ。じゃによって殺そうと申すまでで」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしその座敷が閑静でいいのと、紹介してくれた人への義理もある処から、まあ不気味な婆さん位いは、まんする事にしました。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
春に誇るものはことごとくほろぶ。の女は虚栄の毒を仰いでたおれた。花に相手を失った風は、いたずらにき人の部屋にかおめる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大學者だいがくしやさまがつむりうへから大聲おほごゑ異見いけんをしてくださるとはちがふて、しんからそこからすほどのなみだがこぼれて、いかに強情がうじやうまんのわたしでも
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
又、人が好くて、を出さないで、殊に酔うと、益々無邪気になる河野は、誰にでも友達として、直ぐ受け容れられて行くのであった。
神の如く弱し (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『そう頭つからを張つたつて仕方がないが、マア可いよ、僕に任して置けや心配する事は無い。お前の心はよく解つてるから。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この人は、憎むべき『』をほろぼしつ。しかはあれど、吾の祈りえざるは、あながちに、たゞのたかぶりあるのみにあらじよ。
一僧 (旧字旧仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
その言葉は彼の知らない世界へ、——神々に近い「」の世界へ彼自身を解放した。彼は何か痛みを感じた。が、同時に又よろこびも感じた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そして木部の全身全霊をつめさきおもいの果てまで自分のものにしなければ、死んでも死ねない様子が見えたので、母もとうとうを折った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
つて、それ引揚ひきあげたが、如何どうつてえられぬので、ふたゝ談判だんぱんかうとおもつてると、友人いうじん眉山子びさんしれい自殺じさつ
たといイエス様御自身の口から出る直話を聴いても、自分の「」をもって聴けば結局それだけの大きさのことしかわからない。
川手氏は遂にを折った。三重渦巻のお化けの恐怖は、世間を知りつくした五十男を、まるで子供のように臆病にしてしまったのである。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ええ、望み——と申しますと、まだがあります。実は願事があって、ここにこうして、参籠さんろう、通夜をしておりますようなものです。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よくせきの事なればこそ我から折れて出て、「お前さんさえを折れば、三方四方円く納まる」ト穏便をおもって言ッてくれる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
得て一道に没入してひたむきな人間は、社交的には、人あたりのごつい、を曲げない、妥協しない、曲解され易い性情のあるものである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は努めてそれを善意に解釈して、あらゆる才女もいよいよを折って、玉藻のもすそをささげに来たものと認めようとしていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そういうことでくさ/\するのはまだ自分を纏めて行き度いという一筋のしるきものがあるうちのことでもございましょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
のみならず省作は天性あまり強くを張るたちでない。今母にこう言いつめられると、それでは自分が少し無理かしらと思うような男であるのだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一身に二様のありて、その一は一方に住止するも、他の一は他方に出入して奇異の作用を現ずるなりと信じて、さらにその原因を問わざるなり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
一生のたのみだから数枝を数枝の行きたいという学校に行かせてやってくれと頼んで泣き、おれもを折って承知した。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
相更あいかわらずベンケイの応対は旨いもので、流暢りゅうちょうな日本語でやっている。一本気で、ぷんぷん怒っている師匠もを折って
そんな人一倍や感情の強いらしい、この未亡人との雑談は後廻しにして、まず証拠材料を探し出さなければならぬ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
下に自動車も待っていた。クリストフは断わろうとした。しかし率直な感じやすい彼は、相手の好意的な勧誘に会って、ついに心ならずもを折った。
もしもを張る者が中に出るなら、平和は乱れるであろう。静かなる器のみがよき器である。そこにはいつも謙遜と従順との徳が見られるではないか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
が、平三も磯二も厭だといふので平七もを折つて、網一ぱいの魚を其儘に出口をいて、兎に角帰ることにした。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
恐ろしくの強い男だったが、今度のことで、おのれのいかにとるに足らぬものだったかをしみじみと考えさせられた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
実際数日来の註文だったし殊に食べないと譲歩しているから、奥さんもついを折って、懐中じるこを利用した。
閣下 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
思うても見られい、公方と管領とが総州を攻められた折は何様どうじゃ。総州がを立てたが故に攻められたのじゃ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それはお前の一克いっこくというものだ。そんなに擯斥ひんせきしたものではない。何と言っても書記官にもなっている人だ。お前も少しはを折って交際つきあって見るがいい。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
お婆さんも少々を折って、二人は一応その竹藪を突切って、あちらの土堤へ出ようということになりました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
だが、自分がどこまでもを通して、他人ひとの助言に盾をついて押し切つたことがせめてもの心遣りだつた。
自己本位的情操がこの様な形を取っている人間は、自ら抑損するという事は到底出来ぬ。彼の傲慢は、ただ内心に苦痛を感ぜしむるだけで、を折る事が出来ぬ。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「仙台びとのの強いのと倨傲きょごうにはうんざりする、平穏だという状態は半年とつづかず、いつもなにかしらごたごたを起こし、互いに相手を凌ごうといきりたつ」
遠くからながめる夏の暮方の森林の様な心の色が何にでもおだやかな影を作って「」のった張強はりづよい千世子の心さいその影のかすかな影響をうける事さえあった。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そののち幾年いくねんって、おとこほうがあきらめて、何所どこからかつまむかえたときに、敦子あつこさまのほうでもれたらしく、とうとう両親りょうしんすすめにまかせて、幕府ばくふ出仕しゅししている
………こうして強情ごうじょうに頑張っていてやったら、かの人もを折って戻って来ずにはいないであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神経質は、西欧のの自覚の産物であり、仙人は神仙道を通じての東洋精神の具象である。その上寅彦には、同時代の知識人の教養に付加するもの、即ち科学があった。
寅彦の作品 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
色は黒い方だったが、ブルジョアの息子らしく、上品ですこしが強いらしいところがあった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしこのままに永別となるならば、と思うとはなく、ほのかに感じたる武男が母は、ついにののしりののしりを折りて引きつづき二通の書を戦地にあるその子にやりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
真実の仏心ほとけごゝろになりましたから、山三郎も江戸屋半治もを折って、粥河圖書の様子をみている所へ、ばた/\と高張提灯を先に立てまして駈けて参ったのが江戸屋半五郎
ひとりでん張っているところが、あまりに単純素朴であるだけ、哀れにも惨めではないか。
わたしは彼女がを折ったのだと思ったから、自分は妻の烈しい非難に釣り出されて、つい心にもないことを口に出したのだ、といおうとしますと、妻は相も変らずいかつい
個性の完成、自己の実現はいたずらにに執する所に行われるものではない。偉人の自己は強く人性的の色を帯びている。我の殻を堅くする所には真の征服も創造も行われない。
自己の肯定と否定と (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「マスチツフ」の躰格の立派なのや、「ブルドツク」の剛情で馬鹿力のあるのや、「アルパイン、スパニヱル」の大慈悲心に富んでるのは大和魂の俺達も殆んどを折つておる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
まだ猪之助といって、前髪のあったとき、たびたび話をしかけたり、何かに手をしてやったりしていた年上の男が、「どうも阿部にはつけ入るひまがない」と言ってを折った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「自己を超絶——ふん、自己を超絶したら、空だ、死だ! 大我だいが——馬鹿な、に大小をわかつのは既に考へ方が淺薄だ! 積極的——それも却つて消極的なのを知らないのだ!」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
耶蘇教はつよく、仏教は陰気いんきくさく、神道に湿しめりが無い。かの大なる母教祖ははきょうそ胎内たいないから生れ出た、陽気で簡明切実せつじつな平和の天理教が、つちの人なる農家に多くの信徒をつは尤である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
主義や主張のちがいも、もちろん有るだろうが、しかし、おおねは、やっぱりだ。
その人を知らず (新字新仮名) / 三好十郎(著)
たうとうを折つて、あの死骸を引取つたさうですよ——昨日のそれも朝のうちに引取つてしまへば、あの死骸を諸人の見世物にせずに濟んだのに、くだらない見得を張つたばかりに
彼はマリユスを正道に引き戻してやったのだと思っていた、「子供」がを折りかけてるのだと思っていた。マリユスは身を震わした。祖父が求めているのは父を捨てることであった。