穿)” の例文
暗道ポテルンの光沢のある橄欖石の側壁が、そこだけ花のうてなのようなかたちに穿れ、その中にあふれるばかりの水をひっそりとたたえていた。水。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その橋材の両端のツツラを通す穴の穿り方は、筏の材木の穴と同じであるらしいが、これも鉄線を代用する時代が来たらどう変るか分らぬ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
掏摸の指でつついても、倒れるような石垣や、蟻で崩れるほり穿って、河野の旗を立てていたって、はじまらねえ話じゃねえか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そう穿じくらないで、ついて行くのならさあ行こう! その代り私はあとで美味おいしいものをあなたにご馳走してあげる」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
仮令たとへ木匠こだくみの道は小なるにせよ其に一心の誠を委ね生命を懸けて、慾も大概あらましは忘れ卑劣きたなおもひも起さず、唯只鑿をもつては能く穿らんことを思ひ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そういうみぞのような長い穴が二間四面の内に二つあるいは三つ位穿ってあって、一つの穴でも二人あるいは三人位列んで出来得るようになって居るのですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「この砂利がこの壺穴を穿るのです。水がこの上を流れるでせう、石が水の底でザラザラ動くでせう。まはったりもするでせう、だんだん岩が穿れて行くのです。」
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
草鞋や杖で穿り返された雪は、橇でも拽いたように生々しい傷がついている、その雪も大石に挟まれたところは、石の熱のためか、溶けて境界線が一寸ちょっとした溝になっている
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ほとけつく真朱まそほらずはみづたまる池田いけだ朝臣あそはなうへ穿れ 〔巻十六・三八四一〕 大神朝臣
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「それを、穿じり出す気なら、何も朱実あけみに前触れはさせておかぬ。野武士のおきてがある手前、一応は、家捜しもするが、今度のところは大目に見てゆるしているのだ。お慈悲だと思え」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こぶしむねつていのるかとおもへば、すぐゆびあな穿つたりしてゐる。これ猶太人ジウのモイセイカともので、二十年計ねんばかまへ自分じぶん所有しよいう帽子製造場ばうしせいざうばけたときに、發狂はつきやうしたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こう考えると、無限にこの笛が懐かしい、恋しい、うしたらいいだろうかと笛を取上げて彼は雀躍こおどりをした。して割らないようにと念に念を入れて、ただ一つまだ開けない孔を穿り始めた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
或る幼虫は簡単にその体を地中にくすし、他のものは壁の磨いた面を穿る。
素人しろとにはむづかしいといふ、鰻釣の糸捌いとさばきは中でも得意で、一晩出掛けると、湿地で蚯蚓みみず穿るほど一かゞりにあげて来る。
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
船津ふなつの阪本の弘法井は、今でも路通る人が花を上げお賽銭さいせんを投げて行きます。高家たかいえ水飲谷みずのみだににあるのは、弘法大師が指先で穿ったといって結構な水であります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「この砂利がこの壺穴を穿るのです。水がこの上を流れるでしょう、石が水のそこでザラザラうごくでしょう。まわったりもするでしょう、だんだん岩が穿れていくのです。」
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかしともかく今の私はそんな話の種の穿じくりや好奇心なぞを満足させに来たのではない。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ただただのみをもってはよく穿らんことを思い、かんなを持ってはよく削らんことを思う心のたっとさは金にも銀にもたぐえがたきを、わずかに残す便宜よすがもなくていたずらに北邙ほくぼうの土にうず
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こぶしむねっていのるかとおもえば、すぐゆびあな穿ったりしている。これは猶太人ジウのモイセイカともので、二十ねんばかりまえ自分じぶん所有しょゆう帽子製造場ぼうしせいぞうばけたときに、発狂はっきょうしたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
幅がひろく、辷りもするので、人の鳶口にたすけられて上った、雪のおもては旋風にでも穿り返された跡らしく、亀甲形の斑紋が、おのずと出来ている、その下には雪解の蒼白い水が、澄みわたって
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
老人田舎もののしょうがには、山の芋を穿ってうなぎとする法を飲込んでいるて。拙者せっしゃ、足軽ではござれども、(真面目まじめに)松本の藩士、士族でえす。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斯様かう彼様あゝ穿れ、此処を何様して何様やつて其処に是だけ勾配有たせよ、孕みが何寸凹みが何分と口でも知らせ墨縄なはでも云はせ、面倒なるは板片に矩尺の仕様を書いても示し
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と頭を抱えて、狂気のように紙屑籠かみくずかご穿じくり出した。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
また、それだけにつりがうまい。素人しろうとにはむづかしいといふ、鰻釣うなぎつり絲捌いとさばきはなかでも得意とくいで、一晩ひとばん出掛でかけると濕地しつち蚯蚓みゝず穿るほどひとかゞりにあげてる。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こうれああ穿れ、ここをどうしてどうやってそこにこれだけ勾配こうばいもたせよ、はらみが何寸くぼみが何分と口でも知らせ墨縄なわでも云わせ、面倒なるは板片いたきれに矩尺の仕様を書いても示し
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
穿当ほりあてました。海の中でもべに色のうろこ目覚めざましい。土を穿って出る水も、そういう場合には紫より、黄色より、青い色より、その紅色が一番見る目を驚かせます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はて、何んであろうと、親仁殿おやじどのが固くなって、もう二、三度穿り拡げると、がっくり、うつろになったので、山の腹へ附着くッついて、こうのぞいて見たそうにござる。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは東海道横浜にござった、葛原くずはら(八郎の母方の姓)の妹娘のこつを入れて、——仲仙道上田にござる姉娘がの、去年供養に見えた一具じゃが、寺で葬るのに墓を穿った時よ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ずかずか山のすそを、穿りかけていたそうでありますが、小児こどもが呼びに来たについて、一服いっぷくるべいかで、もう一鍬ひとくわ、すとんと入れると、急に土がやわらかく、ずぶずぶとぐるみにむぐずり込んだで。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いそへ出ると、砂を穿って小さく囲って、そこいらの燃料もえくさ焚附たきつける。バケツへ汐汲しおくみという振事があって、一件ものをうでるんだが、波の上へうっすりと煙がなびくと、富士を真正面まっしょうめんに、奥方もちっと参る。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのそら紫立むらさきだつてほんのり桃色もゝいろうすえべい。——麻袋あさふくろには昼飯ひるめしにぎつたやつあまるほどめてく、ちやうど僥幸さいはひやまいも穿つて横噛よこかじりでも一日いちにち二日ふつかしのげるだ。りからかせ、さあ、ござい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
穿り葉穿りして、聞いたんだそうですがね。