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周章
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あわて
ふりがな文庫
“
周章
(
あわて
)” の例文
ふと、サラ/\と云ふ衣擦れの音がしたかと思ふと、
背後
(
うしろ
)
の
扉
(
ドア
)
が音もなく開かれた。信一郎が、
周章
(
あわて
)
て立ち上がらうとした時だつた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
酒井俊蔵と云う父親と、
歴然
(
れっき
)
とした、謹(夫人の名。)と云う母親が附いている妙の縁談を、門附風情が何を知って、
周章
(
あわて
)
なさんな。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
床
(
ゆか
)
より引下し
拳
(
こぶし
)
を上て
既
(
すで
)
に
打
(
うた
)
んとなす此時
近邊
(
きんぺん
)
の者先刻よりの
聲高
(
こゑだか
)
を聞付何ことやらんと來りしが
此體
(
このてい
)
を見て
周章
(
あわて
)
て
捕押
(
とりおさ
)
へ種々靱負を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
「併し一概に山賊などと云っても中には
却々
(
なかなか
)
い儀深い奴もいるものですよ。」と医師は
周章
(
あわて
)
て眼を
外
(
そ
)
らし
乍
(
なが
)
らそんなことを云い出した。
薔薇の女
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
私はこの前のように
周章
(
あわて
)
て起して機嫌を悪くされてもつまらぬから、そっと其儘にして見ているとしばらくして彼は目をさました。
息を止める男
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
▼ もっと見る
下
(
お
)
りながら三四郎の
耳
(
みゝ
)
の
傍
(
そば
)
へ
口
(
くち
)
を持つて
来
(
き
)
て、「
怒
(
おこ
)
つて
入
(
い
)
らつしやるの」と
私語
(
さゝや
)
いだ。所へ下女が
周章
(
あわて
)
ながら、
送
(
おく
)
りに
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、挨拶すると、老人は、信祝が合図の
紐
(
ひも
)
を引いて、鈴を鳴らすのも待たないで、
襖
(
ふすま
)
をあけた。
一間
(
ひとま
)
へだたった所にいた侍が、
周章
(
あわて
)
て立つと
大岡越前の独立
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
大工は
周章
(
あわて
)
たように、もう一度横を向いて「つかみ鼻」をかんだ。それが風の工合でズボンにひっかかった。トロッとした薄い水鼻だった。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
直ぐその後を
追馳
(
おいか
)
けて行けば、
屹度
(
きっと
)
どんな男か正体位は見届ける事も出来たで御座居ましょうが、何分不意の事で手前共も
周章
(
あわて
)
ておりましたし
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
礼奴さんと保羅さんは、何を考えたか、大きな声で、『サンタ・ルチア』を歌い出した。これも
周章
(
あわて
)
ているのに違いない。
キャラコさん:11 新しき出発
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
右へ廻したか左へ廻したか夫さえ覚えぬ程ですけれど、若し合鍵がなかろう者なら、益々
周章
(
あわて
)
て、錠の卸りて居もせぬ戸を
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
「今晩は、どうも——」と
挨拶
(
あいさつ
)
をすると「いやいや」と
周章
(
あわて
)
て、ぼくの顔をみて
哀
(
かな
)
しい薄笑いをして、「ぼくは単なる見物人ですよ」と言いました。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
周章
(
あわて
)
まい周章まいと思いながら彼はいつの間にか周章てていた。股や肩先には幾ヵ所となく、狼の歯痕が付いていた。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
青年の姿が印判屋の軒下に隱れた時に、彼ははつと心を
周章
(
あわて
)
させた。さあどうしよう、もう五分とは經たないうちに彼の青年は自分の家の門前に來る。
少年の死
(旧字旧仮名)
/
木下杢太郎
(著)
お君が、
周章
(
あわて
)
てそれを押えようとしたのは遅く、二つに引き裂いたお御籤の紙を、お銀様はクルクルと丸めて、
洗水盤
(
みたらし
)
の中へ投げこんでしまいました。
大菩薩峠:12 伯耆の安綱の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
肌を脱いで煙草を
燻
(
くゆ
)
らしながら語り合っていた彼等は、
周章
(
あわて
)
気味にそそくさと着物に手を通し、無言で深く腰を
屈
(
かが
)
めた。そしてそこへまた腰をおろした。
熊の出る開墾地
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
主翁はこれは
失敗
(
しま
)
ったと思って、また
顎
(
あご
)
の下からその紐をかけたが、かけてしまうとまた寄って来た。それは
己
(
じぶん
)
が
周章
(
あわて
)
ているので好く捲けないと思った。
黄灯
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
彼は自分が殆んど悪魔の底意地の悪さで痴川伊豆の
葛藤
(
かっとう
)
を血みどろの終局へ追いやろうとしている冷酷な潜在意識を読んだ。
併
(
しか
)
し驚きも
周章
(
あわて
)
もしなかった。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
こんなに早く健康を囘復する位なら、自分はあんなに
周章
(
あわて
)
て日本に歸つて來ないでもよかつたのだ。然し考へると海外に遊んで居たのも八年の長きに及んだ。
新帰朝者日記
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
何故あなたは急に
周章
(
あわて
)
て、御自分だけ途中下車なさいましたの。随分卑怯な方ね。私こそ、別に恨みがあるわけでなしお詫びと御礼を申上げなければならない。
青バスの女
(新字新仮名)
/
辰野九紫
(著)
言葉を切って鳥渡窓外の景色を眺めていた教授は、ふと緊張した石子に眼を落とすと
周章
(
あわて
)
て言葉をついだ。
支倉事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
ト
取外
(
とりはず
)
して言いかけて
倏忽
(
たちまち
)
ハッと心附き、
周章
(
あわて
)
て口を
鉗
(
つぐ
)
んで、
吃驚
(
びっくり
)
して、
狼狽
(
ろうばい
)
して、
遂
(
つい
)
に
憤然
(
やっき
)
となッて、「畜生」と言いざま
拳
(
こぶし
)
を振挙げて我と我を
威
(
おど
)
して見たが
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
身体の加減のよいときは、わたくしを木の端か竹の端かのようにあしらいながら、病気が重って来ますとどういうものかまた
周章
(
あわて
)
てわたくしを重んじて来まして
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そういうところへ誰かが出て来ると、さあ
周章
(
あわて
)
て鉄砲を隠す、本を繰る、生憎開けたところと読んで居るところと違って居るのが見あらわされると大叱言を頂戴した。
少年時代
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
上つたは
可
(
い
)
いが、何處に坐れば可いのか一寸
周章
(
あわて
)
て了つて、二人は暫し其所に立つてゐた。源助は
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
なんの、朝廷の
御膝下
(
おひざもと
)
に
住居
(
すまい
)
するものが、そう
周章
(
あわて
)
ふためいて、夜逃げのように出立がなるものか。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
予はウロペルチスの生きたのを見た事なけれど、類推すると余り活溌なものでなかろうが、
周章
(
あわて
)
る時は孑孑様に騒ぎながら、岸より落ちて人を驚かすほどの事はあろう。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
滅多にコンナ事に出会わない村医の神林先生が
周章
(
あわて
)
て逃げ出して行ったのも、無理がなかった。
巡査辞職
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ロッティは今にも泣き出しそうでしたので、セエラは
周章
(
あわて
)
てロッティをなだめにかかりました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
そして急ぎ
周章
(
あわて
)
るために、ついて來た人々に別れを告げる暇もないほどである。かかる間にも馭者は小さな頼まれ事が山のやうにあつて、それを一々果さなければならない。
駅伝馬車
(旧字旧仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
ソローハは、自分でも仰天してしまつて、まるで
狂人
(
きちがひ
)
のやうに
周章
(
あわて
)
ふためいた挙句、うつかりチューブに、補祭の入つてゐる袋を指さして、その中へ潜り込めと相図をした。
ディカーニカ近郷夜話 後篇:02 降誕祭の前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
彼は平気を装おうとしたが、その実
周章
(
あわて
)
て了ったという眼付をしていた。声も度を失って、読み始めるから震えた。とはいえ、彼はなるべく静かに、解り
易
(
やす
)
く読もうとした。
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
先刻
(
さっき
)
の
周章
(
あわて
)
た自分の心が不思議に思えた。一つの静安なる生命が、限りない喜びを与える。
湖水と彼等
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
松本が
周章
(
あわて
)
て起たんとする時賛成々々の声四隅に
湧出
(
わきだ
)
して議長の意見を嘉納し
了
(
おほ
)
せり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
言
(
い
)
ふ
所
(
ところ
)
は
勿論
(
もちろん
)
、
秩序
(
ちつじよ
)
なく、
寐言
(
ねごと
)
のやうで、
周章
(
あわて
)
て
見
(
み
)
たり、
途切
(
とぎ
)
れて
見
(
み
)
たり、
何
(
なん
)
だか
意味
(
いみ
)
の
解
(
わか
)
らぬことを
言
(
い
)
ふのであるが、
何處
(
どこ
)
かに
又
(
また
)
善良
(
ぜんりやう
)
なる
性質
(
せいしつ
)
が
微
(
ほのか
)
に
聞
(
きこ
)
える、
其言
(
そのことば
)
の
中
(
うち
)
か、
聲
(
こゑ
)
の
中
(
うち
)
かに
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
私はダイアナを隨分
煽動的
(
せんどうてき
)
だと思つた。そして不愉快に
周章
(
あわて
)
て了つた。かう思つたり感じたりしてゐる間に、セント・ジョンは、首を
俯向
(
うつむ
)
けた。彼の希臘式の顏が、私のと同じ高さに來た。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
外飾りなど見るひまもなく、
周章
(
あわて
)
て、扉の口へとびこんだ。
一世お鯉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
ふと、サラ/\と
云
(
い
)
う
衣擦
(
きぬず
)
れの音がしたかと思うと、
背後
(
うしろ
)
の
扉
(
ドア
)
が音もなく開かれた。信一郎が、
周章
(
あわて
)
て立ち上がろうとした時だった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
周章
(
あわて
)
て顔を上げた彼の眼の下で、葉子は、悪い夢でも見たのか、咽喉を鳴らすと、寝返りを打って、向うを向いて仕舞った。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
己
(
おの
)
れも
迯
(
にが
)
さぬぞと
源
(
げん
)
八へ
突掛
(
つきかゝ
)
るに源八は
思
(
おも
)
ひも寄ぬ
事
(
こと
)
なれば
驚
(
おどろ
)
き
周章
(
あわて
)
右
(
みぎ
)
の手を
出
(
いだ
)
して
刄物
(
はもの
)
を
挈取
(
もぎとら
)
んとせし處を
切先
(
きつさき
)
深
(
ふか
)
く二の
腕
(
うで
)
を
突貫
(
つきとほ
)
されヤアと
躊躇
(
たちろく
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
乙女は淑やかに腰をかがめると静かに店から
戸外
(
そと
)
へ出たが、
黄昏
(
たそがれ
)
の往来を海の方へ急かず
周章
(
あわて
)
ず歩いて行く。
郷介法師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
このときの男乞食の
周章
(
あわて
)
て方はありませんでした。
矢庭
(
やにわ
)
に女乞食をしょぴいて一目散に遁げ出しました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
こんな問答を四五遍
繰返
(
くりかえ
)
したあとで、喜いちゃんは、じゃ上げようと云いながら、手に持った柿をぱたりと崖の下に落した。与吉は
周章
(
あわて
)
て、泥の着いた柿を拾った。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
エキスパンダアをどけてやはり鑵の背後にないのをみると、
否々
(
いやいや
)
、ひょッとしたら、あの
道端
(
みちばた
)
の
草叢
(
くさむら
)
のかげかもしれないぞと、また
周章
(
あわて
)
て、駆けおりてゆくのでした。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
猫属の輩は羞恥という念に富んでいるもので、虎や豹が獣を搏ち損う時は大いに恥じた風で
周章
(
あわて
)
て首を
低
(
た
)
れて這い廻り逃げ去るは実際を見た者のしばしば述べたところだ。
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
と叫びながら、自分も一所に馬の上から転がり落ちて、
周章
(
あわて
)
て果物を拾おうとしましたが、
生憎
(
あいにく
)
果物は橋板の上を八方に転がり出して、大方河の中へ落ちてしまいました。
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
固い、ひどく四角張ったものを指の先に感じて、びっくりして、
周章
(
あわて
)
て手を引っ込ませた。
キャラコさん:11 新しき出発
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
小腰を
屈
(
ひく
)
めて「ちょいとお湯へ」と云ッてから、ふと何か思い出して、
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
した顔をして
周章
(
あわて
)
て、「それから、あの、若し
御新造
(
ごしんぞ
)
さまがお
帰
(
かえん
)
なすって
御膳
(
ごぜん
)
を
召上
(
めしやが
)
ると
仰
(
おッしゃ
)
ッたら、 ...
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
と、庄屋は、炉へ投出していた脚を、
周章
(
あわて
)
て引込めると、
襟
(
えり
)
を合せて、坐り直した。下男は、牛小屋へ引込むし、子供は、母親に引張られて、
吃驚
(
びっくり
)
しながら、
納戸
(
なんど
)
へ逃込んでしまった。
大岡越前の独立
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
万は夢からでも
醒
(
さ
)
めたようにして、幾分
周章
(
あわて
)
気味に言った。子供達は
我先
(
われさき
)
と、小突き合いながら、
潮
(
うしお
)
のように
雪崩
(
なだれ
)
込んで来た。しかし、その一団の先に立っているのは、万の長男だった。
手品
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
“周章”の意味
《名詞》
周 章 (しゅうしょう)
あわてふためくこと。うろたえること。
(出典:Wiktionary)
周
常用漢字
小4
部首:⼝
8画
章
常用漢字
小3
部首:⽴
11画
“周章”で始まる語句
周章狼狽
周章者
周章気味
周章氣味