白々しらじら)” の例文
鉄杖を突くと片足をはね、一本歯の足駄高々と、ヒラリと飛んだは金目垣、さながら一匹の巨大なだ。白々しらじらと姿を消してしまった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐ其処に、橋の北側の欄干に背をもたせ、橋の上にじかに坐って両足を投げ出し、月の光を正面から白々しらじらと受けて、二人の女がいた。
人間繁栄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女王は、その庭に見入っているの。そこには、木立こだちのそばに噴水ふんすいがあって、やみの中でも白々しらじらと、長く長く、まるでまぼろしのように見えています。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
火事の危険であった話や、父にたすけられた話や、久方ひさかたぶり、母との対面や何やかやで、雑炊ぞうすいを食べなどしているうち、夜は白々しらじらとして来ました。
と思っていると、足許あしもとが、はっきり見えるではないか。手提電灯てさげでんとうの光で見えるのではない。もっと白々しらじらと、はっきり見える。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
線路の両側に鬱蒼うっそうと続いていた森が、突然ぱったりと途絶とだえると定規で引いたような直線レールがはるか多摩川の方に白々しらじらと濡れて続いています。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼女はもはや、この上客人たちの白々しらじらしさと無礼とを、がまんすることが出来なかった。或る発作的な激情パッションが、火のように全身を焼きつけて来た。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
が、誰も人の住んでいるけはいはありません。キチンと片付いて、何一つ道具とてもないかびだらけの琉球畳りゅうきゅうだたみだけが、白々しらじらと光っているばかりです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
木の葉交じりに、ばらばらと降りこぼれては、その雨雲のあいだから重陽の夜の月は白々しらじらとここの山河を照らしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日の白々しらじら明け、背中へ穴をあけて象の中へ里春を下し込むとき、定太郎は、じぶんだけわざとその場にいなかった
アダルベルトは、白々しらじらしいゆるやかな声音で、みずから退屈し人を退屈させる上品なていねいさで、意見を述べた。
すずめは、そのは、そこで、まんじりともねむれませんでした。が、白々しらじらけると、からすにいた温泉おんせんへいこうとおもって、くるしいたびをつづけたのです。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにつれて、加茂川にかかっている橋が、その白々しらじらとした水光すずびかりの上に、いつか暗く浮き上がって来た。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしその瞬間に葉子は燕返つばめがえしに自分に帰った。何をいいかげんな……それは白々しらじらしさが少し過ぎている。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「黙れ黙れッ。どのようなとは白々しらじらしい……あの櫛田神社の犬塚信乃の押絵の顔は誰に似せて作ったッ」
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三日おきには、細君に手紙を書いてゐる富岡に対して、ゆき子は、妙に白々しらじらしい感情になつてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
兵馬の目的には頓着なく、存外鷹揚おうような客と見たので、駕籠屋は勢いよく急がせる。そのうちに、前後でしきりに聞ゆる鶏犬けいけんの声。夜は白々しらじらと明け放れたものと見ゆる。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
八五郎はそれをいたわるように、小腰をかがめて、白々しらじらと夜霧に包まれた娘の顔をのぞきました。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
まるでしものやうに白々しらじらとした夜気です。北の空は痛いほどえかへつて、いつのまにか母さまのお好きなあの七つ星が中ぞら近くかかつてゐます。もう夜半はとうに過ぎたのでせう。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
むしほそったことも、そと白々しらじらけそめて、路地ろじ溝板どぶいたひと足音あしおときこえはじめたことも、なにもかもらずに、ただひとり、やぶだたみうええた寺子屋机てらこやつくえまえ頑張がんばったまま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
是などもまた確かにれて旅行く女たちの生活であって、静かにその歌の声に聴き入った人々の背後には、秋の夜明けの白々しらじらとした東雲しののめが、もううそ寒く近よって来ている感じがする。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……払えば、ちらちらと散る、が、夜目にも消えはせず、なお白々しらじらおもかげつ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白々しらじらしいや。この間も、僕の見ているところでやってたじゃないか。
烏恵寿毛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「いやなこった。あんな白々しらじらしい、おしゃらくは!」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
目も動かさず、白々しらじらわるましたくはせ者
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夜も白々しらじら明け放れるらしかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白々しらじらしい寂寞せきばく
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
燭は白々しらじらと主客の沈黙を照らし、庭のしじまをゆく泉のおとがせんかんとその灯を湿らせてくる。時折、時雨かと思うばかり木の葉が大殿のひさしを打った。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と叫びたいのを懸命でこらえたQX30だった。見よ! 見よ! あの女がいるではないか。敵の副司令が、唐子からこになって、白々しらじらしくも踊っているのだ。決った!
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
逢ふまでは、ゆき子を、まるで女神のやうに考へてゐたが、逢つてみると、加野は何の負け惜しみでもなく、人間的なゆき子の現実に、白々しらじらと夢の覚める思ひだつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「え、ける? ……」といって、みょうおとこひがしそらると、はや白々しらじらけかけた。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何事も心得ながら白々しらじらしく無邪気を装っているらしいこの妹が敵の間諜かんちょうのようにも思えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
左様な議論で火花を散らして、さんざんに飲み且つ食い、この四人は八官町の大輪田を辞し、大手を振って、例の四国町の薩摩屋敷に入ったのは、夜の白々しらじらと明けそめた時分でありました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのうしろには氷河だか石の壁だか、とにかく白々しらじらとした帯が水平に流れ、背景ははるかなもみの林らしく濃い緑いろでした。千恵が注意をひきつけられたのは、なかでもその婦人の眼つきでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
よる白々しらじらけそめて、上野うえのもりこいからすが、まだようやゆめからめたかめない時分じぶんはやくも感応寺かんのうじ中門前町なかもんぜんちょうは、参詣さんけいかくれての、恋知こいしおとこ雪駄せったおとにぎわいそめるが、十一けん水茶屋みずちゃや
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
膝小僧がともすると覗き出しそうになるので、両手で着物の前を押えて、ぴしゃんこに坐って一息ついていると、久保田さんはふと、藁で分厚ぶあつに編んだその深編笠の中で、白々しらじらとした気持になった。
人の国 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
蓄電器コンデンサアーのように白々しらじらしく対立した感情……
古傷 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
まもなく白々しらじらと夜が明けて、少しいだ時には、こっちの船は、昨日きのうの小松島を素通りにして、日和佐ひわさ手前の由岐ゆきはまへ、ギッギッと帰っていたんです。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時間ばかりすると、夜が白々しらじらと明けていった。心も感情もない人造人間に背負せおわれて、どんどん広野こうやを逃げていく私たちの恰好は、全くすさまじいものに見えた。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私達は一緒いっしょになって間もなかったし、多少の遠慮えんりょが私をたしなみ深くさせたのであろうか、その男の白々しらじらとした物云いを、私はいつも沈黙だまって、わざわざ報いるような事もしなかった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「いえ、五りんりないといかけていっていうと、たしかにいてきたといいなさるから、うそをいうことは、どろぼうのはじまりだといったのです。」と、平常ふだん無口むくちおとこ白々しらじらしくこたえた。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
白々しらじらしい言いわけを申すな。どうも当節は、ややもすればお上の御威光を軽く見る奴があって奇怪きっかいじゃ、見せしめのために厳しくせんければならん。亭主、この上かれこれ申すと貴様も同罪だぞ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いちいち挙げればきりがない。さほどな痴態ちたい悪業におよびながら、いまさらなんぞ、その白々しらじらしさは」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アンは、マネキン人形のような白々しらじらしさにかえって、彼を階上の部屋へ案内した。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
随分ずいぶんあなたは白々しらじらとしたもの云いをする人だ……そんな事云わぬものだわ」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
白々しらじらしいことをお言いでないよ、そのおなかをごらん』
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白々しらじらしい勿体顔もったいがお。その顔、その弁で、丞相はあざむき得たかも知れんが、拙者の眼はだまされぬぞ。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の白々しらじらしいせりふを並べ出しました
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夜色やしょくをこめた草原のはてを鞍上あんじょうから見ると——はるかに白々しらじらとみえる都田川みやこだがわのほとり、そこに、なんであろうか、一みゃく殺気さっき、形なくうごく陣気じんきが民部に感じられた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白々しらじらしい。おぬしが、知らぬはずはない」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)