赤土あかつち)” の例文
その二尺にしやくほどした勾配こうばい一番いちばんきふところえてゐる枯草かれくさが、めうけて、赤土あかつちはだ生々なま/\しく露出ろしゆつした樣子やうすに、宗助そうすけ一寸ちよつとおどろかされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
赤土あかつちはらには、だれもあそんでいませんでした。茶色ちゃいろいぬをつれたおとこひとは、ボールをすと、ちからいっぱい、これをとおくへかってげました。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
赤土あかつちの乾きが眼にも止まらぬ無数の小さな球となって放心ほうしんしたような広い地盤じばん上の層をなしている。一隅いちぐうに夏草の葉が光ってたくましく生えている。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
石灰せっかい赤土あかつちだけは普通のものを使うが、ふのりは使わず、その代り何だか妙にどろどろしたものや、外に二、三種の化学薬品を混入するのであった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからは少しずつ次第にながれに遠ざかって、田のあぜ三つばかり横に切れると、今度は赤土あかつちの一本道、両側にちらほら松の植わっているところへ出ました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今夜こんや婿むこさんのまえに、部屋へやにいっぱい赤土あかつちをまいておき。それから麻糸あさいとはりにとおしておいて、お婿むこさんのかえるとき、そっと着物きもののすそにさしておき。
三輪の麻糸 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ヴェニス市民の全生活が、その、赤土あかつち沼のような水の表面を、ゆるく旋廻して通り過ぎつつあったのだ。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
秩父ちちぶ町から志賀坂峠を越えて、上州神ヶ原の宿しゅくに出ると、街を貫いて、ほこりっぽい赤土あかつち道が流れている。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
活東子くわつとうしがゴホン/\せきをしながら、赤土あかつちしたまで掘入ほりいつて、なにないとこぼしたのも其頃そのごろ
あかけたすぎひかへてからりとしたにはは、赤土あかつち斷崖だんがいそこしづんだやうにえる。あをそらかぎつてつた喬木けうぼくこずゑさらたかかんぜられた。勘次かんじおそろしい異常いじやうかんじにあつせられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
然しいつまで川水を汲んでばかりも居られぬので、一月ばかりして大仕掛おおじかけ井浚いどさらえをすることにした。赤土あかつちからヘナ、ヘナから砂利じゃりと、一じょうも掘って、無色透明無臭而して無味の水が出た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
赤土あかつちの道より黒土くろつちの坂となり往くもかへるも心にぞ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ぼくも、おかねすよ。」と、小山こやまが、いいました。赤土あかつちはらっぱには、赤々あかあかとして、夕日ゆうひがうつっていました。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
トロッコにしても(彼は一度郊外こうがいで、赤土あかつちを一杯積んだトロッコにかれそこなったことがある)
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤土あかつちの色きれいにきたる一条ひとすじの道長き、右左、石燈籠いしどうろう石榴ざくろの樹の小さきと、おなじほどの距離にかはるがはる続きたるをきて、こうかおりしみつきたる太き円柱まるばしらきわに寺の本堂にゑられつ
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はかあなけたやう赤土あかつちが四はううづたかげられてあつた。其處そこには從來これまで隙間すきまのないほどあなられて、幾多いくたひとうづめられたのでほねあしほねがいつものやうにされてげられてあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
公園の赤土あかつちのいろ奇兵隊きへいたい戦死せんしはか延命寺の春は海潮音かいてうおん
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
こう一は、ともだちがあそんでいないかとおもって、赤土あかつちはらっぱへくると、あちらにくろひとあつまって、なにかています。ちょうどえびがちていたあたりでした。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに、地下戦車は、三本のつのみたいな廻転錐かいてんきりを、ぷすりと赤土あかつちの丘の腹につきたてた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こまはつちうえでは、よくまわらぬからです。勇二ゆうじは、あしちからをいれて、赤土あかつちうえをトン、トン、と、ふんでいました。かたくして、そこで、こまをまわそうというのです。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
「わしも、くわしいことは知らんが、お前さんが今掘っているその土は、赤土あかつちさ」
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おばあさん、はたけつちは、赤土あかつちですか、黒土くろつちですか。」と、かかりのものはいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あさからばんまで、ひるからよるまで——いや、そういう区別くべつもなく、永久えいきゅうに、くらく、ただ、見得みうるかぎりの世界せかいというものは、けずられた赤土あかつち断層だんそうの一部分ぶぶん煉瓦れんが堆積たいせきと、そのれめからわきして
赤土あかつちはらっぱにも。」
ねことおしるこ (新字新仮名) / 小川未明(著)