駿馬しゅんめ)” の例文
逞しい駿馬しゅんめの鞍に、ゆらと、乗りこなしよくすわって、茶筅ちゃせんむすびの大将髪、萌黄もえぎ打紐うちひもで巻きしめ、浴衣染帷子ゆかたぞめかたびら、片袖をはずして着け
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
命ぜられた采女以下の近侍も、もとよりそれなる浪人網は熟知してのこと、たちまちそこへ引き出した馬は、いずれも駿馬しゅんめの八頭でした。
かれは馬にまたがって傲然ごうぜんと出て行ったが、門は閉じてある、垣は甚だ高い。かれは馬にひとむちくれると、駿馬しゅんめおどって垣を飛び越えた。
駿馬しゅんめ痴漢を乗せて走るというが、それにしてもアノ美貌を誇る孔雀夫人が択りに択って面胞面にきびづらの不男を対手にするとは余り物好き過ぎる。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それが十八世紀になりますと、競馬用けいばよう駿馬しゅんめっている飼養場しようじょうや、いく百というひつじのむらがっている飼羊場しようじょうとなりました。
大江ノ匡衡まさひらは、と御尋ねあれば、鋭士数騎、介冑かいちゅうこうむり、駿馬しゅんめむちって、粟津の浜を過ぐるにも似て、其ほこさき森然しんぜんとして当るものも無く見ゆ、と申す。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
芸術の信念を涵養かんようするに先立ちてまづ猛烈なる精力を作り、暁明ぎょうめい駿馬しゅんめに鞭打つて山野を跋渉ばっしょうするの意気なくんばあらずと思ひ、続いてうまやに駿馬を養ふ資力と
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ペタルの上を踏まえた二本の脚は、まるで駿馬しゅんめのそれのようにたくましかったが、生憎あいにくとズボンを履いていない。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、女が何か外出する用事はないかといたので、ちょっとあると答えると、しばらくして一頭の駿馬しゅんめに、水干装束すいかんしょうぞくをした下人が二、三人付いてやって来た。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし不思議ふしぎなことには、どのうまもどのうまみなたくましい駿馬しゅんめばかりで、毛並けなみみのもじゃもじゃした、イヤにあしばかりふと駄馬だばなどは何処どこにもかけないのでした。
古歌にちなんで足曳と命名されたこの駿馬しゅんめは、野に放したが最後、山鳥のように俊敏に、草を踏みしだき、林をくぐり、いや、鳥のごとく天空をもけんず尤物ゆうぶつ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かくいひつつかぶりし帽を脱棄ぬぎすてて、こなたへふり向きたる顔は、大理石脈だいりせきみゃくに熱血おどる如くにて、風に吹かるる金髪は、こうべ打振りて長くいばゆる駿馬しゅんめたてがみに似たりけり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
項王すなわチ夜起キテ帳中ニ飲ス。美人有リ。名ハ。常ニ幸セラレテ従フ。駿馬しゅんめ名ハすい、常ニこれニ騎ス。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
昨日きのうまでわらっていた友だちは、朝月あさづき駿馬しゅんめぶりを見て、心からかんぷくしてしまったのであった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
平野氏は平常へいぜいから馬が好きで、アラブ種の駿馬しゅんめを三頭持っている。交通が不便な場所だし、軽馬車を一台造らせて、この馬をつけては折々のドライブをたのしみにしていた。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
数日の後、長羅の顔は蒼白あおじろせたままに輝き出した。そうして、たくましく前にかがんだ彼の長躯は、駿馬しゅんめのように兵士たちの間を馳け廻っていた。出陣の用意は整った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
なんにしても大業おおぎょうなこと、わずか二三の人を送るに駿馬しゅんめに乗り、飛び道具を用意するとは。
君達のうちには、多分、このペガッサスというのは、美しい銀色の翼をした、真白な駿馬しゅんめで、大抵はヘリコン山のいただきで暮らしているのだということを聞いた人があるでしょう。
外套がいとうのついた軽騎兵けいきへいの軍服を着て、あわをふいた黒馬に乗っている。駿馬しゅんめは首を振り振り、鼻息を立てて、おどりはねている。乗り手は、手綱たづなを引いたり、拍車はくしゃを当てたり、大騒おおさわぎだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
十ヤードもさきに、たしかに薄黒い影がぼんやりと火のともっている廊下に動いているのを目撃したが、その速さは、あたかも闇夜に馬車のランプの光りを受けた駿馬しゅんめの影のようであった。
人よ、じ難いあの山がいかに高いとても、飛躍の念さえ切ならば、恐れるなかれ不可能の、金の駿馬しゅんめをせめたてよ。——実につまらない詩だけれども、才子と見えて実にうまい言葉を知っている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
やがて定刻間近く檸檬シトロン夾竹桃ロオリエ・ロオズにおおわれたるボロン山の堡塁ほうるいより、漆を塗ったるがごとき南方あい中空なかぞらめがけて、加農砲キャノン一発、轟然どうんとぶっ放せば、駿馬しゅんめをつなぎたる花馬車、宝石にもまごう花自動車
音も立てず、神々しい絶大な力で、白熱と烈火と炎々えんえんたるほのおとが、もくもくと立ちのぼってくる。そしてひずめをかいこみながら、女神の兄弟の御する神聖な駿馬しゅんめが、高く地をこえて昇ってくる。
なつかしい微妙なかおり駿馬しゅんめいななく大宛だいえんのものである。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
そのうち槍組二百人が突進して来るし、駿馬しゅんめにまたがって祝彪が、これまた雷光いなずまのごとく出没して、ひとつ所になどとどまっていない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パッカ、パッカと街道のうしろから近づいて来たのは、どうやら駿馬しゅんめらしいひづめの音です。釣に心を奪われているかに見えたが、さすがに武人のたしなみでした。
が、彼らにもようやくチャンスはめぐきたり今や彼等は駿馬しゅんめ尻尾しっぽの一条をつかんだような状況にあった。
清兵衛は一しょう懸命けんめいになって、朝月を養ったので、その翌年よくねんには見ちがえるような駿馬しゅんめになった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
其文章の英気があって、当時に水際だっていたことは、保胤の評語に、鋭卒数百、堅甲を駿馬しゅんめむちうって、粟津の浜を過ぐるが如し、とあったほどで、前にも既に其事は述べた。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
考えることのきらいな彼は、イライラしてくると、いつも独り駿馬しゅんめを駆って曠野こうやに飛び出す。秋天一碧しゅうてんいっぺきの下、嘎々かつかつひづめの音を響かせて草原となく丘陵となく狂気のように馬を駆けさせる。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そこで行逢ったのが駿馬しゅんめに乗った二人の武士。
あわてて引っ返してゆく大将曹仁のまえに、さながら火焔のような尾を振り流した赤毛の駿馬しゅんめが、ばくと、砂塵を蹴って横ぎった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栗色の駿馬しゅんめに乗り、大斧をふりかぶって、郭汜かくしの人数を蹴ちらして来た。それに当る者は、ほとんど血煙と化して、満足な形骸むくろも止めなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その芝生のいろの中に、男性的な駿馬しゅんめと騎手とが個々に持つ、ユニホームの赤、紫、白、青などの洋画的な色彩がすぐ眼の中にとびこんで来る。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李雲は牧夫ぼくふ小屋の牧夫を呼び出し、八頭の駿馬しゅんめを目の前に揃えさせた。そして、李逵りき、朱貴、朱富、自分——と四人四頭の背にまたがったうえ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仮屋かりやまくをしぼって、陣をでた木隠龍太郎は、みずから「項羽こうう」と名づけた黒鹿毛くろかげ駿馬しゅんめにまたがり、雨ヶ岳の山麓さんろくから文字もんじに北へむかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きょうで四日目のは、まさに沈もうとしているのに小太郎山こたろうざんへむかって、駿馬しゅんめ項羽こううをとばせた木隠龍太郎こがくれりゅうたろうはそも、どこになにしているのだろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこにはまだ源氏のともがらが多くいるという。また、富士山があって、駿馬しゅんめが多く産まれて、野は際涯さいがいもなく広いという。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
熱い眼がしらを、じっと、ふさいだ一瞬に、駿馬しゅんめ月輪つきのわは、もう城外へ駈けていた。疾風のように、暁闇を駈けていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒谷の法然ほうねん上人など、なかなかよいことを申されるそうな、北嶺ほくれい駿馬しゅんめといわれる聖光院範宴どのの女性にょしょうに対してのお考えをうかがいたいものじゃ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駿馬しゅんめの快足をほこって、野戦や山岳戦には自信のある源軍も、水上のいくさには、ほとんど訓練もないし兵船も持たない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キラと夜目にもしるき獅子頭ししがしら兜巾ときんと、霜花毛しもげ駿馬しゅんめにまたがった一壮漢の姿を、その一勢のうちに見て、宋江はおもわず地獄で仏のような声を発した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『……貴様は、どう見たか、あの青毛あお四歳よんさいを。どうだ、あの駿馬しゅんめは。すばらしいものだろうが』
小文治こぶんじがききかえすまに、駿馬しゅんめ項羽こううのかげは木隠をのせて、疾風しっぷうのごとく遠ざかってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五尺六、七寸はあるだろう、武蔵たけぞうは背がすぐれて高かった、よく駈ける駿馬しゅんめのようである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その青二才で、一院の門跡となり、少僧都となり、やれ秀才の駿馬しゅんめの、はなはだしきは菩薩ぼさつの再来だとかいって、ちやほやいう奴があるが、それが皆、あの男のためには毒になっているのだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の雲かと見えたのが、近づくに従って、一ぴょうの軍馬と化し、敵か味方かと怪しみ見ているいとまもなく、その中から馳けあらわれた一人の大将は漆艶うるしつやのように光る真っ黒な駿馬しゅんめにうちまたがり
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、利家は、二口ふたふり銘刀めいとうに、駿馬しゅんめ一頭を、成政に贈った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長がこの日の馬は、月輪つきのわとよぶ南部まき駿馬しゅんめだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勿論、往復ともに快足の駿馬しゅんめに鞭打っているのだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)