かげ)” の例文
「見附かったからね、黙って買って上げようと思って入ったんですがね、おかげで大変な思いをしたんですよ。ああ、恐かった。」
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
考えてみれば、今の身があるのも、猿殿のおかげだ。ぜひ一度はめぐり会って、真人間になった自分を見せて上げなければ済まない。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だが僕は、毎日々々セッ付かれて困ってたんだから、地震のおかげで催促の手が少しはゆるむだろうと地震に感謝している、」
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
父のおかげを以てかように私までが歴々の嫡子達と一緒になるのだから、仲間の人々からは何か違った奴が入って来たという風で余り言葉も交わしてくれず
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
ういう山村に生れても、家が富裕であるおかげに、十年以前から東京に遊学して、医術を専門に研究し、開業試験にも首尾好く合格して、今年の春から郷里に帰った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
九夏三伏の暑熱にもげず土佐炭紅〻あか/\と起して、今年十六の伜の長次と職人一人を相手として他念なく働いたおかげで、生計も先づゆたかに折〻は魚屋の御用聞きなどを呼入れて
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
カピ長 うゝ、御坊ごばうかげで、ちと料簡れうけんなほりをらうわい。氣儘きまゝな、沒分曉的わからずや賤婦あまっちゃめぢゃ。
姉の確りしたところで、いつも気を引立てられている勝気にも性の弱い弟は、この秘密で冒険な行旅を、姉の敢行力のかげに在って、共々、行い味われたので、一も二もなく賛成した。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
やや真面目になれ得たと思うのは、全く父の死んだ時に経験した痛切な実感のおかげで、即ち亡父のたまものだと思う。あの実感を経験しなかったら、私は何処迄だらけて行ったか、分らない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貴方がおまもり下すったおかげで、私は今、何不足ない身分になって居ります——浅田は心の底から叫んだ。その時彼の胸に浮んだのは、榎の木影で、一緒に育った数人の弟妹達の姿であった。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「処を、清く、恐入ってくれたというもんだから、双方無事で、私もおおき技倆きりょうを上げたが、いってみりゃ、こりゃ、お前方のおかげだよ。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
間もなくその素封家から「紅葉先生と露伴先生のだけは早速表装しました、おかげで自慢の家宝が二幅出来でけえました、」と、慇懃いんぎんな礼手紙が来た。
わしが再びそんな魔道に落ちぬのも、養うて下さる御主人のおかげと常に思うていたら——その才謀さいぼう学識の人いちばい優れている御主人が、地獄の火放ひつけをなされようとは。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このお正月のこともみんな八橋さんのおかげで無事に済んだのでございます。どうかしてお礼をしたいと思っておりますけれども、今のわたくしの力ではどうにもなりません。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……ま、ともかくもわかはうわ、さうぢゃ、はて、はやひとれていといふに。……さてはや、じつ高徳かうとくのあの上人しゃうにんこの市中まちぢゅうもので、一人ひとりひとかげかうむらぬものはないわい。
先祖以来、田螺たにしつッつくにきたえた口も、さて、がっくりと参ったわ。おかげで舌の根がゆるんだ。しゃくだがよ、振放して素飛すっとばいたまでの事だ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れも未開の国で野法図のはふづに育つたおかげに歴史に功蹟を遺すだけに進歩しなかつたが其性質のすぐれて怜悧で勇気のあるのは学者に認められておる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「ほんとうに鉱山の人はいやね。お酒を飲むと、無闇に悪巫山戯わるふざけをして……。それでも鉱山が出来たおかげで、ここらも漸々だんだんにぎやかになったんだと云うから、仕方がないけれど……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先祖以来、田螺たにしつっつくにきたへた口も、さて、がつくりと参つたわ。おかげしたの根がゆるんだ。しゃくだがよ、振放ふりはなして素飛すっとばいたまでの事だ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
生来の虚飾家みえぼう、エラがり屋で百姓よりも町人よりも武家格式の長袖を志ざし、伊藤八兵衛のおかげで水府の士族の株を買って得意になって武家を気取っていた。
「ありがとうございます。おかげさまで、もうすっかりとなおりました。その節はいろいろ御心配をかけまして恐れ入りました。おかみさんもくれぐれも宜しく申してくれと云って居りました」
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「身に染む話に聞惚ききとれて、人通りがもう影法師じゃ。世の中には種々いろいろな事がある。お婆さん、おかげ沢山たんと学問をした、難有ありがとう、どれ……」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度門閥の味をめた奴は電信でないと世の中が渡れないと見えて、学校のおかげで不相当の位置を作つたものは再び女房のお庇にすがつて位置を高めやうとする。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
これもみんな八橋のおかげであると、お光は今更のように有難がっていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「えゝ、暴風雨あらしの時に、蔵屋は散々に壊れたんですつて……此方こちらは裏に峰があつたおかげで、もとのまゝだつて言ひますから……」
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
シカシ例証として日本の作物を挙げて論じられた処は面白くも読みかつまたおかげで蒙をひらいた処もある。
「はあ、有難うございます。おかげさまで、もう悉皆すっかりくなりました。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おいいでない。愛吉、お前がそんな事をいって来ないおかげで、私がどんな出世をしたのよ、どんな出世が出来たのよ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このおかげに私は幼時から馬琴に親しんだ。六、七歳頃から『八犬伝』の挿絵を反覆して犬士の名ぐらいは義経・弁慶・亀井・片岡・伊勢・駿河と共にそらんじていた。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「でも虫が知らせたんだよ。愛吉、お前のおかげで、そうやってさ、もうちっとで車が引くりかえりそうになりました。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『都之花』に載った「花車」は人気のおかげで多少読まれたが、具眼者の間には愚作と認められていた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「いや、何とも。わたくし大願成就仕りましたような心持で。おかげを持ちまして、痘痕あばたが栄えるでごわりまする。は、はは、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東露に若干たりとも日本の商業を拡げる事が出来たのは全く醜業婦のおかげである。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
五合ごんつくふるまわれたおかげにゃ、名も覚えりゃ、人情ですよ。こけ勘はお里が知れまさ、ト楫棒かじぼうつかまった形、腰をふらふらさせながら前のめりに背後うしろから
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
優曇華うどんげ物語』の喜多武清きたぶせいの挿画が読者受けがしないで人気が引立たなかった跡を豊国とよくにに頼んで『桜姫全伝』が評判になると、京伝は自分の作が評判されるのは全く挿絵のおかげだと卑下して、絵が主
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
遠くまで、朝ねえ、まだ夜の明けない内に通ったのよ。そのおかげで……きっとそのお庇だわ。今日にも明日にも、といった弟さんが、すっかり治ってね。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「高津さん、ありがとう。おかげ様で助かりました。上杉さん、あなたはひどい、酷い、酷いもの飲ませたから。」
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こりゃ懸直かけね無し私も一ツもの思いだ、帰ってからも路々もすじ辿たどって考えよう、いやしかしおかげでおもしろい……といっちゃあ済まないような気もするね。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(山伏め、何をぬかす。)——結構でござるとも。その御婦人をお救けなさって、手前もおかげで助かりました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしにはこれまでんだ御經おきやうより、餘程よつぽど難有ありがたくてなみだた。まことに善知識ぜんちしき、そのおかげおほきにさとりました。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いや、はあ、こげえな時、米が砂利になるではねえか。(眉毛につばしつつ俵を探りて米をむ)まず無事だ。(太鼓の音近く聞ゆ)——弘法様のおかげだんべい。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かげこうむりまするうれしさの余り、ついたべ酔いまして、申訳もうしわけもござりませぬ。真平御免まっぴらおゆるされ下されまし。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出生うまれは私、東京でも、静岡で七つまで育ったから、田舎ものと言われようけれど……その姉さんを持ったおかげに、意地も、張も、達引たてひきも、私は習って知っている。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……こっちの木の葉より、羽団扇はうちわの毛でもちっとはましだろうと思うから、お酌をしますとね、(聞け——娘。)と今度はお酌のおかげで、狐が娘になったんですがね。
「でも、駈落ちをしたおかげで、無事に生命いのちを助かつたんです。思つた同士は、道行みちゆきに限るのねえ。」
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「でも、駈落かけおちをしたおかげで、無事ぶじ生命いのちたすかつたんです。おもつた同士どうしは、道行みちゆきにかぎるのねえ。」
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それが天火にさらされているんだからね——びっしょり汗になったのが、おかげですっかり冷くなった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月夜つきよなんざ、つゆにもいろそまるやうに綺麗きれいです……おかげかうむつて、いゝ保養ほやうをしますのは、手前てまへども。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もう人が何と言いましょうと、旦那さんのおことばばかりで、どんなに、あの人から責められましても私はきっぱりと、心中なんかいやだと言います。おかげさまで助りました。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あんさん、縁者の人——こちらは養家さきの兄の家内たちや——見物をさしてたあせ。……ほんに、あんさんのおかげで……今日という今日は、私は肩身が広いぞね。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)