平伏ひれふ)” の例文
女は平伏ひれふして、米友の前へ手を合わせぬばかりです。しかしながらこれは、いよいよ米友をけむに巻くようなものとなりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
斯うした胸の底の暗い祕密を覗かれる度に、われと不實に思ひ當る度に、彼は愕然として身を縮め、地面に平伏ひれふすやうにして眼瞼を緊めた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そこで源三は抵抗もせずに、我を忘れて退いて平伏ひれふしたが、もう死んだ気どころでは無い、ほとんど全く死んでいて、眼には涙も持たずにいた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
信心深かそうな老夫婦が大地に平伏ひれふして拝んでいたので、陛下は平素ふだんの慣例を破られ、ご会釈されたということなどで
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時またサタンは世のもろもろの国とその栄華とを自分に見せて、もし平伏ひれふして彼を拝するならば、これらのものを皆自分に与える、と言った。
『して此等これら何者なにものか?』女王樣ぢよわうさま薔薇ばらまはりに平伏ひれふしてゐた三にん園丁えんていどもをゆびさしてまをされました、何故なぜふに、彼等かれら俯伏うつぶせにてゐるし
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
又と再び見出されないであろう絶世の美少女の麻酔姿……地上の何者をも平伏ひれふさしてしまうであろう、その清らかな胸に波打つふくよかな呼吸……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
、仰いで見るうちに、数十人の番士ばんし足軽あしがるの左右に平伏ひれふす関の中を、二人何の苦もなく、うかうかと通り抜けた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「いかいお思召し違いにござります。大御所様には、今日越前勢が合戦の手に合わざったを、お怨みにござります」といったまま、色をかえて平伏ひれふした。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
白洲には、七、八人の町人が、干鰈ほしがれいのように平伏ひれふしていた。真中に出ている二人が公事くじの当人達であろう。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヂュリ とゝさまの命令おほせごとそむいた不孝ふかうつみくやむことをならうたところに。(膝まづきて)かうして平伏ひれふしてとゝさまのゆるしへいと、あのロレンスどのがはれました。
藤浪君は所作事しょさごと丈けを慎んだ。大地に平伏ひれふしたりすると、ロケーションだと思って、人群ひとだかりがする。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おそりましてござります。』と、玄竹げんちくたゝみ平伏ひれふした。老眼らうがんからは、ハラ/\となみだがこぼれた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
恐れ多やの一言の、後は涙に暮れてゆく、畳の上に平伏ひれふして、ここのみ残す、夕陽影。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
枯萩かれはぎ一叢ひとむらが、ぴったりと弓形ゆみなりに地に平伏ひれふして居る。余は思わず声を立てゝ笑った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
美しい女優たちは、自分たちの前にたって荊棘いばらの道を死ぬまで切りひらいたひとの足もと平伏ひれふして、感謝の涙に死体の裳裾もすそをぬらし、額に接吻し、ささぐる花に彼女をうずめつくすであろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
猿ははたと地に平伏ひれふして、熟柿じゅくし臭き息をき、「こは何処いずくの犬殿にて渡らせ給ふぞ。やつがれはこのあたりいやしき山猿にて候。今のたもふ黒衣とは、僕が無二の友ならねば、元より僕が事にも候はず」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「邪道に堕ちた霊魂のために祈つて下され!」そして彼は地に平伏ひれふした。
(楓ははッと平伏ひれふす。頼家主従すすみ入れば、夜叉王も出で迎える。)
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は功名心にあおられて真理の探求に向う心よりも大地に平伏ひれふして懺悔ざんげする心を心としなければならない。ふまじめと傲慢とにおいてではなく、真摯と謙虚とにおいて自分自身は初めて知られ得る。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
台所の板敷に若い男が平伏ひれふしている。
イエスの前まで来た時その優しいうちにも威のこもったすがたに打たれて平伏ひれふし、「神によりて願う、我を苦しめ給うな」と大声にて叫びました(五の七)。
堪忍して下され口がきけませぬ、十兵衞には口がきけませぬ、こ、こ、此通り、あゝ有り難うござりまする、と愚魯おろかしくもまた真実まことに唯平伏ひれふして泣き居たり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
盲目めしいは、あかい手絡てがらをかけた、若い女房に手をかれて来たが、敷居の外で、二人ならんでうやうやしく平伏ひれふした。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人民じんみんどもがみん平伏ひれふさなければならないくらゐなら、いつ行列ぎやうれつないはうましぢやないの?』其故それゆゑあいちやんは自分じぶんところしづかに立停たちどまつてつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
然し、幸村は「ここを辛抱せよ。片足も引かば全く滅ぶべし」と、先鋒に馳来って下知した。一同、その辺りの松原を楯として、平伏ひれふしたまま、退く者はなかった。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
思わず獄舎の床に平伏ひれふして顔を上げ得なかった。オイオイ声を立てて泣出した者も在ったという。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ハッ」と右門は立ち止まり、そのままバッタリと平伏ひれふした。そして悲壮に云うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
両手を組んで、高く差し上げたかと思うと、再びそれを下に卸して、首を下につけた、というよりは、五体のすべてを投げ出して平伏ひれふしました。その度毎に、声はないが激しい震動がある。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
頼朝の眼は小兵な弟の平伏ひれふしている姿へ、きびしくそそがれたままであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おびただしい拍手が起った。吾にかえると呂昇と昇華が演壇の上に平伏ひれふして居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と言い給い、ペテロら三人をも離れてただ一人さらに少し進み往きて地に平伏ひれふし、腸をしぼって祈り出で給うた
堪忍かにして下され口がきけませぬ、十兵衛には口がきけませぬ、こ、こ、この通り、ああありがとうござりまする、と愚かしくもまた真実まことにただ平伏ひれふして泣きいたり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
惜気おしげもなく、前髪を畳につくまで平伏ひれふした。三指づきの折かがみが、こんな中でも、打上る。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいちやんは自分じぶんまた、三にん園丁えんていのやうに平伏ひれふさなければならないかうかは疑問ぎもんでしたが、かつ行列ぎやうれつ出逢であつた場合ばあひ、かうした規則きそくのあることをきませんでした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
両人ともに言葉なくたゞ平伏ひれふして拝謝をがみけるが、それより宝塔とこしなへに天に聳えて、西よりれば飛檐ひえん或時素月を吐き、東より望めば勾欄夕に紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
(とろりと酔える目に、あなたに、きざはしなるお沢の姿を見る。あわただしくまうつむけに平伏ひれふす)ははッ、大権現だいごんげん様、御免なされ下さりませ、御免なされ下さりませ。霊験あらたか御姿おすがたに対し恐多おそれおおい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはから狻猊さんげいか何かの、黄金色きんだの翠色みどりだのの美しくいろえ造られたものだった。畳に置かれた白々しろじろとした紙の上に、小さな宝玩ほうがんは其の貴い輝きを煥発かんぱつした。女は其前に平伏ひれふしていた。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この屠犬児恐しき家業には似もやらで、至極実体者じっていもの、地に平伏ひれふ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両人ともに言葉なくただ平伏ひれふして拝謝おがみけるが、それより宝塔とこしなえに天にそびえて、西よりれば飛檐ひえんある時素月を吐き、東より望めば勾欄こうらん夕べに紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一座の末に、うら若い新夫婦は、平伏ひれふしていたのである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御墓の前に平伏ひれふして円顱ゑんろを地に埋め、声も得立てずむせび入りぬ。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
高坂がその足許あしもと平伏ひれふしたのは言うまでもなかった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかりに平伏ひれふした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)