)” の例文
咲子は長い舌を出して、ぺろ/\小皿のお汁までめて、きり/\した調子で皿や丼を台所へ持出した。そこへ電話のベルが鳴つた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
まるでめずりたいというように、ニコニコとじぶんを眺めている慈愛深い母堂の眼に出逢うと、手も足も出ないような気持になる。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「手、手前はさっき、神様の前で、承知しましたとぬかしたじゃねえか、継母だと思ってめやがったなあ……こら、畜生ッ! 武!」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ただ、酒屋の内田に五ツ戸前ばかり、他に少々あったほどだから、枯れ草でもめるようにめらめらと恐ろしい勢いで焼いて行く。
事情を聴きとった人の好い警官は、ひげめ舐め云った、「ところでおまえは、その相手が大長丸だという証拠を持っているかね」
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
中やすみの風が変って、火先が井戸端からめはじめた、てっきり放火つけびの正体だ。見逃してやったが最後、直ぐに番町は黒焦くろこげさね。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
プチプチというかすかな音が聞えるのだ。何かをめるような音だ、執拗に耳について離れない。蒲団から顔を出して俺は怒鳴った。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
舌をもって草をめ、その味によって種別した、とあり、齊の桓公の料理人易牙は、形の美をわずして味の漿しょうたしなんだ、という。
雪代山女魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
親分、こうしたわけ、——私には何の事やら少しも解りません。丸薬は幾度もめ試みましたが、毒薬が入っていたにしても、人を
彼は、チェッと舌打ちをしてから忌まいましそうに上唇をめた。それから土間へおりていった。裏戸のカンヌキをかけるためである。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そう云って滝人は、稚市を抱き上げてきて、膝の上で逆さに吊し上げ、その足首に唇を当てがって、さも愛撫するようにめはじめた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一個一個の人間がめた思いを想像すると、余りにもその様相は大きすぎて、実相の把握も困難であり、身にすぎた素材と取っ組んで
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「竹ちやん、遠いとこをよう來たな。しんどかつたやろ。」と、京子はちやんと起き上つて、め付かんばかりの嬉しさをたゝへた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
裏戸口うらとぐちかきしたゑられた風呂ふろにはうししたしてはなめづつてやうほのほけぶりともにべろ/\とつていぶりつゝえてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
手で触れたあとで、いでみる、あるいはめてみる。——あなた方の存在を確めるにはそれほど手数はかからぬかも知れぬが。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
氷河は勿論だが、雪すべりが山側を磨擦する時は、富士山の剣丸尾けんまるび熔岩流のように、長い舌の形によって、そのめた痕跡が残る。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と熱心に願い立ててその品物を渡しますと、客人は例のあかだらけの銀貨をちょっとめ、それから自分のえりでその銀貨を拭いて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
誰でもその店へ行って筆を買いますと、娘達がきっとその穂をめて、舌の先で毛を揃えて、鞘に入れて渡してくれるんです。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女は何処にいるのかと、声をたよりに探してみると、彼女は屋根が地上をめているその切れ目のところに、うつぶせになってわめいていた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
掃溜はきだめへたかって腐敗物をめたくちばしで出来たての食物を舐めますからその気味の悪い事、つまり有毒細菌を運搬して歩くのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
幕のあいたときから、友田喜造は、鳶のような細く鋭い眼を、異様にぎらつかせていたが、いかにもにがそうにめていた盃を、下に置いた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
サワ甘味スウィイトめつくしたと言ったような、一種の当りのいい人なつこさが溢れ、そしてその黒い細い眼の底に、わけえの、ついぞ見ねえつらだが
泥溝の水面には真黒な泡がぶくりぶくりと上っていた。その泥溝を包んだ漆喰しっくいげかかった横腹で、青みどろが静に水面の油をめていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とひねった首をしゃんとなおすが早いか、思いついたことがあるらしく、源十郎ぐっと豪刀のつかを突き出して目釘をめた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すがり着いたりまわしたりしたものであったが、もしもあんな風にされたら、それを振り切るのに又もう一度つらい思いをしなければならない。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
寝室の中にはともしびの光がきらきらと輝いて、細君はまだ寝ずに何人なんぴとかとくどくどと話していた。周は窓をめてのぞいてみた。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
どうも、親しみの深いものには噛みついて、親しみの薄い相手にはめるだけにしておくらしい。(昭和三年一月、渋柿)
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
玉子をかけた一膳の御飯を、いつまでもかかって、めるように食べている娘の前に、彼女は、ぼんやりと、坐っていた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
が、小犬は人懐ひとなつこいのか、きもしなければみつきもしない。ただ鼻だけ鳴らしては、お蓮の手やほおめ廻すんだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冷静な、勝気な、瑠璃子ではあったけれども、悪魔に頬を、められたような気味悪さが、全身をゾク/\と襲って来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
頭上の葉のそよぎと、ピチャリピチャリとめるような渚の水音の外は、時たま堡礁の外のなみの音がかすかに響くばかり。
けれどもいまだ人生に対して経験もなく辛酸もめないで、つまり若い時分から俳句を作っているために、わけも分からずに人生を俗世界とののしって
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
主人が骨牌かるたをやっている間、ピラムはじっとしている。脚をめる。人が通って、その脚を踏もうとすると引っ込める。あぶを噛み殺す。くしゃみをする。
めてかかろうとは、いかな米友といえども力抜けがして、呆然ぼうぜんとして起き上ったのも無理のないところでありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俳人も生活者でありその苦汁をめてゐるものであるに拘らず、あまりに温厚で控へ目なのはどうしたことであらう。
俳句は老人文学ではない (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
しかしそれがやっとのことで成功したと思うと、方向を変えた猫は今度はのそのそと吉田の寝床の上へあがってそこで丸くなって毛をめはじめた。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
王充おうじゅうの『論衡ろんこう』に兎の雌は雄のめて孕むとある、『楚辞』に顧兎とあるは注に顧兎月の腹にあるを天下の兎が望み見て気を感じて孕むと見ゆ
こう書けば、こう読み、こう感心するだろうぐらいに、批評家先生などは最もめられていたのである。批評家をだますぐらいわけのないことはない。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ゆえに人にはあくまでも男らしい気骨がなければ宗教の主旨しゅしにもかなわなくなる。人は軟骨動物ではない。愛とは単に老牛がこうしむるの類にとどまらぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「急がぬものじゃ。今宵からめようとシャブろうと、そなたが思いのままに出来るよう取り計らってつかわそうぞ。ほら、繩目を切ってつかわすわ」
前足まへあしめたり、かほあらつたりしてゐるの——つてれば可愛かあいいものよ——鼠捕ねずみとりの名人めいじんだわ——オヤ、御免ごめんよ!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
廊下に出してさえ置けば、狸が綺麗にめてくれる。それは至極結構だが、聖堂には狸が出るという評判が立ったもんだから、狸の贋物にせものが出来たね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ほふられた種牛の肉は、今、大きなはかりに懸けられるのである、屠手の一人が目方を読み上げる度に、牛肉屋の亭主は鉛筆をめて、其を手帳へ書留めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして木の葉がふれあっているのか、水がめあっているのか、そういうかすかな音がたえず頭の上でしている。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二葉亭が帰って来て格子をけるとうれしそうに飛付き、かまちに腰を掛けて靴を脱ごうとするひざへ飛上って、前脚を肩へ掛けてはベロベロとほっぺたをめた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
きいていた連中がゲラゲラ笑い出したので、按摩は不平らしく白い眼をいて睨みまわした。巡査も吹き出しそうになりながら、ヤケに鉛筆をめまわした。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一日じゅう手当りしだいに新聞や雑誌の活字をくりかえしめるように読んだり眺めたり、また日独米英の飛行機の絵をいたずら書きしたりして日を送った。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
家々の土台石をぶたを泳がせ刈りとったばかりの一万にあまる稲坊主を浮かせてだぶりだぶりと浪打った。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
母親は本能的愛であたかも牝牛めうしがそのこうしめるがごとく、自己の所有物のごとく、ときとしては玩具のごとく愛する。自己の個性を透し型にはめて愛する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私はいまのさき兄と争うはずみに裁縫台の上にあるアイロンに触れ、手首に火傷やけどをしていた。それがひりひりしてきたので、私は時々気にしては手首をめた。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)