二月ふたつき)” の例文
二月ふたつきばかりは全く夢のように過ぎた。入梅が明けて世間はにわかに夏らしくなり、慶三が店の窓硝子まどガラスにもパナマや麦藁帽子が並び始めた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
久々ぶりの挨拶を濟してから、此の二月ふたつきの間、寒い夜、暑い夜を過して來た狹い船室にみんなを導いて、心置き無い話をし始めた。
それから二月ふたつきほどたつと、仮面の恐怖王があらわれたのだ。変装のしかたで、きみが二十面相だということは、だいたいわかっていた。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もつと当坐たうざ二月ふたつきばかりは、うかすると一室ひとまこもつて、たれにもくちかないで、考事かんがへごとをしてたさうですが、べつ仔細しさいかつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
馴々なれなれしくことばをかけるぐらいせめてもの心遣こころやりに、二月ふたつき三月みつきすごうちに、飛騨の涼しい秋は早くも別れを告げて、寒い冬の山風が吹いて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二月ふたつきの後、たまたま家に帰って妻といさかいをした紀昌がこれをおどそうとて烏号うごうの弓に綦衛きえいの矢をつがえきりりと引絞ひきしぼって妻の目を射た。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうすると二月ふたつきでも三月みつきでも持ちます。それを使う時は水へ鮎を入れて南天なんてんの葉をぜておきますと二、三時間で塩が抜けます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「願わくば、ここ二月ふたつきのご猶予ゆうよを、この入道にお与えくださりませ。きっとその宝物と、伊那丸の塩漬しおづけ首とを、ともにごらんにそなえまする」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一年のうちで、七、八の二月ふたつきをその中にくるまれて、穴に入ったへびのようにじっとしているのは、私に取って何よりも温かいい心持だったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
堀尾君は○○新聞社へ入ってから二月ふたつき、無事平穏に勤めている。尤も苦手のけりさんがいた○○紡績でも三月続いたのだから、未だ首になるには早い。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
此の家に移ってからも、二月ふたつきと経たないうちに、上野で平和博覧会が開かれた。続いて又、プリンス・オブ・ウェルスが四月十二日に来朝される。——
二つの家を繋ぐ回想 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
三人で二月ふたつき三月、事に依ったら半歳か一年、それだけ厄介に相成るとして、その間に宿代の催促されてはちょっと困る。それが承知ならこのままに腰を
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
私共が村入りの二月ふたつき目に下曾根さんは来て、信者仲間の歓迎会には私共も共々お客として招かれたのでありました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ポーセがせっかくえて、水をかけた小さなももの木になめくじをたけておいたり、ポーセのくつ甲虫かぶとむしって、二月ふたつきもそれをかくしておいたりしました。
手紙 四 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
寄越したりしてゐたのに、二月ふたつき三月みつきも家を離れてゐるんだもの。祖母さんが夜も眠れないほどに案じてゐるのは無理はないわね。貴女さう思はなくつて?
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
あの新聞の切り抜きは必ずしも東京の新聞と限らず、また一月ひとつき前の新聞やら、二月ふたつき前のものやら分からぬから、捜しだすのは容易なことでないと思いました。
紅色ダイヤ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
銀之助の不平は最早もう二月ふたつき前からのことである。そして平時いつこの不平を明白あからさまに口へ出して言ふ時は『下宿屋だつて』を持出もちだす。決して腹の底の或物あるものは出さない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
アーストロフ もし一月ひとつき二月ふたつき前に、今の話を伺ったのだったら、あるいは僕も考えてみたかもしれません。
職人の手間を差引くと、幾許いくらも残らないような苦しい三十日みそかが、二月ふたつきも三月も続いた。家賃が滞ったり、順繰に時々で借りたちいさい借金がえて行ったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少くとも本職とは信じていない。彼はとにかく創作を一生の事業と思っている。現に教師になってからも、たいてい二月ふたつきに一篇ずつは短い小説を発表して来た。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
およ其処そこ二月ふたつき三月みつき通うたけれども、どうにも暇がない。とてもこんな事では何も覚えることも出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そうね。巴里パリを立ってから、もう幾日いくんちか知ら」「もうそろそろ二月ふたつきだね。海峡でお前反吐へどついたでないか。西洋人の尼の奴もお前の側で反吐ついていたったね」
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
二月ふたつきほど前にあの子を、わたしが四谷の神尾様という旗本のお邸へ御奉公に上げましたところが、そのお邸に与太郎とか与八とかいう馬鹿がいて、どうでしょう
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二月ふたつき近く静かな田舎に暮して見ると、欧羅巴ヨーロッパへ来てから以来このかたのことばかりでなく、国を出た当時のことまでが何となく岸本の胸にまとまって来た。彼はそう思った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一月ひとつき二月ふたつきとたつうちに、学校の窓からのぞいた人生と実際の人生とはどことなく違っているような気がだんだんしてきた。第一に、父母ふぼからしてすでにそうである。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二月ふたつき三月みつきとたつうちに、まるまる肥ってくるうちに、子供に対する私の愛は俄に深くなっていった。
理想の女 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そののちのことで……左様さ二月ふたつきも経ってからだッたでしょうよ、鳶頭があわてくさッて飛びこみ、私がお前さんのいなさる根岸へ毎晩忍んで逢いにくてえじゃないか
せっかくよくなったと喜んだ甲斐かいもなく、暑くなりかけてきた二月ふたつき後の六月半ば頃から、またからだの違和を感じて、父と母の厳命で、その年の夏から秋へかけては
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
浪子の病すでに二月ふたつきに及びてはかばかしくせず、叔母の機嫌きげんのいよいよしきを聞きし四月の末、武男はあらず、執事の田崎も家用を帯びて旅行せしすきをうかがい
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この二月ふたつき程日本に滞在して居るうち母堂のに接して巴里パリイへ帰つたシヤランソン嬢が再び予と前後して東京へはずだ。シベリヤを経るのだから予よりも先に着くであらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかるに生れて二月ふたつきとはたたざる内に、小児は毛細気管支炎もうさいきかんしえんという難病にかかり、とかくする中、危篤の有様に陥りければ、苦しき時の神頼みとやら、夫婦は愚にかえりて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「最近まで邸におりましたが、この二月ふたつき程前から近所に小さい家を一軒借りておられます」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
一月ひとつき二月ふたつきとたつにつれて、ますますおかあさんや、田舎いなかのことがおもされてなりません。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
たった一度、二月ふたつきばかりかかってこしらえた五寸四方ばかりの小袱紗こぶくさを、私の塾の展覧会に出した事がありましたが二十円という値段付けだったので売れ残ってしまいました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何も悪いことはなかったんだから、それにまた分別のつく年齢としでもなかったからよ。二月ふたつきだけ不足だったのよ。まあどんなにあなたをさがしたでしょう。もう六週間にもなるわ。
好きでもない女と同棲して二月ふたつきすぎると、自分でもわけが分らず這々ほうほうの体で逐電した。
蒼茫夢 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
あの人だってまだ若いのだし、それは無理もないと言えるかも知れぬけれど、そんなら私だって同じ年だ。しかも、あの人より二月ふたつきおそく生れているのだ。若さに変りは無い筈だ。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
うズッと以前だが博賭徒ばくちうちを探偵する事が有て己が自分で博賭徒ばくちうちに見せ掛け二月ふたつきほど築地の博徒宿に入込んだ事が有る其頃丁度築地カイワイに支那人のはって居る宿が二ヶ所あった
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そうでなければ大昔神に仕えた清い女が、泉のほとりに忌機殿いみはたどのを建てて、三月みつき二月ふたつきその中に忌籠いみごもりして、神の衣を織っていたという伝説は、これを理解することができぬのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう二月ふたつきもすればあかく染まりさうなかへでの樹や、春になれば見事な花を持ちさうな椿つばきの木や、そんなものが、河原のやうに小石を敷いた神苑しんゑんともいふべき場所に、行儀よく植ゑてあつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「おやおや、貴女まで愚痴っぽくなったのね。だって、これ二月ふたつき分よ、私もっと買いたい本があるのを辛抱しているんですもの。その代り、私着物なんか一枚だって買わないじゃないの?」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
現在のところ、僕は人並みの家庭をもつことはできません。しかし今年じゅうには、僕は石にかじりついても何とか生活の道をたてます。それまで、もう二月ふたつきです。二月だけ待って下さい。
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そんなことつたつておめえ、あれだつてひとりでゝもんぢやなしつものつてはたらくのに三十せんや五十せん家賃やちんはらへねえこともんめえな、それもなんならおめえ一月ひとつきでも二月ふたつきでも見試みためして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『誰って事はないんです……二月ふたつきばかりめえから二人で相談してたんです』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
さて以上のような次第で、その後コペイキンの行先は杳として分らなかったのですがね、いいですか、それから二月ふたつきもたたない中にリャザーニの森林地帯に物取り強盗の一団が現われたのです。
一月ひとつきでも二月ふたつきでも、休暇を上げるから田舎へ行って来てはどうだ?」
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あたれる歳次さいじ治承じしょう元年ひのととり、月の並びは十月とつき二月ふたつき、日の数、三百五十余カ日、吉日良辰りょうしんを選んで、かけまくも、かたじけなく、霊顕は日本一なる熊野ゆや三所権現、飛竜大薩埵ひりゅうだいさった教令きょうりょうのご神前に
二月ふたつきまへ、三月みつきまへからの借りが
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二月ふたつきもゐたかつた
沙上の夢 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
あれから二月ふたつき
赤倉 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)