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啻
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たゞ
ふりがな文庫
“
啻
(
たゞ
)” の例文
果して然らば、
啻
(
たゞ
)
に国体を維持し、外夷の軽侮を絶つのみならず、天下之士、朝廷改過の
速
(
すみやか
)
なるに悦服し、斬奸の挙も亦
迹
(
あと
)
を絶たむ。
津下四郎左衛門
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
啻
(
たゞ
)
に徳川氏を仆したるのみならず、従来の組織を砕折し、従来の制度を撃破し尽くすにあらざれば、満足すること能はざること之なり。
明治文学管見:(日本文学史骨)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
嗚呼
(
あゝ
)
近世の小説は歓天喜地愉快を写さずして、総て悲哀を以て終らざる可からざる
乎
(
か
)
と。小説の真味
豈
(
あ
)
に
啻
(
たゞ
)
に消極的の運命を写すのみならんや。
舞姫
(新字旧仮名)
/
石橋忍月
(著)
斯
(
かく
)
の如くする時は
啻
(
たゞ
)
に料理通の旨味にして滋養に富める食品を得るのみならず、湖畔を逍遙する貴夫人も又鱷の游泳するを見て楽む事を得べく
鱷
(新字旧仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
重
(
かさ
)
ねしも女房お光が
忠實敷
(
まめ/\しく
)
賃裁縫
(
ちんしごと
)
やら
洗濯等
(
せんたくなど
)
なし
細
(
ほそ
)
くも
朝夕
(
あさゆふ
)
の
烟
(
けむり
)
を
立
(
たて
)
啻
(
たゞ
)
夫
(
をつと
)
の病氣
全快
(
ぜんくわい
)
成
(
な
)
さしめ給へと神佛へ
祈念
(
きねん
)
を
掛
(
かけ
)
貧
(
まづ
)
しき中にも
幼少
(
えうせう
)
なる道之助の
養育
(
やういく
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
▼ もっと見る
平家物語を読むものの馬鹿々々しと思ふ処ならん、
啻
(
たゞ
)
に後代の吾々が馬鹿々々しと思ふのみにあらず、当人たる平家の
侍共
(
さむらひども
)
も翌日は定めて口惜しと思ひつらん
人生
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
普通
(
ふつう
)
に
出來
(
でき
)
てゐる
水道鐵管
(
すいどうてつかん
)
は、
地震
(
ぢしん
)
によつて
破損
(
はそん
)
し
易
(
やす
)
い。
啻
(
たゞ
)
に
大地震
(
だいぢしん
)
のみならず、
一寸
(
ちよつと
)
した
強
(
つよ
)
い
地震
(
ぢしん
)
にもさうである。
特
(
とく
)
に
地盤
(
ぢばん
)
の
弱
(
よわ
)
い
市街地
(
しがいち
)
に
於
(
おい
)
てはそれが
著明
(
ちよめい
)
である。
地震の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
友の眠に就きし後、われは猶
寖
(
やゝ
)
久しく出窓に坐して、
外
(
と
)
の
方
(
かた
)
を眺め居たり。こゝよりは
啻
(
たゞ
)
に廣こうぢの
隈々
(
くま/″\
)
迄見ゆるのみならず、かのヱズヰオの山さへ
眞向
(
まむき
)
に見えたり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
武村兵曹
(
たけむらへいそう
)
は
此
(
この
)
兒
(
こ
)
將來
(
しやうらい
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
有望
(
いうぼう
)
な
撰手
(
せんしゆ
)
であると
語
(
かた
)
つたが
啻
(
たゞ
)
に
野球
(
やきゆう
)
ばかりではなく
彼
(
かれ
)
は
※去
(
くわこ
)
三
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
、
櫻木海軍大佐
(
さくらぎかいぐんたいさ
)
の
嚴肅
(
げんしゆく
)
なる、
且
(
か
)
つ
慈悲
(
じひ
)
深
(
ふか
)
き
手
(
て
)
に
親
(
した
)
しく
薫陶
(
くんとう
)
された
事
(
こと
)
とて
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
その一言が聞けない以上、青年の千百の慰め言や、勇気づけの感想は、彼にとつて
啻
(
たゞ
)
に煩さい無駄口であるに止まらず、更に彼の忘れかけてゐる傷口を新しく掻き破る丈けの事である。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
然るに今や
忽然
(
こつぜん
)
として或る未知の女が現れて来て、この一切の好意に反抗しようとする。そいつは
啻
(
たゞ
)
に周囲の援助を
妨礙
(
ばうがい
)
しようとするばかりでは無い。却つて反対の方向に働かうとする。
復讐
(新字旧仮名)
/
アンリ・ド・レニエ
(著)
今、御辺の御人相を見るに、只今の御話と相違せる事、雲泥も
啻
(
たゞ
)
ならず。思ふ事、云はで止みなむも腹ふくるゝ道理。
的中
(
あた
)
らずば許し給へかし。御辺は廻国の六十六部とは
跡型
(
あとかた
)
も無き偽り。
白くれない
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
自分の全身には
殆
(
ほとん
)
ど
火焔
(
くわえん
)
を帯びた不動尊も
啻
(
たゞ
)
ならざる、
憎悪
(
ぞうを
)
、
怨恨
(
ゑんこん
)
、
嫉妬
(
しつと
)
などの徹骨の苦々しい情が、寸時もじつとして居られぬほどに
簇
(
むらが
)
つて来て、
口惜
(
くや
)
しくつて/\、
忌々
(
いま/\
)
しくつて/\
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
啻
(
たゞ
)
に美しい顔、美しい肌とのみでは、彼は中々満足する事が出来なかった。江戸中の
色町
(
いろまち
)
に名を響かせた女と云う女を調べても、彼の気分に
適
(
かな
)
った味わいと調子とは容易に見つからなかった。
刺青
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
啻
(
たゞ
)
に話巧者で愛想が好い許りでなく、葬式に行けば青や赤や金の紙で花を拵へて呉れるし、婚禮の時は村の人の誰も知らぬ「高砂」の謠をやる、
加之
(
のみならず
)
何事にも器用な人で、割烹の心得もあれば
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
敬すべきが如し、然れども是れ銅臭紛々たる人に非ずんば、黄金山を夢むるの児なり、其中に於て高潔の志を有し、慷慨の気を保つもの、即ち
晨星
(
しんせい
)
も
啻
(
たゞ
)
ならじ、束髪
峨々
(
がゝ
)
として
緑鬖
(
りよくさん
)
額をつゝみ
英雄論:明治廿三年十一月十日静岡劇塲若竹座に於て演説草稿
(新字旧仮名)
/
山路愛山
(著)
程途
(
ていと
)
何ぞ
啻
(
たゞ
)
一万里のみならん、戸口
都
(
す
)
べて無し三百家。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
啻
(
たゞ
)
閴
(
げき
)
として
眠
(
ねむ
)
るかな
全都覚醒賦
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
わたくしは後に
徳
(
めぐむ
)
さんに聞いた所を以て此に補記しようとおもふ。しかしその
応
(
まさ
)
に補ふべき所のものは、
啻
(
たゞ
)
に安石の上のみではない。
伊沢蘭軒
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
凡
(
すべ
)
ての記憶は霧散し去り、己れの生年をさへ忘じ果てたるにも
拘
(
かゝ
)
はらず、我は一個の忘ずること能はざる者を有せり、
啻
(
たゞ
)
に忘ずること能はざるのみならず
我牢獄
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
思ひがけぬ心は心の底より出で来る、容赦なく
且
(
かつ
)
乱暴に出で来る、海嘯と震災は、
啻
(
たゞ
)
に三陸と濃尾に起るのみにあらず、亦自家三寸の
丹田
(
たんでん
)
中にあり、
険呑
(
けんのん
)
なる
哉
(
かな
)
人生
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
さうしてこれが
通過
(
つうか
)
した
跡
(
あと
)
には
啻
(
たゞ
)
に
火山灰
(
かざんばひ
)
やラピリのみならず、
大
(
おほ
)
きな
石塊
(
せきかい
)
も
混入
(
こんにゆう
)
してゐた。
火山の話
(旧字旧仮名)
/
今村明恒
(著)
そは
啻
(
たゞ
)
に我等を温めざるのみならず、却りて何時ともなくこの交を絶つべし。友誼と戀情とは別離によりて長ず。我は時に夫婦の生活のいかに我を
倦
(
う
)
ましむべきかを思へり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
戯曲は
啻
(
たゞ
)
に不幸悲惨に終るもののみならず、又素志を全うして幸福嬉楽に終る者もあり。
罪過論
(新字旧仮名)
/
石橋忍月
(著)
啻
(
たゞ
)
に
本國
(
ほんごく
)
の
大祭日
(
たいさいじつ
)
ばかりではない、
吾等
(
われら
)
の
爲
(
ため
)
には、
終世
(
しうせい
)
の
紀念
(
きねん
)
ともなる
可
(
べ
)
き、
海底戰鬪艇
(
かいていせんとうてい
)
の
首尾
(
しゆび
)
よく
竣成
(
しゆんせい
)
して、
初
(
はじ
)
めて
海
(
うみ
)
に
浮
(
うか
)
び
出
(
で
)
る
當日
(
たうじつ
)
であれば、
其
(
その
)
目出度
(
めでた
)
さも
亦
(
ま
)
た
格別
(
かくべつ
)
である。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
広量
(
かうりやう
)
無辺
(
むへん
)
啻
(
たゞ
)
円
(
まろ
)
う
全都覚醒賦
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
啻
(
たゞ
)
に然るのみならず、厳密に言へば、九月十日を期した会が果して期の如くに行れたと云ふことも、又柳湾が独り伝へてゐるのである。
伊沢蘭軒
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
啻
(
たゞ
)
に舞蹈としての舞蹈、即ち各家々流の舞蹈に止まらず、一の白と共に一の半舞蹈あり、又た特に演者の技倆を示めすべき為に備へられたる舞蹈の機会あり。
劇詩の前途如何
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
又どの位の悪人たるを承知なるかと、
豈
(
あに
)
啻
(
たゞ
)
善悪のみならん、
怯勇
(
けふゆう
)
剛弱高下の分、皆此反問中に入るを得べし、平かなるときは天落ち地欠くるとも驚かじと思へども
人生
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
此
(
この
)
砂
(
すな
)
は
啻
(
たゞ
)
に
細微
(
さいび
)
なるばかりではなく、
一種
(
いつしゆ
)
不可思議
(
ふかしぎ
)
の
粘着力
(
ねんちやくりよく
)
を
有
(
いう
)
して
居
(
を
)
るので、
此處
(
こゝ
)
に
陷落
(
かんらく
)
した
者
(
もの
)
は
掻
(
か
)
き
上
(
あが
)
らうとしては
滑
(
すべ
)
り
落
(
お
)
ち、
滑
(
すべ
)
り
落
(
お
)
ちては
砂
(
すな
)
に
纒
(
まと
)
はれ、
其内
(
そのうち
)
に
手足
(
てあし
)
の
自由
(
じゆう
)
を
失
(
うしな
)
つて
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
当時の流言は
啻
(
たゞ
)
に正弘の病を
云云
(
うんぬん
)
したのみならず、又其死を云云した。わたくしは其一例として「嘉永明治年間録」の文を引く。
伊沢蘭軒
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
黒雲
悉
(
こと/″\
)
く魔なるに非ず、大気悉く毒なるにあらず、
啻
(
たゞ
)
黒雲に魔あり、大気に毒ある事を難ぜんとするは、実際世界を見るも実世界以外を見ること能はざる非詩性論者の業として、放任して可なり。
「油地獄」を読む:(〔斎藤〕緑雨著)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
眞志屋の
末裔
(
ばつえい
)
が二本に寄り、金澤に寄つたのは、
啻
(
たゞ
)
に同業の
好
(
よしみ
)
があつたのみではなかつたらしい。二本は眞志屋文書に「親類麹町二本傳次方」と云つてある。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
啻
(
たゞ
)
に其職に居つたと云ふのみではない。わたくしは壽阿彌が
曇奝
(
どんてう
)
と號したのは、芝居好であつたので、
緞帳
(
どんちやう
)
の音に似た文字を選んだものだらうと云ふことを推する。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
原稿には次第に種々な事を書き入れたので、
啻
(
たゞ
)
に
些
(
いさゝか
)
の空白をも残さぬばかりでなく、文字と文字とが重なり合つて、他人が見てはなんの
反古
(
ほご
)
だか分からぬやうになつた。
大塩平八郎
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
其中に「河内屋半兵衞、元和中より
麪粉類
(
めんふんるゐ
)
御用相勤」
云々
(
しか/″\
)
の文があつた。河内屋は粉商であつた。島は粉屋の娘であつた。わたくしの新に得た知識は
啻
(
たゞ
)
にそれのみではない。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
これは別に証拠はないが、私は
豪邁
(
がうまい
)
の気象を以て不幸の境遇に耐へてゐた嘉心を慰めた品を、
啻
(
たゞ
)
誠実であつたのみでなく、気骨のある
女丈夫
(
ぢよぢやうふ
)
であつたやうに想像することを禁じ得ない。
椙原品
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
啻
漢検1級
部首:⼝
12画
“啻”を含む語句
啻事
不啻毛嬙飛燕
鐘啻