寝台ねだい)” の例文
旧字:寢臺
自分で正気づいたと、心がたしかになった時だけ、うつつおんな跫音あしおとより、このがたがたにもうたまらず、やにわに寝台ねだいからずるずると落ちた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
病人は寝台ねだいから飛び降りたい様子で、起き上がった。しかしもう力を使い尽したと見えて、死物のようにばたりと寝台の上に倒れた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
納戸色なんどいろ、模様は薄きで、裸体の女神めがみの像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草からくさである。石壁いしかべの横には、大きな寝台ねだいよこたわる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寝台ねだいの上にあお向いたまま、ただ両手を動かして拍手はくしゅかっさいした。半身不随はんしんふずいなのかしら、板の上にりつけられたように見えた。
ああ。私はあの時寝台ねだいの中の女を悪魔だと思い込んで殺したので御座いました。この国の秘密を守るため。王様のため。国のため」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
喬生は、その座下に拝して、かの牡丹燈の一条を訴えると、法師は二枚のあかをくれて、その一枚はかどに貼れ、他の一枚は寝台ねだいに貼れ。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
白い敷布をかけた寝台ねだい診察室しんさつしつにあって、それにとなった薬局には、午前十時ごろの暖かい冬の日影のとおった硝子がらすの向こうに
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
翌朝点呼になつて見ると、囚人の中に寝台ねだいから起きないものが三人あつた。上官が如何に声を荒らげて呼んでも起きて来ない。
病院の寝台ねだいの上にあおむきに成ったきり、流血の止るまでは身動きすることも出来なかった。お新は親戚の家から毎日のように見舞に出掛けた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、正面のが開いて、十平太がはいって来た。すると部屋の片隅のゴブラン織りの寝台ねだいから嗄れた声が聞こえて来た。——
寝台ねだいタアブル、椅子の上へ掛けて沢山たくさんの古い舞台が並べられ、其れを明るい夕日がてらす。マドレエヌは一一いちいちうれしさうに眺めて追懐に耽つてゐる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
寝台ねだいの下にはあらず。)金庫は開きありて、鍵はぢやうの孔に差したる儘なり。金庫内には古き手紙若干と余り重要とも見えざる書類とあるのみ。
自然学の趣味もあるという事が分かる。家具は、部屋の隅に煖炉だんろが一つ据えてあって、その側に寝台ねだいがあるばかりである。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
で、早速の気転で、お客の重みで寝台ねだいが押し潰れないやうに、鉄線はりがねでもつて、方々を蜘蛛の巣のやうにからめにかゝつた。
硝子ガラスの器を載せた春慶塗しゅんけいぬりの卓や、白いシイツをおおうた診察用の寝台ねだいが、この柱と異様なコントラストをなしていた。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
白い蚊帳かやのついた寝台ねだい籐編とうあみの椅子と鏡台と洗面器の外には何もない質素な一室である。壁には画額ゑがくもなく、窓には木綿更紗もめんさらさ窓掛まどかけが下げてあるばかり。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それから母と娘とは角の部屋から寝台ねだい揺籠ゆりかごとを運び出して跡を片付けた。そしてセルギウスをそこへ案内した。
モイセイカは今日きょう院長いんちょうのいるために、ニキタが遠慮えんりょしてなに取返とりかえさぬので、もらって雑物ぞうもつを、自分じぶん寝台ねだいうえあらざらひろげて、一つ一つならはじめる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ひとりごちながら寝台ねだいをおり、二階の窓ぎわへ、唐風からふう朱椅子あかいすをかつぎだして、そこへ頬杖ほおづえをついたのは、こういう異人屋敷いじんやしきにふさわしい和田呂宋兵衛わだるそんべえ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犬は小さな尾を振りながら、嬉しそうにそこらを歩き廻った。それは以前飼っていた時、彼女の寝台ねだいから石畳の上へ、飛び出したのと同じ歩きぶりだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ハッと思うと、ズーッと自分の寝台ねだいの二けんばかり前まで進んで来たが、奇妙に私はその時には口もきけない、ただあまり突然の事だから、吃驚びっくりして見ていると
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
神戸の病院に行って病室の番号を聞いて心を躍らせながらその病室の戸を開けて見ると、室内はげきとして、子規居士が独り寝台ねだいの上に横わっているばかりであった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
武男が母は昔気質かたぎの、どちらかといえば西洋ぎらいの方なれば、寝台ねだいねてさじもて食らうこと思いも寄らねど、さすがに若主人のみは幾分か治外の法権をけて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
夜中過ぎに寝台ねだいの縁に腰を掛けた。眠らうとは思はない。余り屈んだり立つたりしたので、背中が痛いから、服を着た儘で、少し横になつてゐようと思つたのである。
駆落 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
卓が一つ、椅子が二つある。寝台ねだいの代りになる長持のやうな行李がある。板を二枚中為切なかしきりにした白木の箱がある。箱に入れてあるのは男女の衣類で、どれも魚の臭がする。
さいくどりは、皇帝のお寝台ねだいちかく、きぬのふとんの上に、すわることにきまりました。この鳥に贈られて来た黄金と宝石が、のこらず、鳥のまわりにならべ立てられました。
かれ草でそれはたしかにいゝけれども、寝てゐるうちに、野火にやかれちゃ一言いちごんもない。よしよし、この石へ寝よう。まるでね台だ。ふんふん、実に柔らかだ。いゝ寝台ねだいだぞ。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
やがて気がいて窓をじ、再び寝台ねだいの上に横になると、柱時計があたかも二時を告げた。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
体を持ち上げて寝台ねだいの上に寝かした。赤い、太つた顔の巡査が左の手で自分のサアベルの鞘を握つてゐて、右の手でゴロロボフの頭を真直に直して置いて、その手で十字を切つた。
そこでまたじっと見澄ましていると白鉢巻、白兜の人が大勢いて、次から次へと箱を持出し、器物を持出し、秀才夫人の寧波ニンポウ寝台ねだいをもち出したようでもあったがハッキリしなかった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
乃公が車の中を彼方此方あっちこっち遊んで歩くものだから、お母さんは一日心配していた。それで日が暮れると直ぐに、乃公は寝台ねだいへ押し込められてしまった。けれどもなかなかられやしない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
フロルスは低い寝台ねだいの上に身を横へた。壁の方に向いて、黙つて溜息をいた。
余も何をか躊躇ためらき目科の後に一歩も遅れず引続きて歩み入れば奥のと云えるは是れ客室きゃくまと居室と寝室ねまとを兼たる者にして彼方の隅には脂染あかじみたる布を以て覆える寝台ねだいあり、室中何と無く薄暗し
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「ここにある寝台ねだいのどれへなりとおやすみなさい。」
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ひややかなるてつ寝台ねだいうへゑられし木造きづくりはこ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この寝台ねだいの上にていねしとき。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
同じ寝台ねだいに起きしする。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
密閉した暗室の前に椅子が五脚ばかり並んで、それへ掛けたのが一人、男が一人、向うの寝台ねだいの上に胸を開けて仰向あおのけになっている。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は急いで寝台ねだいの所へ行って、掛布団を卸して、それを男のひざの上に掛けてった。「どうしてあなたここへいらっしゃったの。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
わたしのハープはねむっていた寝台ねだいのすそにいてあった。わたしはかたに負い皮をかけて、家族のいる部屋へやへと出かけて行った。
三階にあがる。部屋の隅を見ると冷やかにカーライルの寝台ねだいよこたわっている。青き戸帳とばりが物静かに垂れてむなしき臥床ふしどうち寂然せきぜんとして薄暗い。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうして妾はいよいよお目見得の式の朝になった時、着物を取り換えて自分の代りに本当の美紅姫を寝台ねだいに寝せて逃げて行くつもりでした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「だがの、今朝眼がさめて自分の寝相ねさうを見ると、乃公わし身体からだ寝台ねだいの外にみ出してゐて、まるでワツフル(お菓子)のやうだつたよ、はゝゝゝ……」
この婆さんが滞在中寝て居る部屋を見せて貰つたが、下宿の一番頂辺てつぺんにあるいはゆる屋根裏で、二畳敷程の所に寝台ねだいも据ゑてあれば洗面の道具も揃つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
白い蒲団ふとんを掛けた病院の寝台ねだいの上に横に成って、大きな眼で父の方を見ている。三吉はその額の前に立った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寝台ねだいの据えてあるあたりの畳の上に、四十しじゅう余りのおかみさんと、二十はたちばかりの青年とが据わっている。藤子が食い付きそうだと云ったのは、この青年の顔であった。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
去年の夏に新たに建てられし離家はなれの八畳には、燭台しょくだいの光ほのかにさして、大いなる寝台ねだい一つ据えられたり。その雪白なるシーツの上に、目を閉じて、浪子は横たわりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それから戸口へ廻る時、実際行潦ぬかるみへ左の足を腓腸ふくらはぎまで蹈み込んだ。靴に一ぱい水が這入つた。女は今かも一枚で覆つてあるベンチのやうな寝台ねだいに腰を掛けて、靴を脱ぎ始めた。
そこに無造作に寝台ねだい卓子テーブルとが置いてある。食堂と言つても、いくらか大きい僧房に二つ三つ卓子を配置してそれに晒布さらしをかけただけである。そしてそこにゐる人達が面白い。
山のホテル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
かれ草でそれはたしかにいいけれども、寝ているうちに、野火にやかれちゃ一言いちごんもない。よしよし、この石へ寝よう。まるでね台だ。ふんふん、実にやわらかだ。いい寝台ねだいだぞ。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)