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いつく
ふりがな文庫
“
慈
(
いつく
)” の例文
希望を持てないものが、どうして追憶を
慈
(
いつく
)
しむことができよう。未来に今朝のような明るさを覚えたことが近頃の自分にあるだろうか。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
私はこの善と悪とに感じる力を人間の心に宿る最も尊きものと認め、そしてこの素質をさながら美しき宝石のごとくにめで
慈
(
いつく
)
しむ。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
生んだばかりの愛しい——あれほど
夫婦
(
ふたり
)
が
珠
(
たま
)
と
慈
(
いつく
)
しんでいたものを、眼をとじて、母の手で刺し、自分もその刃で、自害していた。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして
滋養
(
じよう
)
を与えるために白身の軽い
肴
(
さかな
)
を
煮
(
に
)
ていると、復一は男ながら母性の
慈
(
いつく
)
しみに痩せた身体もいっぱいに
膨
(
ふく
)
れる気がするのであった。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
私は、すつかり、その方のお力にお
任
(
まか
)
せしてゐるのよ、そして何もかも、その方のお
慈
(
いつく
)
しみに
頼
(
たよ
)
つてゐるわけなのよ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
▼ もっと見る
私
(
わし
)
があなた方を愛するようにあなた方が
私
(
わし
)
を愛してくださる。すなわち双方の愛と愛とがお互い同志を
慈
(
いつく
)
しみ合う。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
その
中
(
うち
)
に三枝嬢が成長し、人も知る如き美人となったのを手中の珠と
慈
(
いつく
)
しみ、同嬢のために小規模ながら大森に現在の豪華な住宅を建ててやって同居し
二重心臓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
そして彼は、ただ現在の生をのみ
慈
(
いつく
)
しむ涙ぐましい心を懐いて、袷の肌にも寒いほどの夜更けに、火種さえない下宿の四疊半へ、ぼんやり帰っていった。
反抗
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
千登世を
慈
(
いつく
)
しんでくれてゐる大屋の醫者の未亡人への忘れてはならぬ感謝と同時に、千登世に向つても心の中で手を支へ、
項
(
うなじ
)
を垂れ、そして
寢褥
(
ねどこ
)
に入つた。
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
それでも彼は彼女を愛していた、彼らはたがいに愛し合っていた。しかしながら、たがいに愛し
慈
(
いつく
)
しんでる人々の間をも遠ざけるには、ごく
些細
(
ささい
)
なことで足りる。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
思ふ道に
迷
(
まよ
)
ふとか云ひて子を
慈
(
いつく
)
しむ親の心は
上
(
かみ
)
將軍より
下
(
しも
)
非人
(
ひにん
)
乞食
(
こじき
)
に至る迄
替
(
かは
)
る事なき
理
(
ことわ
)
りなり其時また上意に芝八山は町奉行の
支配
(
しはい
)
なりとて越前
我意
(
がい
)
に
募
(
つの
)
り吟味を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
御両親は
掌中
(
たなぞこ
)
の
璧
(
たま
)
と
愛
(
め
)
で
慈
(
いつく
)
しみ、
後
(
あと
)
にお子供が出来ませず、一粒種の事なれば
猶
(
なお
)
さらに
撫育
(
ひそう
)
される
中
(
うち
)
、
隙
(
ひま
)
ゆく
月日
(
つきひ
)
に
関守
(
せきもり
)
なく、今年は
早
(
は
)
や嬢様は十六の春を迎えられ
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
乃公に
彼様
(
あん
)
な巧い事が書けるものか。「先生御夫婦は両親の如く
慈
(
いつく
)
しみ
被下候
(
くだされそろ
)
」なんて乃公が言うものか。けれども家では乃公の
頭脳
(
あたま
)
から出たものと信じているらしい。
いたずら小僧日記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
その夜、彼女は黄金のみ仏を抱いてそれにのみ心をささげ、おん
慈
(
いつく
)
しみを
乞
(
こ
)
うのであった。み仏は筒井の
肌
(
はだ
)
にあたためられ、
殆
(
ほとん
)
ど、冷たくなっている日とてはなかった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
これまでひたすら
愛
(
め
)
で
慈
(
いつく
)
しみ、内心ひとりで嘆賞していた大事な秘密の想念を表白したわけなので、どうして人がこの功業を嘆賞しないのかと不思議でたまらなかった。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
青年
(
わかもの
)
には童がこの
兎馬
(
うさぎうま
)
を
愛
(
め
)
ずるにも増して
愛
(
め
)
で
慈
(
いつく
)
しむたくましき犬あればにや。
わかれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
そして
部屋
(
へや
)
のすみにある
生漆
(
きうるし
)
を塗った桑の
広蓋
(
ひろぶた
)
を引き寄せて、それに
手携
(
てさ
)
げや懐中物を入れ終わると、飽く事もなくその
縁
(
ふち
)
から底にかけての
円味
(
まるみ
)
を持った微妙な手ざわりを
愛
(
め
)
で
慈
(
いつく
)
しんだ。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
そういう老人たちがお遊さんをああいう風に気随にさせておくのは若後家という境遇をきのどくにおもってできるだけさびしさをわすれるようにさせようという
慈
(
いつく
)
しみから出ているので
蘆刈
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ただただ
慈
(
いつく
)
しみをもって
繞
(
めぐ
)
ってくれる周囲の人々の心を落胆させてこころよしとするような、そんな娘でないことは半蔵もよく知って、その点にかけては彼も娘に心を許していたのである。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
粋は仁に
邇
(
ちか
)
し、即ち魔境に他を
慈
(
いつく
)
しむ者。粋は義に近し、粋は信に邇し、仮偽界に信義を守る者。
乃
(
すなは
)
ち迷へる内に迷はぬを重んじ、不徳界に君子たる可きことを以て粋道の極意とはするならし。
粋を論じて「伽羅枕」に及ぶ
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
いささか薄気味わるい始末、もっとも、八大山人の小品とても、天下の稀品に相違ない。可愛がった昔の女を今は娘のように
慈
(
いつく
)
しむあたたかさが、私たちにも自然の安堵と温情をわきたたせた。
不連続殺人事件
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
されば
無智蒙昧
(
むちもうまい
)
の監守どもが、妾の品性を認め得ず、純潔なる
慈
(
いつく
)
しみの振舞を以て、直ちに
破倫
(
はりん
)
非道の罪悪と速断しけるもまた
強
(
あなが
)
ちに無理ならねど、さりとては余りに
可笑
(
おか
)
しく、腹立たしくて
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
〈我諸竜王を
慈
(
いつく
)
しむ、天上および世間、わが慈心を以て、諸
恚毒
(
いどく
)
を滅し得、我
智慧
(
ちえ
)
を以て取り、これを用いこの毒を殺す、味毒無味毒、滅され地に入りて去る〉、仏曰く、この呪もて自ら護る者は
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
和
(
やわ
)
らかく
贅沢
(
ぜいたく
)
な
褥
(
しとね
)
につつまれて、しんなりとした肉体を横たえ、母親こそとうに世を去ったが、
愛娘
(
まなむすめ
)
への愛には目のない、三斎はじめ、老女、女中の、隙間もない
慈
(
いつく
)
しみの
介抱
(
かいほう
)
を受けながら、その
癖
(
くせ
)
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
慈
(
いつく
)
しき御手の御執り成しによりて此の悩みのさすらひの後に
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
何んという
慈
(
いつく
)
しみの深さ。
大和路・信濃路
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
春水が亡い後は、子に対して盲愛に近い母性の
慈
(
いつく
)
しみと、そうではならぬという厳格な愛の形とが、手紙の文字にも闘っている老母を見た。
梅颸の杖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
かの女は、だんだん老紳士に対する好感が増して行き、
慈
(
いつく
)
しむような
眼
(
まな
)
ざしで青年の姿を眺めていると、老紳士は、暗黙の中にそれを感謝するらしく
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
容貌
(
おもて
)
、醜しとあれば疎み遠ざかり、あざみ笑ひ、少しの手柄あれば俄かに
慈
(
いつく
)
しみ、へつらひ寄る、人情紙の如き
世中
(
よのなか
)
に何の忠義、何の孝行かある。今に見よ。
白くれない
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
私は私のそばに愛し
慈
(
いつく
)
しむものの共にあることを悦びます。私は孤独を願いません。私の心はただひとり私が住むときには犬でも飼いたき心地となって表われます。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
も久八と附て夫婦の
寵愛
(
ちようあい
)
淺
(
あさか
)
らず養育しけるに一日々々と
智慧
(
ちゑ
)
付
(
つく
)
に
隨
(
したが
)
ひ
他所
(
よそ
)
の兒に
優
(
まさ
)
りて
利發
(
りはつ
)
なるにより
末
(
すゑ
)
頼母敷
(
たのもしき
)
小兒
(
せうに
)
なりと
慈
(
いつく
)
しみける中月立年暮て早くも七歳の春を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
自分はあの妹が早く母に死に別れたのを
不憫
(
ふびん
)
に思い、及ばずながら母に代って
慈
(
いつく
)
しむようにして来たのに、母の法事の時になって家から追い出すなどと云うことが出来るものでない。———
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
親愛な人々を見暮らす
根気
(
こんき
)
が尽きて、限りなく懐しみ乍ら
訣別
(
けつべつ
)
を急ごうとする広々とした
傷心
(
しょうしん
)
を抱き、それを
慈
(
いつく
)
しんで汽車に乗った。知る友のない海浜の村落へ来て、海を眺めた時、ほっとした。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
慈
(
いつく
)
しき御手の御執り成しによりてこの悩みのさすらいの後に
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
「織江殿」と貝十郎は、
慈
(
いつく
)
しむような声でいった。
血煙天明陣
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
じつは、これまでにも二人の子を
亡
(
な
)
くしています。次が生れれば三人目です。こんどこそ亡くさぬように
慈
(
いつく
)
しみまする。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
萎
(
な
)
えて弱まり、その上都合の悪いことには心の底の方から自分で憎くなるほど相手に対して睦まじげな
慈
(
いつく
)
しみやら
憫
(
あわれ
)
みが滲み出して来るのでありました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
慈
(
いつく
)
しみの人への言い知れぬ敬意を催おさせられる等、あげて数えられぬ感情教育を私たちは受けた。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
ば
玉之助
(
たまのすけ
)
と
號
(
なづ
)
け
掌中
(
たなそこ
)
の玉と
慈
(
いつく
)
しみ
養
(
そだ
)
てける
然
(
しかる
)
に妻は産後の
肥立
(
ひだち
)
惡
(
あし
)
く
荏苒
(
ぶら/\
)
と
煩
(
わづら
)
ひしが秋の末に至りては追々
疲勞
(
ひらう
)
し
終
(
つひ
)
に
泉下
(
せんか
)
の客とはなりけり嘉傳次の
悲歎
(
ひたん
)
は更なり
幼
(
をさな
)
きものを
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
そうして彼女をこの上もなく
慈
(
いつく
)
しんで、末永く
自宅
(
うち
)
に置いて世話をして遣りたい。
少女地獄
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
若々しい感情はもうその眼の中に
沸
(
たぎ
)
る湯となってあふれかけている。秀吉の親としての気持も、信長の死後は
一
(
ひと
)
しおいじらしさと
慈
(
いつく
)
しみを加えていた。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
わたくしの女ごころは、こうした気分の高揚の中にも、いつの間にか
慈
(
いつく
)
しみの眼を見開き始めていると見えます。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
天地の間に厳存するところのすべて美しきものの精として、あの空に輝く星にも比べて尊み
慈
(
いつく
)
しんでいるのです。二人の間に産まれたこの宝を大切にしましょう。育てて行きましょう。
出家とその弟子
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
父祖百年らい、稼業をつづけ、ご恩顧をうけ、わけて、ご当代には、なんぼう、お
慈
(
いつく
)
しみを受けたやらしれませぬ。
私本太平記:08 新田帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
最初皆三に
逢
(
あ
)
つた晩に、彼の声が
浸
(
し
)
みさせたと同様な
慈
(
いつく
)
しみがある——お涌はそれに逢ふと、柔軟なリズムの線がひとりでに自分の体に生み出され、われとしもなくその線の一つを取上げて
蝙蝠
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
お絹さんを、私はあわれに、いとしくおもい、仏の眼のうるおいと
赦
(
ゆる
)
しとをもって、優しく、
慈
(
いつく
)
しむ気でいます。お絹さんは私を玉のように大切に、守るように世話をしてくれ、いつもよく働きます。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
この
嬰児
(
やや
)
こそ、
西方弥陀如来
(
さいほうみだにょらい
)
のご
化身
(
けしん
)
ぞとおもうて、よくよく
慈
(
いつく
)
しまれたがよい——と、母体の君の枕べを、
数珠
(
じゅず
)
をもんで伏し拝んで去ったということ。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼の声が浸みさせたと同様な
慈
(
いつく
)
しみがある——お涌はそれに逢うと、柔軟なリズムの線がひとりでに自分の体に生み出され、われとしもなくその線の一つを取上げて、自分の姿をそれに沿える。
蝙蝠
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
……陛下も何とぞ先帝の英資にあやかり給うてよく
輔弼
(
ほひつ
)
の善言を聞き、民を
慈
(
いつく
)
しみ給い、
社稷
(
しゃしょく
)
をお守りあって、先帝のご遺命を
完
(
まっと
)
う遊ばさるるよう伏しておねがい致しまする。
三国志:11 五丈原の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だが、また、その声を聞くと、普通のいのちの附根を哀れに絞り千切られたあと、別のいのちが、附根から芽生え出して来たものが
忿懣
(
ふんまん
)
やら
慈
(
いつく
)
しみの心やらを伴って
涌然
(
ようぜん
)
と沸き立つのを覚えた。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
“慈”の解説
慈(じ)は、漢姓の一つ。
(出典:Wikipedia)
慈
常用漢字
中学
部首:⼼
13画
“慈”を含む語句
慈愛
慈悲
慈母
御慈悲
慈悲心鳥
仁慈
慈悲深
慈眼
慈善
慈善市
慈姑
御仁慈
大慈
慈光寺
山慈姑
慈悲善根
慈眼視衆生
御慈愛
慈光
慈愍
...