怪我人けがにん)” の例文
怪我人けがにんも多く出たし、死者も幾人かあったのに、それから一瞬の後は、めいめい職場にかえって、けろりとした工事場の広さであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘次かんじは一整骨醫せいこついもんくゞつてからは、世間せけんには這麽こんな怪我人けがにんかずるものだらうかとえず驚愕おどろき恐怖おそれとのねんあつせられてたが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
白い手術着を着て駈けつけた医務部いむぶの連中も、形のない怪我人けがにんに対して、策のほどこしようも無く、皆と一緒に、まごまごしているだけだった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
隣の物干しの暗いすみでガサガサという音が聞こえる。セキセイだ。小鳥が流行はやった時分にはこの町では怪我人けがにんまで出した。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
呼出し取調とりしらありしに一かう右體の怪我人けがにん見當らざるよしを申により又外々の名主へ掛り尋けるに下谷したや廣小路ひろこうぢ道達だうたつとて表へは賣藥ばいやく見世みせを出しおき外療醫ぐわいれうい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とにかく、怪我人けがにんを分署なり、病院なりへ収容しなければならなかった。が、誰一人彼の名を知っているものがない。
時には、半蔵はこの混雑の中に立って、怪我人けがにんを載せた四ちょうの駕籠が三留野みどのの方から動いて来るのを目撃した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、怪我人けがにんもできましたので、電車でんしゃ自動車じどうしゃ運転手うんてんしゅは、警察けいさつへいってしらべられることになりました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
怪我人けがにんの左孝が重態の床から乘出すのにさへ目もくれず、お駒を引立てゝ、風の如く部屋の外へ出ました。
素早く戸板やござを持って来て、仮の場席をこしらえ、怪我人けがにんや子供を寝かしているのもあった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
脚の装束をつけたまま彼は立てひざで松岡長吉の枕もとに寄っていた。けれども彼は、怪我人けがにんの容体を懸念する前に、彼の前にいる門田与太郎をまともにのぞきこんだのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
客の内には無論怪我人けがにんなどなく、附近の村人にも、そんな噂を聞かないというのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
喧嘩けんかであろうか怪我人けがにんでもあろうか、手品師てじなしであるか物売りであるか、近づいて見ると年齢五十ぐらいの男が中心となって、地球は円形じゃない平面であるという新説をいていた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一同うなることかと顔を見合せて居りましたが、追々怪我人けがにんは増えますばかり、義気に富みたる文治はこらえ兼て、突然いきなり一本の棒を携え、黒煙くろけむりの如き争闘の真只中まったゞなかに飛込んで大音だいおんを挙げ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何時いつになつたらお歸りになるのだらう? 何時になつたらお歸りになるのだらう?」夜がなか/\明けぬので——出血してゐる怪我人けがにんくるつたやうになり、またぐつたりとなり、呻き、弱つて
こないだ雑誌で読んだ西洋の婦人みたいにどこか戦争のあるところへ行つて怪我人けがにんの看病がして遣度やりたいですわ、さうでなければ、ソラ日本の歴史にあるたちばな姫みた様にお国に大切な人の身代りになりたいの。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
とらやうやくこと捕押とりおさへたが其爲そのため怪我人けがにんが七八にん出來できた。
あはれみ給へ、外科醫げくわいを仰ぎ見る怪我人けがにん目付めつき
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「君、怪我人けがにんを助けに行ってくれ。頼む!」
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
怪我人けがにんです。あの死に花の若衆で——」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
重兵衛 怪我人けがにんですか。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
して、短銃ピストルをかたく掴んでおりますぞ。逆上している相手ですからあなどると怪我人けがにんを生じるでしょう。まあ、もう少し見ていてくれい
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隨分ずいぶんえそえだつもりだつけがこんなにおそくなつちやつて、なんちつてもみじかくなつたかんな、さうつても怪我人けがにんちやるもんだな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ふむ、頭目の幸運てえものさ。このおれ以外の如何いかなる名医にかけても、あの怪我人けがにんはあと一時間と生命がもたないね」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のみならず、そんなにたくさんな怪我人けがにんを出したことも、村の歴史としてかつて聞かなかったことだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
外から見たところ彼は怪我人けがにんか、それとも何か激しい体の痛みでもこらえている人のような感じだった。まゆは八の字に寄せられ、唇はきっと結ばれ、目は燃えるように輝いていた。
せつが心付如何なる事ぞと申せしに九助も驚き昨夜河原かはらにてつまづきしが酒にゑひし人のたふ伏居ふしゐる事と思ひしに怪我人けがにんにてもありしかとかたり居し時九郎兵衞が案内にて領主りやうしゆ捕方とりかた入來り有無うむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
違っているとは言えまい。さア、番所へ来い——三輪の兄哥、聞いての通りだ。あっしはこの女を番所へ伴れて行って、伴三郎と突き合せる。兄哥はすまねえが、ほんのしばらくここに居て、怪我人けがにん
お花の悲鳴は、さも瀕死ひんし怪我人けがにんの様なうめき声に変って行った。最早文句をなさぬヒーヒーという音であった。やがて、それも絶える様に消えて了うと、今まで動いていた箱がピッタリと静止した。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
怪我人けがにんは立ち上つた。
あまり怪我人けがにんが痛がるので、戸板の四隅を持って歩いてゆく門人たちは——殊にそれが師とよぶ人であるだけに、思わず眼をむけてしまう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たれおも怪我人けがにんはこばれたのだと勘次かんじぐにさとつてさうしてなんだか悚然ぞつとした。かれ業々げふ/\しい自分じぶん扮裝いでたちぢて躊躇ちうちよしつゝ案内あんないうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この猛烈な爆撃に、探険隊の天幕テントなどは、一ぺんにふきとんでしまった。隊員のなかにも、怪我人けがにんがそれからそれへと現れ、流血は氷上をあかくいろどった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
も見ずしてにげ歸りけり扨又長兵衞はお常にむかひ此事訴へなば怪我人けがにんも多く出來る故何分なにぶん穩便をんびん取扱とりあつかひ白子屋の家名にきずの付かぬやう我々が異見いけんしたがひ給へと云へどもお常は少しも承知せざれば長兵衞も今は是非ぜひなく又七を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
五人や六人の人死ひとじに怪我人けがにんは、きっとできるにきまっています。……ですから、私が計りごとを考え、野武士のかしらを、外に待たせておきました
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医師のところへゆくとすれば、怪我人けがにんの様子をよく見て行って話をせねばならないと思ったので、私は無理に気をはげまして、血みどろの被害者の顔を改めて見直した。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わしが手をかけた怪我人けがにんには指もささせはせぬ。よもまた、それらの傷負ておいをらっして行こうとは検察の明智衆もいうまい」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
厄介やっかい怪我人けがにん
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
死ぬか生きるかわからない虫の息の怪我人けがにんをこの一行に交じえたので、一同の足なみも何となくしめやかに、馬子がのど自慢の追分おいわけも出ません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気転のいいのが三尺を解いて、傷口を押さえているまに、持ってきた戸板へ怪我人けがにんをのせ、祭りのように、ヤッサヤッサと五十間を急ぎだした。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「戸板にのせて持ってきてやったのだが、それじゃ、手当てをする者もねえだろう。もっとも、どうせお陀仏だぶつになることは、相場がきまっている怪我人けがにんだがネ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近づいて行くと、うめきが聞こえた、怪我人けがにん実性じっしょうは、むしろの上に横たわって、苦悶しているらしかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう十日あまりの真夜半まよなかなのでございます。何者か門をたたく、大勢の声でガヤガヤと騒ぐ、そこで出て見ますと、その怪我人けがにんをかつぎ込んでまいりましたので。は。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今朝は、どんな容態であろうか」彼女は、今も、怪我人けがにん生命いのちがふと気がかりになっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牛が、のどかに啼く——覚明は、ゆうべの思わぬ怪我人けがにんの世話をやいて、ろくに眠られなかったせいであろう、くちからよだれをこぼしている、いかにも、こころよげに居眠っているのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
周馬は色を失ったような声で、怪我人けがにんを抱き起こしながらお十夜の応援を求めた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水道門のせきをきって、間道かんどうのなかへ濁水だくすいをそそぎこめ、さすれば、いかなる天魔てんま鬼神きじんであろうと、なかのふたりがおぼれ死ぬのはとうぜん、しかも、味方にひとりの怪我人けがにんもなくてすむわ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「閉めてしまえ、閉めてしまえ。もう怪我人けがにんもこれ以上は収容できない」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御近族の御衆おんしゆう、そのほか参賀のともがら百々之橋とどのばしよりおのぼり成され候に、夥しき群集にて、築垣ついぢを踏みくづし、石と人と一つになつてくづれ落ち、死人も有、怪我人けがにんは数知れず、刀持、槍持の若党共は
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その怪我人けがにんに、たしか、次郎という子供が世話についている」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)