とめ)” の例文
と声を掛けたのは、主人万兵衛のおいで、藤屋の番頭をしている喜八の女房、綽名あだなをガラとめと言われる、二十七八の大年増お留でした。
「おしいことをしたなあ」と、団長をはじめ、とめじいさんもお千代ちよさんも、正坊しょうぼうも五郎も、馬の死がいをとりまいてなげきました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
洗い髪に、うす化粧をした二十四、五の美人を、薬師堂の縁がわに立たせて、青梅の勘三と、羽村のとめが、そのわきに腰をおろしていた。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作者見習としてのわが役目は木の稽古にと幕ごとに二丁にちょうを入れマハリとシヤギリのとめを打つ事幕明幕切の時間を日記に書入れ
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
以て人殺ひとごろしは九助なりと見とめきびしく拷問がうもんに掛し事甚だ其意を得ざる取計とりはからひなりとありしかば理左衞門其儀は九助何樣申立候ともかれすそ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
少し意地の悪い心持ちで、女がどうするだろう、とめるだろうかと思ったのである。しかし女はなんとも云わなかった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
時々胸からせぐりあげて来る涙を、強いておしつけようとしたが、どん底から衝動こみあげて来るような悲痛なおもいが、とめどもなく波だって来て為方がなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
心をとめてその力の及ぶだけをほどこさば、その児またその子を教育するのおのが職たるを知り、ついに一家、風を成し、一郷、俗を成すに至らんことを希望す。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
「そう、私はまたおとめさん(大方老母が文三の嫁に欲しいと云ッた娘の名で)とかの事を懐出おもいだして、それで塞いでお出でなさるのかと思ッたら、オホホホ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
両人ふたりは飛立つ程嬉しく思いますから婆アのとめるのも聞入れずに見相けんそうを変え、振払って深川富川町へ駈出します。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
昔天国の門に立たせて置かれた、あの天使のように、イエスは燃える抜身を手にお持になって、わたくしのいる檻房へ這入はいろうとする人をおとめなさると存じます。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
医者は槌で叩いたと云いますし、谷間田は其前に頭挿かんざしでゞも突ただろうかと怪んで居ますが両方とも間違いです、何よりさきに丸く凹込めりこんで居る所に眼をとめねば成ません
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
けれどもむかしから懇意こんいものことはらずとめて、老人夫婦としよりふうふ内端うちは世話せわをしてれる、よろしくばそれへ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
垂木のとめを打つとき、はずみでそんなことになったんだろうと思いますが、そうしようと思っても、こうまでうまくはゆかなかろうと思われるくらい、見事に胴のまんなかを……
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
出のこしらえは弁慶の単衣ひとえに三尺を締め、手拭を浅く輪の様にしてむこう鉢巻をなし、とめをやや左に寄せV字状になし、右の偏袒かたはだぬぎになりて白木綿の腹巻を見せ、裾を高く尻端折し、袖をたくし上げ
そのうら骨髓こつずいとほりてそれよりの目横めよこにかさかにか、女髮結をんなかみゆひとめらへて珍事ちんじ唯今たゞいま出來しゆつたいかほつきに、れい口車くちぐるまくる/\とやれば、この電信でんしん何處いづくまでかゝりて、一てうごと風説うはさふとりけん
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と云って、うなされるので、女房のとめ鬼魅きみをわるがって
位牌と鼠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
とめさんは通船会社の万年水夫である。
留さんとその女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とめじゃあねえか。まあ、あがれ」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そしておとめのところへいっている。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とめの地蔵様
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これには見物人も団長も、とめじいさんもあっけにとられてしまいました。正坊もびっくりしてしまいました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
般若はんにゃとめさんというのは背中一面に般若の文身ほりものをしている若い大工の職人で、大タブサに結ったまげ月代さかやきをいつでも真青まっさおに剃っている凄いような美男子であった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
婆「何故遣るたっても遣らない様に仕ようと思うと、突除つんのけて行って、とめても留らぬから仕様がないだ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この辺の土地を、いわゆる縄張りと称して渡世している羽村はむらとめに、青梅の勘三という男だった。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お蔭様だ。」ととめという紺屋の職人が居る、魚勘うおかん親仁おやじが居る、いずれも口々。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つなとめしは最初さいしよ其身が主人五兵衞を説勸ときすゝめて養子となせし千太郎なれば殊更忠義を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
従ッて又隣近所で目を醒すに違い無い、其所だテ隣近所で目を醒してもアヽ又例の喧嘩かと別に気にもとめずに居る様な所が何所にか有るだろう(大)夫では屡々しば/\大喧嘩の有る家かネ(谷)爾サ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
としはゞ二十六、おくざきはなこづゑにしぼむころなれど、扮裝おつくりのよきと天然てんねんうつくしきと二つあはせて五つほどはわかられぬるとくせう、お子樣こさまなきゆゑ髮結かみゆひとめひしが、あらばいさゝか沈着おちつくべし
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「もう一人、棟梁とうりょうのところのおとめ坊などはどんなもので——」
「来たらとめやが喜ぶじゃないか」
雪の夜の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
左官の女房おとめ
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
長「成程まずくアねえが、そんなに自慢をいう程の事もねえ、此の遣違やりちげえのとめすかしの仕事は嘘だ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
舞台ではとめじいさんが「ゆうかんなる水兵」のラッパを、ならしはじめました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
よばれて、手をとめて主税を見たが、水を汲んだ名残なごりか、顔の色がほんのりと、物いわぬ目は、露や、玉や、およそ声なくことばなき世のそれらの、美しいものより美しく、歌よりも心が籠った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
扨旅籠屋にて年頃としごろ十七八ばかり田舍に稀なる女ありと心をとめてみれば何か見覺みおぼえ有る樣にて彼の女も傳吉を見て不審いぶかし顏色かほいろなりけるがつれの男は湯に入らんと湯殿の方へいたりし折節彼の女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
拵えただけの事です(荻)フム成る程そうかなア(大)全く爾です既に独楽が有たとして見れば此支那人には七八歳以上十二三以下のが有ます(荻)成る程爾だ(大)此証拠は是だけで先ずとめて置きまして再び髪の毛の事へ帰ります
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
て申し続きました深見新吉は、お賤を連れて足かけ五年間の旅中たびちゅう悪行あくぎょうでございまする、不図ふと下総の塚前村と申しまする処の、観音堂の庵室に足をとめる事に成りました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大膚おおはだぎをたれ一人目にとめる者も無く、のさのさとがま歩行あゆみに一町隣りの元大工町へ、ずッと入ると、火の番小屋が、あっけに取られた体に口を開けてポカンとして、散敷いた桜の路を
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清「それ見ろ、彼様あんなにいうのに打様うちようを覚えねえからだ、中の釘は真直まっすぐに打っても、上の釘一本をありに打ちせえすりゃアとめの離れる気遣きづけえはいというのだ……杉の堅木かたぎか」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
和「これは何うもとめることは出来ぬなア、思い立ったらるが宜い」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とめるもかず、娘は泣いて身をもがき騒ぎまするに困り果て
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
×「へえ……わっちア、ガチャとめと申します」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)