出入ではいり)” の例文
多くの取引先や出入ではいりの人達には、もうそれが単なる噂ではなくて、事実となって刻まれている。お島は作の顔を見るのも厭だと思った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もっとも、親しげに言葉の取換とりかわされる様子を見たというまでで、以前家に置いてあった書生が彼女の部屋へ出入ではいりしたからと言って
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母様おっかさん病気きいきいが悪いから、大人おとなしくしろよ、くらいにしてあったんですが、何となく、人の出入ではいりうちの者の起居挙動たちいふるまい、大病というのは知れる。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出入ではいりする客の野趣を帯びた様子などに、どうやら『膝栗毛』の世界に這入はいったような、いかにも現代らしくない心持になる。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
守衛は何人か交替こうたい門側もんがわめ所にひかえている。そうして武官と文官とを問わず、教官の出入ではいりを見る度に、挙手きょしゅの礼をすることになっている。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうか。しかし狭い土地だから、お前が角川の息子だと云うことは、先方むこうでも知ってるだろう。あんなところあんま出入ではいりするなよ。世間の口がうるさい。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小説家の正宗白鳥氏はひとうち出入ではいりをするのに、がらりと入口いりくちけはするが、その手で滅多に閉めた事は無い。
それも月の十日と二十日は琴平の縁日で、中門を出入ではいりする人の多少すこしは通るが、実、平常ふだん、此町に用事のある者でなければ余り人の往来ゆききしない所である。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
果して先生は浮浪無頼ふろうぶらいでは納得せず、家作や地所の有無を確めてから、お宅へ物を頼みに出入ではいりする人はありませんか等と言って、高利貸の嫌疑まで掛けた後
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「質屋の出し入れがないだけでも、どんなに氣が樂だか解らねえ。その上、出入ではいりはお駕籠、百姓町人に土下座をさせて、氣に入らねえ奴があると、いきなり無禮討だ」
それに小間使なればいつだってだれにも疑われないで、お嬢さんのお部屋へ出入ではいり出来ますし、お嬢さんのいらっしゃらないことを第一に発見したのもあの女だったのです。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
我々はまがいもないチベット人ですら、出入ではいりをするに実に困難こんなんを極めて間道でもあれば脱けて行きたいと思う位苦しんで居りますが、それをまああなたはどこからお越しになったか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まづ責任せきにん閑過かんくわする一れいまをしませう。それはおも外出ぐわいしゆつなどについおこ事柄ことがらで、塾生じゆくせい無論むろんわたくしおやから責任せきにんもつあづかつてゐるのですから出入ではいりつきては行先ゆくさき明瞭めいれうにしてきます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
本間ほんま一門の名家がやしきを構えているのもこの町であります。有名な庄内米しょうないまいのことは他の本が語るでありましょう。ここは船の出入ではいりが多かったため、昔は船箪笥ふなだんすを作った所として名がありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
焼鳥屋は頑固に首を振って、もう二時間も三時間も、この露次から出入ではいりした者はない、とハッキリ申立てた。そこで警官は引返すと、今度はいよいよガタピシと煙草屋の厳重な家宅捜査をしはじめた。
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
一方だけの出入ではいりになつてゐるのが非常に都合が好かつた。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
時間割表などの刷込まれた、二つ折小形のその広告札を、羅紗らしゃの袋に入れて、お島は朝早く新入生などの多く出入ではいりする学校の門の入口に立った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
平素めったに思出したことも無いようなお霜婆さん——郷里の方の家に近く住んで、よくお母さんのところ出入ではいりした人——のことなぞまで思出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
結構な御薬おくすりの採れます場所は、また御守護の神々かみがみ仏様ほとけさまも、出入ではいりをおめ遊ばすのでございましょうと存じます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もつともこれには主義のある事で、自分が出入ではいりするのには是非開けなければならぬが、それを閉めて置かなければならぬ何等の理由も発見出来ないからださうだ。
「市郎、お前は真実ほんとうに柳屋へ出入ではいりするのか。」と、今度は安行が問うた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
姉や妹に限らず、養家へ出入ではいりする人にも、お島はぱっぱと金や品物をくれてやるのが、気持が好かった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
八年以来このかたわずらい煩いしていた細君が快くなったというだけでも大したことであるのに、家はますます隆盛さかんな方だし、出入ではいりするものも多くなって来たし、好い事だらけだ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
くれないあけぼの、緑の暮、花のたかどの、柳の小家こいえ出入ではいりして、遊里にれていたのであるが、可懐なつかしく尋ね寄り、用あって音信おとずれた、くさきざきは、残らずかかえであり、わけであり
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、それは段取だけの事サ、時間が時間だし、雨は降る……ここも出入ではいりがさぞ籠むだろう、と思ったよりおびただしい混雑で、ただ停車場などと、宿場がってすましてはおられぬ。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細君は教授の夫人への手土産てみやげにと庭の薔薇ばらの花をげ、自分がまだ娘であった頃から教授の家へはよく出入ではいりしたという話を岸本にして聞かせた。漸くのことで三人は船に間に合った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは此の春頃から、其まで人の出入ではいりさへ余りなかつたかみの薬屋がかたへ、一にんの美少年が来て一所いっしょに居る、女主人おんなあるじおいださうで、信濃しなののもの、継母ままははいじめられて家出をして
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
周囲に人の出入ではいりのある電話口で、岸本はそれ以上の心を伝えることが出来なかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すなわち華族の殿様であって見れば、世に処してかかる待合などには出入ではいりすべき身分ではない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
楽しい幸福は到るところに彼を待っているような気がした。彼は若い男や女の交際する場所、集会、教会の長老の家庭なぞに出入ではいりし、自分の心を仕合しあわせにするような可憐かれんな相手を探し求めた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一時あるときなどは椽側えんがわに何だか解らぬが動物の足跡が付いているが、それなんぞしらべて丁度ちょうど障子の一小間ひとこまの間を出入ではいりするほどな動物だろうという事だけは推測出来たが、たれしも
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
振袖立矢たてやの字、児髷ちごまげ、高島田、夜会むすびなどいう此家ここ出入ではいりの弟子達とはいたく趣の異なった、銀杏返いちょうがえしの飾らないのが、中形の浴衣に繻子しゅすの帯、二枚裏の雪駄穿せったばき、紫の風呂敷包
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴下あなたのようなかた出入ではいりは、今朝けさッからお一人しかありませんもの。ちゃんと存じておりますよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くれぐれも脱心ぬかるなよ。「合点がってんだ。と鉄の棒の長さ一尺ばかりにて握太きを小脇に隠し、勝手口より立出たちいでしが、このは用心厳重にて、つい近所への出入ではいりにも、じょうを下すおきてとかや。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからね、素肌を気にしてわきの下をすぼめるような筋のゆるんでるねえさんじゃアありませんや。けれども私が出入ではいりをするようになったのは、こちらから泣附いたんです、へい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとさきみちは歩いたり、中の馬車も人の出入ではいり、半月ばかりのひでり続きでけた砂をったような東京の市街まちの一面に、一条ひとすじ足跡を印してよぎったから、砂は浴びる、ほこりはかかる、汗にはなる
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも前晩、夜更けてからちと廊下に入組んだ跫音あしおとがしましたっけ。こうやって時候がいから、寂寞ひっそりして入院患者は少いけれども、人の出入ではいりは多いんですから、知らなかったんです。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、むらさきふじより、菖蒲あやめ杜若かきつばたより、鎌倉かまくらまちは、みづは、ひと出入ではいり起居たちゐにも、ゆかりのいろふであらう、とゆかしがるのみで、まるでもつて、したる容体ようだいとはおもひもつかないでたのに。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あれから、直ぐにその茶屋へ引上げて、吸物一つ、膳の上へ、弁当で一銚子並べたが、その座敷も、総見の控処ひかえどころで、持もの、預けもの沢山に、かたがた男女の出入ではいりが続いたゆえ、ざっと夕餉ゆうげを。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知れては身分に係わるといった側が、ちょいちょい懐手で出入ではいりする。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俗にいふ越後は八百八後家はっぴゃくやごけ、お辻がとこも女ぐらし、又海手うみての二階屋も男気おとこげなし、なつめのある内も、男が出入ではいりをするばかりで、年増としま蚊帳かやすきだといふ、紙谷町一町のあいだに、四軒、いづれも夫なしで
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふふむ、余り人が出入ではいりをしないのか。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)