うら)” の例文
そばをつとのゐることほとんどわすれて眞面目まじめいてゐるらしかつた。宗助そうすけうらやましいひとのうちに御米およねまで勘定かんぢやうしなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
掛りうどのやうな奉公人のやうな、店中の者にうらやまれる樂な奉公をさして頂き、それから引續いて、今の御主人の厄介になつて居ります。
なんといううらやましいおたしなみだろう、あきつは忘れていた自分の家へでも帰ったような、殆んど懐かしいと云いたい気持でそう思った。
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ところが、お前さん方になると、入った人が出てくるまでどうにか食って行けるだろうし、色んなものが充分差入も出来るからうらやましい。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
カヤノの子供のないのんきさをミチがうらやましがると、カヤノはカヤノの夫の作太郎が酒を呑まないだけに気むずかしくて気骨きぼねの折れる話をし
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
しめて、じょうをおろして、それから雨戸もしめてしまいなさい。人に見られて、うらやましがられても具合いが悪いからな。
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「ほんにうらやましいのはそなたの身じゃ、その美くしさとその若かさとを持っていたら、あらゆる此の世の楽しみ、何ひとつかなわぬことはない筈だ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ヘルン自身も、もちろんまたそれを意識して書いてるので、『どうだ。うらやましかろう』という自誇じこの情が、そうした手紙の言外によく現われてる。
男というのは当時某会社に出勤していたが、何しろこんなにまで望んでったかないのことでもあるから、若夫婦の一家は近所の者もうらやむほどむつまじかった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
諸君の真面目な研究は外国語の智識に乏しい私のうらやみ且つ敬服するところではあるが、諸君は其研究から利益と共に或禍ひを受けて居るやうな事はないか。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「たわけたちめがっ。おれをどうする! 見せつけるのかっ。うらやましがらせをするのかっ。それへ出い!」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
そのわがまゝのとほらぬこともあるまじきなれど、らきは養子やうし身分みぶん桂次けいじはつく/″\他人たにん自由じゆううらやみて、これからのすゑをもくさりにつながれたるやうにかんがへぬ。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かういふ少年が彼を見ると、巡査を見たやうに赤面したのである。主人は、その二人と自分との間にみぞを感じた。そしてAさんと中学生との間柄をうらやむやうな気持になつた。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「おうらやましいことですよ。前世から持ってきなすった福運なんですからね。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
玉の輿こしにのった同性の幸福をうらやんだり、ねたんだり、中には、せめてその幸せにあやかりたいものと、妓王の妓をとって、妓一、妓二などと名前を変える者まで出るほどの評判であった。
(死んだ母は苦労のしどおしだった。)まあ自身の人間を思うと、こういう目にあうのは当然な風には思えたのだ。——はや寒さに身も心も震えて、出所してゆく者のうえをただうらやむ心でいた。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
あまりに上品とはいえないが私のような胃病患者から見るとなんとそれはち多過ぎる人であるかと思ってうらやましき次第とも見えるのだ、全く何も食えずにいる時、沢庵たくあんと茶漬けの音を聞く事は
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それはなんといううらやむべき境地であろう! 多少でも何ものかに強制された気持でそういう立場を固守しなければならず、無理にでもそこに心を落ちつけなければ安心ができないというのであれば
(新字新仮名) / 島木健作(著)
人のめるのもうらやむのもうれしいとは思召さないのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつまでもお若くておうらやましいことだ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
されば何しにうらやむものぞ
忘春詩集:02 忘春詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
私がうらやましがるほど純潔です。けれどもあなたの純潔は、あなたの未来の夫に対して、何の役にも立たない武器に過ぎません。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伊達政宗がひどくうらやんで、岩代半國と代へようと申込んだが、到頭讓らなかつたと言ふ、天下稀覯きこうの大名物です。
その我ままのとほらぬ事もあるまじきなれど、らきは養子の身分と桂次はつくづく他人の自由をうらやみて、これからの行く末をも鎖りにつながれたるやうに考へぬ。
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
諸君のまじめな研究は外国語の知識にとぼしい私のうらやみかつ敬服けいふくするところではあるが、諸君はその研究から利益とともにあるわざわいを受けているようなことはないか。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
あの人たちは、どんな、みだらな言葉でも、気軽に口にするので、私には、かえってうらやましい。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひっさげて、政道の一線に立つものはああいう最期を遂げたいものじゃ。うらやましい事よ喃
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
その豊富な美音は弟子達の誰もがうらやむところだった。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
そばに夫のいる事はほとんど忘れて、真面目まじめに聴いているらしかった。宗助はうらやましい人のうちに、御米まで勘定かんじょうしなければならなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「怨んでいる者ばかりが、命を狙うとは限りません。私をうらやむ者、私が生きていると邪魔になるもの、世の中には、いろいろの敵があると思わなきゃなりません」
いとうれしうて、今やこの事かたりいでん、しばししてやおどろかすべき、さこそは人のうらやましがるべきをと、嬉しきにもなほはゞかられつゝ、あらぬ事ども言ひかはすほどに
すゞろごと (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そうしてこう小ぢんまり片づいて暮している須永を軽蔑けいべつすると同時に、閑静ながら余裕よゆうのあるこの友の生活をうらやみもした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くろぬりべいおもてかまへとお勝手かつてむきの經濟けいざいべつものぞかし、をしはかりにひとうへうらやまぬものよ、香月左門かうづきさもんといひし舊幕臣きうばくしん學士がくし父親ちヽおやとは𧘕𧘔かみしもかたをならべしあいだなるが
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やまいなおるにれ、自己がしだいに実世間に押し出されるに伴れ、こう云う議論を公けにして得意なオイッケンをうらやまずにはいられなくなって来た。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひと不幸ふこううまれながらに後家ごけさまのおやちて、すがる乳房ちぶさあまへながらもちヽといふ味夢あぢゆめにもしらず、ものごヽろるにつけておやといへば二人ふたりある他人ひとのさまのうらやましさに
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
職員閲覧室へ行く人である。なかには必要の本を書棚しよだなから取りおろして、胸一杯にひろげて、立ちながら調べてゐる人もある。三四郎はうらやましくなつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我れ一度お峯への用事ありてかどまで行きしが、千両にては出来まじき土蔵の普請、うらやましき富貴と見たりし、その主人に一年の馴染、気に入りの奉公人が少々の無心を聞かぬとは申されまじ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お秀の器量望きりょうのぞみでもらわれた事は、津田といっしょにならない前から、お延に知れていた。それは一般の女、ことにお延のような女にとっては、うらやましい事実にちがいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かかぬしは神棚へささげて置いてもいとて軒並びのうらやみぐさになりぬ。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
津田は自分の父がけっしてこれらの人からうらやましがられているとは思わなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かゝぬし神棚かみだなへさゝげていてもいとて軒並のきならびのうらやみぐさになりぬ。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は人のうらやむ程光沢つやの好い皮膚と、労働者に見出みいだしがたい様に柔かな筋肉をった男であった。彼は生れて以来、まだ大病と名のつくものを経験しなかった位、健康において幸福をけていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みねしゆう白金しろかね臺町だいまち貸長屋かしながやの百けんちて、あがりものばかりにじやう綺羅きら美々びゝしく、れ一みねへの用事ようじありてかどまできしが、千りやうにては出來できまじき土藏どざう普請ふしんうらやましき富貴ふうきたりし
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼はひとうらやむ程光沢つや皮膚ひふと、労働者に見出しがたい様に柔かな筋肉をつた男であつた。彼は生れて以来、まだ大病と名のつくものを経験しなかつた位、健康に於て幸福をけてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うらやましいな。どうかして——どうもいかんな」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして広島や福岡の暖かい冬をうらやんだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さうして廣島ひろしま福岡ふくをかあたゝかいふゆうらやんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と東風君はしきりにうらやましがっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)