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佗
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わび
ふりがな文庫
“
佗
(
わび
)” の例文
まだ幼稚園の冬子はその時間中相手になってくれる人がないので、仲間はずれの
佗
(
わび
)
しさといったようなものを感じているらしかった。
小さな出来事
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
今日まで生きて来て、何も彼も、国とともに喪失してしまつてゐると云ふ感情は、背筋が冷い、この冬の雨のやうな
佗
(
わび
)
しさだつた。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
奥から出て来た
嫂
(
あによめ
)
に彼は頼んだ。寝巻姿や洋服の子供がぞろぞろと現れた。みんな、
嘗
(
かつ
)
て八幡村で
佗
(
わび
)
しい起居をともにした戦災児だった。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
そして、雨を降らしたり、谷間に
吹雪
(
ふぶき
)
を積らせたりする雲が、この
佗
(
わび
)
しい、淋しい住居よりも下の方にかかることもめずらしくなかった。
ワンダ・ブック――少年・少女のために――
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
三島から大仁までたった小一時間、それが私に取っては堪えられないほどに長い暗い
佗
(
わび
)
しい旅であった。ゆき着いた大仁の町も暗かった。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
▼ もっと見る
そして、時々合間を隔てて、ヒュウと風の
軋
(
きし
)
る音が虚空ですると、鎧扉が
佗
(
わび
)
しげに揺れて、雪片が一つ二つ棧の上で
潰
(
ひし
)
げて行く。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
ラック大将は、その後の快報を、待ち
佗
(
わび
)
ていた。もう快報の到着する頃であると思うのに、前線からは、何の便りもなかった。
二、〇〇〇年戦争
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
なまじっか、花のない
花瓶
(
かびん
)
が置いてあるのが、かえって
佗
(
わび
)
しい。赤や緑のあさましい色ガラスをはめこんだ窓から、下のぞめきが聞えてくる。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
紹巴は、歌の席に、
場馴
(
ばな
)
れている。なにくれとなく心をくばり、また席の空気を、息づまるような
佗
(
わび
)
しさにさせまいとする。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
鰥夫
(
やもめ
)
暮しのどんな
佗
(
わび
)
しいときでも、苦しいときでも、柳の葉に
尾鰭
(
おひれ
)
の生えたようなあの小魚は、妙にわしに食いもの以上の
馴染
(
なじみ
)
になってしまった
家霊
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
四条河原の
非人
(
ひにん
)
小屋の間へ、小さな
蓆張
(
むしろば
)
りの
庵
(
いおり
)
を造りまして、そこに始終たった一人、
佗
(
わび
)
しく住んでいたのでございます。
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
部屋々々に灯がはいって、お館は生きかえったようであった。この手狭な家に主を迎えて、
佗
(
わび
)
しく思わせまいとする精一ぱいの心遣いであった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
自分は子供の時分からこの金盥を見て、きっと
大人
(
おとな
)
の
行水
(
ぎょうずい
)
を使うものだとばかり想像して、一人
嬉
(
うれ
)
しがっていた。金盥は今
塵
(
ちり
)
で
佗
(
わび
)
しく汚れていた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それよりも、徹夜の
温習
(
おさらい
)
に、何よりか
書入
(
かきい
)
れな
夜半
(
やはん
)
の茶漬で忘れられぬ、大福めいた
餡餅
(
あんも
)
を
烘
(
あぶ
)
ったなごりの、餅網が、
佗
(
わび
)
しく
破蓮
(
やればす
)
の形で畳に飛んだ。
霰ふる
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
まっくらな闇に迷いこむような
佗
(
わび
)
しい気が平一郎に起きた。無論、そうした「迷い」のもう一つ底には充実した輝かな力が根を張ってはいたけれど。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
しかしまだまだその頃にはわたしは孤独の
佗
(
わび
)
しさをば今日の如くいかにするとも忍び
難
(
がた
)
いものとはしていなかった。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
この
夕
(
ゆふべ
)
隆三は彼に食後の茶を
薦
(
すす
)
めぬ。一人
佗
(
わび
)
しければ
留
(
とど
)
めて
物語
(
ものがたら
)
はんとてなるべし。されども貫一の
屈托顔
(
くつたくがほ
)
して絶えず思の
非
(
あら
)
ぬ
方
(
かた
)
に
馳
(
は
)
する
気色
(
けしき
)
なるを
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
そうして、北向きの格子窓の
煤
(
すす
)
けた障子に
滲
(
にじ
)
んでいる十一月下旬の
黄昏
(
たそがれ
)
ちかい光りが、これらの物の上にいかにも
佗
(
わび
)
しく、寒ざむとした色を投げていた。
雪と泥
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
諏訪湖
(
すわこ
)
にまたは天竜川に、二人の兄弟は十四年間血にまみれながら闘ったが、その間
柵
(
しがらみ
)
と久田姫とは
荒廃
(
あれ
)
た古城で天主教を信じ
佗
(
わび
)
しい月日を送っていた。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
すべては
佗
(
わび
)
にかぎると拔道をこしらへて、夜更けてからの切りばり、大きな銀杏の葉二枚をきりぬいて張つた。
おとづれ
(旧字旧仮名)
/
長谷川時雨
(著)
さりとも子故に闇なるは母親の常ぞ、やがては恋しさに堪えがたく、我れと
佗
(
わび
)
して帰りぬべきものをと
覚束
(
おぼつか
)
なきを頼みて、十五日は如何に、二十日は如何に
琴の音
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
船橋という町には俺は始めてだが、あれは
誠
(
まこと
)
に
佗
(
わび
)
しい町だな。昼間だというのに日暮みたいな感じがする。それが賑かじゃないのかといえば結構賑かなんだ。
蜆
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
そんな
佗
(
わび
)
しい冬の旅を続けている自分のその折その折のいかにも
空虚
(
うつろ
)
な姿が次から次へとふいと目の前に立ち現われて、しばらくその
儘
(
まま
)
ためらっていた……。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
佗
(
わび
)
しく、頼りなく、にんじんはじっとしている——退屈が来るなら来い!
罰
(
ばち
)
が当たるなら当たれ! だ。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
更に揃つて下りて来るジヤンクの暗い
佗
(
わび
)
しい帆に、そこらに集つてあたりを眺めてゐる船客の群に——。
犬
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
その先生の礼節がしみじみといたわしく、大変
佗
(
わび
)
しくてならないのだった。そこで按吉は或る日言った。
勉強記
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
彼は一種の
恍惚
(
こうこつ
)
のうちに孤独な日々を過ごした。もはや自分の病気や冬や
佗
(
わび
)
しい光や孤独などのことを考えなかった。周囲のすべてが光り輝いて愛を含んでいた。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
「あの占いやさん、人の好い
佗
(
わび
)
しそうな顔をしているねえ。折角奮発しなさいって云ってくれたよ。」
早春
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
同じ閑中の趣にしても、蜂の巣を伝う屋根の漏の
佗
(
わび
)
しさ、面白さは、
自
(
おのずか
)
ら
案
(
あん
)
を
拍
(
う
)
たしむるものがある。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
何卒
(
なにとぞ
)
御示下され度希上候。土山の下の終に、深山に
佗
(
わび
)
しくくらし居り候老僧にかしづきゐる婦人の京の客の帰り行くをたゝずみて
遥
(
はるか
)
に見送る心情、いかにも思ひやられ候。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
あとでぼくは、練習を
止
(
や
)
めてから、めっきり増えた面皰づらを
撫
(
な
)
で、苦く
佗
(
わび
)
しい想いでした。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
それがまた小学教師といふ丑松の今の境遇に映つて、妙に
佗
(
わび
)
しい
感想
(
かんじ
)
を起させもする。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
秋がくると、来た風が流れの
面
(
おもて
)
を、音もなく渡った。私は、その小波を
佗
(
わび
)
しく眺めた。
利根の尺鮎
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
夜ふけて、わが子の行末を思う
佗
(
わび
)
しさがこの世への
厭離
(
えんり
)
の念を
唆
(
そそ
)
るわけでもあるまい。
親馬鹿入堂記
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
笠は長途の雨にほころび、
紙衣
(
かみこ
)
はとまり/\のあらしにもめたり。
佗
(
わび
)
つくしたるわび人、我さへあはれにおぼえける。むかし狂歌の才士
此国
(
このくに
)
にたどりしさまを
不図
(
ふと
)
おもひ
出
(
いで
)
て
申侍
(
もうしはべ
)
る。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
斯
(
こ
)
うした
佗
(
わび
)
しい心持の時に限って思出されるのは、二年
前
(
ぜん
)
彼を捨てゝ
何処
(
どこ
)
へか走ったグヰンという女であった。彼女は泉原の
不在
(
るす
)
の間に、銀行の貯金帳を
攫
(
さら
)
って
行方
(
ゆくえ
)
を
晦
(
くら
)
まして了ったのである。
緑衣の女
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
いつも
何処
(
どこ
)
となく暗い影のつき纏う、山民の
佗
(
わび
)
しい生活を想わせる。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
女ひとりというものは、
佗
(
わび
)
しいものだなあ。
雨の玉川心中:01 太宰治との愛と死のノート
(新字新仮名)
/
山崎富栄
(著)
厳
(
おごそ
)
かで、ゆたかで、それでゐて
佗
(
わび
)
しく
山羊の歌
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
我
(
わ
)
れ
如何
(
いか
)
に
佗
(
わび
)
しからまし。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
二度目に遇ったのも、やはりその
佗
(
わび
)
しいビルの一室であった。会合が終ったとき女がはじめて彼に口をきいた。それから駅まで一緒に歩いた。
火の唇
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
扉の前には一人の
召使
(
バトラー
)
が立っていて、法水がその扉を細目に開くと、冷やりとした、だが広い空間を
佗
(
わび
)
しげに揺れている、寛闊な空気に触れた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
「武田殿が
御内
(
みうち
)
にて、原
美濃守
(
みののかみ
)
が三男、仔細な
候
(
そうろう
)
て、鳴海の東落合に、年ごろ
佗
(
わび
)
住居な仕る
桑原甚内
(
くわばらじんない
)
ともうす者でござる」
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
こういう静けさとこういう
宏
(
ひろ
)
さのなかで、彼らは思わず、点描にも及ばぬ自分の姿を思い描くのである。面を伏せたような
佗
(
わび
)
しいものに捕われる。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
アパートの三階の、私の
佗
(
わび
)
しい仕事部屋の窓の向うに見える、盛り場の真上の空は、暗くどんよりと曇っていた。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
品物
(
しなもの
)
は
佗
(
わび
)
しいが、なか/\の
御手料理
(
おてれうり
)
、
餓
(
う
)
えては
居
(
ゐ
)
るし
冥加
(
みやうが
)
至極
(
しごく
)
なお
給仕
(
きふじ
)
、
盆
(
ぼん
)
を
膝
(
ひざ
)
に
構
(
かま
)
へて
其上
(
そのうへ
)
を
肱
(
ひぢ
)
をついて、
頬
(
ほゝ
)
を
支
(
さゝ
)
えながら、
嬉
(
うれ
)
しさうに
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たわ。
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
竟
(
つひ
)
には
溜息
(
ためいき
)
呴
(
つ
)
きてその目を閉づれば、片寝に
倦
(
う
)
める
面
(
おもて
)
を
内向
(
うちむ
)
けて、
裾
(
すそ
)
の寒さを
佗
(
わび
)
しげに
身動
(
みうごき
)
したりしが、
猶
(
なほ
)
も
底止無
(
そこひな
)
き思の
淵
(
ふち
)
は彼を沈めて
逭
(
のが
)
さざるなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
稼ぎ帰りの合羽や
蓑
(
みの
)
を着た人がゆき交い、濡れた犬が尾を垂れて通ったりした。軒の低い、ちぢかんだような家並、いかにも貧しく、
佗
(
わび
)
しげな街であった。
七日七夜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
昨日から、この小さいラジオが馬鹿にたゝつてゐるやうで、ゆき子は、その三味線の音色に
佗
(
わび
)
しくなつてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
ただその大きい
目前
(
もくぜん
)
の影は疑う余地のない
坊主頭
(
ぼうずあたま
)
だった。のみならずしばらく聞き澄ましていても、この
佗
(
わび
)
しい
堂守
(
どうもり
)
のほかに人のいるけはいは聞えなかった。
伝吉の敵打ち
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
佗
漢検1級
部首:⼈
7画
“佗”を含む語句
佗住居
佗国
佗住
待佗
門佗
佗人
跋難佗
華佗巷
華佗
思佗
心佗
佗田
佗牢人
佗波古
佗暮
佗年月
佗助