“弊(へい)” の例文
しかし技巧をおもにして研究を重ねて行かれるうちには、時によると知らぬ間に、ついこの弊(へい)に陥る事がないとは限らんと思います。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なまじいに科学的な国柄だけに西洋の方に此の弊(へい)が強く、例えば、オスカア・ワイルドに「カンタビイルの幽霊」というものがあるが
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
全文は七箇条、このほかにも、朝令暮改(ちょうれいぼかい)の弊(へい)やら、賞罰の不明朗やら、吉野朝廷の君臣には、とにかく痛いところをついている。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これではいささか金儲けの学問と聞える弊(へい)があるとて、広くは行われず、異論はありながらも、やはり「経済学」と言うておったのである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
徒らに、特権階級に媚びる文学は、小説といわず、少年少女の教育に役立つ読物といわず、またこの弊(へい)に陥っています。
童話を書く時の心 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今の文壇のふまじめと党閥の弊(へい)とを説(と)いて、「とても東京にいても勉強などはできない。田園生活などという声の聞こえるのももっともなことです」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
これらの弊(へい)に陥(おちい)らぬようにするには、まず悪口に対してはいかなる態度におらねばならぬか、その度胸を定めたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
三句切の歌詠むべからずなどいふは守株(しゅしゅ)の論にて論ずるに足らず候へども、三句切の歌は尻軽くなるの弊(へい)有之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
地上(ちじゃう)に存(そん)する物(もの)たる限(かぎ)り、如何(いか)な惡(あ)しい品(しな)も何等(なにら)かの益(えき)を供(きょう)せざるは無(な)く、又(また)如何(いか)な善(よ)いものも用法(ようはふ)正(たゞ)しからざれば其(その)性(せい)に悖(もと)り、圖(はか)らざる弊(へい)を生(しゃう)ずる習(なら)ひ。
かくの如く婦人は到底(とうてい)無器用なる男子の出来ぬ多くの労力を自らするのであって、其処(そこ)に自然に男女間の分業が行われる。が、この分業から一種の弊(へい)が萌(きざ)す。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
是(これ)は観察者の見落しと言わんよりも、むしろ漢語でばかり物を考えようとした弊(へい)であろうと思う。例えば稲作作業の一季の結末を、もとは日本語で何と謂(い)ったか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
善を喜ぶのあまり時に悪を憎む事甚しきに過ぐると、悪を憐みて遂に悪に染むと、その弊(へい)いづれか大なるや。猥䙝に近きものを排くるは人をして危(あやう)きに近よらしめざるなり。
猥褻独問答 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
組織のための組織を作るような弊(へい)におちいってならないことは、いうまでもない。おたがいが仲よく人間を伸ばしあうのに最も都合のよい組織を作りあげたいのである。——
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それも一つは文学の弊(へい)で我国の文学は病的文学と称すべきものだ。何でも世中(よのなか)を悲観的に観察して愚痴(ぐち)や不平ばかり並べている。殊(こと)に風流に関するほど一層の悲観的になる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかし高岡の銅器には末期を思わせる飾りの多い風(ふう)が残って、度を過ごしたものが多く、意匠に活々したものが欠ける恨みがあります。特に置物類にこの弊(へい)を多く見受けます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
娘の子なるゆえにとて自宅に居ても衣裳に心を用い、衣裳の美なるが故に其破れ汚れんことを恐れ、自然に運動を節して自然に身体の発育を妨ぐるの弊(へい)あり。大なる心得違なり。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
君(きみ)、兵(へい)を引(ひ)いて疾(と)く大梁(たいりやう)に走(おもむ)き・(三九)其街路(そのがいろ)に據(よ)り・其方(そのまさ)に虚(きよ)なるを衝(つ)くに若(し)かず。彼(かれ)必(かなら)ず趙(てう)を釋(す)てて自(みづか)ら救(すく)はん。是(こ)れ我(われ)一擧(きよ)して趙(てう)の圍(かこ)みを解(と)きて、(四〇)弊(へい)を魏(ぎ)に收(をさ)むる也(なり)
鶏(にわとり)や飼犬のような宛(あ)てがいの料理は真の栄養にはならない。自由人には医者がいうような偏食の弊(へい)はない。偏食が災いするまでには、口のほうで飽(あ)きが来て、転食するから心配はない。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
人の害にもならず自分の損にもならず後々(のちのち)までも円満にこの事が成就(じょうじゅ)する訳ですけれども、チベット人は誠の事をわざわざ枉(ま)げて言いもし信じもする弊(へい)がありますので誠に困った国民です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私の観方(みかた)は偏しているというか? 唯弊(へい)を見て利を見ぬというか? しかし利よりも弊(へい)の勝ったのが即ち文学の実際ではないか? 私の観方(みかた)より文学の実際が既に弊(へい)に偏しているではないか?
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかも原文に拠(よ)ればとかくに堅苦しい漢文調に陥るの弊(へい)あり、平明通俗を望めば原文に遠ざかるの憾(うら)みあり、その調和がなかなかむずかしい。殊に浅学の編者、案外の誤訳がないとは限らない。
中国怪奇小説集:01 凡例 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その訳は——下世話(げせわ)にいう、氏(うじ)より育ち、二十を越すまで、素性(すじょう)卑しく育った者を、この城中へ入れることは、いろいろと弊(へい)がある。二つには、この周囲には、浪人者の不逞(ふてい)な徒輩(とはい)がいるらしい。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
但(ただ)し呉々(くれぐれ)も妻は己の職業に慢心(まんしん)して大切にして貰(もら)う夫に狎(な)れ、かりにも威張(いば)ったり増長(ぞうちょう)せぬこと。月並の戒(いましめ)のようなれど、余程(よほど)の心がけなくてはいわゆる女性の浅(あさ)はかより、この弊(へい)に陥(おちい)り易(やす)かるべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文学の目的が直接にこの弊(へい)を救うにあるかどうかは問題外としても情操文学がこの陥欠(かんけつ)を補う効果を有し得る事はたしかであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久しいあいだの貴族宗教の弊(へい)や門閥教団の害を彼は打ちやぶった。法悦の楽土を殿堂の神秘から庶民社会へひき下ろした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「坊主(ぼうず)が憎(にく)けりゃ袈裟(けさ)まで憎(にく)い」というのは、また同時に袈裟(けさ)を憎む者は坊主(ぼうず)自身を憎むという弊(へい)に陥(おちい)りやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
三句切の歌詠むべからずなどいうは守株(しゅしゅ)の論にて論ずるに足らず候えども三句切の歌は尻(しり)軽くなるの弊(へい)有之候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
今回の大戦以後世界の動揺はある点からいえば、現代文明の弊(へい)が与(あずか)って力ありとも言えるであろうと思う。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
これというのも多くは情実の弊(へい)ですが、婚礼を情実が支配するのは一番困りますね
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
徳利が破(こは)れるといふ大活劇を演ずることも度々で、それは随分弊(へい)が多かつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わたしは何度注意したか分からないが、今もってその弊(へい)は続いている。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
下(くだ)れる世に立って、わが真を貫徹し、わが善を標榜(ひょうぼう)し、わが美を提唱するの際、拖泥帯水(たでいたいすい)の弊(へい)をまぬがれ、勇猛精進(ゆうもうしょうじん)の志(こころざし)を固くして
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝廷も世間のうち、人と人との寄りあい、げに、その弊(へい)は否(いな)みがたい。が、遠い祖(おや)たちが叡智で築いた国の要(かなめ)だ。乱離にしてよいものではない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薬も長きむずかしき名を付ければ効能(こうのう)多く聞こゆるの例によりて、ややもすると、今もこの弊(へい)に陥(おちい)りやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大体の趣向出来たらばその次は句作の上に前後錯雑の弊(へい)なきやう、言葉の並べ方即ち順序に注意すべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これ文明の弊(へい)である。この弊を避けてその利を収むるのは模範国民たるものの責任である。これが早稲田大学の教旨の最も根本を為すべき要点である(拍手喝采)。
早稲田大学の教旨 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と素人(しろうと)のカツレツには往々この弊(へい)あり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
婦人というものはとかく物をするのに正面から近道を通って行かないで、かえって遠方から廻りくどい手段をとる弊(へい)がある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「旧北条のごとき弊(へい)に堕(お)ちず、かならず、よき前例にしたがって、献身、朝廷にお仕えつかまつりたいものと存じまする」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学究先生が書籍本位の読書法は、ややもすると実際にかけ離れて、空疎迂遠の弊(へい)に流れる傾きがある。
我輩の智識吸収法 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
趣向の小説的なる者を捕へてこれを歌に詠みこなす事は最も難きわざなるにただ歴史を叙する如き筆法に叙し去りて中心もなく統一もなき無趣味の三十一文字となし自(みずか)ら得たりとする事初心の弊(へい)なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と地方到る処(ところ)この弊(へい)あり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
天下の府、枢廟(すうびょう)の弊(へい)や今きわまる。よろしく公明の旌旗(せいき)を林集し、正大の雲会を遂げ、もって、昭々(しょうしょう)日月の下に万代の革政を諸公と共に正さん。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後に小生は目下我邦(わがくに)における学問文芸の両界に通ずる趨勢に鑒(かんが)みて、現今の博士制度の功(こう)少くして弊(へい)多き事を信ずる一人なる事を茲(ここ)に言明致します。
博士問題の成行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
従来の党派は、往々その弊(へい)に今陥りつつあるのを遺憾とするのである。このたびの解散によりて、このたびの改選によって、国民はやや自覚を始めた事を喜ぶのである。
憲政に於ける輿論の勢力 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と全国到る処この弊(へい)あり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
同時に、自分の希望の達成が、自分の身近にはない気がして、常に遠くにばかり道があると思ってしまう弊(へい)もある。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したがって山水によって画を愛するの弊(へい)はあったろうが、名前によって画を論ずるの譏(そし)りも犯(おか)さずにすんだ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
復古という意味は頗(すこぶ)る雄大なる意味を持っているのである。日本はかつて支那、印度(インド)の文明を採用して日本の文化がある程度まで非常に進んだ。ところがこれに弊(へい)が起った。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
と到る処この弊(へい)あり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)