くら)” の例文
のみならず僕に上田敏と厨川白村とを一丸にした語学の素養を与へたとしても、果して彼等の血肉をくらひ得たかどうかは疑問である。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
汝の悪は、王莽おうもうに超え、汝の姦佞かんねいなことは、董卓とうたく以上だ。いまに見よ。天下ことごとく汝をころして、その肉をくらわんと願うであろう
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貪欲界どんよくかいの雲はりて歩々ほほに厚くまもり、離恨天りこんてんの雨は随所ただちそそぐ、一飛いつぴ一躍出でては人の肉をくらひ、半生半死りては我とはらわたつんざく。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中間法師とは課役を避けて出家した私度の僧の徒で、家に妻子を蓄え口に腥膻なまぐさくらうという在家法師、すなわち非人法師の亜流である。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
私は初代の骨上げの日、焼き場のそばの野原で、初代の灰をくらい、ころげ廻って、復讐を誓ったことを、まだ忘れてはいなかった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
口に税を出すくらいなら、はばかんながらわっしあ酒もくらわなけりゃ魚も売らねえ。お源ちゃんのめえだけれども。おっとこうした処は、お尻の方だ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
化度けどしたいというのが、即ち仏菩薩なので、何も蓮花れんげの上にゆったり坐って百味の飲食おんじきくらこうとしているのが仏菩薩でも何でも無い。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まかり間違ったらば、の喉笛にでもくらい付いてるまでのこと。勝負は時の運次第と、彼女かれ咄嗟とっさあいだに度胸を据えてしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
玄宗の夢にあらわれた鍾馗のいてくらった鬼は、その耗であるのと例の考証をやってから、その筆は「四方よもの赤」に走って
貧乏神物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
乙は末広ながら甲に比して狭く、その線条あらき上ひびわれ多く刺はなし、その肉煙草の味あり、喫烟家このくらう。方言これをショボシと称う。
お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤーで、運び上げ、すすくらい、轢殺車は地響き立てながら地上を席捲する。
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
くろがねの詩人うたびとよと、彼は卓一の幻に向つて呼びかけた。怖れとあやしみの子供よ。わたつみの水の心の夢くらふ男。
しかしこの文明人の菓子は、火食を知らぬ生肉をくらい自然のままの木の実の味しか知らぬこの少年には、到底その味覚の複雑さが理解されなかったのであろう。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
榛軒は妻の忌むことを知つてゐたので、庭前に涼炉こんろを焚いて肉をた。そして塾生と共に飽くまでくらつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
冬眠中の蛇を掘り出してくらうと、にわかに精気がついたその勢いで、あしたに猿と遊び、昼は書を読み、夕は檜の立木を相手にひとり木剣を振うている内に三年がたち
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
昔から、くらえば三年前の古傷が痛むといわれているほどであるから、その味品たるや知るべきである。
魔味洗心 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
温めながら其名物を試む梅花道人物喰ものくひに於て豪傑の稱ありこゝにてもまた人々に推尊せられて二盆ふたぼんの外我分わがぶんまでをくらひ盡すやがて此を出で是より下りなればとて例の鐵脚を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
礼式なるもの、或は恐る之れが為に基督の品格を蔽はんことを、而れども仁をくらふ者は穀を割らざるべからず、其永々しき祈祷に辟易へきえきし、其クド/\しき礼拝に辟易して
単に仙人でもいそうな所だというだけであって、景色はすぐれていても、霧をくらかすみを吸って生きて行く術を知らない人間には、たかだか一月位しか住めない所ばかりです。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
現代の文明によって生まれた機械は現代人に血と肉とを与えると共に、またこれをくらう。傲然として労働者の父となり王となり、富豪をぬかずかせ、国家の政治をも左右する。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
道具をつけての稽古ならば、体当りで微塵みじんに敵の陣形をくずしてみたり、いちばちかの初太刀しょだちを入れてみる。当れば血を吸い骨をくらうことを好むやいばと刃とでは、そうはいかない。
昨夜も昨夜とて小児の如くに人を愚弄して、あらわに負けてひそかかえり討に逢わした昇に、不倶戴天ふぐたいてん讎敵あだ、生ながらその肉をくらわなければこの熱腸が冷されぬと怨みに思ッている昇に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
夕方は迫ってくるもののためにわびしく底冷えていた。夜は茫々として苦悩する夢魔の姿だった。人肉をくらいはじめた犬や、新しい狂人や、疵だらけの人間たちが夢魔に似て彷徨ほうこうしていた。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
妙良のやつ、つい和尚の来かかったのを知らず、依志子の腹のことを口走ったと思うと、骨ばかりの指がくらい付くようにのど元へかかって、見ているうちに目から鼻から血が流れ出すのよ。——
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
おお、怪老人は、メスをふるって、大男の肉を裂き、肉をくらおうというのか。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
強は弱の肉をくらひ、弱は遂に滅びざるを得ざるのことわり、転々して長く人間界を制せば、人間の霊長なるところ何所にか求めむ。基督、仏陀、孔聖、誰れか人類の相闘ひ、相傷ふを禁ぜざる者あらむ。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
折も折かの癩が、こんなやさしい肉体をくらはんとするその時に……
海原のうたに浴しつゝ緑なす瑠璃をくらひ行けば
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
其堂ニ造ラント欲シ其ししむらくらハント欲スル者ハまさニ洋籍ヲ不講ニ置ク可カラザルナリ是レ洋籍ノ結構所説ハ精詳微密ニシテ遠ク和漢ノ書ニ絶聳スレバナリ雖然しかりといえども是レ今時ニ在テ之ヲ称スルノミ永久百世ノ論トスルニ足ラザルナリ
肉をくらわず ニムフを抱かぬ
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わが身を くら
恥の歌 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
「家に妻子を蓄へ、口に腥膻なまぐさくらふ」とあって、すなわち肉食妻帯の在家法師であり、その「形は沙門に似て、心は屠児えとりの如し」
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
血をすすり肉をくらってもあきたらぬ、仇敵と仇敵、正義の巨人と邪悪の怪人とは、思いもかけず、この美しき月光の部屋に相対したのである。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
串戲じようだんぢやない。おめえくつをしけりや、おれだつて衣服きものをしいや。いくらあたらしいくつだつてどろがついてら、をつけねえか。」と、けぐめをくらはす。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たとえわれ蜀の総帥たらずとも、世の一民として、汝のその肉をくらい、血を犬鶏に与うるも、なおあきたらぬ心地さえする。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五十歩に石窣堵波そとばあり、摩訶薩埵王子餓獣の力なきを愍み行きてこの地に至り乾ける竹で自ら刺し血を以てこれにくらわす
この毛人らは洞窟のうちに棲んでいるらしいが、時どきに里へ降りて来て、人家の雞や犬などを捕りくらうことがある。
彼はくらふことかたはらに人無きごとし。満枝のおもて薄紅うすくれなゐになほゑひは有りながら、へるていも無くて、唯打案じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
相場師はその前におおがらをくらって、その夜のうちに夜逃げをしていた。
娘の生霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平手打ひらてうちくらはせり、我は汝等なれら傭兵ばらを物の数とも思はざり。
楚人そじんこれを作って漢人くらう——と白雲がわけもなく納まって……
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小夜ふけて夜のふけゆけばきりぎりす黒き花瓶くわびんくらへるらしも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くらうて舌に載せると、溶けてそのまま咽へ落ちて行く。
食指談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
もうくらうべき赤ん坊がなくなったじゃないか。
牢獄の半日 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
藻掻きに藻掻いて、やっと息が絶えると、待ち構えていた蛆虫うじむしが、君の身体中を這い廻って、肉や臓腑を、ムチムチとくらい始めるのだ。……
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うへへ五ほんめの、ひとのこつた瓦斯燈がすとうところに、あやしいものの姿すがたえる……それは、すべ人間にんげんかげる、かげつかむ、影法師かげぼふしくらものぢや。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おかし奉る憎ッくき逆賊、その肉をくらわんと欲するものは、天下に溢るるほどある。いちいちそんな大勢の名があげられようか
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、風呂場の竹窓のあいだから一匹の大きい蛇が這い降りようとしている。猫の首はその蛇ののどくらい付いたので、蛇も堪まらずどさりと落ちる。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼らは家に妻子を蓄え、口に腥膻なまぐさくらい、私に髪を剃りみだりに法服をつけて、形は沙門の如きも心は屠児すなわちエトリに似たものであると云っている。
牛捨場馬捨場 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
遠距離なる井の中に住んで毎度羊をくらいしが、最後に水汲みに来た少女をり懸りてあらわれ殺された由見ゆ。