成敗せいばい)” の例文
小六の胸には、馬謖ばしょくを斬るの気もちで——おい成敗せいばいを決心していながらもまだ——情と正義とが、割りきれずに、乱れ合っていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっそ、今夜のかえりに、この二人を、まとめて成敗せいばいしてのけてつかわそうか? 高の知れた素町人、当て殺そうも心のままじゃ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
成敗せいばいか。勘当か、二つに一つじゃが、まずは勘当かな。命を取るもあまりに無慈悲じゃ。いずれにしても権右衛門。よう教えてくれた。礼を
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いま海底戰鬪艇かいていせんとうてい成敗せいばい一身いつしんになへる貴下きか身命しんめいは、吾等われら身命しんめいして、幾十倍いくじふばい日本帝國につぽんていこくため愛惜あいせきすべきものなり。
殿とのさまにねがひまする、是非ぜひともお成敗せいばいくださりませい。ロミオはチッバルトをころしたからは、いかしてはおかれませぬ。
経世家はしからず、時勢を、人情を察し、如何なる場合においても、調子はずれの事を為さず。その運動予算の外に出でず。その予算成敗せいばいの外に出でず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人間においてもまたそうと思う。野蛮時代にはばる一方で、永久に続くことは出来ぬ。喧嘩けんかして世を渡るものは喧嘩両成敗せいばいで共倒れして後がつづかぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主命を拒む不忠者を成敗せいばいいたすという訳で今日にも討手を差し向けて花村様のお屋敷を取り囲もうという大騒動。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いにしえより今に至るまで、成敗せいばいの跡、禍福の運、人をしておもいひそめしめたんを発せしむるにるものもとより多し。されども人の奇を好むや、なおもって足れりとせず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、彼女はいつになく、美しい眼の色を変えて、彼の我儘をとがめ立てた。その怒を犯してまでも、犬を成敗せいばいしようと云う勇気は、すでに彼には失われていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どうなさいました」比企一隆斎が口をきって、「この坊主は何ものです! こいつを成敗せいばいなさいますか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「売られた喧嘩であろうとも、出入りがあった上は両成敗せいばいじゃ。何かと芝居の邪魔になる。早う出い!」
愛に失敗するものもまた必ず自己を善人と思う。成敗せいばいに論なく、愛は一直線である。ただ愛の尺度をもって万事を律する。成功せる愛は同情を乗せて走る馬車馬ばしゃうまである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それ以来、私は、無実の罪を得て成敗せいばいを受けた猫のために謝罪する心持で、鰹の刺身だけは口にのぼさぬように心掛け、六十一の還暦までは、それを堅く守っておりました。
駐在所で意気地が無くつて、何うする事も出来ねえけりや、村で成敗せいばいするより仕方が無えだ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
仰せ付らるゝとも自業自得じごふじとくの儀に候へばいさゝかもうらむる所なし係り合の者共は何卒なにとぞ慈悲じひの御成敗せいばいねがはしく存じ奉つり候とて己れが舊惡を悉皆こと/″\く白状に及びしかばそれより口書こうしよ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
釈尊誕生の法会ほうえとは交渉なく、日の物忌ものいみに天道をまつるものなるべく、千早ふる卯月八日は吉日よ、神さけ虫を成敗せいばいぞする、と申すまじない歌と相って意味の深い行事である。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その第一は舊主の成敗せいばいを仰ぐべく三成の邸を訪ねて行った時であって、まだそれまでは、一の台の局に同情していたと云っても、一方に武士のほこりを捨てゝいなかったと云える。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
江戸表におらるる殿にかわって、父が成敗せいばいいたしてくれたようなわけなのじゃ。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
狂言「入間川いるまがわ」に、入間言葉のさかさまごとの滑稽から、自分で川の深みにはまり込んだ大名だいみょうが、「諸侍しょざむらい」に欲しくも無い水をくれた程に、「成敗せいばいするぞ」と大威張りに威張ったところがある。
武士たるものは、不義ものを成敗せいばいするはかえって名誉じゃ、とこうまで間違っては事面倒で。たって、裁判沙汰にしないとなら、生きておらぬ。咽喉笛のどぶえ鉄砲じゃ、鎌腹かまばらじゃ、奈良井川のふちを知らぬか。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、一切高声仕り候者これあらば、きつと成敗せいばい仕るべく候。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「五郎がちと手荒にしたので、今朝はぐったりと、ヘバっております。ところで、彼奴きゃつ成敗せいばいは、われらにお任せ願われようか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二つに一つの成敗せいばいを猶予するような次郎左衛門ではなかった。十両の金をくれてながいとまは、この主人としては勿体ないほどに有難い慈悲のさばきであった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なんぢ此度このたび使命しめい成敗せいばいは、海底戰鬪艇かいていせんとうていが、日本帝國につぽんていこく守護まもりとして、現出げんしゆつすること出來できるか、いなかのわかであるぞ。きはめて機敏きびんに、きはめて愼重しんちようなれ。
この分じゃあ、一ばんの強敵、三斎隠居だって、怖れるこたあねえ——一気に、どしどし成敗せいばいしてやるがいい
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「おお解りました。あの男——市之丞とか云う敵の捕虜とりこ成敗せいばいなさるのでございますね」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何樣いかやうの御成敗せいばい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「おお、きょうのような吉日きちじつはまたとない。いかにもこの場できゃつを成敗せいばいいたそう、その介錯かいしゃくもそちに命じる! ぬかるな!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、かばいだてしようなどとは、いよいよ以て許されぬ。それへ直れ、押し並べて、二人とも成敗せいばいする
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
平助と又蔵は無論にその不調法をきびしく叱られたが、主人は物の分かった人であるので、この不調法の家来どもに対して一途いちずにひどい成敗せいばいを加えようとはしなかった。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
草葉くさばつゆえてしまはねばならぬのであるから成敗せいばいもとより豫期よきがたいが、出來得できうけの手段しゆだんつくさねばならぬとかんがへたので、つひけつして、吾等われらこの急難きふなんをば
「右の端の女は桔梗ききょうだな、よしよし桔梗から成敗せいばいしよう!」云ったかと思うと、弓の折れがヒラリと虚空こくうひらめいたがたちまち風を切る音がしてしたたか鞭は右の端の桔梗という女の肩を打った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「武蔵めは、国法を犯した大罪人、しかも、関ヶ原の残党、断じてその方どもの手で処置することは相成らん。成敗せいばいは、おかみにおいてなされる」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
即座そくざ成敗せいばいされるに決まっている。いっそ師匠を亡きものにして、お常と末長く添い通そうと考えた。また一方の喜平次は、武芸にかけては此の道場でおれに及ぶ者はない。
いずれ何十万石という、大名の屋敷には相違なかろうが、女掏摸おんなすり成敗せいばいするため、わざわざ引き出した白洲しらすにしては、あまり舞台が勝ちすぎる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当家の妾たまと申す者、家来と不義のこと露顕いたし候あいだのちの月見の夜、両人ともに成敗せいばいを加え候ところ、女の亡魂さまざまの祟りをなすに付、その黒髪をここにまつりおき候事。
月の夜がたり (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お扱いはかたじけないが、すべて、成敗せいばいすべき者も、時には、ゆるすこともあり、また、さまでの落度でない場合も、断じてゆるされぬ時もあるものです。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんの、乱心は、伯耆守こそ。——伝右は、正気じゃ。国を売る忘恩の賊を、成敗せいばいせいで、何とする」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わたしもとがうて、菊といっしょにお城を出ます。どうか菊とふたりでご追放を命じてください。さもなければ、ふたりを並べてご成敗せいばいあそばしてもかまいません」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、この甥の悪行あくぎょうに怒って、遠く甲州境まで、一族をつれて成敗せいばいに追いまわしたものである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、前年の約束どおり、八月初めには、御地おんちへまかり越え、かねがね振舞うにまかせておいた佐々成政を成敗せいばいして、積年せきねん禍乱からんの地を正して、秩序を明らかにしたいと思う。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面倒めんどうじゃ! やせ浪人を荒蓙あらむしろへのせて水の用意ッ」阿波守が呼ばわると、「はっ」と庭先にいた天堂一角や番士たち、あわただしく働いて、瞬間に成敗せいばいすべき死の座を作る。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりわけ、大坂城にあった織田信澄おだのぶずみは、光秀の女婿じょせいでもあるし、その父の織田信行は、かつて信長の成敗せいばいをうけている。一族とはいえ、父を信長に殺されているその子の信澄である。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「両人とも待て。——立ち騒いでしずまらぬと、ふたりともに、成敗せいばいいたすぞ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも、それをやる者の如何いかんにもよるが、常陸源氏の嫡子や二男三男らが手を下すならば、周囲や近国でも、その成敗せいばいに、苦情をいい出す者はあるまい。国司ノ庁などは、どうにでも動く。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まいちど、眼を開いて下され、ものをいうてたもい。……これ、どうしたものじゃ、この婆を見捨てて先へくという法があろうか。——まだ武蔵も討たずに、お通阿女あま成敗せいばいも果さぬのに」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそのあとで間もなく衣笠久左衛門の口から、菩提山城に質子ちしとして養われていた主君の子が、成敗せいばいに遭って、ついに竹中半兵衛の手から安土へ渡されたという事実を披露ひろうされると、一同は
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成敗せいばいは、此方このほうらがする。おまえ達は、持場へ行って仕事にかかれ」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
菊池半助きくちはんすけはゆうゆうとして、三人目の成敗せいばいにかかろうとしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)