少女おとめ)” の例文
中流より石級の方を望めば理髪所の燈火あかり赤く四囲あたりやみくまどり、そが前を少女おとめの群れゆきつ返りつして守唄もりうたふし合わするが聞こゆ。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
出女でおんな、入り鉄砲」などと言われ、女の旅は関所関所で食い留められ、髪長かみなが、尼、比丘尼びくに髪切かみきり少女おとめなどと一々その風俗を区別され
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
真紅しんくや、白や、琥珀こはくのような黄や、いろ/\変った色の、少女おとめのような優しい花の姿が、荒れた庭園の夏をいろど唯一ゆいいつの色彩だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
だしぬけにこえをかけられて、少女おとめはびっくりしました。それから人間にんげん姿すがたると、二びっくりして、あわててそうとしました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
可憐なる多くの少女おとめ達の行末を守り、玉のやうな乙女子たちに、私の様な轍を踏まない様、致したいとの望みを起こしたのでござります。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
夕焼ゆうやけはいくたびとなく、うみのかなたのそらめてしずみました。少女おとめ岩角いわかどって、なみだながらにそれをながめたのでありました。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
待合室をづるとて、あたかも十五六の少女おとめを連れしたけ高き婦人——貴婦人の婦人待合室より出で来たるにはたと行きあいたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
貞淑なる少女を妖婦の如く、清浄な女を悪魔の如く、純真無垢なる花の如き可憐な少女おとめをあなたは淫婦の如く罵らなければならないのですか。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
うるわしいお下髪さげにむすび、おびのあいだへ笛をはさんだその少女おとめは、おずおずと、梅雪の駕籠の前へすすんで手をついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに武芸をひとわたりは心得たとて……この血腥ちなまぐさい世の中に……ただの女の一人身で……ただの少女おとめの一人身で……夜をもいとわず一人身で……
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
さだめなき空に雨みて、学校の庭の木立こだちのゆるげるのみ曇りし窓の硝子ガラスをとほして見ゆ。少女おとめが話聞く間、巨勢こせが胸には、さまざまの感情戦ひたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
其頃の土肥君は、色は黒いが少女おとめの様なつゝましい子であった。余は西郷戦争の翌年京都に往った。其れからかけちがって君に逢わざること三十三年。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あまりに少女おとめらしい人だと可憐かれんに思って、一日じゅうそばについていて慰めたが、打ち解けようともしない様子がいっそうこの人をかわゆく思わせた。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ダンネベルグ夫人をそれほど神秘的な英雄めいた——例えばスウェーデンボルグやオルレアンの少女おとめみたいな、慢性幻覚性偏執症パラノイア・ハルツィナトリア・クローニカだと云うわけじゃないのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けれども、その少女お園の心持ちは、内気な少女おとめには、よくうなずかれもし、残りなく書尽かきつくされてもいる。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たとえば菌採きのことり青物採りなどはそれであったが、青物は採らなくなり菌も栽培にかわると、いわゆるナバ師はみな男になった。『万葉集』には「玉藻たまもるあま少女おとめども」
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
眠りたる眼は開くなし。父と兄とは唯々いいとして遺言のごとく、憐れなる少女おとめ亡骸なきがらを舟に運ぶ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「十五や十六の少女おとめではない。何かお考えがおありで、そっと戸外そとへ出られたものであろう」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
旋頭歌せどうかで、人麿歌集所出である。一首の意は、新しく家を造るために、その地堅め地鎮の祭を行うので、大勢の少女おとめ等が運動に連れて手飾てかざりの玉を鳴らして居るのが聞こえる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふびんや少女おとめの、あばら屋といえば天井もかるべく、屋根裏はしばく煙りに塗られてあやしげに黒く光り、火口ほくちの如き煤は高山こうざんにかゝれる猿尾枷さるおがせのようにさがりたる下に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どちらも軽い洋装ですが、勇美子はクリーム色のジャケツ、陽子は白のセーラー、ロング・カットがやわらかい風になびいて、知らない者が見たら、少女おとめの幸福に酔った散歩姿とも見るでしょう。
身代りの花嫁 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
雅樸に偏する者は百姓と言ひくわと言へば則ち以て直ちにとし、また他を顧みず。これ他の卑野と目する所以なり。婉麗に偏する者は少女おとめと言ひ金屏きんびょうと言へば則ち以て直ちにとし、また他を顧みず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
出雲いずもの川上というところにいたりたもう。そこにひとりのおきなうばとあり。ひとりの少女おとめをすえてかきなでつつ泣きけり。素戔烏尊すさのおのみことたぞと問いたもう。われはこの国神くにつかみなり。脚摩乳あしなずち手摩乳てなずちという。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
寐入りし少女おとめの夢さへ覚ます月の光に
かかるかなしきその日の少女おとめ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
我がめぐわしき少女おとめ
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あの鴉共が水の少女おとめ
でもみずの中に少女おとめたちがどうするか、様子ようす見届みとどけて行きたいとおもって、羽衣はごろもをそっとかかえたまま、木のかげにかくれてていました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ちょうど悪質の石炭が燃えた時、赤ちゃけた煙が出たが、その煙の色をした赤い髪の少女おとめが窓際で機を織りながら、遠くの空を眺めていた。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
少女おとめは神崎の捨てた石を拾って、百日紅さるすべりの樹に倚りかかって、西の山の端に沈む夕日を眺めながら小声で唱歌をうたっている。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
翻りてくれないのリボンかけたる垂髪さげがみの——十五ばかりの少女おとめ入り来たり、中将が大の手にさき読本をささげ読めるさまのおかしきを、ほほと笑いつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
現世このよの人とも思はれぬが、薄き蒲団に包まれて、壁に向ひ臥したる後姿のみは、ありありとして少女おとめの胸を打ちぬ。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
我空想はかの少女おとめをラインの岸の巌根いわねにをらせて、手に一張ひとはりの琴をらせ、嗚咽おえつの声をいださせむとおもひ定めにき。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
身をていして、激流の中から彼が救い上げて来た娘は——その頃まだ軽かった。十四ぐらいな愛くるしい少女おとめで、お小夜という名は、後に知ったのである。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二千有余年も昔の、猶太ユダヤ少女おとめの魂が、大正の日本に、よみがえって来たように、瑠璃子は炎のごとく熱狂した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山田武太郎と表札の出ている、美妙斎の住居すまいを訪れた、みちのく少女おとめのいなぶねは、田舎娘が来たのかと、気にもかけなかったであろう美妙に、ハッと目をみはらせた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
嫉妬しっとをお持ちになる傾向が宮にもあれば院はまして苦しい立場になるのであるが、おっとりとした少女おとめの宮を、人形のように気楽にお扱いになることはできるのであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
と法水がいさしを灰皿の上で揉み潰すと、検事は少女おとめのように顔を紅くして、法水に云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
アヽ五日前一生の晴の化粧と鏡に向うた折会うたる我に少しも違わずさて父様ととさまかと早く悟りてすがる少女おとめの利発さ、これにも室香むろかが名残の風情ふぜい忍ばれて心強き子爵も、二十年のむかし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ことに女の旅は厳重をきわめたもので、髪の長いものはもとより、そうでないものもあま比丘尼びくに髪切かみきり少女おとめなどと通行者の風俗を区別し、乳まで探って真偽を確かめたほどの時代だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
に似たる少女おとめの、舟に乗りて他界へ行くを、立ちならんで送るのでもあろう。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小夜子は純潔な少女おとめでした。彼女は今も申した通り、親や同胞のために身を売ったのです。彼女はこうしなければ生きて行かれなかったのです。彼女はカフェー・パローマの女給となりました。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
そのくせにすわぜいはなかなかあッて、そして(少女おとめ手弱たよわに似ず)腕首が大層太く、その上に人を見る眼光めざしが……眼は脹目縁はれまぶちを持ッていながら……、難を言えば、凄い……でもない……やさしくない。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
かれが沸騰せし心の海、今は春のかすめる波平らかに貴嬢はただ愛らしき、あわれなる少女おとめ富子の姿となりてこれに映れるのみ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
少女おとめはどうかして、あのとこなつとおなじいはなはどこかにいていないかとおもって、毎日まいにちのように浜辺はまべさがしてあるきました。
夕焼け物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
少女おとめ羽衣はごろもにひかれて、とうとう伊香刀美いかとみのうちまで行きました。そして伊香刀美いかとみといっしょに、そのおかあさんのそばでらすことになりました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
小戻りして、窓のカーテンの陰にうちの話を立ち聞く少女おとめをあとに残して、夫人は廊下伝いに応接間のかたへ行きたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今この処を過ぎんとするとき、とざしたる寺門のとびらりて、声をみつつ泣くひとりの少女おとめあるを見たり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
煙村の少女おとめ温泉いでゆ湯女ゆな、物売りの女など、かえって、都人みやこびとのすきごころをうずかせたことでもあろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)