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嶮岨
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けんそ
ふりがな文庫
“
嶮岨
(
けんそ
)” の例文
こうして、さしもの
嶮岨
(
けんそ
)
ものぼり切ってしまうと、彼は厚ぼったい唇を
剥
(
む
)
いて、陶山の前に、強欲な手のひらをすぐつき出した。
私本太平記:04 帝獄帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その北は
遠眼鏡
(
スパイグラース
)
山の傾斜した南の肩に接し、南の方へ向ってはまた隆起して、
後檣
(
ミズンマスト
)
山と言われているごつごつした
嶮岨
(
けんそ
)
な高地になっていた。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
登山流行時代の今日スポーツの立場から
嶮岨
(
けんそ
)
をきわめ、未到の地を探り得てジャーナリズムをにぎわしたような場合でも
地図をながめて
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
一歩さきはどうなっているのか見当のつかない
嶮岨
(
けんそ
)
な山道をのぼって行くような困難さで、のみこもうとするのだった。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
馬も通わないという
嶮岨
(
けんそ
)
な
加子母峠
(
かしもとうげ
)
を越して、か弱い足で二十余里の深い山道を踏んで行ったことは、夫を思う女の一心なればこそそれができた。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
わが輩が歩いた道のことを
詳
(
くわ
)
しく知らぬ人が、よその人から聞いて、この道は非常に悪路である、
嶮岨
(
けんそ
)
だとか、危険の多い道だとか信じている人は
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
凡
(
およ
)
そ其半なるを
確
(
たしか
)
めたり、利根山奥は
嶮岨
(
けんそ
)
人
(
ひと
)
の入る能はざりし
為
(
た
)
め、
漫
(
みだ
)
りに其大を
想像
(
さう/″\
)
せしも、一行の探検に拠れば
存外
(
ぞんぐわい
)
にも其
狭
(
せま
)
きを
知
(
し
)
りたればなり
利根水源探検紀行
(新字旧仮名)
/
渡辺千吉郎
(著)
期せずして二人とも一直線に山を登り始めたが、その山が又、案外
嶮岨
(
けんそ
)
な絶壁だらけの山で、道なぞは無論無い。
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
其処へ落ちては五体粉微塵となるくらいの
嶮岨
(
けんそ
)
な処でありますから、決して助かりよう筈はないのでございます。
霧陰伊香保湯煙
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
だんなさま、
不思議
(
ふしぎ
)
なこともあるもんです。それは、とうてい
人間
(
にんげん
)
のゆけるようなところでありません。
嶮岨
(
けんそ
)
な
山
(
やま
)
、また
山
(
やま
)
の
奥
(
おく
)
で、しかも
谷
(
たに
)
の
向
(
む
)
こう
側
(
がわ
)
です。
大根とダイヤモンドの話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
しかし近間の山林は官林なので、民有林から
伐木
(
ばつぼく
)
して
薪
(
まき
)
を運ぶのに、
嶮岨
(
けんそ
)
な峰を牛の背でやった。
製煉
(
せいれん
)
された硫黄も汽車の便がある土地まで牛や馬が運んだ。
旧聞日本橋:08 木魚の顔
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
私は長い橋の中ほどに
佇
(
たたず
)
んで川の上流の方を
眺
(
なが
)
めると、
嶮岨
(
けんそ
)
な峰と峰とが
襟
(
えり
)
を重ねたように
重畳
(
ちょうじょう
)
している。
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
このもの頭大に体大きな割合に脚甚だ痩せ短いから、迅く行く能わず。その蹄の縁極めて鋭く、中底に窪みあり、滑りやすき地を行き、
嶮岨
(
けんそ
)
な山腹を登るに
任
(
た
)
ゆ。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
二 上野黒竜山不動寺は、山深く
嶮岨
(
けんそ
)
にして、
堂宇
(
どうう
)
其間に在り。魔所と言ひ伝へて怪異甚だ多し。山の
主
(
ぬし
)
とて山大人と云ふものあり。一年に二三度は寺の者之を見る。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
老爺
(
ぢい
)
が
其
(
そ
)
の
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
いて
起
(
お
)
こして、さて、かはる/″\
負
(
お
)
ひもし、
抱
(
だ
)
きもして、
嶮岨
(
けんそ
)
難処
(
なんしよ
)
を
引返
(
ひきかへ
)
す。と
二時
(
ふたとき
)
が
程
(
ほど
)
に
着
(
つ
)
いた
双六谷
(
すごろくだに
)
を、
城址
(
しろあと
)
までに、
一夜
(
ひとよ
)
、
山中
(
さんちゆう
)
に
野宿
(
のじゆく
)
した。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
なかなか良い馬で、
嶮岨
(
けんそ
)
な坂でもほとんど人が手足で登り駆けるかのごとくうまく進みました。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
竹助は
嶮岨
(
けんそ
)
の道もこれがためにやすく、およそ一里半あまりの山みちをこえて
池谷村
(
いけだにむら
)
ちかくにいたりし時、荷物をばおろし山へかけのぼる、そのはやき事風の如くなりしと
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
つづらおりの
嶮岨
(
けんそ
)
な山道を、およそ八里くらいもはなれた山奥……おまけにその白上という部落は、佐賀県とのさかい、多良岳のふもとで、そんなところから、こんな老婆の足で
亡霊怪猫屋敷
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
左手に
赤城
(
あかぎ
)
、
榛名
(
はるな
)
の山を眺め、あれが赤城の地蔵岳だの、やれあれが
伊香保
(
いかほ
)
の何々山だのと語りながら馬を進ませたが、次第に路が
嶮岨
(
けんそ
)
になって、馬が
躓
(
つま
)
ずいたり止まったりすると
本州横断 痛快徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
、
井沢衣水
(著)
ふとしたはずみに心づいて、この刀道の悟りをひらいたという、いわば天来の妙法なのだから、
技
(
わざ
)
ここに至らんと
希
(
ねが
)
う者は、身みずから孫六のあえいだ
嶮岨
(
けんそ
)
を再び踏み越すよりほかに
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
で、この難所を通ることも、道が
嶮岨
(
けんそ
)
で狭いから、一人ずつしか通れない。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
黒ん坊は
深山
(
みやま
)
に生長しているので、
嶮岨
(
けんそ
)
の道を越えるのは平気である。
くろん坊
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
白河二所の関とは一夫道にあたりて万夫も進まざる恐ろしき
嶮岨
(
けんそ
)
、鬼も出づべしと思ひきや、淋しき町はづれにいかめしき二階づくり、火にぎやかにともし連ねたるを何ぞと近よれば、ここも一廓
旅
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
(涙声になり)あたし達の行く先々は、
嶮岨
(
けんそ
)
な路だねえ。
沓掛時次郎 三幕十場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
白い上被も着た人相骨格の
嶮岨
(
けんそ
)
に見える者ばかりだ。
春:――二つの連作――
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
一昨日
(
おととい
)
の晩から、
牛渚
(
ぎゅうしょ
)
の
砦
(
とりで
)
の裏山へ
嶮岨
(
けんそ
)
をよじて
潜
(
もぐ
)
りこみ、きょうの戦で、城内の兵があらかた出たお留守へ飛びこみ、中から火をつけて
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
高島城から三里ほどの距離にある。当方より進んでその
嶮岨
(
けんそ
)
な地勢に
拠
(
よ
)
り、要所要所を固めてかかったなら、敵を
討
(
う
)
ち取ることができようと力説した。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
植木屋
(
うえきや
)
は、その
道
(
みち
)
の
嶮岨
(
けんそ
)
なことを
考
(
かんが
)
えました。また、
秋
(
あき
)
の
変
(
か
)
わりやすい
天候
(
てんこう
)
のことを
思
(
おも
)
いました。
大根とダイヤモンドの話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
竹助は
嶮岨
(
けんそ
)
の道もこれがためにやすく、およそ一里半あまりの山みちをこえて
池谷村
(
いけだにむら
)
ちかくにいたりし時、荷物をばおろし山へかけのぼる、そのはやき事風の如くなりしと
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
平日の
薪採
(
たきぎと
)
りが十分で、事あらば駈け登るべき
嶮岨
(
けんそ
)
の要害山にも近く、さらに家人郎従を養うだけの田園があって、籠城の
兵糧
(
ひょうろう
)
も集めやすく遠見と掛引きとに都合の好い山城は
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
彼等はそれから
嶮岨
(
けんそ
)
な山道を越えたり、
追剥
(
おいはぎ
)
や猛獣の住む荒野原を横切ったり、零下何度の高原沙漠を、案内者の目見当一ツで渡ったりして、やがて崑崙山脈の奥の秘密境に在る
狂人は笑う
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
漸
(
やうや
)
く両足を
容
(
い
)
るるに
堪
(
た
)
ふ、之れこそ利根の戸倉と会津の檜枝岐との
間
(
あひだ
)
に在る県道なれば、其
嶮岨
(
けんそ
)
云ふべからずと雖も、
跋渉
(
ばつせう
)
に
慣
(
な
)
れたる余等の一行は、
恰
(
あたか
)
も
坦
(
たん
)
たる大道を
歩
(
あゆ
)
む如き心地をなし
利根水源探検紀行
(新字旧仮名)
/
渡辺千吉郎
(著)
重太郎はお葉の跡を追って、これも東西の
嫌
(
きら
)
い無しに
山中
(
やまじゅう
)
を駈け廻ったが、容易に女を捉え得なかった。
嶮岨
(
けんそ
)
に馴れたる彼は、飛ぶが如くに
駈歩
(
かけある
)
いて、一旦は
麓
(
ふもと
)
まで降ったが又思い直して
引返
(
ひっかえ
)
した。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
楊儀
(
ようぎ
)
、
姜維
(
きょうい
)
の両将は、物見を放って、しばらく行軍を見合わせていた。道はすでに有名な
桟道
(
さんどう
)
の
嶮岨
(
けんそ
)
に近づいていたのである。
三国志:11 五丈原の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そのたびに徴集されて
嶮岨
(
けんそ
)
な木曾路を往復することであるから、自然と人馬も疲れ、病人や死亡者を生じ、
継立
(
つぎた
)
てにもさしつかえるような村々が出て来た。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
しかし、こうした
嶮岨
(
けんそ
)
な
場所
(
ばしょ
)
に
生
(
しょう
)
じたために、しんぱくは、
無事
(
ぶじ
)
に
今日
(
こんにち
)
まで
日
(
ひ
)
を
送
(
おく
)
ることができたのであります。けれど、それは、また
偶然
(
ぐうぜん
)
であるといわなければなりません。
しんぱくの話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
他の一方には裏口の
崖
(
がけ
)
を斜めに、樹隠れの
嶮岨
(
けんそ
)
を降って出る路が近戸である。根搦へ下りて行くからすなわち搦手というのであろう。これは古い世からの風習のままらしく思われる。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
「福島の
嶮岨
(
けんそ
)
を
擁
(
よう
)
し、難所に奇計をもうけ、お味方の先鋒もまだそれへ近づくだに、よほど日数を要するものと見られます」
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
木曾福島の関所を破ることは浪士らの本意ではなかった。二十二里余にわたる木曾の森林の間は、
嶮岨
(
けんそ
)
な山坂が多く、人馬の
継立
(
つぎた
)
ても容易でないと見なされた。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
かの者等は何事か語り合ひしが、やがて九助を
小脇
(
こわき
)
にかゝへ、
嶮岨
(
けんそ
)
巌窟
(
がんくつ
)
の嫌ひなく平地の如くに馳せ下り、一里余りも来たりと思ふ頃、其まゝ地上に引下して、
忽
(
たちま
)
ち形を隠し姿を見失ひぬ。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
それは、
人間
(
にんげん
)
のちょっとゆけるような
場所
(
ばしょ
)
でありません。
高山
(
こうざん
)
の、しかも
奥深
(
おくふか
)
い
嶮岨
(
けんそ
)
ながけの
岩角
(
いわかど
)
にはえて、はげしいあらしに
吹
(
ふ
)
かれていた
木
(
き
)
です。このしみは、なだれに
打
(
う
)
たれた
傷痕
(
きずあと
)
でございます。
しんぱくの話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
だが、地の利と、
嶮岨
(
けんそ
)
の安全感から、この人々は、
台風
(
たいふう
)
の
圏外
(
けんがい
)
にいる気もちで、至極、
悠暢
(
ゆうちょう
)
にかまえこんでいたらしい。
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
おかげにていかようにも宿相続
仕
(
つかまつ
)
り来たり候ところ、元来
嶮岨
(
けんそ
)
の
瘠
(
や
)
せ
地
(
ち
)
、山間わずかの田畑にて、宿内食料は近隣より買い入れ、塩、綿、油等は申すに及ばず
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
こうして二里三里の
嶮岨
(
けんそ
)
の山を越えなければ、入って行かれない川内が日本には多かった。それを住む人の側ではあるいはオグニ(小国)などとも呼んでいた。出羽・越後にも幾つかの小国がある。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
陽平関は、その左右の山脈に森林を擁し、長い裾野には、諸所に
嶮岨
(
けんそ
)
もあり、一望雄大な戦場たるにふさわしかった。
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
飛騨を知らない半蔵が音に聞く
嶮岨
(
けんそ
)
な
加子母峠
(
かしもとうげ
)
の雪を想像し、美濃と飛騨との
国境
(
くにざかい
)
の方にある深い山間の
寂寞
(
せきばく
)
を想像して、冬期には行く人もないかと思ったほど途中の激寒を恐れたことは
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
ここは
孫権
(
そんけん
)
の地で、呉主すでに三世を
歴
(
けみ
)
しており、国は
嶮岨
(
けんそ
)
で、海山の産に富み、人民は
悦服
(
えっぷく
)
して、賢能の臣下多く、地盤まったく定まっております。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
道の狭いところには、木を
伐
(
き
)
って並べ、
藤
(
ふじ
)
づるでからめ、それで街道の狭いのを補った。長い間にこの木曾路に起こって来た変化は、いくらかずつでも
嶮岨
(
けんそ
)
な山坂の多いところを歩きよくした。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
定軍山の
麓
(
ふもと
)
まで押し寄せ、数度となく攻め挑んだが、魏の軍は固く閉じて現れないため、直ぐにも攻め上ろうとの試みも、山道はなかなか
嶮岨
(
けんそ
)
であるし
三国志:09 図南の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
この深い木曾谷が昼でも暗いような森林におおわれた天然の
嶮岨
(
けんそ
)
な
難場
(
なんば
)
であり、木曾福島に関所を置いた昔は鉄砲を改め女を改めるまでに一切の通行者の監視を必要としたほどの封建組織のためにも
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
“嶮岨”の意味
《名詞》
嶮岨(けんそ 「険阻」に「同音の漢字による書きかえ」がなされる)
山や道などが険しいさま。また、険しい所。
(出典:Wiktionary)
嶮
漢検1級
部首:⼭
16画
岨
漢検準1級
部首:⼭
8画
“嶮”で始まる語句
嶮
嶮路
嶮峻
嶮崖
嶮山
嶮隘
嶮悪
嶮城
嶮難
嶮要