すす)” の例文
(七)舜禹しゆんうあひだ(八)岳牧がくぼくみなすすむ。すなはこれ(九)くらゐこころみ、しよくつかさどらしむることすうねん(一〇)功用こうようすでおこり、しかのちまつりごとさづく。
工夫は受話器に耳を懸けて、ラジオのような器械の目盛盤をいじっていたが、やがてニッコリ笑うと、受話器を外して社長へすすめた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また現代世界の科学界に対する一服の緩和剤としてこれをすすめるのもあながち無用の業ではないのである。(大正八年一月『理学界』)
「いやいや。それゆえ、もうらちをつけてもよかろうとすすめるのじゃ。一家を構える気はないのか。お通もあのままにしておくつもりか」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がんりきの野郎が如才じょさいなく、携えて来たお角の朱羅宇しゅらう長煙管ながぎせるを取って、一服つけて、それを勿体もったいらしく白雲の前へすすめてみたものです。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『宇治拾遺』に永超僧都そうずは魚なければ食事せず、在京久しき間魚食わず、弱って南都に下る途上、その弟子魚を乞い得てすすめた。
景隆小字しょうじ九江きゅうこう、勲業あるにあらずして、大将軍となれる者は何ぞや。黄子澄、斉泰のすすむるにるも、又別に所以ゆえ有るなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかにも殿の申さるるように、天蓋山にかねあるによって発掘致さばよろしからんと、最初に殿におすすめ致したはこの老人に相違ござりませぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「休暇の時なら何うにでも都合をつける。それに例の神経衰弱で医者から保養をすすめられているから旅行は持って来いさ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこまで買物に出たから、ついでに寄ったんだとか云って、宗助のすすめる通り、茶を飲んだり菓子を食べたり、ゆっくりくつろいだ話をして帰った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人のよさそうな巡査はしかし取り合わず、弁当を恵んで、働くことをすすめてくれました。安倍川の川さらいの仕事です。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
今度また菁柿堂せいしどうすすめによって、『ホトトギス』六百号を記念するために『六百句』という書物を出すことになった。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
すると長老は僕の容子ようすにこういう気もちを感じたとみえ、僕らに椅子いすすすめる前に半ば気の毒そうに説明しました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このゆふべ隆三は彼に食後の茶をすすめぬ。一人わびしければとどめて物語ものがたらはんとてなるべし。されども貫一の屈托顔くつたくがほして絶えず思のあらかたする気色けしきなるを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
で、私は思わず、懇意な人を歓迎でもするような態度で、手を延べてつかつかと彼の方へ歩いて行った。彼は吃驚した。私もハッと思って椅子をすすめつつ
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しばしば先進の大官から重要の椅子いすすすめられても決してがえんじないで、一は終生微官に安んじ、一は早くから仕官を辞して、功名栄達を白眼冷笑していた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
或日五百が来て抽斎と話をしていると、そこへ豊芥子が竹の皮包かわつつみを持って来合せた。そして包を開いて抽斎にすしすすめ、自分も食い、五百に是非食えといった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
清子は茶をすすめ菓子を薦めつゝ唯しとやかに、口数は少なかつた。そして男の顔を真面には得見えみなかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
涙をらした、センチメントを抜いたショオの芸術の深刻を、人生の観方みかたを私はあなたにすすめたい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
奥さん、わたくしはあなたにこの社交界風俗研究をおすすめします。著者は、まぎれもない貴公子文学者、手袋をはめ、ブウロオニュの森で、馬に乗って書いたのです。
お前たちの子らに徳性をすすめよ、徳性だけが人間を幸福にするのだ。金銭ではない。私は自分の経験からいうのだ。惨めさの中でさえ私を支えて来たのは徳性であった。
「まさにそうなのです」とクリヴォフ夫人は得たり顔にうなずいて、他の二人に椅子をすすめてから
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
西山にそういわれると人見はたった今の失敗でりたらしく自分をすすめようとはしなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もっとも同系の団扇としては大和の五条で出来る五色のものの方が出来が更に上等で上品であります。これらの団扇は使い工合が頃合で、どの家庭にもすすめたい品であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それからまた長官宰相のシャーターは例の神下かみおろし、気狂い坊主のようなネーチュンを好んで法王にすすめ、ネーチュンもまた権威ある者の気に入るような事ばかりいって居ますが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
若衆鳥谷呉羽之介は、わるびれもせず名乗りをすまして、さて、若党にかつがせた枝どもの中から、雪白せっぱくに咲きみだれた一枝をえらみ出し、みずから露月にすすめるのでありました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
子爵との挨拶あいさつも済まざる内にお登和嬢はいそいそとして大原のために膳の上の用意をなし、サッサと第一の料理を持来たりて座中の人々にすすめたり。子爵と玉江嬢とは席に就きぬ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
自分の半身のような妹であるからと中の君をすすめるふうはたびたび見せられたのであるのに、自分がそれに従わないためにはかったものに違いない、その苦心をむだにした今になって
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「はい。ただ今御新造様ごしんぞさまももうお休みになるからと表の戸閉りをなすっていらっしゃいます。」と女は漆塗うるしぬりふたをした大きな湯呑ゆのみ象牙ぞうげはしを添えた菓子皿とを種彦の身近にすすめて
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一は田沼濁政の後を承け、天下の民みな一新の政を望むの時に際し、他は文恭公太平の余沢に沈酔したるに際す。一は天下の衆望によりてぬきんでられ、他は寵臣ちょうしん夤縁いんえんによりてすすむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
致方いたしかたがないから、あのときわたくし御愛想ごあいそうたきみずんで二人ふたりすすめたのでした。——
芥川竜之介も、鴎外の作中では『普請中』などをよく読めと、人にすすめている。
けだシ典薬寮味原樹、掃部かもん寮大庭ガしょうナリ、摂津ノ国ニいたレバ神崎蟹島かにしま等ノ地アリ、此門連戸、人家絶ユルコトナク、倡女しょうじょ群ヲ成シテ扁舟へんしゅうさおサシ、舶ヲ看撿かんけんシテ以テ枕席ちんせきすすム、声ハ渓雲ヲ過ギ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どぎまぎしているぼくを、自動車に乗れ、とすすめるのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
(と検事は芸術家に椅子をすすめて言いました。)
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
西原少佐殿は、熱心にくりかえしすすめ、そして僕を元気づけてくれる。ここに於て、僕は秒前までの乗らないという決心をさらりとひるがえ
三重宙返りの記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちょっと待ちたまえ」と云って、燐寸マッチ瓦斯煖炉ガスだんろいた。瓦斯煖炉はへやに比例したごく小さいものであった。坂井はしかる後蒲団をすすめた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すすめした者があります、よしんば身売りをお薦め申したところで、失礼ながら、御容貌ごきりょうは別として、あなたのお歳では、判人はんにんが承知を致しますまい
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
晏嬰あんえいすなは田穰苴でんじやうしよすすめていはく、『穰苴じやうしよ田氏でんし(四)庶孽しよげつなりといへども、しかれども其人そのひとぶんしうけ、てきおどす。ねがはくはきみこれこころみよ』
無理にすすめたのか、それとも、強いことを言つてゐたけれど、さすがに底冷える寒さにたまりかねて、自分から火鉢がほしいと言ひだしたのであらうか。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
しかしこの黒奴については、秀吉はそう瞠目どうもくもしなかった。安土の城内で度々見かけていたし、また宣教師バテレンからすすめたものということも知っていたからである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奥の院の窟の案内頼みたき由をいい入るれば、少時待ち玉えとて茶をすすめなどしつ、やおら立上りたり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
話が弾んでいるところへ、大谷夫人が上って来たんです。すると皆真赤になって黙ってしまいました。夫人がお茶をすすめて下りて行った後、一同顔を見合せました。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
麻蝦夷あさえぞ御主殿持ごしゆでんもちとともにすすむる筒のはしより焼金やききんの吸口はほのか耀かがやけり。歯は黄金きん、帯留は黄金きん、指環は黄金きん、腕環は黄金きん、時計は黄金きん、今又煙管きせる黄金きんにあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
新田は三人に椅子をすすめると、俊助しゅんすけの問に応じて、これは病院の温室で咲かせた薔薇だと返答した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ルグリ先生は、その点以外実にお愛想がいいのですが、とうとう僕に椅子ひとつすすめずじまいです。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
充分の食禄賜わった上浪人組の一人として城中へお止め置き遊ばすように我らおすすめ申し上げまする
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
内が朱塗、外が黒塗の品で、ひんのよい美しさがあります。多くは大中小を三重みつがさね一組として売ります。どの家庭にもすすめたい品であります。きっと重宝ちょうほうがられるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
〈妾ひととなり交接の道を欲せず、今皇命の威にえずして、暫く帷幕おおとのの中に納む、しかるに意に快からざるところ、云々〉と辞してその姉をすすめ参らせた、それが成務帝の御母だとある。
この詞ははからず聞いたのであるが、実は聞くまでもない、外記がすすめるには、そう言って薦めるにきまっている。こう思うと、数馬は立ってもすわってもいられぬような気がする。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)