御馳走ごちそう)” の例文
美味いし冷水おひやを何杯も何杯も御馳走ごちそうして下すった上に、妾の話をスッカリ聞いて下すって、色んな事を云って聞かせて下すったのよ。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうもね、寒くってたまらないから、一杯御馳走ごちそうになろうと思って。ええ、親方、決してその御迷惑を掛けるもんじゃありません。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海苔巻のりまきなら身体からださわりゃしないよ。折角姉さんが健ちゃんに御馳走ごちそうしようと思って取ったんだから、是非食べて御くれな。いやかい」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゆうべの御馳走ごちそうは何んやと次の一間よりまろび出てくるだろう、然る処へ不意に猫の奴が現われて何か一つさらって走るかも知れない。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「そんなこったろうと思った。やれやれ、とんだ御馳走ごちそうだ。エルネスチイヌ、急いで金盥かなだらいを持っといで。そら、お前の用事ができた」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
晩の御飯御馳走ごちそうして下さる?………ええ、その代りお茶漬やわ、………お茶漬で結構よ、と、夫人はずるずるに居残ることになった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
囲炉裡ゐろり焚火たきびをしておあたんなさいまし、おこまんなすつたらう此雪このゆきでは、もう此近このちかく辺僻へんぴでございまして御馳走ごちそうするものもございません。
「おい、まだかい? あんまり御馳走ごちそうしなくつてもいいから、早くごはんにしてくれないかな。お父さんは、腹ペコなんだがな。」
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
或る日驪山荘りざんそうはたさんのところで、秋田のきりたんぽだの雪菜ゆきなだのというものを、津田つださんと二人で御馳走ごちそうになったことがあった。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しるの多い芳しい果実を舌が喜ぶように、人の眼は色彩を喜ぶ。その新しい御馳走ごちそうの上へ、クリストフは貪婪どんらんな食欲で飛びついていった。
「今日お伺いしたのは、一度御馳走ごちそうしたいのですよ。一緒にこれから行ってくれませんか。自動車を渋谷の駅に待たせてあるのです。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
従妹いとこたちがどの様にうらやましがるだらう、折角美事に出来て居るものだから惜しいけれど是非二三本はいて御馳走ごちそうせねばなるまいなどと。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
まあ、今夜は、何て貧乏たらしいおぜんばかり見なければならないのだろうね——さっきが、古寺の酒もりで、今度が、道場の御馳走ごちそう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
宗蔵は三吉と相対さしむかい胡坐あぐらにやった。「どうも胡坐をかかないと、食ったような気がしないネ——へえ、久し振で田舎いなか御馳走ごちそうに成るかナ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「別に御馳走ごちそうと云つては無いけれど、松茸まつだけ極新ごくあたらしいのと、製造元からもらつた黒麦酒くろビイルが有るからね、とりでも買つて、ゆつくり話さうぢやないか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
八百膳やおぜん」の料理をおごられても、三日続けて食わさるれば、不足を訴える。帝国ホテルの御馳走ごちそうでも、たびかさなればいやになる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
板敷の間に床畳とこだたみを設けた室で、几帳御厨子きちょうみずしかざり壁代かべしろの絵なども皆古代のもので、なみの人の住居ではなかった。真女児は豊雄に御馳走ごちそうした。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうちに御馳走ごちそうがすむと、彼れの妻は立ちあがつて、彼女のかうむつた屈辱をおほやけにした。のみならず、熱烈に、夫にかう云つた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いよいよ夏目が帰って来たから御馳走ごちそうをしますよ……」と打ち晴れた顔をして笑いながら言った時の光景が眼に残って居る。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
東京などの小さな女のは、カランコロンと口で木履ぽっくりの音をさせつつ、何べんでも御馳走ごちそうをじじばばのところへ持って来てくれる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「そんな至善なんてものに止るよりは、お金に止って、おいしい御馳走ごちそうに止る工夫でもする事だ」とにくにくしげに言って
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御馳走ごちそうがでて、みんながにぎやかに、面白くべたり、飲んだりして、話してゐるまつ最中、そこへあたふたと飛びこんで来たのはつばめでした。
虹猫の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
いつもごとく台処から炭を持出もちいだして、お前は喰ひなさらないかと聞けば、いいゑ、とお京のつむりをふるに、では己ればかり御馳走ごちそうさまに成らうかな
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いやあ、よく御馳走ごちそうになりますな、お蔭で露命をつないでるようなもんですな。」わははと従妹がむき出しに笑い出した。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女人禁制にょにんきんせい土地柄とちがら格別かくべつのおもてなしとてできもうさぬ。ただいささか人間離にんげんばなれのした、一ぷうかわっているところがこの世界せかい御馳走ごちそうで……。』
烏谷にいきつくと、はたしてそこの一軒の百姓家では、おいしい酒をたるから一升枡についで来て、御馳走ごちそうしてくれました。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
我料理は甚だ得手なり殊に五もくずし調ずること得意なれば、近きに君様正客にしてこの御馳走ごちそう申すべしと約束したりき。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その戸倉老人の何よりの楽しみは、土曜から日曜へかけて、泊りがけで遊びにくる、少年探偵団の同志たちに、御馳走ごちそうをすることであるという。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
藪入で休暇をもらった小僧が、田舎の実家へ帰り、久しぶりで両親にったのである。子供に御馳走ごちそうしようと思って、母は台所で小豆をている。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
こんど、お駒さんをここへおびして、きょうのうめ合わせに、三人で御馳走ごちそうをいただきましょうよ。このごろ、いい料理番いたばが来ているのですよ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
寒さもまさり来るに急ぎ家に帰ればくずれかかりたる火桶もなつかしく、風呂吹ふろふき納豆汁なっとうじる御馳走ごちそうは時に取りての醍醐味だいごみ、風流はいづくにもあるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さかなたちは、思わぬ御馳走ごちそうをもらったので、大よろこびで、みんなで寄って来て、おいしい/\と言って食べました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
小野は新聞紙を引き裂いては、ほこりかぶらぬように、御馳走ごちそうの上に被せてあるいていた。新吉は気がそわそわして来た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「なるほど酒は御馳走ごちそうになる。しかしおさかなが饂飩と来ては閉口する。お負にお講釈まで聞せられては溜まらない。」
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女はしぶしぶ立上って、大きな皿に御馳走ごちそうを取りわけると、小さな葡萄酒ぶどうしゅのコップを添えて少女の前に差し出した。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
この問題の本人たるお登和嬢は最前より台所にありて何かコトコト御馳走ごちそう支度したく余念よねんなかりしがようやく手のきけん座敷にきたりて来客に挨拶あいさつしぬ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
石州の茶室でお茶を御馳走ごちそうになってから小泉の駅へ出る道は、西の京から薬師寺と唐招提寺とうしょうだいじへ行く道とともに、私の最も好ましく思ったところである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
作曲者自身のクラヴサンにモイーズのフリュートで入っているのは大変な御馳走ごちそうだ(コロムビアJ七八四四—五)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
だがほれ、ニコラーエフへ行くと——これはここから二十八露里もある町じゃがな、あすこの乾草はなかなかええし、それに燕麦えんばく御馳走ごちそうも出るのじゃ。
お鶴(下女)が行って上げると言うのに、好いと言って、御自分で出かけて、餅菓子もちがし焼芋やきいもを買って来て、御馳走ごちそうしてよ。……お鶴も笑っていましたよ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
呑気のんきな性分からさうあきらめて、彼は犬達と一緒に、鶏や魚や野菜の御馳走ごちそうを食べました。四五日は大丈夫でした。
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
次の土曜日には、父は朝から、「今日は林に好物を御馳走ごちそうしてやろう」といって、兄の帰りを待っていられます。私たちはお相伴しょうばんが出来るので大喜びです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
家の人たちが御飯の時は、三毛のお椀にもきつと御馳走ごちそうがあてがはれました。お魚でもお吸物でも家のものと同じやうに、三毛はいたゞくことができました。
身代り (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
ある晩、主人の少将の誕生いわいだというので、知人を呼んで御馳走ごちそうがあった。甲田君と私もその御相伴おしょうばんをした。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
糖尿試験食の皿と普通の皿と、ベッド・テーブルの上に並べられると、御馳走ごちそうのある試験食の方の皿から、普通食の皿へ、妻ははしでとって彼にわかつのだった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「もっともここのうちが一番夜廻の恩恵に浴すわけだな。貸家は沢山たくさん持っているし、こうしていれば何より安全だから、少し位御馳走ごちそうしたっていいわけか。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その珈琲を御馳走ごちそうになってるところへ、にこにことほほえみながらまた一人、美しい娘が現れて来たのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
院長様、わしでもなかなかうまいことを言いましょうがな。いったいここにはどんな御馳走ごちそうがあるんだろう?
岐阜団扇ぎふうちわに風を送り氷水に手拭てぬぐいを絞りれるまでになってはあり難さうれしさ御馳走ごちそううりと共にうまい事胃の染渡しみわたり、さあたまらぬ影法師殿むく/\と魂入り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「えらい御馳走ごちそうさんどした」と口々に礼をいって、何か彼か陽気な調子で話しながら、ぞろぞろ出て来た。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)