わたくし)” の例文
わたくしの家は三浦三崎、関宿にあるのでございます。それで妾は旦那様を、妾の家へお連れしようと、こう思っているのでございます」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくしが、戦はなければならぬ相手は荘田勝平と云ふ個人ではありません。荘田勝平と云ふ人間の姿で、現れた現代の社会組織の悪です。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「貴方をお欺し申すのでございます。わたくしはこうして米国暗黒公使メリケン・ダーク・ミニスター、J・I・Cの団長ウルスター・ゴンクール氏をお欺し申しました」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
皆樣みなさまは、其樣そんなにあの可愛かあいがつてくださつたのですか。わたくしなん御禮おれい言葉ことばもございません。』とゆきのやうなるほう微※えくぼなみたゝえて
「それを聞いてやっと安心しました。わたくしのようなものは、どうせ旦那だんながなくっちゃ生きて行かれないから、仕方がありませんけれども、……」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それはうですとも……。」と、お政はさえぎって、「ですから、わたくしの方でも決して心配はませんが……。それでもお若い方と云うものはね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくしめはきちと申す不束ふつつかな田舎者、仕合しあわせに御縁の端につながりました上は何卒なにとぞ末長く御眼おめかけられて御不勝ごふしょうながら真実しんみの妹ともおぼしめされて下さりませと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
文答師は難波津なにわづに着いてこの由を官を経て奏上した。皇后がおおせられるに、わたくしは大臣の少女むすめ、皇帝の后宮である。どうして異国大王の賢使などに逢えよう。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この図を描くに至つた動機と云ふやうな事もありませんがかつわたくし一茶いつさの句であつたか蕪村ぶそんの句であつたか、それはよく覚えませんが、蚊帳かやの句を読んで面白いと思つて居りました。
(新字旧仮名) / 上村松園(著)
赤らめしが思ひ切てわたくしで御座ります然樣さやう聞成きゝなされたらさぞいやで御座りませうと云つゝ邪視ながしめに見やりたる其艷色うつくしさにナニ夫が眞實ほんたうならどうして/\此重四郎が身に取ては實に本望ほんまうなりと云ふとき人來りければ二人は素知そしらぬていにて左右さいうわかれ其のち藤澤へ歸りてよりなほお勇と相談さうだんうへ小松屋文右衞門は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくしが、戦わなければならぬ相手は荘田勝平と云う個人ではありません。荘田勝平と云う人間の姿で、現れた現代の社会組織の悪です。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「……すみませぬ……済みま……せぬ……。今までのことは、何もかも……何もかも……偽り……まことはわたくしは……女……女役者……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まあ何んと云う綺麗な腕環でしょう、之れは屹度きっと伯父様から、わたくしに贈って下さったのですよ」と云えば、二番目の娘は横合から覗込のぞきこんで
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「は、はい、ただもうそのおん言葉、わたくしこそわたくしこそ……勿体ないやら嬉しいやら……それにいたしても良人大弥太……」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
善は急げとか云いますから、一日も早く御婚礼を済まして、わたくしも安心したいと思うのですが……。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
段々の御親切有りがとうは御座りまするがわたくし身の上話しは申し上ませぬ、いいや申さぬではござりませぬが申されぬつらさを察し下され、眼上めうえと折りあわねばらしめられたばかりの事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母がこう聞いた時、嫂は例の通りさむしいえくぼを寄せて、「わたくしはどうでも構いません」と答えた。それがおとなしいとも取れるし、また聴きようでは、冷淡とも無愛想とも取れた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「本当に口惜しうございます。あんな男がわたくしを。それに杉野さんが、そんな話をお取次ぎになるなんて、本当にひどいと思ひますわ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
わたくしと全く同一嗜好おなじこのみを、殿様にはお持ちなされていて、そこへ妾が参りましたので、それがお互いに強くなって、今日に及んだのでございます」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『あゝ、柳川やながはさん、わたくしは、貴方あなた此世このよ御目おめからうとは——。』とつたまゝ、そのうるはしきかほわたくし身邊しんぺん見廻みまはした。
兄も……弟も労咳ろうがいで臥せっておりまする中にタッタ一人のわたくしが……いささか小太刀の心得が御座いますのを……よすがに致しまして、偽りの願書を差出しました。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もしもしと細い声でわたくしを呼起しますから、何心なく枕をあげてると、年齢としは十八九頭は散し髪で顔色いろの蒼ざめた女、不思議な事には頭から着物までビショ湿れに湿ぬれしおれた女が
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
世を忍ぶ身を隠匿かくまいれたる志、七生忘れられず、官軍にはせさんぜんと、決心した我すら曇り声にいだせし時も、愛情の涙はまぶたあふれながら義理のことば正しく、かねての御本望わたくしめまでうれしゅう存じますと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「またそんな皮肉をおっしゃる。あなたはどうしてそうひとのする事を悪くばかり御取りになるんでしょう。わたくしあんまり御無沙汰ごぶさたをして済まないと思ったから、ただ帰りにちょっと伺っただけですわ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「左様でございます。わたくしはユーヂットにならうと思ふのでございます。ユーヂットと申しますのは猶太ユダヤの美しい娘の名でございます。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「甲府へ参ろうではございませんか。賑やかな武田家のお城下へ。……わたくしもなんだか人里が恋しくなってまいりました」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくしが子ープルスのいへかへつて、なみだながらに良人をつと濱島はまじま再會さいくわいしたときには、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼつうわさ大層たいそうでした。何事なにごと天命てんめいあきらめても、本當ほんたうかなしう御坐ござんしたよ。
「酔っているばかりでも有りますまい。わたくしが二度と御当家こちらへ来ればあの人が又暴れて来るそうですね。あの人は何故そんなに妾を恨んでいるんでしょう。妾にはちっとも訳が判りません。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「どうせ貴夫の眼から見たら、わたくしなんぞは馬鹿でしょうよ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狭山はわたくしのたった一人の親身の叔父でございます。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「左様でございます。わたくしはユージットになろうと思うのでございます。ユージットと申しますのは猶太ユダヤの美しい娘の名でございます。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたくし、さっき、あなたの胸へ、一生懸命すがり付きましたわね。その時よっく計りましたのよ。ええあなたのお体をね」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいえ、伯父様とわたくしと大の仲好しですもの、妾に贈って下さったに相違はありません」と争う。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
わたくしの邸へ縁付きましてから、今年で丁度まる五年その間別に変わった事もございませんでしたが、今から十日ほど以前まえの晩、時刻はの刻過でもありましょうか、薄暗い行燈あんどうのかげに何物なにか居て
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくし今度こんだはことによると助からないかも知れませんよ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「はい、よくこうして出かけますので……長い時は一週間も……短かい時は一日か二日位で帰って参ります。時には夜中に帰って来たり、朝のの暗いうちに帰って来たりする事もございますが、その留守はいつもわたくしが致しております」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしは、法律の網をくぐるばかりでなく、法律を道具に使って、善人をおとしいれようとする悪魔を、法律に代って、罰してやろうと思うのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「それと申すもこのわたくし不束ふつつかからでござります。どうあろうともご老師様を決して他へはやりませぬ——お父上様!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「道理でわたくしはいって参りますと、若い娘さんがひとごとをいい、ままごと遊びしていなさいましたので、つい妾も面白くなり、男の声色こわいろなど使いまして……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「はい有難うはございますが、母とわたくしとはまましい仲、たとえ実家へ帰りましてもつらいことばかりでございます」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どんなにわたくしが説きましても、皆様方にはわかりますまい。解っているのは日本で数人、信長公にこの妾に、香具師こうぐしの頭に弁才坊、そんなものでございましょう。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「深い事情はござりまするが、お館の数々の器類を、盗み出しましたはこのわたくし、この八重めにござります!」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくし事は桑名侯、松平越中守の家臣にして、服部石見と申すものの娘、織江と申すものにござります。……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
行く先に幾個いくつか関門があります。そこには番人が守っております。……わたくし、先へ立って参りましょう。妾が声をかけましたら、番人達は扉をひらきましょう。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくしだんだん思い出しました。大森林、大渓谷、大きな屋敷、無数の馬、酒顛童子のような老人のいた所、そこはどうやら福島の、奥地のように思われます」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「父の心を……正体ない父の心を……少しなりとも慰めてやりたさに……才覚しまして……わたくしが……」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父はわたくしに申しました。『五郎蔵が殺しに来る。彼奴きゃつには大勢の乾児こぶんがあるが、わしには乾児など一人もない。味方が欲しい、旅のお侍様などが訪ねて参ったら、泊め置け』
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お武家様おすごしなさりませ。わたくし、お酌いたしましょう」不意に横から云うものがあった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくし、あなた様から、お隠匿かくまいしていただきました晩、あなた様、眠りながら、お千代、たっしゃかえ、たっしゃでいておくれと仰有おっしゃいましたが、お千代様とおっしゃるお方は?」
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その頭の名は星影左門ほしかげさもん、以前からわたくしを妻にしようと、狙っていたものにございます。で、左門の目的は、民弥たみや殿でなくてこのわたし。で、民弥殿の御身上は、まず大丈夫と思われます。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)